ボール大会!
その後時は流れおよそ一ヶ月。期末テストは終わり今日は
――ガラララ
「ボール大会だぁあ!!!」
――ガララ
「待って!何も言わずに扉を閉めないでくれ美琴!」
「……大丈夫です。私もたまに大声を出したくなりますから……でも、教室でやるのはやめた方が良いかと思います」
「うっす……」
俺は美琴の正面から否定しない優しさに涙した。……ちなみに期末は3点差で俺がトップで美琴が2位だった。そのせいでちょっと勉強時間を最近増やしたりしている。
△▼△▼△
「ねえ奏斗。僕たち勝てるかな?」
「フッ……負けると思う」
そう言って俺と祐樹は更衣室で着替えていた。
「だよねぇ。三対二だもんねぇ」
「他クラスとの絡みがなかったから何ともいえないけど、かなり大きなハンデだよなぁ」
そう。ボール大会はクラスごとの対戦になるのだが……俺たちのクラスは一人が不登校だから必然的に3対二になってしまうのだ。ちなみに男子生徒の余りなどいないので助っ人はない。
「しかも男子はサッカーしか選択肢がないんだもんね」
「本当それな。まだバスケとかの方が可能性があった」
ここでボール大会について説明しよう。まず女子はサッカー、バスケの二競技の選択肢があり、人数はサッカーは11人、バスケは5人で2チーム作る。あと3ヶ月以内に現役でサッカーorバスケ部に入っていた生徒はその競技に出れない。そんでもって一学年の中でトーナメントで勝ち上がり戦をやり優勝者を決めるっていうのが女子のボール大会。
男子のボール大会はサッカー、一択で全員参加。テニスコートより一回り大きい程度の大きさのコートでプレイする。一学年の中でトーナメントを組むのは女子と同じ。
これだけ聞くと、普通に思えるけどここで問題になるのが男子生徒の人数。各クラス3人しかいないせいで、一人はゴールキーパー。あと二人で攻めるって感じになるんだけど俺たちの場合は、ゴールキーパー、攻める人一人。というとんでもないチーム構成で挑まなきゃならんのだ。はっきり言おう。相手がよほどの運動音痴じゃない限り勝てる見込みはほぼない。何たってサッカーは授業でやった程度の腕前だからな。いくら俺の運動神経が良くても意味ない。せめて祐樹も前世サッカー部でもないと無理だ。
「俺は前世バレー部だったんだけど祐樹は?」
「僕は前世で吹奏楽部だったよ」
ふっ………希望は潰えた。
△▼△▼△
『レディースアンドゥジェントルメーン!準備はいいか?これより男子中学一年のボール大会を開始するぅう!!』
「「「うぉおおおお!!!」」」
その会場の盛り上がりを俺たちは冷めた目で見ていた。
「……何で女子と男子を分けてやるんだろうな。同時進行すりゃいいのに」
「多分そうすると競技に参加する女子が居なくなるんじゃないかな」
「なるほど」
『第一試合一組VS三組だぁ!!いきなりの好カード同士の戦い!一体どうなるぅ!?』
「よし、行こうか」
「そうだな」
そう言って俺は色の薄いサングラスをかけ立ち上がる。……どっちかって言うとスポーツ用だからゴーグルに近いけどな
「そういえばそれ掛けたまんまでいいの?」
「先生にも許可とってるし別に大丈夫だと思うぞ?」
普段はあんま気にしないんだけど一応俺アルビノだからな。健常者よりも目が紫外線に弱い。だから夏とかに外出る時はグラサンかけるようにしてるんだよ。
『さあさあ、まずコートに入ってきたのは1組の紫紺の堕天使こと桐生奏斗とエキゾチックプリンスこと芳田祐樹だぁあ!!』
「「「きゃああああ!!!」」」
「「「奏斗さまぁあ!」」」
「「「祐樹さまぁあ!」」」
ヤバい。めちゃくちゃ恥ずかしい。もはやこれ羞恥プレイだよ。ほら、祐樹も顔真っ赤にしてるし。
『続いて入って来たのは3組の甲斐力弥様たちだぁあ!!』
「「「わーー!!」」」
ん?歓声が露骨に少ない気がするのは俺の気のせいか?
