カラオケ
シリアスです。
あの後、俺は部屋にかんき、じゃなくて待機を命じられ美琴達は上へ下への大騒ぎ。
結局そのままバカンスは終了し、俺は普段と変わらぬ生活に戻っていた。
そして今、俺は――
「♪ ♪ ♪〜 ♪〜 ♪ ♪〜 ♪ ♪ ♪〜 ♪ 〜♪ ♪」(浪漫◯行)
カラオケにいた。
「しゃっ!90点!」
「おお!奏斗って歌上手いねやっぱり。声もいいし」
「ふっ、俺はケミス◯リーの再来なのさ」
「……えっと、どういうこと?」
「これがジェネレーションギャップ!?」
オーディション番組でに出演し、それがきっかけでプロになった美声の持ち主達を知らないとは!
これだから21世紀生まれは。
「まぁいいや」
「スルー!?」
「本題に入ろうか」
「悲しいな!」
「話を聞いてくれる?」
「はい」
ごめんなさい。
「今日は情報と質問、二つ話題があるんだけどどっちからがいい?」
「情報からで」
すると祐樹は何やらスマホの写真を見せてきた。ふむ……見覚えのあるパツキンドリルが男どもの中心で高笑いしている写真。……どう反応するべきなんだ、これ?
「エリーゼ・ゴールドべアー。アメリア合衆国の財閥の一つのハニー財閥一人娘」
美琴達と同じ属性ですかい。それにしても、黄金熊ってどんな名前よ。
「そして……ハーレムの主」
「今なんて言った?」
「彼女は男を囲っているんだ」
この男が少ない世界で男を囲っている、だと!?
「まさか金の力で」
「そうだったら良かったんだけどね。……彼女は奪っていくんだ――」
祐樹が躊躇う内容。奪うという言葉……まさか、家族を奪い自分に依存させるのか!?なんたる鬼畜。決して許せはしな――
「彼らの心を」
「紛らわしいんだよ!?」
ポエミーに言うな。
「彼女は金の力を使い対象を徹底的に調べ上げ、好みを把握し、堕とす。それが妻帯者であろうとも妻より自分が魅力的に映るように演技するんだ」
「NTRクズだと!?」
「そう、彼女は誰が相手だろうと決して諦めない。以前イキリスの王子に手を出して大問題を起こしたこともあるらしい」
イキリスの王子も、か。それで今も日本にバカンスに来れるって普通じゃないな。
「というわけだから、奏斗も気をつけて」
「了解」
俺は美人が好きだけど、さすがにハーレムの一員にはなりたくない。はぁ、とんでも話を聞いたからか喉が渇いたな。コーラでも飲んで、お、ピーナッツがある――
「それで好きな人いるの?」
「ブフッ!!?」
奇襲!?
「前から気になってはいたんだ」
「ゴホ!ゴホ!」
気管に、気管に入った!
「奏斗って女の子が好きな割に、誰とも付き合おうとしない」
「ぅ………」
ピーナッツ。俺は千葉を恨んで死ぬのか
「いや、みんなの好意に気づかないふりをしているような」
「………」
そろそろやばいっす。祐樹さん。考え込んでないで、こっち見て。助けて。
「そう言う感じがし……奏斗!?」
お、気づいてくれた。頼む。後ろからバックハグして、肺を押してくれ。横隔膜が上がれば勝手に出るから。ピーナッツが。
「えーと。そうすれば……そうだ!キャンディさんに教えて貰った方法が」
よし、こい!早く頼む
「すぅ……」
おい、こら待て。何故拳を握っている?
「噴ッ!」
「ゴホッ!?」
右フックが、脇腹に決まったぁ!?つーか、普通に痛い。こんなこと教えたクソ師匠ぜってぇにゆるさねぇ!
「大丈夫!?」
「あ、ああ。もう大丈夫」
嘘です。ぽんぽん痛いです、
「そ、それで?いきなりどうした」
話を逸らそう。助けてくれた相手に罪悪感を持たせちゃいけない。師匠は別だけど。
「さっきは、わからない。そう言ったけど――」
確か恋愛の話だったな。気づかないようにしている。まぁ確かに間違ってはいない。あれがあっても俺は今、いつも通りに過ごしているんだから。
「――なんとなくわかるんだ」
分かる、か。そう言えばこいつも転生者。この世界で最も俺に近い存在。だからかな?
