誕生会
今回やたら長いです。
「奏斗ー。今日遊びに行かない?」
「いいけど、何処行くの?学校内はほぼ周ったと思うけど」
7月になり夏に突入し始めた頃、放課後に俺は遊びに誘われていた。
「実は今日お母さんに許可とったんだ。だからアオンに行かない?」
「マジで!?いいよ行こう!」
アオン……それはこの世界の総合ショッピングセンターで、服や小物、家電に家具、映画やアスレチックまであるとんでもない場所だ。ちなみにロゴは遠吠えしてる狼。アオーンってな。
「あ、秋穂とか美琴とか向井さんとか誘わなくていいの?」
「三人は今日用事があるんだって。ほら、もう居なくなってるし」
そう言われて教室を見回すと確かに3人がいなくなってる。向井さんはともかく、二人が俺に声をかけないで帰るのはかなり珍しい。いつも、必ず一言二言交わして帰るんだけど。
「ほら、奏斗行こう。時間は有限なんだから」
△▼△▼△
「いやー面白かったな【私のヒーローアカデミア】。まさか前世のと似た作品があるなんてびっくりだわ」
「ね、もしかしたらワンピー◯もあるかもしれないね。題名が違うだけで」
夕方、映画を見た俺たちは帰路についていた。
「それにしても大丈夫なのか?家に来て」
「大丈夫だよ。天霧さんへの伝言を秋穂のお母さんから頼まれたって、説明してあるから」
本来ならアオンで解散するはずだったのだが、秋穂のお母さんから志帆姉への伝言を頼まれた祐樹は俺の家に向かっていた。伝言なら俺でもいいと思うし、そもそも電話すればいいと思ったんだけどダメらしい。きっと古くからある名家同士の暗黙の了解っていうのがあるんだろう……たぶん。
そうこうして歩いていると家についた。
俺はいつも通りに扉を開け――
――パン!
――パン!
――パン!
「「「誕生日おめでとう!」」」
――固まった。
「え?どういうこと……?」
家に入るなり突然クラッカーを鳴らされた俺は完全に混乱して、言われた言葉が理解できていなかった。
「奏斗の誕生日よ。あなたは毎年忘れるんだから」
「奏斗ちゃん去年も忘れて道場に泊まり込もうとしてたものね〜」
……ああ、そういえば今日は7月7日俺の誕生日だ。流石に何十回も誕生日を迎えているともう慣れちゃって忘れちゃうんだよなぁ。(通算39歳)
「奏斗さん。今日は貴方の誕生日という事でみなさんに協力して頂いたんですよ。ほら、早く中に入ってください。みなさん待っていますから」
そう言って美琴が俺の手を引いて中に入って行った。
そして行われた誕生日は凄かった……もう、何もいえないくらい凄かった。
料理が運ばれてきたと思ったら鶏まるまる一匹のローストチキンが人数分用意されていたり、誕生日ケーキは何故かウェディングケーキもかくや、といったタワーケーキが用意されていたりととんでも無かった。
そして今現在、俺は今世紀最大の危機感を抱いていた。
何故かって?そんなの決まってるだろ。これから……これから誕生日プレゼントが渡されるんだよ!さっきまででアレだよ!?これからどうなるのか怖えよ。特に姉さんと、財閥二人が。
「それじゃあ、みんな誕生日プレゼントを渡して行こうか。じゃ、向井さん最初にどうぞ」
「ふひゃぁい!……あ、あのどうぞ!」
そう言って向井さんが渡してくれたのは梱包されたなかなかに分厚い長方形の物体。多分オオススメ本を入れてくれたんだろう。普通でよかった。
「ありがとう向井さん」
「い、いえ!そんなことないです!い、いらなかったら売ってください!結構高く売れるはずです!」
「売らないでちゃんと楽しませてもらうよ」
そう言うと向井さんは顔を真っ赤にして佐藤様の元へ走り去ってしまった。……やはり恐るべし佐藤先輩。あの向井さんに懐かれているとは――ッ!
