幼女の吸血鬼姉妹を筋肉は求めている
(相変わらず、合法ロリィは可愛いなぁぁぁあ)
清水亨の内に秘めた筋肉も共鳴するように鼓動し、血沸き肉躍っているようだ。
亨は学校の昼休み、クラスで優雅な立ち振る舞いをしている彼女――エリ―ナ・ブラッドレッドを見ていた。
見ているだけならいいのだが、周囲から聞こえてくるのは皮肉交じりの言葉だってある。
「エリ―ナさん、今日も人気だな」
「分かってないな、見た目がガキだからだろ」
クラスメイトが話している通り、エリ―ナは学校で美少女とされている程の高嶺の花だ。
見た目がガキ、というのは強ち間違いではないが、それは彼女を普通に見ている場合だろう。
見た目や身長が小学生低学年くらいなので、高校生とは思えない。しかし、エリ―ナは違和感なく溶け込んでおり、一つの花が咲いているようなものだ。
見うる相手を魅了するほど透き通った、真紅の瞳。
青みがかった黒い色のショートヘアは、なめらかさに艶のある光沢を放っている。
潤ったような白い肌の幼女体型に、瞳や髪を全て混ぜ合わせて、美少女との呼び声が鳴りやまない程だ。
亨の目に見えるエリ―ナは、ただの一般生徒や人間では無いのだから。
一番問題であるのが、彼女にコウモリのような羽が生えている事だろう。
他の人には見えないらしく、アニメや漫画でよく見る吸血鬼の羽を彼女は持っている。
彼女、エリ―ナは所謂『吸血鬼』に当たる存在だ。
《汝よ、ロリは最高だよな》
亨に突如として語りかけてきたのは――筋肉だ。
亨の内に秘めた筋肉は、訳あって話すことが可能であり、今ではロリを語るに欠かせない存在となっている。
エリ―ナとは同じ屋根の下に住む、種族の垣根を超えた関係であるが、クラスメイトが知るはずもない。
ただし、関わりを知らないわけではないが。
「おい! 内なる筋肉が歩き出したぞ!」
「各員、気をつけろ! パターン要塞移動型、臨時筋肉警戒態勢!!」
亨が席から立ち上がっただけで、クラス全体を巻き込んで一種のお祭り状態と化した。
亨は一言も喋っていないが、当たり前のような日常になっているのも事実だ。
クラスメイト達も楽しんでやっているので担任や先生方も目をつむっているが、傍から見れば異様な光景だろう。
エリ―ナに近づけば、集まっていた女子生徒がそそくさと避けるくらいに、亨は何故か危険判定を下されている。
勘違いされがちだが、亨自身、内なる筋肉は幼女を守るためにあるので、他者を傷つけるために使ったことは一度もない。
亨が黙って近寄ると、エリ―ナはこれでもかと呆れた視線を送ってきている。ただし、優雅さを忘れていないので、本当の幼女とはひと味もふた味も違う。
「警戒人物は相変わらずね、可愛そうに」
「エリィからの褒め言葉はご褒美です、本当にありがとうございます!」
「貶しているのよ、分からないの?」
周囲は話を聞いていたのか「筋肉キャラがブレてる!?」と驚きの声を上げている。
静かにため息をつくエリ―ナは、こちらの行動に疲れているのだろう。
ちなみに『エリィ』というのは亨だけに許された、彼女の愛称だ。
(……我が筋肉に答えよう。彼女が吸血鬼であり、幼女体型の合法ロリだからこそ至高なのだよ)
亨の筋肉が高ぶっているので、共感しているのだろう。
合法ロリを見るというのは、亨からしてみれば血が巡り肉を生み出すようなものなので、筋肉も共感してしまう、が正しいのかもしれない。
ちなみに、ガチのロリには微塵も興味はない。亨としては、赤ちゃん以上のロリは年寄りなので見る価値が無いのだ。
ふと気づけば、エリ―ナは鋭い視線で亨を見てきている。
「清水亨、何を考えているのかしら?」
「アイアム筋肉」
「何を言っているのかしら、ね」
エリ―ナはそう言って、爪を光らせ、手刀をお腹に突き刺してきた。
しかし亨の筋肉は予想していたかのように、腹筋を割り、エリ―ナの小さな手を飲み込み受け止めている。
筋肉が幼女を守るというのは、合法ロリ限定だからだ。
周囲からは「やれやれ!」や「清水の本命はあの人だよな」といった野次が飛び交っている。
このクラスはなぜか、亨とエリ―ナのやり取りは行事になっているため、日常茶飯事の盛り上がりだ。
牙を見せて容赦のない手刀を浴びせてくるエリ―ナは、普段の学校生活では退屈なのだろう。
高貴な吸血鬼とはいえ、血が騒ぐのは止められないのかもしれない。
「お兄様! あそぼ―!」
「あら、来たのね」
《いぇす、合法ロリの追加だ》
エリ―ナの手を受け止めてまで高ぶらせる筋肉が囁く先は、明るい声が聞こえたドアの方だ。
瞬く間もなく、ドアが音を当てて開けば、エリ―ナの妹――ユリシア・ブラッドレッドが制服のスカートを揺らして姿を見せた。
ワクワクした様子で近づいてくるユリシアは、優雅なエリ―ナとは違い、明るい性格で好奇心旺盛な幼女だ。
この学校にはなぜか、吸血鬼姉妹が通っている。まあ、原因は言わずもがな、内なる筋肉を持った亨にあるのだが。
(ユリィも相変わらずロリで可愛いぃ!)
