曲がった方向に真直ぐな主張
アロンは、彼女にストレートに聞いてみた。
「子供は好きだし何人でも欲しいよ。ところで、子供を産んだら自由ってどういうこと?」
「お仕事完了ということよ。一人でいいなら、最短で1年くらいかしら。私は子供の面倒をみなければいけないけど、アロン様はすぐに自由よ」
スザンヌはにこにこと、嬉しげに話す。
「自由って具体的にはどんなこと?」
と聴くと、
「恋人を探したり、その女性と別邸で生活してもいいってことよ」
「なんで、そういうことになるの?」
「なんでって、結婚の義務が終了したら、私生活は自由でしょう。家や領地の維持、運営や社交などの公の部分は、お互いしっかり取り組まないといけないし、そのための話し合いなども定期的に必要にはなると思うけど。
私も子供が手離れしたら、恋の相手を探すわ。お互い素敵なお相手が見つかるといいわね」
キラキラしているスザンヌを見つめ、アロンは思考停止に陥ったのだった。
「それはまた、なんというか、端的でわかりやすい説明だけど。それってお互いの同意が前提条件よね。何か思い当たることはあるの?」
「全くないんです。定期的に会って、話して、遊びにも行って、僕たちはいい関係だとばかり思っていたので。だから、僕のことが嫌なんだろうか、と聞いてみたのです」
スザンヌはそんな事ないと否定した。
「あなたのことは好きよ。誠実で信頼できるし、一生のパートナーがあなたで嬉しいわ。それに、とっても素敵だから可愛い子供が生まれると思うの」
しばらく考えてから、アロンはそっと手を握ってみた。
「どうしたの?」
「嫌じゃない?」
「ええ」
次に軽く抱きしめてみた。
「嫌じゃない?」
「ええ、でも急にどうしたの」
「……キスしてもいい?」
「それは結婚してからよ。まだ早いわ」
「来年、結婚したら子作りしないといけないけど、それは大丈夫なの?」
「もちろんよ。貴族女性の義務だもの」
「子供が生まれた後はどうなるの?」
「子供を作る必要がないのだから、する必要もないでしょ」
と、こんな感じだった。
「ズレ方が真直ぐで、思わず納得しそうだわ」
アロンは、とんでもないと言いたげに首を振った。
「僕は納得できないので、君のことが好きだ、恋している、一生君とだけ愛し合っていきたいと、思いつく限りのことを言ってみましたけど、どうにも噛み合わないのです。
友人達が言うように、まだ幼いだけで、結婚して体の関係を持つようになったら変わっていくのか、とも思うけれど、それとはどこかが違うような気がして不安なんです」
「私、ちょっと怖いことを思いついてしまったのだけど、確認したいので彼女に会いたいわ。私ともう一人で恋人同士の振りをするから、一日一緒に遊ばない? ピクニックなんかがいいかしらね。外国からの留学生で、身分は伏せているという態で、家名は控えさせてもらって。どうかしら」
次の約束の日の予定を変えることはできますが、とアロンが少し困ったように言った。
「どういう知り合いの設定にしたらいいんでしょう。一緒に遊ぶには年齢差がありすぎて、不自然なのではないですか。僕の年上の従兄夫妻の設定とかで、美術館巡りなどの方がしっくりきそうですが」
あら…...おない年じゃあないの、と言いそうになったが、推定三十歳なのを思い出した。私は若い、と言い張ると、痛い人扱いされそうだ。
仕方がないので
「大丈夫よ。変装するから。それに美術館では自由に色々話せないでしょ」
と言っておいた。なんだろう、すごく悔しい。
結局アロンの友人カップル設定で、昼食を持ち寄ってピクニックに行くことで話がまとまった。