そんなに疎遠なんて聞いてないよ
イリスは、早速探りを入れてみる。
「お二人はいつから婚約なさっているんですか」
「もうすぐ2年になります。来年結婚の予定なんです」
「まあ、素敵ですね。花嫁衣装の用意は済みましたの」
とスザンヌに振ってみた。
「今、デザインを詰めているところなんです。いつも可愛い系なので、大人っぽいゴージャスなドレスにしたいのに、あまり似合わなくて」
「あなたは華奢だから、重くないほうが似合うと思うわ。シフォンをたっぷり使ってふわっとさせたようなものとか」
「そうなのだけど、理想と現実の狭間でもがいている感じなの」
「それならビスチェドレスはどうかしら。胸の下で切り替えてストレートなシルエットになるので子供っぽくはならないわよ」
「それ、素敵そう。今度の打ち合わせの時に聞いてみます」
ドレス談義は盛り上がった。結婚に後ろ向きな様子は全く感じられない。
イリスはもう少し切り込んでみることにした。
「結婚後のお住いはどちらに?スザンヌ嬢が伯爵家に入るのですか」
今度はアロンに向かって問いかけてみた。
「実家に近い屋敷を借りて二人で住むことになっています。候補がいくつかあるので、どれにするか迷っているところです」
この話題にスザンヌも入ってきた。
「私は実家から遠い数軒は候補から外してほしいわ。ルバー通リ沿いの邸宅かマーシー通リ沿いの邸宅がいいかなと思っているの」
「そうだね。大きさも手頃だし、環境もいいから有力候補に挙げているけど、お父上の住まいからはだいぶ遠くなってしまうよ。いいのかな」
「それは大丈夫。あちらに行くことはないもの」
ちょっと気になる話が出てきたので、もう少しつついてみることにした。
「伯爵様はどちらにお住まいなのですか」
「憩いの森の近くです。武官なので、出征やら訓練やらで家に戻ること自体少ないようなのですが」
「ではあなたが結婚して家を出たら、お母様がお寂しいわね」
「私達は母の実家近くに住んでいて、実家と行き来しているので寂しくはないのですよ。八歳の頃に今の家に引越してから、凄く楽しく暮らしています。
小さい時は父に構って欲しくて泣いたりしたけど、それからはお祖父様や、叔父家族や、母の恋人が色々としてくれて寂しいどころではないです」
スザンヌは笑いながら言う。
アララ、母の恋人は母実家公認なのね。第二の夫状態かしら。この場合第一の夫にかなりの問題あり、でしょうね。さて、これが解決の糸口になるかしら。
どの家がいいかの話題に戻ったスザンヌにアロンがストップを掛けた。
「ちょっと、待ってスザンヌ。君のご両親は仲がいいといつも言ってたよね。顔合わせの時と、ご挨拶に行ったときの二回しかお父上とは会っていないけど、ごく普通のご夫婦に見えたよ。本当は仲が悪いのかい」
「そんなことはないわ。仲良いわよ。一緒に暮らしてはいないけど、必要なときにはお互いに都合を合わせて会うようにしているし、プレゼントもちゃんと贈り合っているもの。勿論、私たち姉弟にもプレゼントを贈ってくれるわ」
ずっと黙って聞いていたマイクが初めて会話に加わった。
「お父上は屋敷の管理はどうしているの。男では細かいところに手が回らないのじゃないの」
「父の幼馴染の女性が侍女長として切り盛りしているらしいわ。生活に不自由ないと、この間も言っていたわ。えーと、婚約が纏まったときだから1年くらい前かしらね」
え、そんなに疎遠なの、とアロンは驚いている。
イリスはそれよりも本宅を謎の女性が仕切っていることに驚いた。別居するとしても、本宅に妻子を置き、別宅を構えるのが一般的だ。今の状況ではスザンヌの母が追い出されたようではないか。その状態でスキャンダルが広まっていないことが不思議だ。




