カクテルとスイーツで夜中の女子会
夜になってからまた報告に向かい、イリス様に今朝の話を伝えた。
「それはひどいわね。ねえ、甘いケーキでも思いっきり食べない?何かむしゃくしゃするから発散させたいの」
厨房に山盛りのスイーツを頼んだ。料理長から何用のスイーツか問い合わせがきたので、イライラを発散させるためのスイーツよ、だから甘いのをお願いよ、と返事を返してもらった。
すぐに小さいカップに華やかにデコレーションされたババロアやアイスクリームが10種類ほどと、焼き菓子とチョコレート、フルーツピールが色々盛られた皿が2つ運ばれてきた。
飲み物は紅茶と、ブランデーだ。
「気が利くわね。さすが料理長」
「イリス様のためだと、他の人への倍ほど気が利きますよね、料理長って。あやかれてうれしいです」
オレンジピールとブランデーを交互に口に入れて一人で悦に入っている。
スイーツパーティの途中、伯母様達の突撃を受けた。スイーツを運ぶ侍女を止めて聞いたらしい。量は充分あるので、快く招き入れ、ティーカップとブランデーグラスの追加を侍女に頼んだ。
伯母がコアントローとカカオリキュールと生クリームも持ってきてね、ショートカクテルのグラスも、と追加してから聞いてきた。
「さて、何のパーティ?うちの優秀なシェフの絶品スイーツを山盛りにして」
「アロン様の相談事の調査が進んだお祝いと気晴らしです。スザンヌの父親のメルビン邸に潜入してもらっているのですけど、決定的な一幕が今朝方にあったので」
「そうなの。父親がどう関わっているのかしら」
「全ての元が父と幼馴染の捻れた関係にありそうなんです」
「どう捻れているの?」
「幼馴染に対して最愛の恋人のような扱いをしていて、幼馴染も周囲も皆そう思っているのに、本人にだけ自覚がなかったようなのです」
届けられたグラス二個にブランデーを注いで伯母様に一つ渡すと、ヘレン様が言った。
「どうしたらそんな事になるの?」
アイラが聞いたことを二人にもう一度話して聞かせた。
伯母様がブランデーを飲みながら、プラリネを噛っている。ヘレン様は一緒に届いたパウンドケーキを一切れ皿に取り、生クリームを載せて食べている。このパウンドケーキはブランデー漬けのフルーツとナッツをたっぷり入れた濃厚なものだ。
「その母親達が怪しいわね。年頃の合う息子と娘を夫婦にして、皆で一緒に楽しく暮らしましょう、なんて考えていたのでしょう。幼少期からずっと言い聞かせられていたのなら、それは義務として刻み込まれていたでしょうね。気持ちもその幼馴染に向いていれば、何の問題もなかったのに、哀れな男ね」
「クリフの父親が二人の結婚に反対していて、メルビン家に縁談を持っていったのは確かなのです。
フリージア嬢には何の後ろ盾も財産もありませんし」
アイラが言うと、ヘレン様が違うかもしれないわよ、と言った。
「父親のエブリィ様は知っているけど、欲の強い人ではなかったし、穏やかな性格だったわよ。フリージア母娘が好ましくない人物だったのかもしれないわ。あなたの目から見て、今のフリージアと子供達はどんな感じなの」
「息子はクリフ曰く、父親似だそうです。今回のことも理性的に受け止めていました。娘は感情的で周りに当たり散らしていました。フリージア似ですね」
昨晩のことを思い出しながら、アイラは言った。
「この推測がもし合っていたら、他所から来た花嫁は邪魔者よ。ろくな待遇は望めないわよ。目の敵にしてくる二人の母親と、自分より優先される年の近い女性と、よくも一緒に住んでいたわね。
夫からの労りと、それ以上に夫への愛情が無かったら、頭がおかしくなるわ。それで、この先はどうするの」
「そうですね。まずはアロン様に状況をお伝えして、できればスザンヌ嬢の母親に話を聞いてみたいですね。母親のアイリス夫人が、スザンヌ嬢のああいった考え方を知っているかどうか、わからないことだし。まさか勧めているとは思いたくないですけど」
ヘレン様がカクテルを全員分作ってくれたので、何にともなく乾杯した。
ブランデーとカカオと生クリームを三層に注いだこってりしたカクテルだ。甘いがとても強い酒だった。イリスは、これをクッと飲み込める大人達をぼんやりと眺めるのだった。