「次は私だね。ハイこれ。誕生日おめでとう」
そう言って秋穂が渡してくれたのは細長い棒?のようなものだった。……も、もしやこれは!マッサージ器か!?それも卑猥な方の!……いや、でも男の俺には必要ないぞ?まさか……期待してるのか?奏斗×祐樹に……
「……ごめん秋穂…さん俺は君の期待に応えられない。いくら俺のストライクゾーンが広くてもお……男は無理だ……」
言葉に苦渋の思いを滲ませながらそう言うと、秋穂さんはキョトン?と首を傾げた後いきなり笑い始めた。
「ぷっ、ククッ、あははっははは!!……ち、違うよ桐生。と、とりあえず開けてみて」
「中を?」
そう言われた梱包を剥がすと中から出てきたのは黒塗りの棒。これは……
「特殊警棒さ。自衛用に武器を持っておいた方がいいと思ったんだけど、まさか……ぷくくっ!?」
は、はっずぅうう!!いやダァ!もう穴があったら埋もれたいぃいい!!!
そんな俺の内心をよそに次々へと俺にプレゼントが渡されて行き残るは、祐樹、母さん、志帆姉、茜先輩、美琴、姉さんだけだ。
「奏斗。誕生日おめでとう」
「ありがとう祐樹」
そう言って祐樹が渡してくれたのは、普通のハンドクリームだった。
「一応高価なものとかも考えたんだけど……他のを考えると普通の方がいいかなってさ」
「ありがとう。本当にありがとう……!」
前世の俺ならコイツ何贅沢なことを言ってるんだってなるけれど、実際に受ける側になると遠慮したい気持ちが溢れ出てくるんだよ。もはや畏れ多いって感じ。こんなに物をたくさん貰ったことないし。
「奏斗ちゃん。お誕生日おめでとう!」
「ありがとう母さん」
母さんが俺に渡してきたのは……何だこれ?栄養ドリンクか?
「それはねぇ……なんと!身長を伸ばす効果があるの!」
「……は!?」
「お母さんこの日の為にすっごく頑張ったんだぁ〜。研究費用のために投資やったりFXやったり、資産一気に引き出したせいで地方銀行一個経営破綻一歩手前まで行っちゃったりとかねー」
ほら来たヤバいやつ。この身長が伸びるドリンク凄まじい色してるせいで、ただでさえヤバそうなのに、さっき経営破綻とか言うもっとヤバいのを聞いちゃったよ。ほら、周りも美琴と茜先輩、姉さん達超越者以外はドン引きしてるよ。
「うん……機会があったら飲むね」
「喜んでくれて良かったわぁ」
「次は私ですね。お母様の次だと見劣りしてしまいますが……お誕生日おめでとうございます」
そう言って志帆姉がくれたのは……万年筆かな?
「それはペンシル型麻酔銃で、ゾウなら一撃で行けます」
はい!ヤバいの来た!ねぇ?志帆姉は忘れちゃったのかな?ここは銃刀法って言う法律があるんだよ?
「バレなければ犯罪じゃないですから持っておいてください」
「うっす……」
……一応筆箱に入れとこ。銃って響きかっこいいし。やっぱし俺も男の子だな。
「次は私ねぇ〜。これど〜ぞ。お誕生日おめでと〜」
そう言って茜先輩が渡してくれたのは……1束の紙だった。
「これは?」
「契約書よぉ〜。皇室御用達の農場を家結構持ってるから〜そこから一週間に一度食材が届く契約よぉ〜」
「おお……ありがとうございます」
意外と普通だで安心した。いや、普通じゃないけど、こう、札束で殴ってくる感じの物を予想してたからちょっと拍子抜けしたよ。
「奏斗様。それ1年間で軽く一千万いきます」
「――ッ!?」
ウソだろ!?食事で1000万!?そんな事ある!?俺の一人暮らし時代は一月4万でやり繰りしてたんだぞ!?
