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侯爵邸での晩餐

 しばらくして部屋の準備が整ったと侍女が知らせに来たので、ビクターに案内されて部屋に移動した。

 

 とりあえず、ここまでは成功した。


 思いがけない割り込みがあったけど、運よく事が運び、予定通りの状態になっている。ほっとしたら脱力してしまい、動くのも億劫だった。


 マーサは別室を与えられ、そちらで休んでいる。アンヌの世話はいいのでしっかり休むようにと言い付けてある。


 ソファにもたれてぼんやりとしていた。どれだけそうしていたかもわからないが、外が暗くなった頃、晩餐への招待を伝えに侍従がやってきた。着替えのドレス一式と侍女たちを伴っている。それは、ビクターがアンヌにプレゼントしようと、注文してあったドレスだと言う。


 着替えてお化粧も整え直し、ダイニングルームに行くと、すでにビクターが座っていた。立ち上がり、アンヌをエスコートして、自分の斜め横に座らせると、晩餐が始まった。


 お昼をしっかり食べていたのに、お腹は空いていて、驚くくらい食事もおいしく感じた。

久しぶりに、ビクターをまっすぐ見つめて、話が出来ていることが、こんなにうれしいとは思わなかった。

それほど長い間、まともに彼と向き合っていなかったのだった。


 そんなアンヌを責めずにいてくれたビクターに感謝した。


 食後のリキュールを注いで執事が下がると、ビクターが話し始めた。


「先ほど王宮に送っておいた者が戻ったよ。

 私達が去った後、しばらくして賊は引いていったようだ」


 良かった。誰も捕まらずに、うまく逃げてくれたのだわ。アンヌはほっとした。


「チャールズが負傷していたので、後を追わずにそのまま王宮に向かい、襲撃に関する報告をすませたそうだ。

 チャールズは王宮の医師が手当をしているという。傷は浅いが、剣で頭を殴打されてふらついていたらしく、鎮静剤を与えて眠らせているそうだ。 起きてからもう一度検査するけど、大事には至らなかったみたいだよ。良かったね」


 良かったな、と思った。アンヌは、そう思えた自分にホッとした。


 甘くてアルコールの強いコアントローを一口飲むと、カッと喉が熱くなる。だが甘くておいしい。こってりした甘みが今はうれしい。


「安心しました」


「王妃様がアンヌに、落ち着くまで婚約者の屋敷に滞在するか、王宮に戻ってもいいとおっしゃっているそうだ。僕としては、心配だし、ぜひここにいて欲しいのだけどね。どうだろう」


「はい、私もこちらに置いていただければ嬉しいです。よろしくお願いします」


 そう言いながら、どうやって彼を誘ったらいいのか、考えていなかったことに気付いた。

 おいおいに、そういう雰囲気の時が訪れるのを待とうと思っていると、いつの間にかビクターに手を握られていて、顔が直ぐ側にあった。


 周りを見ると、人払いしたようで二人きりになっていた。



「今夜、君の部屋に行ってもいいだろうか」


 下から掬い上げるように見つめるおねだりの目に、アンヌはつい頷いてしまった。


 はっとしたが、この展開を待っていたのだからこれでいいのだ、と思うことにした。急にドキドキし始め、握られた手を引こうとしたら、軽くついばむように唇にキスされた。


 そのまま部屋まで送られ、後でね、とささやくように言ってビクターが出ていった。


 つまり、今夜っていうことよね。気持ちの準備が出来ているような、いないような。狼狽してしまった。


 頑張れ私。


 それにしても、ビクターは女性の扱いに慣れているようだ。手慣れていすぎないかしら、となんだか複雑な気分になってしまった。


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