触らぬ神に祟りなし
投稿遅れてすみません!m(_ _)m
電車を降りると同時に黒服に取り囲まれ拉致られた俺は今、燦々と輝く太陽の下、逃亡防止のため拘束されていた。
「み、美琴……そのぉ……許してもらえませんかね?」
「ダメです」
俺の嘆願を無情にもバッサリと斬り捨てる美琴。
俺は美琴の懐柔は望み薄だと判断すると即座にターゲットを変える。
「志帆姉助けて!」
志帆姉ならば!俺が小さい頃から面倒を見てくれていた姉気分ならばきっと助けてくれるはずっ!
「その手錠は私が用意しました」
「そんなッ――!」
志帆姉、なぜ俺を裏切ったんだっ!(そもそも仲間ではない)
「ふふっ、わかりますか?奏斗様の汗が染み込んだTシャツで気絶した後、目を覚ませばいつの間にか奏斗様がいなくなっていた事に気づいた私の絶望の深さを」
クッ……!たしかに気絶はやりすぎたかもしれない。それに、もし俺だって庇護対象がいなくなってたら、めちゃくちゃ心配するしな。前世、ポチが家出した時も俺は気を揉んだ事だし。……仕方ない。ここは俺が悪いと素直に認めて謝罪を――
「奏斗様の貞操は散ってしまったのだと思った私の絶望が!」
「わからねえよ」
そこかよ!普通命の心配だろ!なんで貞操の心配になるんだよ!?まぁ確かに?確かに一瞬危なかったけどさぁ!
「私もすごく心配だったのですよ?奏斗さんの初めては私の物ですから」
「は?奏斗の初めては姉である私の物よ」
「最後に私の元に来てくれたら満足よぉ〜」
ブルータスッ!お前らもかっ!
みんなのあまりの扱いに絶望する。……俺の周りには常識人がいないのか!意地の悪い人しかいないのか!と
「わ、私はちゃんと心配したからね!」
そこに差し込むは一筋の光明。
まさかこんなところに常識人がいたとは……はっ!まさかこれが運命の赤い糸と言うやつか!?
この完璧なタイミングでのフォロー。俺は運命的なものを感じたぞ!(偶然です)
「向井サン……いや、有紗たん!ありがとう!」
「あ、有紗たん!?」
「有紗たんは俺の唯一の味方だよっ!大好き!」
「ふぇぇえっ!?」
絶望的状況に味方が見つかったとこでハイテンションになった俺は……なんかやばいことを口走った気がするけど……気のせいだろ!
と、状況は全く好転していないにも関わらず何故か助かったかのように喜ぶ俺の頭が、ガシっと掴まれる。
「……あ、あの姉さん?」
「奏斗。私の目の前で他の女を誘惑するなんていい度胸してるわね」
「いや、誘惑とかそう言うのじゃ……」
「大好きって言ってたものね〜。奏斗君は全く反省してないみたいだから〜……お仕置きしましょ〜?」
そう言った茜先輩は、隣に立つ黒服が抱える段ボールに手を突っ込み……鞭を取り出した。ああ……そうか、鞭ね。お仕置きの定番グッツだね……いや、
「鞭!?それで俺打たれるの!?俺はドMじゃないんですけど!?」
「大丈夫よ〜。最初はみんなそう言うけど最後は喜ぶからぁ〜」
みんなって……もしやこの人ドS上級者か――ッ!
「でも、それを奏斗さんにやるのはちょっと……可哀想ですし」
「そうよ。私奏斗に嫌われたら多分死ぬわよ」
「その前に私が制圧します」
「わ、私もだ、ダメだと思います!」
「み、みんな!」
なんて優しい人たちなんだ!(手のひら返し)
俺はみんなが大好きだっ!
「大丈夫よ〜音は派手だけど痛くないし、それに……これはお婆様に選んでいただいた物だから大丈夫よ〜」
お婆様に選んでもらった……だと!?
