寒い話で冷え込む馬車
「お父上の幼馴染の女性が家に入り込んでいること、お母様は許しているの?」
「私達が引っ越して1年後くらいかしら。うちの使用人が噂しているのを聞いたの。詳しい経緯は知らないけど、父は母にその人を住まわせる了解を求めに来たらしいの。
そこで、きっと本当に吹っ切れたのね。母は変わったわ。
物思いに沈むことも泣くこともなくなって明るくなった。社交界にも叔父や祖父にエスコートされて出掛けるようになって、そのうち素敵な恋人ができて、もっと幸せそうになったの。
私は嬉しかったわ」
「あなた達姉弟は、お父上に会いたいと思わなかったの」
「母を泣かせる父より、笑わせてくれる恋人のほうがいいわ。
一緒に住んでいる頃も、幼馴染の女性とその子供を優先して、私達が寂しい思いをすることが多かったのよ。弟は別居時に3才だったから、父に悪い感情は持っていないけど、親しみも持っていないの。
たまに顔を合わせる親戚のおじさんくらいの感覚かしらね」
マイクとアロンが顔を見合わせている。
マイクがため息をついた。
「それ、仲が良いと言えるかなあ。お互いに無関心なだけだろ。離婚はしないの」
「何故か父が渋ったらしいわ。そのうちに特に問題がないし、もうこのままでもいいじゃないか、ということになったそうよ。爵位や遺産に関しては契約書を交わしているので、面倒事は起こらないから」
アロンは複雑な顔だ。婚約者の少し変わった家族関係を初めて聞かされ、消化しきれないようだ。
「もしお父上が亡くなったら、その愛人は出ていくの。異母兄弟とかは今の所いないよね。話に上らなかったから」
その様子を見てスザンヌが励ますように言う。
「父の家を訪ねることはないし、愛人と関わることもないから、居ないものと思ってくれていいのよ。
そのうちに爵位と遺産をくれる親切な遠縁位に思っておいて。それに我が家のことは我が家で片を付けるので、イベリス伯爵家に迷惑は掛けないわ」
薄ら寒い話だなあと思いながら周囲を見ると、向かい合う男二人が同じ表情で窓の外を見ていた。
目的の湖のある草原に到着後、昼まで別々で散策することになった。
アロンとスザンヌはボートに乗るという。結局イリスたちもボートに乗り、湖にやってくる小鳥や、水面下の魚を見て楽しく過ごした。
マイクは器用にオールを扱っている。
ボートを漕ぐ姿はなんというか色っぽい。爽やか青年設定がどこかに行ってるわよ、と注意したけれど、他に見ている人いませんよと爽やかに笑ってスルーされた。そして、先程の話、どう思いますかと問いかけられた。
「私は洗脳を疑っていたの。どういうふうに話を持っていっても結論ありき、の感じだったから。
でも、そこまで異常なことではなく、母親の不幸な結婚と、吹っ切れてからの変化が子供心にも衝撃だったのでしょうね。
これ、どうしましょう! 幼い頃からの刷り込みで、結婚相手に期待しない、結婚の義務は果たす、その後で自由に本当に好きな相手を見つける。ある意味大正解ですらあるわ」
「イリス様、引きずられないでください。その思考、男にとっては、いや、夫にとっては骨の髄から寒いです。もっと、ぽかぽかした幸せを求めましょうよ」
「あら、あなたは女性でしょ。関係ないじゃない」
「男になることも多いので、男の気持ちもわかるのです」
「一応、ご両親の様子も探ってみましょう。でも、この案件は白旗を上げることになるかもね。アロン様、お気の毒だわ」




