第二話完結 結婚と離婚と苦い酒
第2話の最終話です。これで、第二話 完結です。
アイリス夫人宅からの帰り、アイラがアロンに助言をしていた。どうやら、男として危機感を感じる場面に複数回同席して、連帯感が生まれたようだ。
それに、なぜか男二人はクリフに同情的だ。これらは全てクリフが悪いので仕方ないと思う。母親の刷り込みが原因、それにしても、と思ってしまうのだが、違うのだろうか。
「ねえ、マイク、なぜクリフ様にそんなに同情的なの?」
「それはね、母親二人に圧を掛けられ、守らなければいけないとずっと言い聞かされていた妹分に、我儘を言い続けられた男のきつさが、痛いほどわかってしまうからなんですよ」
アロンも続けて言う。
「どうしろって言うんです。それでも必死にどうにかしようと頑張ったから、スザンヌ達が八歳になるまで二人の仲が保ったのですよ。きつかったはずです。可哀そうすぎて何も言えません」
う~ん。そうかなあ。誰を一番に考えるか決めたら、そこから自分のやるべきことは決まってくると思うのだけど。
クリフの場合、頼る先のないフリージア母娘を、……追い出すことはできない、か。その替わり良い結婚相手を紹介した。でも離婚。
そして、離婚後のフリージアと子供達を見捨てることも、できないわね。
ちょっと、フリージア親子って、自分の母親に押し付けられた呪いみたいじゃないの! そう思い至るとイリスも、あ~、となった。
こんなこと、気付きたくなかったわ。
ちらっと、アロンを見ると、こっちを見ていた。気が付いたのに気が付いているのよね。そして目で何かを訴えている。
「この後、クリフ様はアイリス夫人から完全な離婚を突き付けられるわね。復縁はないわよ。
もう、アイリス夫人の恋は終わっているの。あの、なんのためらいも、情け容赦もない物言い、聞いていたでしょう。
そして、シャノワールへの依頼はアロン様とスザンヌ嬢の関係についてで、その父親は対象外よ」
「駄目ですか」
「駄目ね。
スザンヌ嬢との父娘の縁も望み薄。こうなったら、フリージアと再婚して幸せを探すか、もう少し長男が大きくなったところで決別するかよ。
確かに、執事の言う通りね。何でこんな事になってしまったのかっていう感じ」
アロンが口元を擦りながら、もごもごと言う。
「スザンヌと結婚したら、義父になる人なのに」
「それは大丈夫よ。これからどんどん疎遠になっていくはずよ。会うことも稀でしょうね。今の恋人が義父になるのじゃないかしら」
「そんな、ひどい。お荷物のフリージア親子をしょい込まされているだけで、彼らに特別な思いもないのに」
「仕方ないでしょ。七年前にアイリス夫人が恋の執着を吹っ切った時に、自動的に彼は失恋したのよ。彼女たちの面倒を見るにしても、家に迎えてはいけなかったの。
致命的な失敗にも、失恋にも、その後の夫人の無関心にも、今まで気付いていなかっただけのこと。可哀そうだと思うなら、教えてあげて、アロン様が」
それから二週間ほどの後、クリフとアイリス夫妻の離婚が成立した。
そして、アロンとスザンヌは改めて恋人同士になった。母の言葉で考え方が少し変わったのと、アロンに婚約解消を衝き付けられて、初めて彼を失うことを実感し、恐怖したらしい。
今は、恋人としてのアロンを意識しまくって、不自然な挙動の彼女がかわいくて仕方がないそうだ。
良かったわね。
アロンからの依頼はこれで、完了した。
しかし、最後に会ったときにアロンから聞いたことが、心に引掛かって残った。
アロン達の結婚式についての相談の席のことだ。
その時、スザンヌがバージンロードは祖父と歩くと言ったそうだ。
アロンが
「お義父さんに頼まないの?」
と聞いたら、スザンヌが言った。
「だって、来れないかもしれない方に頼むのは不安よ。一人でバージンロードを歩くのは嫌だわ」
珍しくクリフが、もちろん絶対に行くよ、と言ったが、スザンヌは笑いながらこう言った。
「あら、そういう時は大抵、突発の用事が発生するでしょ。
気になさらないで。来れたらで結構です。
ウエディングパーティーの席も親戚の席に入れておきますから、ご都合が付けば、ぜひいらっしゃってくださいね」
アロンが慌てて、フォローしようと言った。
「もちろん。出席いただけますよね。花嫁の父親なんですから」
スザンヌがそれに付け足して
「お子様達もご一緒されるのでしたらおっしゃってくださいね。私の異母兄妹なのでしょう?」
そこに間の悪いことに、離婚手続きの書類の用意で遅れていたアイリス夫人がやってきた。
「あら、お子様方を認知するの?よかったわね」
「いや、違う。私の子供ではないから」
「あら、そうなんですか。では再婚されたら養子縁組なさるの?」
「ああ、それならお父様は、ご家族でいらっしゃいますの? それなら欠席はないかもね」
「一人だ」
「まあ、そうなのですか?」
スザンヌとアイリス夫人は不思議そうにしているが、アロンはいたたまれなかった。
その流れのまま、クリフは離婚届にあっさりとサインをした。
アロンは、義父になる予定の男をその場から助け出し、そのまま飲みに出掛けた。マイクも呼びたかったが、連絡先が分からないので、ものすごく残念に思ったそうだ。
FIN
第2話の最終話です。ざまあではなく、お父さんが可哀そう、な話になってしまいました。
ちょっとだけ助けてあげたいので、その後のエピソードを追加します。
その後に引き続き第三話を掲載します。
第三話は王太子妃の誘拐事件です。
この話もイリスと王太子の恋の行方がベースですが、かなり恋愛の色合いが薄い章になります。
あれ、恋愛相談だったのでは、と戸惑ったらすみません。国家間の思惑で揺れ動くイリスと王太子の恋の行方がベースではあります。
ついでに、全員が男装するので、なんとなくそっち方面にシフトします。
この章は少し長めです。それと、短編に出した登場人物に敵国潜入の手伝いを頼むので、少し登場します。
よろしくお願いします。