「……確か青龍院の先代当主、その旦那様は少々変わった方だと聞きましたが……」
「そうよぉ〜お婆様曰くお爺様はとっても喜ぶようになったらしいわぁ。……そ、れ、に、嬉々としてご奉仕してくれるようになったみたいよ〜」
「「「「ゴクリ」」」」
ゴクリ、じゃねえよ!?それ、そのお爺様とやらが調教されただけだろ!?俺はノーマルなの!痛いことされてよろこぶようなへんたいじゃないのぉおおお!!!
「か、奏斗さんが、ご奉仕――!」
「奏斗が……あれ?普段と変わらない?」
「奏斗様に尽くされる……クッ!魅力的ですがメイドとしてのプライドが――!」(メイドは通称です。職業ではありません)
「しょ、小説みたいなことが――!?」
なんで、そんなに惹かれてんだよ!?あれか!男が女性に尽くされることに萌えを感じるアレか!?あの喫茶店で「萌え萌えきゅん」なんていう、普段やられたら糖分過多で死にかねない事を喜んでしまう、あのプレミア感に惹かれてんのかっ!?
「ちょっとくらいなら試しても……」
「美琴っ!?」
「わ、私も……」
「有紗たん!?」
な、なんてこった!あんまりこういうことに興味なさそうな、おとなしいキャラ二人が即落ちするなんてっ!
「……私もやるわよ。奏斗を好き勝手にさせるわけにはいかないもの」
「私もです!メイドとして主を守る使命がありますから!」
「二人とも――ッ!」
さすが姉さん二人組!嬉しいよ!付き合いが長いだけあって、その絆も強靭なんだよなっ!
「建前は大事よ、建前は……」(ボソ)
「主に尽くされる…… えも言われぬ背徳感があっていいです。奏斗様すみません。裏切るお姉ちゃんを許して」(ボソ)
聞こえてんぞ二人ともォオオオ!!!俺の感動を返せぇ――ッ!!
「それじゃぁはじめましょ〜」
「いや、待って、まだ、まだ心の準備ができてないから!?」
そんな俺の必死の命乞いを無視して、茜先輩はその鞭を煌めかせ――
「いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
――俺の絶叫がビーチに響き渡った。
△▼△▼△
「いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
「うわっ!?」
「なっ!?」
突如聞こえてきた悲鳴。それを聞いた二人は思わず少し飛び上がってしまった。
「びっくりしたぁ……」
「桐生が心配だね」
仁王立ちする秋穂は奏斗を心配して、正座する祐樹は素直に驚いていた。
「まぁ、あっちはとりあえず放っておこう」
「はい」
「それで、祐樹はなぜあんな事を?」
秋穂のその問いに祐樹は真剣な面持ちで、一泊置いてから応える。
「まず、女装すればいけると思ったこと。女性慣れのいい機会だと思ったこと。奏斗に誘われたから嬉しくなったこと。この三つが理由です」
この男。今生は基本ぼっちだった為友達に飢えていたのだ。故にようやくできた奏斗が大好きすぎるのである。
「……そうか、そういう理由なら許そう」
「――!?」
少しの黙考し……秋穂が出して答えに祐樹は瞠目する。
(秋穂が単独行動を怒らないなんてっ!?何か変な物でも食べたのかな!?ツキノワグマとか?)
(これが独り立ちの準備、か……ふっ、見守るという事がこんなにももどかしいとはな)
二人の精神年齢が逆転していることは……触れないほうがいいのだろう。
『いやァア!たすけてぇえ!』
「……それにしても、桐生は大丈夫なのか?」
「……自業自得だから良いんだよ。それに本当に奏斗が嫌がることを、奏斗が大好きなあの人たちができるわけないからね」
「確か……」
「まぁ本音は、巻き込まれたくないってだけなんだけどね。触らぬ神に祟りなしっていうだろう?」
最近、祐樹も奏斗の扱い方を学び始めたようだ。
あのお調子者にはちょっと厳しいぐらいがちょうど良い。
そんな事を思いながら、祐樹はしばらく秋穂と雑談で時間を潰すのだった。
い、一体何をされたんだ!?Σ(・□・;)