「……声がやらせっぽいね」
「ぽいどころか、完全に今のサクラだよな。心が全然こもってなかったし」
普段の態度が悪すぎて人気がないんだな。哀れ。3組男子よ。……哀れじゃねえな。ただの自業自得だわ。
そして、いつの間にか近づいていた3人のうちのポッチャリ気味の男子……全員ポッチャリしてんな。髪をスポーツ刈りにしている男子、おそらく甲斐くんが話しかけて来た。
「お前が桐生奏斗だな」
「そうだけど?」
むしろ俺が桐生奏斗じゃなかったらどうするつもりなんだ?自分で言うのも何だけど紫の目なんて珍しくて間違えようがないと思うんだけど。
「じゃあ棄権しろ。どうせお前らは負けるんだから」
「はい?」
「聞こえなかったのか?棄権しろと言ったんだよ。お前らみたいなカスじゃ俺には勝てないからよ」
「…………」
いや無理なんだけど?この状況で棄権なんてしたらブーイングどころか物が飛んでくるよ?
「それはちょっと無理だな。まだ負けると決まったわけじゃないし」
「ハッ!お前のそう言うところがムカつくんだよ」
これは……あれか!?漫画でよく見る喧嘩売られてるパターンか!?主人公のライバルキャラが突っかかってくるやつなのか!?……そうか、そっちが漫画シチュでくるなら俺も鈍感系主人公で行こうじゃないか!
「俺何かしちゃいました?」
「煽ってる?」
祐樹くん大正解だよ。これは相手を煽ってそのまま熱いバトルを展開するための布石なのだよ!ほら、甲斐くんがプルプル震えているよ。
「……お前が女子どもの人気を汚い手を使って集めたせいで俺たちが偉ぶれないじゃないか!これじゃあ何のためにここに入学したかわからない!俺は本当なら1組に入ってそのまま王として君臨する予定だったのに、お前のせいでクラスの女子をパシリにすることさえできないじゃないか!」
「「そうだそうだ!」」
………こいつら何言ってんだ?いや、言ってる意味はわかるんだ。ただその考えに至る思考が理解できないだけで。……ああ、そうか。これがこの世界の男の考えかたなのか。俺と同じ前世持ちの祐樹としか関わって来なかったから今まで気づかなかっただけか。……もしかしたら美琴たちがさりげなく関わらせない様にしてたのかな?
そんなふうに俺がこいつらに対して呆れていると、去り際にとんでもないことを言い放った。
「そうだ。この試合でお前が負けたら虎白院をよこせよ。お前なんかにあれはもったいないからな!俺が有効活用してやるよ!」
「あ、じゃあ俺は祠堂な」
「じゃあ俺は……1組の気に入ったやつもらうわ」
「は……?」
今こいつらなんて言った?美琴を渡せって言ったよな?アレって、有効活用って言ったよな?それってさぁ……物扱いしたってことだよなぁ?
「殺す」
「ダメだよ奏斗」
「は?邪魔するつもりか?」
一瞬で沸点を超えた俺はそいつの背中に手を伸ばそうとし、祐樹に止められ思わず睨んでしまう……が、祐樹の目を見て少し頭が冷える。
「違う違う。邪魔なんてするわけないじゃないか。ただあんなのの為に手を汚す必要なんてないよ……試合中に事故で骨を折ることなんてよくあるしね?もしそこが肺だったら気胸で入院……うまくいけば死ぬかもしれないけどさ」
「お前こそ落ち着こう」
自分より怒ってる人を見ると冷静になるって本当なんだな。俺は一二本折る程度で納めようとしてたけど祐樹はガチでヤろうとしてたぞ。
「何で止めるんだい?秋穂を物扱いしたんだよ?アレは駆除すべき害虫じゃないか?」
やべえよ。普段温厚な祐樹の目から輝きが消えてるよ。ダークサイドに堕ちちゃってるよ。
「でも事故とはいえそんなことしたら何らかの措置は取られると思うぞ?それにそんなことになったら秋穂は悲しむんじゃないか?」
「それは……確かに」
よぉし!祐樹の目に淡い光が戻って来た!ここで畳み掛ける……!
「だから、サッカーで精神的にボコボコにしよう。な?な?」
「……そうだね。そうしようか。……でもやるなら徹底的だ。奏斗骨の二、三本覚悟してやるよ?」
「お、おう」
ちょっと誘導の仕方間違ったかな?俺は安全に相手を叩き潰したい派で、相打ち否定派なんだけど?
秋穂は祐樹にとって恩人ですからね。祐樹にとっての逆鱗だったんでしょう。
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