フリマアプリ
誕生会から数日後、俺はとあることに気づいてしまった。
そう、それは金がないということに。
別に金なんてなくたって良いじゃないかって?そんな訳ないだろう。つい先日俺は誕生日を祝われた。そして、あの中で最も早生まれなのは俺。つまり、ここから怒涛の誕生日ラッシュがくる訳で、それはその人数分誕生日プレゼントの代金が飛んでいくということになる。はっきり言おう。小遣いじゃ足りない。
俺の心情的にもみんなの誕生日を祝いたいし、義理的にもやってもらったからにはしっかりお返しをするのが筋だろう。そうなると俺は早急に外貨獲得……じゃなくて、誕生日資金を稼がなくてはならないのだ。
だがしかし、ここに一つの壁が立ち塞がる。それは
「男のバイト先がねえ」
ということ。
いや、働こうと思えば働けるのだろう。だけれどだ、バイト先にはもちろん女性が居て ……というかほとんどが女性でここ桜堂学園の生徒よりもちょこっとだけ、いやかなり落ち着きがないのだ。(意味深)そういう場所に行くということはもちろん護衛がつく、つまりまだ名前しか知らない真霞の手を煩わせるということになる。下手したら志帆姉までついて来かねない。それでは意味がないのだ。
そうなると、家でできる仕事ということになり……もちろん俺にはそんな専門技術がある訳でもないので、結局俺に残される手段は、動画配信、フリマアプリ、服を縫うなどのガチ内職、となる。
そこで俺は今回フリマアプリに挑戦してみることにして即座に行動。カナート王国と言う名前で登録も済ませあとは出品というところまで来ていた。だが、俺はまたしても壁にぶちあっっていた。
「コレ売れるのかな……?」
そう呟いた俺の目の前に積み上げられたのはダンボール二箱分の古着。我が母菜々美は何故か倉庫を借りてまで俺の着た服やら使ったおもちゃなどを撮って置こうとするので大量にあるのだ。ちなみに今回は俺が小5から小6に着ていた夏服を中心として持ってきている。ちなみにサイズは160〜170だ。
「普通に考えて、汗かきまくる小学生が着た服とか売れないよな?」
比較的綺麗なものを選んで来たとはいえ、ちょっとしたシミがあったり、襟が伸びてきていたりと売れそうにないマイナスポイントが散見される。というか結構ある。
「そもそも俺ファッションとか分かんないしな」
俺はいまいちブランドとか流行りというのがわからない。だから、数年前のデザインで売れるのか?という疑問も……ブランドか。確かブランドっていうのは商品だけじゃなくそこに製造元の名前に価値を持たせて、高値で売るっていう手法だったはず。(悪意のある解釈)
ならだよ……ここにあるじゃないか。ブランド。そう、男が着たっていうブランドがさ!!!
具体的な手法はこうだ。服を着る。自撮りを撮る。顔がわからない程度に、且つ性別が男だと分かるぐらいのちょうどいい、加工を行なって出品する。どうだ?
「俺って天才かも……」
思い立った日が吉日。早速やってみる。最初に挙げたのは無地の白シャツ。買った時は確か1000円くらいだった気がするけど、ちょっと強気に2千円で出品してみた。
すると
――ピロン
『※フリマの廃人が購入しました』
「おお!売れたっ!?まじか!」
売れたのだ。原価千円が二千円で売れたんだぜ?二倍だぞ二倍。これはもはや錬金術だろ。俺という存在を使って等価交換の法則を無視する!我が名はヴァン・ホーエンハイム、錬金術師だっ!!
いきなり倍の値段で何の変哲もない服が売れたことに調子に乗った俺は次々とアップして行く。
2.5倍 リストバンド
『フリマの廃人が購入しました』
3倍 パジャマ
『ホワイトタイガーが購入しました』
3.5倍 Tシャツ
『ホワイトタイガーが購入しました』
4倍 Yシャツ
『ホワイトタイガーが購入しました』
4.5倍 下着(上)
『ブルードラゴンが購入しました』
5倍 半ズボン
『ファイヤーバードが購入しました』
5.5倍 トレーニングウェア
『キリンが購入しました』
7倍 下着
『ホワイトタイガーが購入しました』
「何やってんだおれぇえええ!?!!??」
(いや、まじで何でパンツ出品したぁあああ!?!?!!!??)
まさかのパンツ出品。面白いほど飛ぶ様に売れていくので、調子に乗りに乗った俺の失態だ。
そして、ここまでの失態をおかすと逆に頭も冷えてきて、今まで気づかなかった……というより気づく暇がなかったのだが、とあることに気づいてしまう。それは……
「俺、結構最低なことしてね?」
(俺が今やってんのって男という存在が貴重だという事を逆手に取ったやりかただよな。これってありていに言うと相手の足元見てるってこのじゃ……うわ、これ最低だわ。それにそもそも男が貴重つっても、前世のモテないオタク並みに異性に飢えてるのって俺たち男の態度が9割くらい原因だよな)
と、そこまで考えたところで俺はさらにとんでもない想像をしてしまった。それは……
【想像の会話】
『奏斗さん。これ奏斗さんが出品したものですよね』
『え!それは……』
なんで俺のパンツ持ってるのぉお!?
『やはりそうだったのか。桐生。お前がこんな奴だったなんて』
『ち、違うんだ……』
ま、待ってくれ俺はただ純粋にみんなの為のお金が欲しくて
『奏斗さん。……こんなにひどい人小説でも見たことないです』
グハッ――!?普段大人しい向井さんの言葉が刺さる ――ッ!
『奏斗くん。これはないわ〜生徒会辞めて?』
そ、そんな……!?
『お母さん悲しいわ。こんな子に育っちゃったなんて!』
母さん――ッ!
『私弟が女が群がるのをみて喜ぶクズだとは思わなかった』
違うんだ姉さん!
『奏斗様。私他の方の担当になりました。では行ってきます』
ま、待ってくれ!志帆姉!俺の胃袋はもう掴まれてるんだッ!
そして最後に美琴がまた現れ
『あなたはそう言う奴だったんですね。今日また、あなたが女の子をどんなに扱っているか、ということが見ることができました』
エーミール――ッ!?
【想像終わり】
「――っ!……ふぅぅぅう。出品しちゃった物はしょうがない。でもこれ以上はやめよう。うんそうしよう」
『奏斗さまー?夕飯できましたよー』
「今行く――ッ!」
志帆姉の声を聞いた俺は弾かれた様に部屋を飛び出して行った。
後日
【天霧志帆】
「あの日の、奏斗様は何故か異常に優しくて……幸せで死にそうになりました。本当に世界で最初の「幸福過多死」なんて言う死因を作ってしまうところでした。……え?何をされたかですか?それは、その………」
顔を真っ赤にして俯いてしまった。
【ホワイトタイガー】
メイド曰く幸せそうな表情で、男物の衣服に囲まれ気絶していたそう。お抱えの危険物処理班が先行して突入、そのまま入院となった。……ちなみに件の危険物は当主とその娘が共同管理中だとか。
【ブルードラゴン】
「……幸せで胸が膨らむってよく聞くけどほんとなのね〜……ワンサイズアップしちゃった」
【ファイヤバード】
「特定班!早く出品者を特定して――ッ!」
【キリン】
「そうか。GPSで現在地を特定できたか。……いや、接触は控えろ。嫌われるわけにはいかん」
【フリマの廃人】
「カナート王国……なんか都市伝説サイトに仲間入りしてる……実在するのに」
本当に何やったんだっ!?
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