「そこに書いてある苺なんて、一粒5万円です」
「ごま――ッ!?」
や、ヤバいわ。金持ち舐めてた。恋人でも何でもない後輩にこんなの用意するとは……
「次は私ですね。奏斗さん誕生日おめでとうございます」
「ありがとう美琴」
そう言って受け取ったのは……箱だった。何これ?中にまんじゅう入っててその下に諭吉が沢山とか?
「中には玳玻天目茶碗が入ってます」
「はぁ!?」
その言葉を聞いた俺は思わず落としそうになって思わず抱え込む。ん?玳玻天目茶碗が何かって?これはなぁ.…国宝だよ。少なくとも前世では国宝指定されてて、展示されたコレをガラス越しに眺めてた記憶がある。
「こ、これ国宝じゃぁ……」
「はい。ですので交渉して譲ってもらいました」
ワァーオ。そんな事してたのね……
「これは流石にもらえ「貰ってくださらないと私お母様に怒られてしまいます。無駄に金を使ったのかって」……ありがたく頂きます」
「はい!今度私にお茶立ててくださいねっ!」
……とりあえず、コレは金庫に閉まっとこ。そんで銀行の貸金庫行きだな。こんなの怖くて家に置いとけないわ。
「私で最後ね」
そう言って歩み出てきたのは我が姉、レイナである。ちなみに何で俺が姉さんを美琴と茜先輩並みに警戒していたかと言うと、それは前科のせいだ。因みに今まで姉さんから貰った物はこうだ。
俺一歳……磨かれた泥団子
二歳……似顔絵
三歳……折り紙
四歳……お手紙
とそのまま続き俺が9歳の時までは結構普通の誕生日プレゼントをくれていたんだ。だけど、それが変わったのは十歳の時。
10歳……千人針(千人に人針ずつ刺繍を入れてもらいそれを腹巻とする。コレを着けると弾よけになると言う事で戦時中に各地で行われた)
何故それをやろうと思ったのだろうか?俺は戦争に行くつもりはなかったのに。もちろん今もだ。
11歳……卵子の冷凍保存の書類
『私の初めてをあげたかったんだ』
『あ、そう………ありがとう?』
アレは本当に反応に困った。だってさ、実の姉にそんなもの渡されて戸惑わない奴いるか?いねぇよな!そう言う事だよ!
そして今年は一体どんな物を……
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
そう言って俺が受け取ったのは、漆黒のちゃんちゃんこだった。(羽織るやつである)今回は普通だ……そう安心した瞬間とんでも発言が飛び出した。
「それには奏斗の毛を織り交ぜてあるわ」
――鬼太郎じゃねえか!!!
俺は心の中で絶叫した。だってそうだろ?リアルで霊毛ちゃんちゃんこを作られてたとか引くどころか、もはや怖いわ。
「姉さん詳細」
「それには奏斗の毛は7パーセント入ってるわ」
――そっちの詳細じゃなねぇえ!!!
「本当は7月7日だから77%が良かったんだけど流石にそれだと洋服として成り立たなかったの」
「……配合率とかもはや気にしてないからいいよ」
「本当?ガッカリしてない?」
誰が、髪の毛の配合率でガッカリするんじゃぁ……
「してないよ……うん、本当に嬉しいよ」
「良かった。わざわざ何着も作った中から厳選して良かったぁ」
「………」
オレハナニモキイテナイ
「レイラ先輩流石です!こんなの私は思いつきませんでした」
「これには流石に完敗ねぇ〜」
何故かアレは女性陣に好評だった。何でも思いが伝わるいい贈り物だとか………女心って難しい
いやぁ、一度でいいからこんな誕生会開いて欲しいですねぇ。あくまで一度ですが。それ以上は作者も胃が持たないですわ。奏斗君。強く生きろ。
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