真相が暴露された朝
翌朝、クリフとフリージア親子が一緒に朝食を摂った。
大人二人は無言で、子供達は嬉しそうにクリフに話しかけている。その席でクリフが子供達に告げた。
「君達は大きくなったことだし、私をお父さんと呼ぶのは止めて、人前ではクリフ様と呼びなさい。クリフおじさんと呼ぶ時期も、もう過ぎてしまっている年齢だ。
私が迂闊だった」
子供達は目を見開いて驚き、フリージアは執事を怖い目で睨みつけた。
兄のハイドが聞いた。
「なぜですか」
「それが常識だからだ。君達がこの屋敷に来た頃は幼かったし、実父と離れて寂しいのだろうと黙認していた。もう常識が求められる年になったのだよ」
マリアが憤慨したように言った。
「周囲には内緒でも、お父様が実のお父様だし、お母様と再婚したら、本当の親子になるでしょ」
周囲の使用人達は、ウンウン、と頷くような様子だ。周囲の様子を見て、クリフはムッツリとした。
「本当に私が迂闊だったようだな。
私は君たちの実の父ではないし、君たちの母親と恋人だったことも一切無い。それに離婚する気がないので、再婚もありえない。
これだけはっきり言えば分かるか」
「そんなはず」
と言って、フリージアを見つめるが、下を向いたままで目を合わせない。
兄のハイドの方は薄々感じ取っていたのか、緊張した顔だが落ち着いている。誰も何も言わなかった。しばらくの間の後にハイドが言った。
「わかりました。これからはクリフ様と呼ぶようにします。妹にも僕が言い聞かせます」
アイラは内心大喜びだった。
大収穫だ。フリージアが反論しないということは、二人のスキャンダルは白、だったのか。それなら、なんでこうまで拗れた?
「お母様、なんとか言ってください。これは嘘でしょう」
マリアが、フリージアの元に行き、腕をゆすぶって叫ぶ。
「クリフ様、いくつか質問してもいいでしょうか。このままではマリアが納得しないし、僕もわからない事があります」
「いいだろう。ではハイド、私の部屋で話そう」
「だめよ、私もお母様も一緒に聴くわ。
でないと信じられない」
マリアの言葉で、朝食室から使用人を下がらせ、そのまま話をすることになった。
執事とアイラはその場に残り、飲み物のお世話をした。紅茶を注ぎ、クリームピッチャーと砂糖ポットを置くと、壁際に下がって執事と共に壁の一部と化した。
ハイドが尋ねた。
「僕達はなぜこの屋敷に引き取られたのですか」
クリフがゆっくりと説明する。
「僕達の母達が友人で、一時期この屋敷で暮らしたこともあり、親しくしていた。
その縁で離婚後に家で仕事をしてもらっている。
こちらに来たのは、君の祖母が亡くなってすぐだったな。君が七歳のときか。僕の母が離婚したフリージアと君たちの行く末を案じて、声を掛けたんだよ。
君の父親が私の友人だった縁もあるな。ハイドは覚えているか?父親のコリンのことを」
「少しだけ」
「良い奴だ。君は彼に似ているようだ。離婚後、疎遠になってしまったのだが」
「母からは、あなたが本当の父だと教えられました。違うのですか」
「先程も言ったが違う。君の瞳はコリンと同じだよ」
「では、母と恋人ではないのも本当なのですね」
「本当だ」
突然フリージアが割り込んだ。
「クリフは子供の頃から私のことが好きだったでしょ。なんで今更そんな態度を取るの。おばさまが亡くなる時に、この先あなたを支えてやってと頼まれたし、結婚を阻むものも無いのに、何が問題なの」
「問題も何も、君と僕の間には、昔も今も幼馴染としての繋がりしかないだろ。
君こそ、何を考えて子供に嘘を教えたりしたんだ」
「あなたがずっと私を想っていると……。だってどんなわがままを言っても聞いてくれて、婚約者より、妻より私を優先してくれたじゃないの。そう思って当然でしょ。
勘違いだと言うなら責任取って。私の間違った人生をやり直させて」
「そんなつもりではなかった。
母が君たちを哀れがって、恵まれているアイリスより君と君の母親を優先してあげるべきだと常々言っていた。だから、なるべくそうしてきた。それが間違っていたのだろうな」
「何が、そんなつもりがなかったよ。人をバカにして。部屋に戻るわ。マリア、来なさい」
マリアの方に手を伸ばし連れて行こうとするが、マリアはその手を払い除けた。
「嫌よ。お兄様といる。だって、こんなの変よ。私だって嫌よ。
お母様のバカ」
アイラは黙って聞いていたが、呆れていた。
馬鹿はこいつだ。何が恵まれているから可哀想な人を優先? そりゃあ、優先された女は自分にぞっこんなんだと思い込むよな。放置された女も、周囲の人間もそう思うに決まってる。
自分以外の全員が了解している事実を、こいつ一人理解していなかったのか。何、寝言ほざいているんだ。親友もそれで愛想を尽かしたのだろうに。
どうしよう。昨日の今日だけど、もう一度報告に戻るしかないか。




