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第一話完結 秘密は墓場まで

第一話の最終回です。

引き続き第二話の”婚約者様、お願いだから僕と恋愛してください”をアップしていきます。

第一話と同じくらいの長さになります。よろしくお願いします。

「こんにちは。ビクター様。あれから10日経ちましたが、どんな様子ですか」


「アンヌが元のアンヌに戻りました。ありがとうございます。


 知らずにいたら、後数日で引き裂かれるところでした。父宛てに、伯爵の代理としてチャールズから面会の申し入れが入っていたそうです。もう本当にギリギリのタイミングだったようです」


「アンヌ様が元に戻ったということは、色々とうまくいったっていうことですね」


 ビクターの顔が明るい。もう聞かずともわかるというものだ。


「全てが思った以上にうまく運びました。

 襲撃から助け出すのが芝居ではなかったおかげで、屋敷の使用人達の緊張も本物でした。両親が夜更けに屋敷へ戻ったときに、僕がアンヌと一緒にいると聞いても、まあ仕方ないかという雰囲気だったそうです」


「チャールズの介入が、良い方に転がったようですね」


「そうですね。すべてが自然に運びました。彼女の部屋に行くのも彼女を守るためで、当たり前のことに思えたのです」


 どちらに転ぶか危ういところだったが、結果は満足のいくものだった。しかし運が良かった。


「そういえば、あのチョコレートは美味しかったなあ。すごく濃厚なリキュールが入っていて、僕でも少し酔った気分でした。彼女も3つ食べていたから結構酔っていたのではないかと思います。

 ただ、予想外のこともあって、実は途中で僕が泣いてしまったんです」


 泣き笑いのような。複雑な表情で言う。


「彼女のぎこちなさと必死さがいじらしかった。あの時の声に自分で驚いていて、そんなことも知らないくらい辛くて、耐えるだけだったのだと思うと不憫で」


 あの時の声? わからないけど黙っておこうと、神妙な顔で頷くと、イリスは聞いてみた。


「あなたを拒否することはなかったの?男性全般を拒絶する場合もあると聞くけど」


「それは僕も心配だったのですが、僕に触れていると、気持ちが落ち着くと言ってくれました」


 ふふっと笑ってイリスは言った。


「そうね、あなたゴールデンレトリバーみたいで、私も抱きしめてモフモフしたくなったもの」


「え、犬扱いですか。......犬でもいいです。それでアンヌが癒されるなら」


 まあ、いい心構えね。

 彼女幸せだわ。


「こちらからも、報告することがあるの。襲撃の時、手傷を負ったチャールズを、襲撃者が剣の腹で殴ったの。そのせいか、チャールズの記憶が少し飛んだようで、この半年のことを忘れてしまっているの」


 殴ったのは、ミラだった。

 殺すなよ、と止めたケインを振り切り、一発殴った後で、死なない程度にしといたわ、と言い放ったそうだ。


「問題はね、どうも何か催眠術のようなものを、掛けられていた可能性があるのよ。

 記憶にある最後が、アンヌ嬢の誕生日前に、領地から戻る途中宿泊した宿で、数人の男に襲われたというものだったの。そこからの記憶が全く無いそうなのよ」


「そんな話は全く聞いていませんよ。誕生日のパーティでも、確かごく普通の様子でした。どういうことなんでしょう」


「薬と洗脳の痕跡があるようで、一言でいうと、強力な惚れ薬を盛られたようなものね。誰に惚れて何をするよう仕向けられたかわからないけれど、それがなぜか、アンヌ嬢に向いてしまったようなの。

 犯人の目星は今絞り込んでいるところよ」


 本当の犯人のことは伏せることにした。終わった事だ。罰はこちらで与えておく。


「チャールズに執着していた令嬢は数人いて、その動向を探っているの。でも、罪には問えないと思っておいてね。事が露見しないことが大切で、何が起こっていたか、知られるわけにはいかないのよ。

 一つ運の良かったことは、電撃結婚宣言ね。あれで惚れ薬の対象が、ケイト嬢に向いてしまったと思われたはず」


「ああ、その話のほうがしっくりきます。

 僕の知っているチャールズは、全くそんな男ではなかったから。妹としてアンヌをとても大切にしていた。だからどうにも僕の気持ちの中で、この事件全体が収まらなかったけど、それならば納得できます。だからといって許せるわけでもないですが」


 それはイリスも賛成だった。


 その後のチャールズは、アンヌに対する過剰な執着は全く示さず、とてもすっきりした様子だそうだ。そして襲撃されたアンヌの体調の心配と、ビクターへの感謝を述べているという。


「怪我の功名ね。チャールズの記憶も、アンヌ嬢への執着も、全て失われているから、そう思っておいて。

 半年前に襲撃され洗脳された事まで知っているのは、私と私の手の者とあなたの3人だけ。チャールズ本人にも、その両親にも絶対に漏らしてはだめよ。

 アンヌ嬢にだけ、チャールズはどこかの令嬢に洗脳されて、操られた期間の記憶が飛んだのだと伝えてあげて。それですべて悟ると思うの」



「それと、王妃様が、チャールズを外交官に任命する予定よ。

 前から目を付けていたけれど、今回のことで、手回しの良さが気に入ったらしいの。しばらく他国に駐留してもらうことになるわ。その間に、今回のことが薄れるくらい二人で幸せになってね。

 チャールズの今回の記憶喪失については、公表することになるし、ケイト嬢とのことはチャールズ任せね。さて、どうなるやら。とりあえず、今回の依頼はこれで完了ですね」


「何回お礼を言っても、言い切れません。ありがとうございました」


「ところで、純潔の証はうまくいったの」


「あれは、変な小細工無しで大丈夫でした」


「え、なんで」


「初めてだったから、その、あれです」


 う~ん、と考え込んでから、脱力した。


「ビクター様、そういうことは言わなくて宜しい」


「すみません」


「まあ、収まるところに収まったし、幸せそうで何よりね」




 後日、アンヌの元へチョコレートが届いた。


 メッセージカードには 

 ”お幸せに。今回ハートは無しよ” 


 と書かれていた。


 




FIN


第一話 完結

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