架空の組織をでっちあげることが決まった
「我が国の国防を見直す機会だな。ゼノン、これはお前に任せる」
そう言うと、全員に向かい説明を始めた。
「今までにわかったことを、ここでもう一度確認する。
三日前、マーガレットが誘拐された。イリスと間違えての誘拐だ。
誘拐犯はバイエルの宗教団体セレス。だが、馬車を襲撃したのは、バイエルの軍隊だと推測される。
セレスからの要求は、ブルーネル公爵家が持つアルガス山脈だが、後ろにバイエルがいるとなれば、本当の狙いはレンティスの内乱だろう。
ブルーネル公爵家と、王家の対立を狙っていると思う。
ブルーネル公爵は今から四日後に、再度セレスと接触する予定。マーガレットの元には、ブルーネルから侍女と必需品が送られており、今のところは安全なようだ。
以上に、何か加えることはあるか?」
アイラが発言した。
「マーガレット様とイリス様が間違われたのは、たぶんイリス様が変装していた時の姿を見てのことと思われます。
外では別名を使っていましたので、王宮内部、たぶん末端だと思いますが、セレスの者が入り込んでいる可能性があります」
マーガレット様の帰国は半月前に決まり、出発日は天候の良い日を選んでということで、流動的だった。この国と周辺諸国の関係が良好で、平和が続いていることと、距離が近い事で、緩いスケジュールだった。
出発を確認するには王宮で見張れる人間が必要だろう。王は護衛騎士に命じ、マーガレットの出発と共に、姿を消した者がいないか、確認に行かせた。
「カルムには、帰国を中止したと連絡を出した。この件を伏せることとした」
諸刃の剣だ。救出に失敗したら、カルムとの仲が壊れる。しかし伝えたら、事態が混乱する確率が増える。こうするしかないだろう。
「極秘裏にバイエルに潜入し、潜伏先を突き止め、奪い返す。潜入の隠れ蓑が必要だな」
そこで、王妃様がいい案があると言ってきた。
「カンザス商会を知っているわね。あそこは各国のいくつもの街に支店を置いているわ。バイエルには本店と支店が三店もあって、国との取引もある。そこに潜入チームを潜りこませてもらうことが、出来るかもしれない」
「カンザスが協力するとは思えないが」
「先日のハプニングを聞いていないかしら?会頭のボイドの娘がバーンズ侯爵家の息子と逃げたの」
「ああ、聞いている。だいぶ派手に噂されているようだな」
「娘の名はケイト。シャノワールへの依頼を私に頼み込んできたの。事前調査をしたけど、影響が大きすぎて危険なので、私は摂り上げなかった。そうしたら、二人はカンザス商会もバーンズ侯爵家も捨てて、逃げてしまったというわけ。
でね、今度はボイド・ラングラーから、娘を探して欲しいと依頼が持ち込まれたの。探すだけでなく、仲を取り持って欲しい様子でね。
ケイト達との話次第だけど、カンザス商会に潜れたら、かなり安全に動けると思うわ」
イリスも、思い出した。調査を依頼されて、調査内容を読んでいる。
カンザス商会の優秀な一人娘。バイエルに留学していたダニエル・バーンズと、商会の新支店立ち上げで一緒に働いたことで恋仲になり、婚約直前まで行ったのに、親達の反対で破局している。
確かに大きな商会なら、人や荷物の行き来も頻繁で当たり前なので、何かと動きやすい。この線を、ぜひ押さえたい。
「私達で、彼らを探し出します。なるべく早く」
イリスが請け負い、その場でカイルとケインを捜索に向かわせた。以前の調査も彼らがしているため、ある程度の当たりは付けられる。
王が先を続けた。
「潜入方法に関しては、その結果で、また考えよう。
表立った攻撃を一切せず、人質を救えたらいいが、相手にバイエル国が付いているなら、それは難しいだろう。武力を使うにしても、場所はバイエル国内だから、先に申し入れをしない限り国家間の問題になる」
そこが一番ややこしいところだった。イリスはそこを考え、一つの案を作っていた。
「国王陛下、いいでしょうか」
「何か案があるのか」
「国も、ブルーネルも表立って動くことはできません。なので、他の団体の名を名乗ったらどうでしょう。現在消滅していますが、長く対立する宗教団体にメイサムというのがあります。そこが復活してセレスを攻撃する筋書きです」
皆、しばらく黙って考えた。
「急に出てくるのも不自然ではないか?」
「名目でいいのです。怪しくても、そう名乗ってしまえば、他へ罪を問えない。それに、襲撃までに種を蒔く時間はあります。メイサムの幻を作り上げますよ」
それ以上の策は出てこなかった。そしてこれが通り、イリス率いるブルーシャドウが作戦の要となることになった。