ユリシアの身長はエリ―ナと同じくらいだが、瞳が明るめの真紅色という違いがある。また、桃色の髪はサイドで一つ結びとなっており、幼さに愛らしさのある雰囲気を併せ持っている。
ユリシアの羽には特徴があり、コウモリの皮膜だけが無くなっていて、代わりに妖精のような形で水色の膜が司っているのだ。羽の枝状の部分が残っているとはいえ、亨は最初に見た時に驚きを隠せなかった。
ふと気づけば、ユリシアは瞬く間もなく亨の腕を抱きしめ、寄りそうように腕をくっつけてきている。
「あら、ユリィ、それは挑発かしら?」
「あれー、もしかしてお姉様、お兄様を取られると思って拗ねてるんだ」
「ふふ、ユリィ……どうやらお話が必要のようね」
「ユリィ、あまりエリィを困らせるなよ?」
「はーい、お兄様」
幼子のように言ってくるユリシアは、亨の筋肉が好きな言葉づかいを知っている。
この吸血鬼姉妹、家では仲が良いのだが、学校ではバチバチに喧嘩をするので本当に良くないものだ。
ユリシアは自由な妹であるが、姉のエリ―ナからは愛情を多く貰っているので、亨としては些細な日常である。
最初こそ学校全体で彼女たちを狙うものは多かったが、動く筋肉要塞が守ったせいで、今ではこの現状となって落ちついているようなものだ。
ユリシアがデレテきたのもあり、亨にはこれでもかと、通りすがりの生徒からチクリと刺さるような視線が送られてきている。
その時、エリ―ナは目を逸らして息を吐き出していたので、彼女は彼女なりに深く考えているのだろう。
《ユリィのロリパワーは最高だな、ブラザー》
(筋肉ブラザー、エリィとユリィは最高なんだ)
何気なく亨に話しかけてくる筋肉は、たまに他の人でも聞こえるらしいが、真相は不明のままだ。
「こら、ユリィ! 学校ではやめなさい」
「……ごめんなさい、お姉様」
唐突にエリ―ナが怒ったのを見るに、ユリシアが勝手に筋肉から血を吸おうとしたのだろう。
ユリシアに血を吸われるのは慣れている。だがエリ―ナからは、自由にさせすぎ、といつも注意されているのだ。
彼女たちが吸血鬼姉妹だとバレていない以上、妥当な判断だろう。
「おーい、授業始めるぞ。清水、また浮かれていたなー、後で職員室に来るように」
昼休みの終わりを告げた担任からの指名に、クラスは笑いに包まれるのだった。
こんな毎日が続けばいい、と亨はこの時までは思っていた。
「居ない!」
《筋肉も感じない》
ある日、忽然として吸血鬼姉妹は姿を消してしまったのだ。
置手紙はなく、彼女たちと生活していた痕跡が残っているだけで、数日も帰ってきていない。
学校に行ったとしても暇で、クラスメイトも彼女たちの行先を知らないか、と尋ねてくるほどだ。
亨としては、関係が急に崩れるとは考えにくかったため、今でも信じ切れないでいる。
そして今、亨は先生に呼び出されており、職員室に居た。ただし、亨の顔に生気があるはずもなく、ロリパワーが足りなくなっている。
「……で、清水、この後の長期休みはどうするつもりだ?」
《ブラザー、日本の外からロリィの反応だぜ!》
(何、筋肉!? 我らも今すぐ行こう!)
