自覚
【変更】
これまで、美琴と茜のお付きの人たちを『黒服』と表現していたのですがわかりやすさのため、
虎白院→『白服』
青龍院→『青服』と、表記させていただきます。
奏斗が気絶した時はもう女性陣全員が慌てに慌てまくったのだが、例の白服、青服の方々が出てきて奏斗の体を素早くチェック。
その結果特に異常はなくすぐに目を覚ますだろうと診断され、とりあえずの落ち着きを取り戻した。ちなみに祐樹だけは、女性の姿加工サングラスのせいで展開についていけず困惑していた。
「ふぅ……荷解きが終わりました」
そして奏斗は部屋に連れていかれ、美琴を始めとした女性陣は本来夜にやる予定であった荷解きをしていた。
「それにしても、やっぱり茜さんの参加は何があっても断るべきでした……て、天女って褒めてもらえたのに最後に全部持っていかれてしまいました」
そう。うっかり気絶しかけたとはいえ、めちゃくちゃに褒めてもらえ、さらには奏斗にとっても強く意識してもらえてハッピーな気分になっていた……という所で、茜が全て掻っ攫っていったのだ。美琴的にはかなり許せない出来事である。
「でも、茜さんはここにいる間必要以上の接触を禁じられた訳ですし……」
あの後女子会が開かれ、茜は見事有罪。その結果熱海にいる間奏斗に半径1M以上の接近を禁止されていた。ちなみに、ドクター達からも何度も気絶すると危険だから近づかないようにと釘を刺されていたりする。
「つまりここからが勝負ですね。見事に巻き返して見せます!」
そう言って美琴が、ぐっ!とガッツポーズをとった瞬間――バン!と扉が開き、美琴は肩が跳ね上がった。
「なんですか!?」
「美琴!俺のスーツケース知らない!?」
「そ、それなら奏斗さんが寝ていた部屋にあるはずですが……あれ?奏斗さんが起きてる?」
突然の出来事に混乱する美琴。そんな彼女を差し置き
「サンキュー!」
と言って奏斗が部屋から出ていった。が――
「あ、運んでくれてありがと!体はもう大丈夫だから!じゃ!」
――と、顔だけもう一度出して言い放ち、バタバタと足音を立てて去っていった。
「……な、なんだったんでしょう」
そんな美琴の疑問は30分後に解かれることとなる。
△▼△▼△
その後、缶飲み物を片手に玄関を出て集合場所に出てきた美琴は――
「向井先生!一緒にビーチバレーしましょう!」
「よ、喜んで…あ、あとむ、向井先生じゃなくて前みたいに、その……」
「……?有紗たん呼びですか?」
「そ、それです!あ、あと敬語も……」
「わかった。これでいい?」
「は、はい……や、やっぱりこっちの方が親近感が……」
――奏斗とイチャつく淫売(美琴視点)を目にして思わず、べキャッ!と缶を握り潰してしまう。
そして近くにいた同士に聞いた。
「……あの大罪人は?」
「なんか奏斗と趣味が一致したみたい。姉の私を差し置いて……許せないわ」
「ええ、本当ですね――ッ!」
今ここに二人の修羅が生まれた。
ちなみにもう二人はというと……
「奏斗様の楽しそうな姿は見ていて微笑ましいです」
「私もさっきので満足しちゃったのかしら〜?特に何も思わないわね〜?」
こっちで悟りを開いていた。というか志帆は親の領域に片足突っ込んでないだろうか?もう目線が親目線である。
「ふふ…?一体どうしてくれましょうか。直接的な手段は取らないとして……ふふっ」
美琴は暗い笑みを浮かべながら思考する。
(奏斗さんが、他の女とイチャつくのを見ているとなんというかこう……胸がチクチク痛むんですよね。あと怒りが沸々と湧いてきます。これがあれですかね、お母様が言っていたお気に入りのペットを盗られて嫉妬するという感覚なのでしょうか?)
