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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : シャノワール・王妃様の相談所   作者:
第二話 婚約者様、どうか僕と恋愛してください
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潜入捜査での違和感

 現在の様子を探るため、アイラを男装させてメルビン家に潜り込ませることにした。


 設定は二十代の男爵家次男で、独身。名前はマイクのままで行く。執事の見習いとして短期間修行させてもらう予定になっている。紹介者は騎士団長のヒックス・バーム侯爵で、これは王太子の側近のバーム家嫡男ホルスに手を回してもらった。


 権力者の手を借り放題なので、色々と捗る。


 ちなみに王太子殿下には思いっきり恩に着せられた。

「勿論恩はお返しします。王太子妃の浮気などを疑われた時は、すぐに対応させていただきますわ」

 と言っておいた。

 彼は半年前に結婚した新婚さんだ。勿論嫌がらせである。


 不敬だとか言うので、周囲にバレていない子供時代のいたずらというか悪事をほのめかしたら黙った。権力者の弱みを握るのはとても良いことだ。





 潜入してすぐにアイラが感じた違和感、それはフリージアの立ち位置が不明瞭なことだった。


 フリージアが女主人なら、執事は女主人に従うスタンスになるはずが、全くそうではない。他の使用人は彼女を女主人として従うが、その上に執事がいるという感じだ。


 未熟だったり、適正がなくて権力を制限されている場合とはまた違い、執事は彼女を客人として扱っている。時には侍女長として使用人の一人として扱っているように見える。



 二週間経ったときに、執事のフレッドさんに、フリージアの立場を尋ねてみた。この状態には誰だって戸惑うはずだ。


「侍女長ですよ」


「でも、使用人達は奥様と呼んでいますが」


「お気になさらず。旦那様の幼馴染なのと、子供の頃この屋敷に居候していましたので、少し混乱が生じているだけです」


「あの、お子様方が旦那様を、お父様とお呼びするのも、聞いているのですが」


「それは、フリージア様は離婚していて、父親代わりに旦那様が可愛がっていたのでね。もう分別の付く年になったことですし、改めさせねばいけませんね。

外聞も悪いことです」


「すみません。てっきりフリージア様が旦那様の愛人で、この屋敷の女主人だと思っておりました」


「そう見えるでしょうね。どうしてこんなことになってしまったのか」


 それ以上は聞き出せなかったが、クリフの父親同様、この執事もフリージアに良い感情を持っていないのがわかった。


 愛人かどうかは、相変わらずはっきりしない。


 少し見方を変えなければいけないようだ。

 外聞調査からの読みは、父親の反対で引き裂かれた幼馴染の恋人同士が、念願叶って一緒に暮らしている、という図柄だった。


 だが執事の物言いからすると、クリフはフリージアをさほど尊重していない。


 例え執事が内心好く思っていなくとも、主人が彼女を女主人として待遇していれば、表面上そう対応するはずだ。


 クリフはまだ数日しか屋敷に戻っていないので断言できないが、その時の態度は、至極あっさりしたものだった。


 だいぶ意外なので、一度報告に行こうと決めた。


 その一週間ほど後のことだった。久しぶりにクリフが在宅している。フリージアを書斎に呼ぶよう言いつけられ、部屋に向かった。


 その連絡に、フリージアは満面の笑みを浮かべ、身支度するから一時間後に伺うと伝えるよう言い、侍女を数人呼びつけた。


 日頃、侍女長というより仕事の少ない女主人のような生活をしているため、その様子を使用人達は疑問に思わないようだが、新参者であるアイラから見ると履き違えているとしか思えない。侍女長ならば、呼ばれたらすぐ応じるのが仕事だ。


 だが、文句を言う立場でもないため、素直に戻って、そのままをクリフに伝えると、怪訝そうな顔をしたが何も言わなかった。


 傍らでお茶の支度をしていた執事が、


「旦那様、お茶は後になさいますか」


 と尋ねた。


「一杯頂こう。済まないが、後でもう一度用意してくれ」


 お茶を置いて、執事と、アイラは退出した。




 フリージアの部屋では侍女たちが忙しく立ち働いていた。

「ねえ、何の話だと思う?」


「それは…、どう思われますか」


「今後の話よね」


「そうですね。大奥様を見送って一年、来年にはお嬢様が結婚されますし。頃合いと言いましょうか」


「そうよ、遅いくらいだけど、ちょうど良い頃合いよね。子供達を社交の場に出すにも、そろそろ立場をはっきりさせないといけないわ。この一年時々クリフに言ってきたのだけど、ようやくだわ」


「今日はおしゃれしませんとね」


「うふふ、宜しく頼むわ」



 執事とアイラは1時間後、再びお茶の支度をし書斎に向かった。


 執事はずっと無言で硬い表情を緩めず、話しかけることができなかったが、何か重要な話し合いが行われることはわかった。


 書斎で前のお茶を片付け、新たにティーセットを置いて待ったが、フリージアの支度が遅れているのか中々姿を現さない。執事がもう一度お茶を換えに行き、アイラはフリージアを迎えに向かった。


 部屋をノックすると侍女が顔を出し、もう少し待てと言われた。


「旦那様がお待ちです。すでに1時間半経っていますので、お急ぎになるようお伝えください」

とアイラが言うと、


「男性にはわからないでしょうけど、こういう時は時間がかかるものですよ」


 プリプリしながらドアを閉められてしまった。どういう場合か知らないが、三十分も過ぎているのだから、少しはすまなそうにして欲しい。


 バッチリ着飾ったフリージアが部屋から出てきたのは、その十五分後だった。


 フリージアを伴って書斎に戻ると、クリフと執事が話をしていた。事務関連のようだった。


 クリフはフリージアにソファーを勧めてから、今後のことについて相談があるのだがと切り出した。


 これはぜひ聞きたい、と思ったが、執事に促されて仕方なく退室した。


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