「先生、筋肉が呼んでいるので、今から休みはいります!」
「ここは職員室だ、騒ぐな筋肉と……成績や素行が悪いわけじゃないからな。……よし、清水、自分のやりたいようにやってこい」
「ありがとうございます!」
亨は基本的に、筋肉以外では恐れられていないので、担任も理解してくれたのだろう。
筋肉が囁く直感を頼りに、亨は海外にいるであろう吸血鬼姉妹の元へ向かうことにした。
(待ってろ、お兄ちゃんが今向かうぞ!)
お兄ちゃんだから、を理由にして筋肉は海を渡り、空を渡り、日本を抜けて海外へと向かった。
吸血鬼姉妹の反応があった場所……もとい、以前エリ―ナから教えてもらった、姉妹の生まれた場所へとやってきたのだ。
周囲は暗く、木々に囲まれており、周辺住民ですら近寄らない場所らしい。
亨自身は英語を全くできないが、そこは筋肉。筋肉は通訳にも適しているようで、彼女たちの居場所を突き止めることに成功したのだ。
居場所、と言っても吸血鬼が居ると噂されている、森奥にひっそりとたたずむ建物だが。
森の中に差し込む赤い月明かりが照らせば、そびえたつ城のような豪邸を露わにし、導かんとばかりにコウモリが飛んでいる。
亨は息を呑み込んだ。
やっと再会できるかもしれない、本当に居るのか、といった不安や希望が入り混じた複雑な感情が込み上げながら。
城門を潜り抜け、噴水のある広場を通り、先にある豪邸のドアを開けた。
ドアを開けば、ロウソクの明かりが音を立てて灯り、照明が中を明るく照らしている。
赤がメインの大広間に、階段やシャンデリアなど、一般の家庭では見ることのない豪華な内装が目に映った。
「ここに居るのか?」
「珍しい、お客さ、ん……あれ? お兄様だ!」
明るく聞こえた声の方を見れば、ユリシアがこちらに向かって走ってきていた。
ただし、家の中なのもあってか、露出が多めな赤色のランジェリー姿となっている。
姉よりも少しふっくらしている体型に、筋肉は興奮しているようだ。
亨としては、ユリシアに再会できた、という事実だけが嬉しかった。
いくら内なる筋肉があるとはいえ、吸血鬼姉妹は彼女たちしか居ないのだから。
「ユリィ、うるさい、わ、よ……何であなたがここに居るの!?」
「無論、筋肉が呼んでいたからさ」
「お兄様の筋肉、いただきます」
「ユリィ、亨の血を吸うのは良いけど、はしたない格好はやめなさい」
ランジェリー姿で亨の腕から血を吸うユリシアは、まんざらなく嬉しそうな顔をしている。
そして階段の方から現れたエリ―ナは、お嬢様らしく白いフリルのドレスに赤色のリボンをつけており、優雅な雰囲気を出していた。
亨からすれば、ユリシアに血を吸われ、エリ―ナにも出会えた、という事実がこの上なく至高である。
《筋肉、ロリィに再会できて、感動だぁ》
(我もだ、ブラザー)
吸血鬼姉妹に再会できて嬉しいのは筋肉だけじゃない、亨だってそうだ。
亨と彼女たちは、小さな出会いから始まり、共に過ごすことになったくらいなのだから。
ふと気づくと、ユリシアは血を吸い終わったのか、満足そうに爪を光らせて自身の唇を小さな指で撫でていた。
そんな愛らしい仕草に、亨はユリシアの背中へ自然と手が伸びていく。
「うっ、あっ……お兄様、羽は触っちゃっ、ダメっ」
「ユリィ、羽はやっぱし弱いな」
《筋肉、ユリィのロリィは栄養だぁ!》
ユリシアの羽の付け根を優しく触れば、体をくねらせてくすぐったそうにしている。
エリーナ曰く、ユリシアは吸血鬼の中でも羽が敏感らしく、あまりイジメないでほしいと言われたほどだ。
羽を触るのも程々にすれば、落ちついたユリシアは真紅の瞳を輝かせていた。
「そういえば、お兄様も一緒に住むの?」
「ユリィ、用が済んだら帰るの、分かっているでしょう?」
