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001 媚薬に侵された美男子発見1

「次の舞踏会は満月の夜に行われるそうだ。お前のツガイとなる者が見つかるかも知れない。今月の小遣いを一割アップするから出席してみないか?」


 こちらの行動原理をよく理解している父が、実に効果的なアメをぶら下げ、舞踏会への参加を私にチラつかせてきた。


 もちろん私は、二つ返事で了承。

 今まさに、王城で開催された舞踏会に参加している。


 舞踏会の会場は華やかな装飾で彩られ、シャンデリアからはキラキラとした光が降り注いでいた。


 高い天井から垂れ下がる豪華な装飾は、会場全体に贅沢な雰囲気を漂わせ、その下では美しいドレスを身にまとった女性たちが、鮮やかな色彩と優雅な動きで会場を彩り、紳士たちとダンスを楽しんでいる。


 夜空に浮かぶ満月を喜ぶような明るい音楽が響き渡る中、人々の声や笑い声が一つに溶け合い、舞踏会は華やかな雰囲気に満ちていた。


 そんな楽しい雰囲気漂う舞踏会の会場で私は、ホールの壁際に立ち、笑顔を浮かべながらも、心は遠くにいるアポロン様に想いを馳せていた。


「はぁ……アポロン様を一目でもいいから拝見したい」


 人々が踊るのを眺め、楽しんでいるふりをしながら私は、一体どうやってこの場を抜け出すか。会場に到着した瞬間から、そのことで頭をずっと悩ませている。


「シリル様、こんな所にいらっしゃったんですね」


 ブルーのドレスが良く似合う令嬢が、私の隣に立つシリルに笑顔で話しかけてきた。


「今日は妹のお目付け役なんです」


 私を視線で示すと、シリルは苦笑いをしてみせる。


「まぁ、こちらが例の、絵を描いてらっしゃる双子の妹さんですのね?」


 ブルードレスの令嬢は、私に微笑む。


「初めまして、バーミリオン伯爵家のシャーロットと申します。兄がいつもお世話になっております」


 私は穏やかに微笑みながら淑女の礼をとり、内心チャンス到来だと歓喜する。


「初めまして、私はベイリー男爵家のナタリーと申します。私の兄が騎士学校の生徒で、シリル様とは顔見知りになりましたの」


 ナタリーと名乗った令嬢は、無邪気な顔で私に笑いかける。


 壁の染みになる私を見張るため、壁の染み二号に甘んじるシリルをわざわざ探して声をかけてくるほどだ。きっと彼女はシリルに好意的な想いを抱いているに違いない。だとすると、仕掛けるなら今がチャンス。


「まぁ、そうなんですね。ねぇ、お兄様。私は大丈夫だから、どうぞ、どうぞ、そちらのナタリー様とダンスを踊ってきたら?」


 私は笑顔のまま、無邪気さを装いシリルに告げる。


「まぁ、お気遣い、ありがとうございます。シャーロット様」


 案の定ナタリー様は目をキラキラとさせ、私によくやったと言わんばかりの眩しい笑みをくれた。


「お気になさらずに」


 お礼をしたいのはこちらの方ですからと、私はさらに笑顔になる。


 兄を売り払い令嬢と仲良くなる。これもまた貴族社会で生き抜く処世術の一つ。私は目的の為なら手段を選ばない冷酷な女、シャーロット。


 自分に酔い、ふっと悪い笑みを浮かべた私に、シリルが凍てつく視線を向けてきた。


 でも私は気にしない。そもそも次男であるシリルだって、この先お相手を見つける必要がある。むしろ私は彼の婚活に対し、お膳立てしてあげた気の利く妹。


 感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはないはずだ。


「いいか、絶対にそこから動いたら駄目だから。あとお前の見たいアレを見せると言われてもついていくなよ、絶対に」


 シリルから念を押すようしつこく言いつけられ、私はしおらしく「はい、お兄様」と頷く。


「お待たせしました。ナタリー嬢、私でよければエスコートさせて頂きます。お手をよろしいでしょうか」


 シリルは外面の良さを存分に活かし、令嬢の手を優雅に取るとホールの中央へ向かっていく。


 私はしめしめとほくそ笑み、シリルがダンスの輪の中に消えた瞬間。


「よし、今がチャンス!」


 優雅に見える限界スレスレを狙い、脱兎のごとく会場を抜け出す。


 目指すは王城の庭園に佇む、麗しのアポロン様の元。


 私は迫りくる人波を優雅な足捌きで華麗に交わし、ホールの出口へと向かう。


「あれ、シャーリー?」


 友人の声がした気もしなくはない。けれど私は心を鬼にして、麗しのアポロン様の元へと急ぐ。


 程なくして、兄を裏切り、友人を振り切った甲斐あって、大理石の床から庭園を示す芝生の上に、無事降り立つ事に成功したのであった。

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