§
「多分さ。奏斗は自分なんかって思っているでしょ」
「……」
沈黙。つまり肯定ということだよね。
「僕たちは精神年齢で言えばもう大人。ついでにいえばこの体だって自分のものじゃない。あくまで僕たちは転生者で、彼女達とは対等じゃない。今出している結果は前世の経験+この体の性能。つまり自分自身は大したことはない。……そう思っている」
「……ああ」
やっぱりね。考えることは一緒だ。
本当ならこのまま放っておくべきなんだと思う。これは美琴さんと奏斗の問題だから。でも、僕は奏斗に多くの、返しきれない借りがある。だから先達としてアドバイスを一つ。
「僕はさ。この世界に来て、世界が広がったんだ」
僕はモテた。だからこそ、嫉妬する友人や周りの女子達のパワーバランス。色々考えることがあった。
「だから喜んだ。浮かれた。その結果世界はとても小さくなった」
僕にとって最も近かった存在である男がいなくなった。でも、女子はいた。むしろ前世よりひどくなった。一人に入れ込めば全員がその子を叩く。だから僕は全員に笑顔を振り撒き……そして、僕の世界には家族と一人の女の子だけが残った。
「世界に一人だけの女の子。その子は僕のことを好ましく思ってくれていて、僕も同じ。そうなれば結果は一つ」
最初は感謝。次に守られるにつれ尊敬を。いつしかそれは愛に変わった。
「転生者だから。今の自分はズルをしての自分だから、そう言う劣等感は自分の中で折り合いをつけた」
「……どうやって?」
愛の力は偉大だ。僕を正当化する考えを与えたのだから。
「生まれながらの天才が才能という下駄を履くように、僕たちは前世の記憶という下駄を履いているだけ。それを活かすも殺すも自分次第。そしてそれを生かした自分はすごい。そう思うことにしたんだ」
「……なるほど」
結局転生しても、上手くいくかいかないかは自分次第。暴論のようで正論なこれは意外なほど簡単に、僕の目の前から壁を取り払ってくれ――その代わりにさらに分厚い壁が現れた。
「でも、ダメだった。僕には自覚があったんだ。記憶がないとは言え多分、思い出せないだけでなくなってはいない。だから僕は30歳のオッサンで、しかも女性恐怖症というコブ付きの不良債権」
確かに精神年齢は体に引っ張られている感覚はある。でも、僕が30の時を経ていることには変わらない。
「その女の子は可愛くて、元気で、優しく、強い。そんな未来溢れる少女に僕のような人間が好意を向ける?そんなこと――」
「それは……」
優しい奏斗でさえフォローできない。そう、これは正論なんだ。ロリコンとか、そういう社会的に問題があるとかじゃない。僕たちのような汚れた人間が、真っ新な未来に混じることで汚していいのか、そういう問題。
「「許されるわけがない」」
もし、彼女が受け入れても僕が受け入れられない。これは心の問題。そしてそれは奏斗も一緒。
「だから僕は突き放そうとした。それが彼女の傷になろうとも、彼女にとっての最善だと、そう思ったから」
だけど
「ねぇ奏斗。このカラオケさ。おかしいとは思わなかった?」
「……何が?」
「監視カメラがないんだ。カラオケなんていう犯罪の温床である場所にも関わらず」
「――!」
今日、カフェとかそういう場所じゃなくてわざわざカラオケを選んだ理由はこれ。
「ここはね、常に監視される男性が息を抜けるように。奉仕官の本当の意味に気づいた男性にだけ知らされる場所」
「管理係……」
奏斗とは違って僕はあの事件の傷を負ってから、そういうのに敏感になって気づけた。自分の部屋すら監視されていることに。だから断られること覚悟で交渉し、彼にあった。
「現男性省大臣の息子にして参議院議員の男、神門輝利哉さんがここを作ったんだ。そして僕はあの事件のおかげで彼に会う機会を得た」
そして
「彼は複数の妻を持ち、その中には30も下の女性がいたんだ」
「んな!?」
びっくりだよね。彼は40代。つまり相手は10代で、なのに愛のない結婚ではなく彼は確かに彼女を愛していた。
「だから聞いてみたんだ。純白を汚すことが怖くないのかって、ね」
「……答えは?」
彼なら僕が納得できる答えをきっと教えてくれる、そう僕は期待した。
「怖いって、そう言っていたよ」
「……矛盾している」
本当だよね。期待していたからこそ僕もその時は咄嗟にそう言ってしまった。「矛盾しています」と
でも――
「彼は言ったんだ。私も最初は拒否した。30も下の未来溢れる少女の、彼女の青写真を僕が破くわけにはいかない、そう拒否したらしい」
「正論だな」
正論だ。僕たちと一緒の思考。だから僕はその時彼を軽蔑した。自分の保身のために少女を潰した。そう思ったから。
「だけど彼はこうも続けた『私は汚れている。政治の世界は正しさだけでは生き残れない。そんな僕が彼女に触れる、汚す。あり得ない。あり得ないとおもった。けれどね。私たちが幾らそれを尊んでもいずれ彼女達も白ではなくなる、もっと言えば他の手によって今日、白ではなくなるかもしれない。そういう可能性も存在するんだ』――と」
「……でも、それはたらればの話で」
その通り、これはたらればの話。でも
「たられば、つまりあり得る話で、特に虎白院である彼女はそうなる可能性が高い。僕はそう思う」
「そ、いや、でも………」
そうなる。僕だってそうなった。じゃあどうすればいいんだ、そう思う。
「最後に彼はこうも言った『私たちは傲慢なんだ。自分たちが彼女達の人生を100変えてしまう。そんなことを思っているけれど、そんなことはない。結局手を出して彼女達の未来を奪うかもしれないし、より良くするかもしれない。何も変わらないかもしれない。結局のところ私たちが彼女に害悪になる、これもまた“たられば”の話』………つまりね、彼はこう言いたかったんだよ――」
この話を聞いて思った。結局僕は臆病なんだと。その時の関係を、世界を壊すのが怖くて一歩踏み出すことができなかった前世と変わっていないと。そして――
「「結局のところ俺(僕)達の覚悟の問題」」
そうなんだ。結局僕たちに彼女達の将来を背負う覚悟があるかどうかの問題。
そして――
「そう、か……ありがとう。祐樹。まだ迷ってるけど、逃げるのはやめる」
「役に立ったならよかったよ」
君はやっぱり強い、そしてカッコいい。そう思う。
「ちょっと、帰るわ」
だから最後にもう一つだけ
「美琴さんは夏休み中に決着をつける。そう秋穂に言ったらしいよ」
それを聞いて奏斗は少しびっくりした顔をして――
「じゃ、急がなきゃな。ありがとな!」
――僕は一人取り残された。
奏斗が電車に乗れなかった理由。キャンディ師匠の気配察知じゃなかったんです。
それにしても……こういう真剣なお話って書くの疲れるし、難しいですね。他の作者さん尊敬ですわ。
面白いと思ってくださったら「ブックマーク」と「★★★★★」をお願いします!