そんな風に自分の心を分析し……その結果あの二人の邪魔をする事こそが最適解であると判断した美琴は、早速実行に移るのであった。
夜。美琴は部屋で撃沈していた。
「ぅぅう……何度邪魔しようとしても奏斗さんによって不発になりました」
そう結局お邪魔虫計画は、推しを気にかける奏斗によって全てが頓挫したのだ。
そう、例えば……
『あ、有紗さんの分の飲み物がありませんね』
『あ、じ、自分でとってきます』
『そう。じゃ奏斗はお姉ちゃんと先に――』
『じゃあ俺も一緒に行くよ』
『『なんで!?』』
といった感じで。
「はぁぁぁ……そもそも何故私はこんなに周りくどい手を。やるなら家ごと潰せばいいんですが……何故でしょう?」
そうなのだ。そもそも有紗を奏斗から引き離したいのであればもっと強引かつ確実な手を打てばいい。例えば……親族に怪我を負わせるなど。
側からすると理不尽極まりない話であるが、それを出来るのが虎白院である。
にも関わらずそれをしないのは……
「お嬢様が桐生奏斗様に恋しているからでは?」
「へひゃい!?!!?」
突然後ろから聞こえてきた声に美琴は飛び上がった。
「な、ななななにを!?」
「ですからお嬢様は恋しているのですよ。強引な手をとられないのは桐生奏斗様に嫌われたくないからですね」
そういったのは純白の衣に身を包んだ老婆……美琴の祖母の時代から虎白院に仕えている最高齢の使用人である節子だ。
「むしろ何故今までお自覚されなかったのか……そう言うところまで美麗様に似てしまうとは血、と言うものは恐ろしいですね」
そうなのだ。実は美琴は今まで奏斗に対して好意的な態度をとってきたが、明確に奏斗のことを「好き」だと言ったことがないのだ。
「そ、それは……」
「お早めに認めて、さっさと行動に移した方がよろしいと思いますよ?美麗様のように横から掻っ攫われてしまいますよ」
「お、お母様もですか!?」
突然出てきた母という実例に美琴は自分のことを忘れて問い返してしまう。
「はい。美麗様にはお気に入りの男性……といってもそう言っていたのはご本人だけで側から見るとベタ惚れであったのですが、グダグダと現状維持を続けている間に黒武院の現当主様に盗られてしまったのですよ。ほら、虎白院と黒武院は仲が悪いでしょう?これがその理由です」
「そんなことが……」
「ですからお嬢様もさっさと勝負を決めにいかれた方が宜しいかと」
「で、ですが……」
「はぁ……いいですか?恋に落ちた人間の特徴を言いますからお認めになってくださいね?まず一つ。対象を見ると動悸がする」
「うっ!」
「二つ。対象が他の女と仲良くしていると嫉妬、または胸がチクチク痛む」
「くっ!」
「三つ。対象に絶対に嫌われたくない」
「くぅっ!」
「四つ。対象の行動をなんでも許せてしまう」
「ぐはっ!?」
「五つ……」
五分後。そこには真っ白に燃え尽きた美琴の残骸があった。
「どうですか。お認めになる気になりましたか?」
「…….はい。私は奏斗様に……」
「奏斗様に?」
「こ……」
「こ?」
「…こ、恋しています!」
そう言った後、すぐに美琴は顔を真っ赤にして手で覆ってしまう。そして、それを見た節子は満足そうに頷き「よくできました」と言った。
「うう……何故か恥ずかしいです」
「この程度で恥ずかしがっていては奏斗様を落とせませんよ?あの方は大分女性慣れされているようですし、所謂女たらしと言うやつのようですから」
「そ、そうなんですか!?」
「もしかして初めても既に……」
「そ、そんな!?」(前世合わせてまだ新品です)
まるで世界滅亡を予告されたかのような絶望に美琴は包まれる。が、そこに一筋の希望の光が差す。
「ですが、お嬢様。結局勝つのは最後を手に入れた者です。実際美麗様は、本番以外の初めてを手に入れましたが、最後を奪われ敗者になりましたから」
「最後を」
「ええ。ですからこの旅行中に……は難しくとも夏の間に決着を着けるべきです」
美琴は一度自分の心を整理するかのように目を瞑り……開いた。
「わかりました。私はこの旅行……夏の間で決着をつけて見せます!」
「ええ、きっと出来ますよ(少し心配ですが)」
こうして美琴は自分の恋心を自覚し……美琴の無双ターンが開始されるのである。
「そういえば、何故この家系はご自身の恋心をお認めにならないのか……教育に何か問題があるのでしょうか?」
そんな節子の疑問を残して。
読者:いつもより早めの投稿……変なものでも食べた?
筆者:ちょっと忙しくなりそうだから早めにやった。
という訳でして、一週間とちょっと投稿ができないと思われます。
ただでさえ、投稿スピードが落ちているのにすみませんm(_ _)m
あとできれば『ブックマーク』と『★★★★★』評価をお願いします!m(_ _)m




