波乱のお茶会1
「アロン様、今日お越しいただいたのは、メルビン伯爵邸の現状と、それを踏まえたこの先の対応をご相談したいからです」
「あちらはどんな様子なのですか」
「大揉めの最中です。
スザンヌ嬢のお父様と幼馴染が恋人同士で、実質夫婦として暮らしていると想定していましたが、違っていました。
簡単にまとめると、母親にフリージアをアイリスより優先しろと言われてそうしていた。周囲全員が彼女を溺愛していると思い込んだけど、クリフ本人にその認識はなく、アイリスとの復縁を望んでいる。どう思います?」
「なんでそんな馬鹿なことをしていたんです。母親に言われたからって、なぜ従うのだろう。これを知ったらアイリス夫人は驚くでしょうね。嬉しい?怒る?呆れる?どれになるか見当もつかない」
「娘のスザンヌ嬢は、遠い親戚の叔父さんでしたっけ、既にすごく興味が薄いようでしたね。二人の復縁がスザンヌ嬢の考え方を変えるかと期待していたけれど、あちらには首を突っ込まないほうが良さそうです。
それで一度アイリス夫人にお話を聞きたいのですが、どうでしょうか。ただ、アイリス夫人の方の話を聞いて、スザンヌ嬢の気持ちがどちら側に傾くか、博打だと思うのです。
アロン様はどう思われますか?」
「わからないけど、このまま結婚したくは無いです。彼女の言うような結婚をしたら、僕は永遠の片思いをすることになる。それくらいなら、今のうちに失恋しますよ」
「アロン様は情熱的なのですね。
これは好奇心でお伺いするのですが、もし結婚しなかった場合、彼女が結婚の義務を果たした後、恋人になる気はありますか」
「ありません。妻となった女性と子供と楽しく暮らしたいのです。そんなややこしい関係は御免被ります」
「では、思い切ってアイリス夫人を含めてお話ししてみましょうか」
「月に一回、スザンヌとのお茶会があります。そこにアイリス様を誘ってもらいますので、こちらもこの間の三人で伺うのでどうでしょうか」
「そうね。招待していただけるかしら。
また、変装して行くわ」
お茶会の当日は快晴で、庭でのお茶会になった。開放的な雰囲気で、踏み込んだ話も聞けそうな気がする。
今日のイリスの装いは、先日のピクニックほど可愛らしく造ってはいない。もう少しスッキリとした、いつもの自分寄りの服装にしておいた。
今日は夫人も同席することだし、もう少しきっちりしたほうが良いだろう。髪は結い上げて、でも、若々しくとリクエストしたら、きゅっときつめに引詰めた結い方にされた。
こんな地味な結い方では老けて見えないかと尋ねたら、小さな顔と、髪の艶が若々しさを際立ててくれますよ、と言われた。生え際の髪を少し出し、カールして垂らしたら、今までと全く違う可憐な女性に仕上がった。
この装い方は覚えておかなくては。
様子を見ていたアイラが、今日はもう少し華やかな男にしようかなと言い出し、服装を選び直し始めた。先に選んでいた物より幾分地味目な服だ。
しかし着付けてポケットチーフやアクセサリーなどの小物を足すと、途端に艶やかになった。
これこそコーディネートというのだろう。真似ようにも才能がないイリスにはできないことだ。
「アイラ、20歳の爽やか好青年には少し色っぽくないかしら」
「色気?最近ニューフェイスが増えたので、そっちでいってみますか」
そういって一度下を向き、顔を上げてこちらに向かって来るアイラは危険物だった。
ミラが聞いた。
「どっからそんな危険な男を仕入れてきたのよ」
ルーザーと久しぶりに会って、真似てみたのがこれだそうだ。
ルーザーはいい男ではあるが、こんな危うげな雰囲気はない。どう真似たらそうなるのか。でも、今日は絶対に駄目。その男は封印してもらって、爽やか路線にしてもらった。
アイリス夫人の屋敷に着くと、スザンヌと夫人とアロンがティーテーブルに着いていた。
アロンから紹介して貰い、挨拶を済ませた。二人は外国からの留学生で、身分や家名は伏せていることを断っておいた。
伏せていてもイリスが貴族であることは丸わかりだし、アイラは何にでもなれる。
全員にお茶が供され、各々が好みのスイーツを盛ってもらい、一息吐いたところでマイクが言った。
「お招きありがとうございます。
先日のピクニックがとても楽しかったので、またお会いしたいと思っていました」
スザンヌが嬉しそうにしている。ピクニックでの印象が良かったようだ。まさかだが、マイクを気に入ったりしていないでしょうね。
アロンを見ると、彼も不安気な顔をしていた。
いつも恋の相手を探している妻、これは気の休まる暇がないわね。しかも、そっちが本命ときた。
でも、男女が逆なら、こういった関係はよくあるのだと思うと嫌な気分になった。
結婚相手とずっと仲良く暮らしたいと言うアロンが、とても純な存在に思えてくる。




