夏服
今回は長めです。
「今日から夏服か……みんなのを見るのが楽しみだな」
今日は六月1日。今年は冷涼だったこともあり間服期間に夏服にする人はあまりいなかったから、実質的に今日が初お披露目なんだ。
「私としては奏斗様の夏服テロの方が心配ですけど」
「志帆姉が大丈夫だったんだからそんなことにはならないよ」
「いえ、私はお風呂上がりの奏斗様で耐性が付いているだけなんですが」
「まぁ大丈夫だよ。半袖を着るだけでべつに裸になるわけじゃないんだし」
そう、半袖だ。実は今俺が来ている半袖のワイシャツは女子用のものだったりする。なんでも男性科は冷房の効いているところにしか行かないため夏服と言ってもちょっと生地が薄いただの長袖ワイシャツなんだ。そんなの普通科の俺が着たら絶対に倒れる自信がある。そういうわけで、特別に着衣を許可してもらったんだよ。
「病院が満床にならなければいいんですが……」
志帆姉は大袈裟だなぁ……なんて思っていた時期もありました。
「奏斗様の御腕がっ!?」
「脇が!脇が見えっ!?」
「汗で、汗でちょっと透けてっ!?」
「奏斗様の残り香がっ!?」
「あれ?鼻血が止まらない」
これがテロか〜。自分のせいで人が倒れていくのちょっと気持ちいかも?あはは、こうやって人は堕ちていくんだな〜。(現実逃避)
俺が廊下を通ると悉く半径2メートル内の人は倒れていく。俺は戦略級兵器かな?
その後も被害者を量産しながら俺は進んでいきようやく教室に辿り着いた。そして扉を開けると俺と同じく半袖に身を包んだ祐樹と4分の1の女子が地に臥している様子が目に飛び込んできた。
「裕樹おはよう。えーと……いきなり暑くなったね?」
この時俺は癖で無意識にネクタイを緩め第二ボタンまで開けてしまった。その瞬間
「色気っ!?」
「エモいっ!?」
「体操服とはまた違った魅力がっ!」
「あ、花子!トドメを刺されないで!?」
うん。やっちまったわ。
「奏斗。今のでクラスの7割が倒れちゃったんだけど?」
「ごめん。完全に無意識だった」
そう言う佑樹は俺とは違いしっかりと第一ボタンまで閉めている。被害拡大を避けるためにやったんだろう。
「桐生おはよう。朝から派手にやっているな」
「奏斗さんおはようございます。その……夏服すごく似合ってますよ」
そう話しかけてくれたのは秋穂と美琴だ。
秋穂はさっぱりとしたスポーツ女子っていう印象が強くなっていて、美琴は後ろ手に組んで、ちょっと上目遣いで褒めてきた。ただ夏服のせいでどことはいわないけど、ラインが前より目立って見えちゃってます。ご褒美、じゃなくて、はしたないですわよ美琴さん!
「夏服似合ってるね2人とも。それに美琴は前よりも可愛くなった気がするよ。前のブレザーもお嬢様感が出ていてよかったんだけど、今の清涼感のある格好は親しみをば前より持ちやすいし、肌の露出度が上がったからか男心をすごくくすぐる雰囲気が出ててすっごくいいよ!」
「ふきゅぅぅう……」
「おっと大丈夫かい?」
「奏斗はなんで美琴さんを褒める時わざわざ長文で褒めるのかな?もしかしてわざとやってる?」
わざとっていうか前世で石黒先輩が
『いいか?女性を褒める時はとにかく長文だ。俺たちにとっては些細な変化もあの方々が何時間もかけて作った変化だ。ならばそれを全力で褒めなければ失礼という物だろう?』
って言ってたんだよな。俺も納得したし。
「ほら、魅力的な物には饒舌になるだろ?それと一緒だよ。あと俺が秋穂にやらないのは俺がやる必要がないからだよ」
「どういう事だい?」
「だって秋穂には祐樹がいるじゃないか」
「え!?」
「はい!?」
お、見つめ合ってる見つめ合ってる。お互いにちょっとほおが染まってるねぇ。照れてるのかな?さぁどっちから仕掛ける!?