「えー、じゃあ、先にこうしちゃおう」
ユリシアはそう言って、亨の頬に唇をつけてきた。
真紅の瞳に映る自分の姿は、何が起こったのか理解できていないようだ。
筋肉に聞いても、痺れたように動かなくなっている。
見ていたエリ―ナは、顔を真っ赤にしてユリシアと亨を見ていた。
「ユリィ、あなたって子は!」
「だって、お兄様はうちらの事が大好きなんだよ?」
「え、そうなの? 清水亨」
エリ―ナには言っていなかったが、亨は吸血鬼姉妹の二人を超がつくほど大好きなのだ。
ユリシアに事実を告白したことがあっても、エリ―ナに黙っていたから伝わっていなかったのだろう。
「えっと、そうですが?」
「え、私たちが幼女体型……所謂ロリだから、好きなのよね?」
「お兄様、事実を話せば? じゃないと、お姉様の機嫌を損ねちゃうよー」
エリ―ナは今でも機嫌が悪そうに見てきているため、早めに弁明しないと不味いことになるだろう。
エリ―ナが今まで手加減してくれていると知っていたが、本気を出されれば筋肉は生気を失ってしまうのだから。
亨はそっと息を吸い込んで、改めて二人を見た。
ランジェリー姿のユリシアと、ドレス姿のエリ―ナという、対をなすような二人の幼い姿を。
「別に、ロリが好きなわけじゃなくて……」
「じゃあ、何が好きなのよ」
「エリィに、それにユリィが幼女な吸血鬼だから、好きなんだよ!」
「な、な、何を言っているの!?」
「あれー、お姉様照れてるぅー」
エリ―ナは隙を直接言われると思っていなかったのか、頬を赤らめ、驚いたように手を小さく振っている。
ユリシアが笑って茶化しているのを見るに、こうなることを予測出来ていたのかもしれない。
《汝、よくぞ告白した、見事だ》
(ブラザーのおかげさ……それに、我はお兄ちゃんだから、な)
好きでも無ければ、お兄ちゃんだからを理由に、乗り物に乗らずに海や空を渡る無謀な行動はしないだろう。
エリ―ナは、気づけば顔を隠していた手を避け、照れたようにこちらを見てきている。
「それで……エリィとユリィは、俺の事をどう思っているんだ?」
「ユリシアはお兄様のこと大好きだよ!」
間髪入れずに答えたユリシアは、ぎゅっと抱きついてきた。
それを見ていたエリ―ナは息を吐き出し、じっと見てきている。
もの言いたげな顔であるが、話してはいけない、と言っていないので困っているのだろう。
ユリシアから告白された以上、姉が奪ってはいけないと思っているのだろうか。
亨としては、亨と筋肉は一人であり二人なので、エリ―ナとユリシアの二人を愛したいと思っている。
ふと思えば、エリ―ナは姿こそ幼女であるが、中身は何百年と生きている吸血鬼なので、自ら口に出しづらいのかもしれない。
ユリシアが抱きつくのをほどいた時に、亨は微笑ましい表情でエリ―ナを見た。後押しをする筋肉が服の内側から浮かび上がるせいで、変に圧が凄いことになっているが。
「エリ―ナは、俺の事、好き? それとも、嫌い?」
エリ―ナは目を逸らしてから、恥ずかしそうに呟いた。
「……好きよ」
「吸血鬼姉妹の好きはご褒美です」
《筋肉もそう思います》
ちゃっかりと再度抱きしめてくるユリシアは、三人で過ごせることを嬉しく思っているのだろうか。
ピキピキ鳴らす筋肉の祝福に、小さな笑いが込み上げてきそうだ。
「俺も、エリィとユリィが大好きだ。これからも一緒に居てくれよ」
「ふん、私たちは何百年と生きるの、楽しみにしているわよ」
「あー、お姉様照れてるぅー。ユリシアもお兄様のこと、大大大好きだよ!」
「ちょっ、亨は私のよ! ……誰よりも好きなんだからね」
今までの愛をこれでもかと、赤い月明かりの差し込む家中で三人は伝えあうのだった。