番外編 毒研究の遠征は波乱の予感(5)
「ひとまず少し休もう。一応、この屋敷も生活機能は残っているのを確認したから」
「そうですね」
屋敷に戻って食事をした二人はまず体力を回復することにした。
(確か、客間のようなものもいくつかあったし、一晩くらいであれば大丈夫そうね)
エリーヌは舞台公演で様々な国を渡り歩いた経験もあり、基本的な環境が揃っていれば眠れる人間だった。
「では、アンリ様。私はこちらのお客間を使用させていただきます。また明日、朝におじい様の書類などを確認いたしましょう」
そう言って部屋に入ったエリーヌは違和感を覚えた。
そして、その違和感の正体に気づき、「彼」に声をかける。
「アンリ様、どうなさいましたか?」
「うん? 一緒に寝ようと思って」
あっけらかんとしてそのようにアンリは答えた。
エリーヌは遠慮がちに現状を確認するべく、少しずつ事実を伝えていく。
「アンリ様、あの、私はこちらで眠ります」
「うん、俺もここで寝るから」
「アンリ様はあちらに幼い頃使っていたお部屋があるのでは?」
「それはもう使ってないし、それにエリーヌを一人で寝かせるわけには……」
「いえ、一人で結構ですので」
そう言って、アンリを部屋の外へと促す。
「ちょっ! エリーヌ、俺の扱いひどくない!?」
「ですが、私たちは普段寝所を別にしているではありませんか」
確かにこの二人は普段屋敷で今でも寝所を別にしていた。
アンリが不規則に仕事をしており、不用意にエリーヌを起こしては申し訳ないとの理由であったのだが……。
「だって、寝所をいつまで経っても一緒にしてくれないじゃない!」
「そ、それは……その、アンリ様のお仕事が……」
エリーヌがアンリから顔を背けた瞬間、彼が彼女の腕を強く掴んで壁に押しつけた。
エリーヌは壁に押さえつけられるような形になっており、逃げようとしても足を絡められていてうまく逃げられない。
「アンリ様っ!」
「今日こそは絶対逃がさない。俺をいつもひらりとかわしていくでしょ?」
「そんなことは……」
「じゃあ、一緒に寝よう?」
その言葉にエリーヌの顔は赤くなっていく。
彼女の脳内に一度だけアンリと共に寝た時の光景がよみがえってきた。
(だって、一緒に寝たら、その……ずっと一晩中愛されてしまって、ドキドキが止まらなくて……)
アンリの愛の深さをエリーヌは知っているため、なんとなく恥ずかしくなってしまったのだ。
(久々にアンリ様のお顔を近くで拝見して……)
そんなことを思っているうちに、エリーヌの唇はアンリに奪われた。
「んっ!」
アンリは我慢できないというように何度も唇を重ねる。
エリーヌの鼓動は速くなり、二人の甘い吐息だけが部屋に響き渡った。
「エリーヌ……」
そのままアンリは強引にエリーヌをベッドへと押し倒した。
「アンリ様……!」
「ふふ、孤島で僕たちだけ。そんな中で一緒にイチャイチャしてもいいでしょ?」
甘えたな子どものような表情をしているが、声に色気が乗せられていてエリーヌはドキッとした。
(なんだか、すごくいけないことをしている気分になるわ……)
アンリはエリーヌの首元に顔をうずめると、彼女の首筋をぺろりと舐める。
そして髪を優しく撫でると、焦らすようにして頬に唇を寄せた。
「アンリ様……」
エリーヌは我慢できなくなった。
「もっと唇にしてくださいませんか?」
彼女の懇願を聞き、にやりと笑うとアンリは貪るように唇を奪った。
「ふふ、エリーヌ。帰ったら、寝所を一緒にしよう。もう観念して?」
「う……考えておきます」
「絶対だからね」
そう言ってアンリはエリーヌの唇をもう一度奪った──。
甘いお話を挟ませていただきました。
この二人はいつもイチャイチャしていてほしくて!
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