表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/70

ブルーシャドウ招集

 イリスはブルーシャドウに招集を掛けた。伝令役はカイルだ。


 彼は情報のネットワークを網のように巡らせている。そのどこをどう刺激したら、どこにどんなふうに影響が及ぶかが勘で解るそうだ。

 イリスは常々、超能力ではないかと疑っている。


 毎日2回、この部屋に顔を出し、イリスからの伝言を他のメンバーに伝えたり、面白い情報を教えてくれたりする。


 ほとんど御用聞きだ。


 チームで一番若いせいで雑用を押し付けられたと文句を言うが、イリスの情報網の要で、とても重要な任務だ。


「カイル、なるべく早くルーザーとケインを連れて来て欲しいのだけど、できる?」


「所在が分からないのはケインだけですから、1時間あれば充分です」


「では1時間後にこの部屋に集合。

大きな事件が起こったので、全員で当たる事になるわ」


「イリス様も参加ですか? それはよほどの大事ですね。こっちに来てから平穏すぎて腕が鈍っていそうなんですけど。イリス様は大丈夫ですか」


「私は毎日ミラに稽古を付けてもらっているわ」


「ミラじゃあ駄目です。剣が荒過ぎて、イリス様には合わない」


「ミラとやるの楽しいわよ」


「ああ、せっかくの淑女の剣が」


「いいから、早く行って」


 は~いと言って軽やかに部屋を出ていく。身が軽いのと身体能力が非常に高いからだろう。動きの節目を感じられない。ちょうど猫のようなしなやかな動きだ。

 灰色の髪をポニーテールにしているのが尻尾のように見えた。


 お茶と山盛りの温かいスコーン、バター壺とジャム、ホイップクリームとメープルシロップをテーブルに並べているところに、カイルとケインがやってきた。


「早かったわね」


「ケインのルートは把握しているからね。第一の食堂ルートと、その周辺の人間が見ていないって言うので、第二の薬品ルートに足を運んだら、二軒目で見つかった」


 皆が座ったところでルーザーが到着した。


「俺が最後か。済まない。汗を流してから来た」


「ライオン様は水浴びしてからのご来場ですか。良いねえ。

俺なんて楽しい買い物途中で、いきなり引っ張ってこられたんだぞ」


 ケインが嫌味っぽく絡む。


「まあ、お茶でもどうぞ。スコーンも食べて。甘いものを食べると気分が良くなるわよ」


 男達がスコーンをバクバク食べる。水分が少ないので喉に詰まらないかと心配したが大丈夫そうだ。呆れている内に、残り三個になっていた。


 他の皆の皿には、それぞれ一個か二個載っているので、イリスも慌てて2個を皿に取った。


 ものすごい早食いで、一番に満足したカイルが、お茶のおかわりをして、ゆっくり飲みながら聞いてきた。


「今日の緊急招集は何事ですか?」


「ちょっと待ってね。食べてから話すわ」


 普通はゆったりとお菓子を食べながら話をするが、皆につられて、食べるのが優先になってしまった。


 温かいスコーンを割って、生クリームを盛り、メイプルシロップをかけて口に運ぶ。至福の時だ。


 視線を感じて目を上げると、ケインとルーザーが羨まし気な顔で見ていた。


「お代わりを頼みましょうか。幾つ食べる?」


 三つ、二つと声が上がり、ちょっと多めにと十五個追加を厨房に頼んだ。

 それと、お茶のお代わりだ。やはり、喉が渇く。



 あ~、堪能したわ。


「では、本題ね。

 王太子妃が誘拐されたわ。その救出作戦に参加することになったの。もしかしたら、私たちが中心になって動く可能性もあるわ」


 王宮内に居て、内容を聞いているミラとアイラ以外は、相当驚いたのか息を止めた。


 ルーザーが一番に口火を切った。


「一国の王太子妃の誘拐です。戦争になってもおかしくない。

 その事件に、なぜ軍隊でも、王国騎士団でもなく、我々なのですか?」


「さすがね。王太子妃誘拐事件、ならそうなるわ。

 でも、この事件、表向きには、公爵令嬢イリス誘拐事件なの。つまり、犯人は私と間違えて、王太子妃を誘拐したの」


「なんで間違えるんですか。イリス様と王太子妃を。ひとっつも似てないじゃないですか」


「さあ、分からないわ。でも、証拠だと言って髪の毛を渡されたそうよ。私の黒髪とは全く違う茶色の髪を、自信たっぷりな態度で」


 そこでミラとアイラが身を乗り出してきた。


「前回の件で変装して二回出掛けていますけど、あの時、茶色の髪にしていました。その時に人物特定されていたとすれば、間違われる可能性はあります。雰囲気も大人し気なものに変えていたし、王太子妃と似ていなくもありません」


 

 え~、という嫌そうな声が重なった。ルーザーは呆れている。カイルは面白がっているし、ケインはうんざりしたような顔だ。


「それで、イリス様を誘拐して、誰に何を要求して来たのですか」


「公爵家にアルガス山脈と周辺の土地を要求して来たそうよ。相手は宗教団体で、神様のお告げにより、その地の正当な所有者は自分達だって」


 面白がりのカイルも、さすがに絶句した。


「理由になってないけど……」


「公爵家から急使が到着して、初めて事件が発覚したという訳。急使はハンスよ。休んでもらっているけど、呼びましょうか」



 侍女を呼び、スコーンをもう五個と、ティーカップをもうワンセット追加する連絡と共に、ハンスを呼んでもらった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