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番外編 毒研究の遠征は波乱の予感(4)

※少し前に掲載していたものの改稿版です

 エリーヌとアンリは屋敷の外にある古城跡に向かっていた。

 二人がこの島に来た時より風が少し強くなっており、エリーヌはふと空を見上げる。


(雲の流れが少し早くなっているわね)


 雨が近づいているのかもしれないと思いながら、足早にエリーヌはアンリの背中を追う。


「おじい様は考古学者だと仰っていましたが、この島の研究を専門になさっていたのですか?」


 草木を分けながら歩くエリーヌは、アンリにそう尋ねる。

 すると、彼は少し苦い顔をして前を向いたまま語り始めた。


「おじい様と会ったことはほんの数回なんだ。研究熱心なおじい様は私の母親ともあまり接することがなく、家にも帰らなかったそうなんだ」

「そうでしたか……」


 アンリは先程掘り起こした懐中時計を見ながら、少し寂しそうに呟く。


「若い頃から研究にどっぷりで、家族との時間があまりなかったそうだ。一人が好きだった性格もあるみたいなんだけどね」


 そう言ってアンリは懐中時計を開くと、中に掘られたイニシャルとメッセージを見つめて指でなぞる。

 後ろを歩いていたエリーヌはアンリの手元を覗いてみた。

 『愛するメイナード&フェリシー』と書かれた文字が書かれており、その隣には『R』と書かれていた。


「おじい様はロナウド、おばあ様はメイナードというんだ」


 それだけ告げたアンリは昔を懐かしむように、少し微笑みながら見つめていた。


(そっか……。会えなくても心では思っていたのかな……?)


 アンリの祖父の言葉数が少なく、誤解されやすい性格と人生の日々がエリーヌの頭の中に浮かぶ。

 どこかそんな血を受け継ぐように、アンリもまた誤解される部分があるように思えた。

 家族でもすれ違いがあって、うまくいかないこともあるとエリーヌは身をもって知っている。

 だからこそ、「言葉」として伝わらなくとも少しでもアンリの祖父の愛情が、妻や娘に伝わっていてほしいと感じた。


「少し話が逸れたね。おじい様は城研究の第一人者ではあったんだが、晩年はその第一線からは退いたと聞いていた。本の執筆や王宮への出入りもしていなかったようんだ」

「では、もしかして……」

「ああ、おじい様の最後の研究が、このエリカリア島なのかもしれない」


 そんな話をしていると、海がよく見える小高い丘に着いた。

 城の跡が残されており、崩れた壁とランタンのいくつも転がっており、そして井戸のようなものもある。


「ここが、おじい様の資料にあった古城でしょうか?」

「ああ、そうらしい」


 海風が二人の頬に当たる。

 風にさらされて城壁はほとんど原形をとどめておらず、地面に跡が残っているのみ。

 エリーヌはしゃがんで古城の壁の欠片を拾うと、じっと見つめる。


「確かにメイシュード時代の建物とよく似た色や素材をしている気がします」


 エリーヌの後に続く様に、アンリも壁の一部を触ってみた。

 石と土でできたものであるが、特徴的なのはその石の積み上げ方である。

 互い違いに置かれた石を土の粘土で補強をし、そしてところどころにコインを埋めてあった跡があった。


「金がよく採れたこの地方では、確か城の一部に金貨を埋め込んでいたな」

「ええ、でもその跡だけ残ってコインがないということは、盗賊の仕業でしょうか?」

「そうだろうね。この地方の盗賊、あるいは海賊か? いずれにせよその類だ」


 しかし、エリーヌにはある疑問が浮かんだ。


(おじい様の資料では、『天候不順と島の大きな変形』が原因で住めなくなったのではないかと書いていた。城研究の第一人者であるアンリ様のおじい様がこのコインの跡を見逃すかしら……)


 エリカリア島で昔の建物が残っている、あるいは研究対象となりそうなものはここくらいだ。

 そこにあった「盗賊」の存在の可能性があるなら、それを一説と唱えてもよいものである。


 エリーヌと同じことをアンリも考えていたようで、口元に手を当てて深く考え込んでいる。


「アンリ様、おじい様のお屋敷に戻りませんか?」

「ああ、俺も同じことを思っていた。この毒研究の勅命とおじい様、そしてこの島が滅びた真実……何か深い事情がありそうだ」


 エリーヌとアンリは頷き合うと、もう一度屋敷に戻ってみることにした──。

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