「その……私はどうだ?」
「あ、うん……可愛いと思う」
「そ、そうか……ありがとう。その裕樹も似合ってるぞ?」
「あ、ありがとう……」
あ、アオハルぅううう!!!若い!若いっていいね!見てるこっちがドキドキしちゃったよ!(精神38歳)
ちなみに、この甘酸っぱい雰囲気にやられて8割の女子がその日の授業に出られなかった。
そして俺は放課後の生徒会にて本物の夏服テロと出会うことになる。
放課後、みんなより早く生徒会室に向かっていた俺は皆さんの、特に茜生徒会長と萌々華先輩の夏服を楽しみにしながら向かっていた。
「失礼しまーす」
そう言ってブラインドカーテンによって薄暗い中に入るとそこには1人の人影が。
「あれ?茜先輩だけですか」
「うん。みんなにはちょっと仕事を頼んじゃったから今は2人よ〜」
ほほう。密室に男女が2人きりですかい。いかがわしい匂いがプンプンしますなぁ。
「みんなが来るまでちょっと休んでましょうか」
そう言って茜先輩が自席から立ち上がると、その姿がその姿が俺の網膜に焼き付けられた。
リボンが緩み第一ボタンが外れてちょっとルーズな雰囲気を醸し出している。そこまではいいんだが、問題はメロンだ!ワイシャツがこれ以上ないほど引っ張られボタンが18禁漫画よろしく弾け飛んでしまいそう。これは、これは謎の魔力を持っている――ッ!
「――?んふ。奏斗君はこの醜い脂肪の塊が気になるのかしら〜」
「醜くなんかないですよ!この世の誰がなんと言おうとそれは俺にとって国宝と変わりありません!」
そう!中学生にしてそのビッグサイズ。これを人間国宝にせずなんとするのだ!!
「あらぁ、そんな事言ってくれるなんて嬉しいわぁ〜。そうね〜こっちに来てくれたらイイコトしてあげる〜」
「イイコト――ッ!?」
そ、それは、期待してよろしいんでしょうか!?夢にまで見たマシュマロタッチを!
「ほら、早くおいで〜」
俺は先輩の声に、光に吸い寄せられる夜の虫のようにふらふらとソファに近づいていく。
いいのだろうか。俺達はまだ中学生だ。しかも相手はあの五家の一角。もしかしたら後でとんでもないものを要求されるかもしれない。いや、でも茜先輩に限ってそんな事するとは思えない。それに、ここで行かないでいつ行くんだ奏斗!そうだ!俺は、俺はアレに触れられるなら人生に悔いはない――ッ!
そして、とうとう俺は茜先輩の隣に腰をおろした。
「は〜い。じゃぁご褒美をあげるわねぇ〜」
そう言って茜先輩は俺の頭に手を回し、自分の方に抱き寄せるように力を入れてきた。
これは、これはまさか!龍玉に出てくるあのパフ◯フをやってくれるのか!?男のロマンを実現してくれるのか――ッ!?
時間にして数秒。しかしその数秒は俺にとって数時間に感じられ、部屋の薄暗さと先輩から漂う匂いに理性はかき消され、後数センチで極楽……という瞬間、いきなり――バン!という音が聞こえたかと思うと次の瞬間には俺は逆方向に引っ張られ、なにやら柔らかいものに後頭部が包まれた。
「んぐっ!?」
「大丈夫!?奏斗!お姉ちゃんが来たからにはもう安全よ!」
あ、これレイナ姉の胸ですか。……レイナ姉の胸ぇ!?え!これ、じゃあ今俺はレイナ姉に抱きしめられてるって事!?
「あら〜思ったよりも早かったわねぇ〜」
「会長と奏斗だけ仕事がないなんて怪しすぎますからね!」
「もう少しで奏斗君に好きになってもらえたのにぃ〜」
「はっ!奏斗にはもう好きな人がいるから無駄ですよ!」
「ンゴーー!ムグググ!」
待ってぇ!そればらさないでぇ!青少年の心はデリケートなんだよ!?
「それ本当ですか!?」
「ムゴッ!?ムゴゴ!?」
「本当よ!奏斗と一夜を共にした時にきいたんだもの!」
「ムゴッ!?」
「そんなっ!?」
「あら?そんな事が……」
その後、暴走する三人を俺では止められず佐藤先輩の到着によって鎮圧された。やっぱりすげえよあの人。今度から佐藤様って呼ぼ。
男性諸君身に覚えはないか?普段体操服などで半袖の女子を見ているはずなのに、夏服を見ると何故かドキッと来るこの感覚に!!
そういえば女性って男子の夏服どう思ってたんでしょう?「毛もじゃもじゃだなぁ……キモイ」とかですかね。自分で考えておいてちょっと落ち込みました。
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