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潜入計画が一歩進んだ

 会議が終わった後、伯母様に呼び止められ、そのまま部屋まで同行した。アイラも一緒だ。一杯付き合ってちょうだいと言われ、三人でブランデーを飲んだ。


「何としても、カンザス商会を口説き落とすわ。あなたの危険を減らすための最大のカギよ」


 伯母さまの目が据わっている。確かに怖くないわけではない。だが、考えると余計怖くなってしまうので、なるべく軽く構えたほうがいいように思う。


「伯母様、うまくやりますからご心配なく。ちゃんとマーガレット様を救い出して戻ってきます。それにブルーシャドウの皆が私を守ってくれています」


 アイラは寛いだ様子のまま、ブランデーを舐めている。


「ね、アイラ。そうでしょ」


「イリス様の力で守られるのは私達の方です。皆、馬鹿な指揮官の下で戦う、恐怖と絶望感を知っていますから」


 逆に頼られてしまったか。


「それは責任重大だわね。よし、全力で知恵を絞るわ」


 伯母様も肩の力を抜いたようだった。


「あ~、しょうがないか。やるしかない時ってあるわよね。よし。とっておきの貴腐ワインを出しちゃいましょう」


 ワインの栓をポンと開け、三つのグラスに注いだ。まったりとした金色のワインがゆらゆらしていた。





 次の朝、カイルが二人を発見したと報告して来た。以前、ケイトが使っていた郊外の宿屋を転々としていたらしい。


 王家からの招へいと告げるのは差し触りがあるので、シャノワールからの、仕事の依頼として招くことにした。


 二人は依頼人と同じ方法で、シャノワールのサロンに通され、イリスもノワールとして対応した。ただ、今回は王妃様も同席していた。



「初めまして。ダニエル様、ケイト様。シャノワールの主催者です。ノワールとお呼びください。

 あなた方をお呼びしたのは、国防関係で、内密の依頼があるからなのです。これに協力いただければ、お二人の今後に関して、全面的に協力させていただきます。それは、王妃様が保証いたします」


 王妃様が黙って頷いた。


 二人共、王妃様と面識があり、人となりを知っているので、念押しの必要はない。言ったことは違えないとの評判を持つ人だ。


「お話を伺います。協力するにしろ、お断りするにしろ、決して他言しないことを誓います」

 

 ダニエルが言い、ロブラール特有の誓約のしぐさをした。


「バイエルのカンザス商会に、諜報員を潜入させたいのです。その手伝いをお願いしたい。具体的な事に関わる必要はありません。ただ、潜入を手伝い、その便宜を図って欲しいのです」


 ケイトが困ったような顔をした。


「私は、家に監禁した父から逃げて、ここに来ました。カンザス商会に入ることが出来るかと言われれば、難しいです」


 王妃様が初めて声を出した。


「ボイド・ラングラーさんが私に接触を図ってきたの。あなた方を探して欲しいと。まだ返事はしていないわ。彼は和解したいようだけど、あなた方はどう考えているの?」


 二人は驚いた。ものすごい剣幕で反対していたボイドと、結び付けにくい話だった。


 イリスが王妃様の後を継いで、話をした。


「私達は、この潜入作戦に目を瞑ってもらうために、ボイド・ラングラーに貸しを作りたい。お願いしたいのは、ほんの数か月、私達が商会の名の下で動くのを、黙認してもらうことよ」


 少し話し合いたいと言う二人に時間を与え、お茶の用意をした。イリスの名で、とびっきりのお菓子を、たっぷり運ぶよう料理長に頼み、それが届くのを待った。

 

 しばらく後に、ワゴン二台に紅茶とお菓子の山が盛られて運び込まれた。


「お二人共、お茶をどうぞ。ここのお菓子は最高ですよ」


 お茶とお菓子で、だいぶ雰囲気が柔らかくなった。彼らも、こういう上質なお茶や、お菓子は久しぶりだったのだろう。笑顔になっていた。


「おいしい。こんなにおいしいクッキーは初めて食べました。商会で扱うどのクッキーとも違います。すごいわ。これを作っている人は天才ですね」


「そうよ。でもね、ノワールの依頼だと、いつもの二割増しで頑張る困った性癖の人なの。天才って扱いにくいわ」


 伯母が愚痴った。そのおかげで、更に場の雰囲気が緩くなった。



 ダニエルが二人の意見をまとめて話した。


「ボイドさんの申し出を受けて、カンザス商会に二人が入れば、バーンズ侯爵が黙っていないはずです。また、振り出しに戻るようなもので、なんの解決にもならないでしょう。だから、僕たちは別の国で、二人で商売を始めたいと考えています」


 あらかじめ予想していた答えだったので、伯母は頷いた。


「そうね。それなら、レンティスはどうかしら。あそこはバイエルとあまり関係が良くないから、カンザスも支店を置いていないでしょう。私の母国なので、パイプは太いわ。強力なバックアップを付けてあげることが出来るわ」


「それは、願っても無い事ですが、ほとんど何も持たない状態なので、小さい商いから始めます。バックアップの力を生かせるような大きな商いは、先の話になると思います」


「大丈夫。私がボイドから仲介料をもらって、そのままあなた方に渡すわ。それを元手にしてちょうだい」


 二人の顔色がぱあっと明るくなった。

 やった。釣れた。


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