シュチュエーション
前話なれないシリアス書いたら評判が悪かった……二度とかかねぇ。
「うーむ」
俺は悩んでいた。
つい先日祐樹に背中を押されて美琴への好意を受け入れた。
具体的にどこを好きになったのかと聞かれれば俺はむ、一緒にいて楽しい、落ち着くと言った理由を挙げる。一瞬胸とかいう邪な理由がよぎったが気のせいだ。気のせいに違いない。
まぁそれは置いておいて今俺が悩んでいるのは――告白をどうするか、だ。
年齢=彼女無し、の俺としては少しずつ距離を詰めていきたいのだ。振られるの怖いから。
けれども祐樹曰く美琴は夏祭りで決着をつけるつもりらしい。一週間後だ。
「どうしようか……」
こういう時に女性が喜ぶスポットとか詳しくないとすごく悩む。場所は遊園地がいいのか水族館がいいのか、ちょっとお高いレストラン、川沿いでレインボーブリッジを見ながら、そういうムードってやつが全然わからん。
というわけで、
「志帆姉に聞こう」
俺の知り合いで一番人生経験が長い人。母さんか志帆姉。それなら志帆姉の方が適切なアドバイスをくれるに違いない。
母さんは……ちょっと感性がズレてそうだから。それにはずいし
「志帆姉ー。相談があるんだけどー」
早速突撃である。
階段を降りていくとエプロンつけた志帆姉がひょこっと顔を出して「なんでしょう?」とこちらを見てくる。
「ちょっと相談があるんだけど」
「そう、だん!?……分かりました。ちょっと座って待っていてください」
俺が相談するのってそんな珍しいか?
首をかしげながら座って待つこと10分。
「相談とは一体どのような!」
何故食い気味?
「お、おう。告白スポット?の相談なんだけど」
「――ッ!」
「相手は美琴なんだけど」
「――ッ!!」
「夕飯カレーがいいんだけど」
「――ッ!!!!!」
「話聞いてるッ!?」
俺の言うことなす事全てに驚く志帆姉。絶対話聞いてない。夕飯カレーとかDCは当たり前に言うし。
「こほん。すみません。少々最初がパワーワードすぎて混乱してました」
「そっか。ならいいんだけど――」
「それで相談内容は、カレーの具材でしたか?」
「違うよッ!?」
志帆姉の脳がエラーを起こしている!
「ほら俺に好きな人ができたって話」
「好きな人……祐樹様ですか!」
「美琴だっつうの!」
「み、みみみみみみ美琴さん!?」
「そう。虎白院の美琴さん」
「んなバカな――ッ!?」
志帆姉の反応が遅すぎてこっちが「んなバカな!?」だよ。
「……………………………………」
「いや、なんか喋ってよ」
「お姉ちゃん認めません」
「ん?」
今幻聴が聞こえたような?
「私より弱い女に奏斗様は任せられません!」
「どこ視点!?」
昭和の親父ですか!というか志帆姉より強い人間って師匠ぐらいしかいないよ!?俺一生独身でいろと!?
「とにかく、姉弟子として絶対に認めませんので!では!今日の夕食作ってきます!」
「ちょっと、ま――」
「夕飯カレー中辛です!」
それだけ言い残して志帆姉は財布を引っ掴み外へ出て行ってしまった。
それを呆然と見送った俺は――次善策を遂行することにした。
――プルルル
「……もしもし?武蔵師匠?」
『キャンディちゃんて呼べって言ったでしょ!!!』
「うっす」
哺乳類最強ことキャンディ師匠である。
一応あの人も中身は乙女らしいし、多少は参考になるだろうという算段だ。
『それでどうしたの?』
「相談があってさ」
『そう、だん?』
「ねぇ、そんなに珍しい?俺が相談することってそんなにおかしいの!?」
『ああ、違うわよ。ちょっと驚いちゃっただけで。キャディン!と』
「好きな人が出来た」
ボケなのかマジなのかわからんワードは無視して、とりあえず要点を伝えた。
『好きな人………志帆ちゃんね』
「美琴です」
『………………』
沈黙。大丈夫か?何かあった?
「だいじょ――」
『ドゴッゥ!!!!!』
「大丈夫ですかッ!?」
なんか岩を殴ったかのように音がしたんだけど!?何があったの向こう側で。
『……ふぅ。それでお相手は虎白院のご令嬢かしら?』
「そうだけど……大丈夫?」
『喝を入れただけ。それで相談って何よ。これじゃただの報告よ?』
「本題は……告白のシュチュエーションについてアドバイスが欲しくて」
個人的には海辺とか川辺とか湖畔とかがいいと思うんだけど、前世と女性の感覚が違う場合があるからな。
『男が告るってこと自体少ないんだけど……私の場合は家で告白したわよ』
「家で?」
家で告白?ムードもへったくれもないじゃないか……いや、まさか――
「ベットの上で?」
『違うわよ!外での告白が危険だから宅コクしたのよ!』
「治安!」
外での告白が危険ってどう言うことよ。
『いい?日本の女性の結婚率は5%。20人に1人しか結婚が出来ないのよ?そんな女達が大勢いる中で告白なんてしてみなさい………血が流れるぞ』
「ヒエッ!?」
血が流れる……告るのやめようかな。というか、美琴は夏祭りでどう告るつもりだったんだ?知らないわけでもあるまいし。
「美琴は夏祭りで告白するつもりらしいんだけど、それは大丈夫なの?」
『……人払いするんじゃないかしら。白服使って』
「なるほど」
ご令嬢パワーですか。羨まし……俺もクラスメイトにあざとく頼めばイケる?
『ま、頑張りなさい』
「はい!」
『ただ――』
なんで?声がいきなりテノール、いやバスくらいに低く?
『――恐神一門である以上敗北は許さないぞ』
「は、はいぃ!!」
元々美琴よりも先に告るつもりだったけど、今この瞬間俺は絶対に告られるわけにはいかなくなった。だってまだ死にたくないもの。




