決戦は金……土曜日
お久しぶりです。忙しさと暑さで死にかけてました。
土曜日。自室にて俺は浴衣を着ていた。
本当なら、本当なら師匠のアドバイス通り家告するつもりだったんだけど……日和ったのだ。俺は。
だって年齢=彼女いない歴の男に、美少女を家に呼べる鋼の心臓があるわけないんだよ!それも一対一で!
まぁそういうわけで、時は流れ終末。つまり夏祭り当日であり告白当日になってしまったのだ。
それで色々日和まくった俺だが、退路を絶たれれば流石に覚悟は決まる。
そう――
「美琴より数秒早く告白する」
美琴のステージを俺が乗っ取るのだ。
そしてそのために必要なのは俺の覚悟と――
§
「ムード作り」
そう美琴はつぶやいた。
「告白にて重要なのは事前準備。いきなり不意打ちで告白されても相手は受け入れてくれない。何故なら心の準備が出来ていないから」
椅子に座りながら復習する。
「意中の人と付き合うためには告白:ムード作り=1:9で行わなければならない。印象的な告白のフレーズなどよりも、そこに辿り着くまでにいかに相手に告白を意識させられるかが肝要」
手に持つ本に目を走らせる。題は『男女の機微 著節子』
「……つまり、夏祭りの間に奏斗さんをドキドキさせることが重要、と」
パタンと本を閉じ時計を確認する。そして姿見の前で最終チェック。
「節子……行きます」
「仕込みは整っています」
いざ、決戦の時
§
待ち合わせの場所。何となしに気まずい関係のままの志帆に送ってもらう。
そして――
「久しぶり美琴。待たせちゃった?」
「いえ。今来たところです」
浴衣姿の美琴がいた。相変わらずの美少女っぷりで。
「浴衣、とても似合ってます」
「美琴も似合ってるよ。天女かと思ったぐらい」
その言葉で、海の出来事を思い出したのだろう。二人ともうっすらと頬を赤らめ視線を彷徨わせる。
「じゃ、じゃあ行こうか!祭りは始まってるし!」
「そ、そうですね!」
とりあえず歩き出す二人。けれども少しの間無言で歩いていると、奏斗が違和感を感じる。
(……?なんか視線を感じる気が……でも、周りには“白を基調”とした浴衣の女性が多数いるだけ。気のせいか?)
仕込みがバレかけていることなど知る由もない美琴はというと
(レイナ先輩は、菜々美さんを騙……説得して封じ、天霧さんは職務中、向井さんは出版社、茜さんはお家の方………問題はない。ないはず。だからうまく行きます、きっと!)
セルフメンタルケアである。
そんなこんなで結局無言のままお祭り会場にたどり着く。が、相変わらず会話はない。というか緊張して口火を切れない。
「えーと、とりあえずなんんか食べる?かき氷とか!」
「!それならいいところを知っています!」
(かき氷。大丈夫です。奏斗さんの好物抹茶味が出店されている場所は把握済み)
(かき氷……自分で言っといてアレだけど、知覚過敏大丈夫かな)
目的が決まれば早い。早速二人は歩き出し、かき氷を題材にして会話がなされ始める。
そして、黒虎かき氷という屋台が見えてきたところで
「甲斐君。あそこにかき氷あるよ」
「あーほんとだ!甲斐君いかない?奢るから、ね」
「チッ、仕方ねーな」
ボール大会、サッカーでボロ負けした件のぽっちゃり男子こと甲斐君がいた。
(……奢られんの?お前?ないわー)
(あれは……うちの系列の子ではないですね。ならどうでもいいですか)
奏斗は引き、美琴はスルー。これがこの世界の価値観である。ちなみに甲斐君は美琴に敵判定されてるため、系列の子は接近禁止を言い渡されている。
(なんか嫌な物見ちゃったけど、気にしない気にしない。さてと……味は抹茶、メロン、青リンゴ、イチゴとブルーハワイ……なら抹茶だな。イチゴも迷ったんだけど)
「えーと、美琴はどれにする?」
「私はブルーハワイにします」
(ブルーハワイといえば人気No.1。好物の抹茶味は譲りつつ2番目を選ぶことであーんを狙う。大丈夫。本に書いてあったんですから!)
「じゃ、俺は抹茶味にするよ」
「抹茶いいですよね!私も好きです」
「そうそう。味も美味しいし色も緑だしね」
「はい!色もみd……緑?」
この時、美琴だけでなく白着物達も首を傾げた。色も緑、とは?と。
「緑色って昔から何故か好きなんだよね」
「そ、そうなんですね」
「そう、だから畳とか信号とか森とか結構好きなんだ」
「そ、そうなんですね」
美琴は混乱している。
(???抹茶が好きなのではなく緑だから好き?……なら、青はまずいのでは!?森と海、緑と青。反対です!)
ちゃんと味も好きな奏斗であるがそんなことは知らない美琴。めちゃ慌てる。
「あ、私やっぱり青リンゴに……」
「?そうなの?ブルーハワイも美味しいと思うけど」
(?????青、青ですよ?ブルーハワイ好きなんですか!?わからない………)
そこに節子に押し付けられたイヤホンから音声が。
『お嬢様。おそらく五行思想です。五行思想では木の色は青or緑になっていますから、きっとそれが理由です!』
(!そんな理由だったんですね!?)
もちろんそんな理由ではない。ただの偶然である。
「やっぱりブルーハワイにします!」
「?青リンゴもいいと思うけど」
(どっちなんですか!?)
どっちでもない。
「あ、もしかして両方好きなの?なら、俺は青リンゴにするけど」
ここで奏斗の勘違い発動。平常運転である。
(好感度アップのチャンス!)
(男性に気を使われるなんて女の名折れ!)
「そんなことはありません」
「気を使わなくていい――」
「青リンゴ嫌いです。というかリンゴ嫌いです。もっといえば青森嫌いです!」
「そんなに!?」
そんなこんなやっていると、順番は回ってきたので抹茶とブルーハワイを購入。
「どこかで落ち着いてだべましょう」
「そうだね……あっちの方にベンチなかったっけ」
けれどもそこは先客がいて座れない。もちろんこれは
(こんな人の多いところであーんは出来ません。だからそこまで誘導させていただきます)
美琴の仕込みである。
「こちらにベンチがありますよ。静かで、景色もいいんです」
「そんな場所があるんだ」
「はい。本来花火スポットではあるんですが、今の時間は人が少ないんです」
そして一人は野望を胸に、もう一人は一口食べて知覚過敏に苦しみながら歩いて行く。そして――
「御祭りの 音近づきし 夏風の 目を閉じれば 夏の華やぎ……我ながらいい詩です」
B組の斎藤がいた。
斎藤。貴様何するつもりだ。
【解説】
◉斎藤……ボール大会で本読んでた野郎。
◉デートできる理由……デート中は邪魔してはならない。公共のマナーが存在するから。ただし、告白シーンを見て我慢できるかは保証しない。




