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第24話 友人としての決意と覚悟(1)

 初めてのエリーヌ、アンリ、ルイスでの朝食に三者三様の態度が見える。

 兄弟久々の朝食を嬉しく眺めて、心を躍らせている者。

 外の世界の明るさに少し緊張しながら、やはり慣れないという様子でそわそわとする者。

 自分の娘が嫁ぐ今まさにその瞬間のごとく、瞬きを繰り返して挙動不審な者。


 あまりにも違いすぎる仕草や雰囲気に、ディルヴァールとロザリアは互いに目を合わせて頭を抱える。


「エリーヌ様はともかくとして、あのご兄弟の緊張具合は……」

「はい、久しぶりなのはわかりますが、そんなに顔をこわばらせなくとも」

「アンリ様はもう泡を吹いて倒れる寸前ですね。私はこれから仕事で離れなければなりませんので、なんとかこの三人を、いえ、問題児二人を頼みました」

「かしこまりました」


 ロザリアはディルヴァールに頭を下げる。

 ちょうど頭をあげたところで三人のほうから声が聞こえた。


「アンリ様、今日のお野菜も美味しいですね」

「あ、ああ! そうだな! ここらの港でとれる魚は美味しいからな!」

「……」

「兄さん、魚の話してないから」

「へえ!?」


 口元に手をあてて笑いながら、エリーヌは小さな声で呟いた。


「可愛いです、アンリ様」

「──っ!!」


 彼女は嬉しそうに微笑んでいたが、野菜をとる手を止めて少しバツが悪そうに両手を膝に置いた。


(思わず口をついてしまったけど、よく考えたら男の人が可愛いと言われて喜ばないわよね)


「ごめんなさ……」


 素直に謝ろうと夫に身体を向けて頭を下げようとした時、テーブルの向かいから声が響く。


「そうですよね! 可愛いですよね!!」

「「え?」」


 思わず夫婦揃って声の主を見た。

 その彼は自らの兄を敬愛する気持ちと共に、いやむしろそれ以上にどうやら愛らしいという気持ちを持っていたらしく、なんとも揚々と話し出した。


「そうなんですよ! 兄さんは可愛いんです!! 素直に言えなくて不器用で、それでいて優しくて、でもやっぱり不器用で……!」

「お、おい、ルイス……」

「ルイスさん……?」

「本に夢中になりすぎて壁にぶつかったりすることも可愛いし、社交界の大事な挨拶の時に限って緊張で噛んだり、それに動物が好きなのに、いつも逃げられて落ち込んでるところとか……もう可愛くて可愛くて!」


 もう止まらない二人の弟の兄への愛──

 その兄の姿を思い出しては「可愛い」「可愛い」と言っていたことを知っていたロザリアは再び頭を抱える。


(ああ、彼の強すぎる愛が……愛が重いわ……)


 そんなロザリアの心の声ももはや届いていないようで、まだまだ話し足りないといった様子で今度は可愛いといったエリーヌに標的を定める。


「お姉様にもおわかりになりますか!? この兄さんの可愛らしさが!」

「え、ええ……もうそれは……」

「ですよね!! 兄さんは昔植物を育ててたんですが、間引きの際に間違って雑草ではなく植物のほうを抜いてしまって……」

「ルイス!!」

「まあ、それで植物は……?」


 今からは想像もつかないような失敗をしている夫の昔話を興味深いと前のめりに聞き始める。


「エリーヌもそんな真剣に聞かなくていいから!」

「で、その雑草を大事に大事に育てていて……」

「では、いつか気づかれたのですか? ご自身の育てているのがざっそ……」

「もうその話はいいからあああーーーーーーー!!!!!!!」


 アンリの叫びがダイニング中に響き渡った。

 その瞬間、アンリの後ろにある大きなガラスの扉に大きな衝撃音が鳴り響く。


「──っ!!」

「なにっ!?」


 焦げ茶色の羽を散らして何度もガラスに向かっている”それ”は、自分のくちばしの痛みも顧みずに何度も合図をするように叩く。


「鷹……!?」


 植物や生物に詳しいアンリにはその焦げ茶色の大きな鳥が鷹であることがわかった。

 この近くでも鷹は見かけないことはないが、このように民家に近づくことはほぼ少ない。


「シーズのところの鷹か?」


 エマニュエル家から少し離れた森の中には鷹匠として有名なシーズという人物がいた。

 そこには数羽の鷹がいたのだが、アンリはその鷹ではないかと推測する。

 しかし、それに異を唱えたのがエリーヌだった。


「いえ、この腕輪……恐らくビズリー様の鷹では……」

「ゼシフィードの部下のか?」

「はい、このエメラルドグリーンの石が埋め込まれた腕輪をした鷹を、ビズリー様が操っていたのを見たことがあります」


 激しく扉を叩き続ける最中、アンリはそのドアを開けて鷹を招き入れた。

 大きな羽ばたきと共にダイニングに入り込んだ鷹は、そのまま天井をぐるりと一周するとそのままエリーヌの足元に落ちる。


「──っ!」


 すぐさましゃがみ込んでその鷹の様子を窺うも、疲れているのかそれとも力尽きたのか動かない。


「兄さん、あれ……」


 ルイスの指さした先である鷹の足には何か紙が括りつけられていた。

 エリーヌは紐で結ばれたその紙を取り上げてみる。

 手のひらのサイズで書状のように巻かれたそれを、ゆっくりとちぎれないように広げていく。


「──っ!」

「エリーヌ、どうした?」

「ロラが……」

「──?」

「ロラがゼシフィード様の手によって地下室に監禁されていて命が危ないと」


 今にもちぎれてしまいそうな弱々しい紙切れには、かつての親友の危機を知らせる文字が書かれていた。

 その文字は赤黒い血のようなもので書かれていた──


ほのぼの?食卓から波乱の幕開けとなりました!

ルイスは兄大好き人間ですが、エリーヌも徐々にアンリの隠された?可愛さの魅力にとりつかれて……(笑)


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