好きな人
そして時計は周り夜1時。俺は二つの山が出来ている布団の中でいつまで経っても眠気に襲われず悶々としていた。
(まずい。全然眠れない。しかも何故か姉さんが隣からヒシと抱きついてくるせいで、なんかいい匂いがするし、なんか柔いしなおさら寝れねぇええ!!くそ!心は親でも体は少年ってか!?そうなのか?俺はそんな不純な生き物だったのか!?……だとすると志帆姉の参戦を防げたのは不幸中の幸いか。そう思うとちょっと楽になった気がするぞ?)
そう。俺の住むこの寮には男性奉仕委員会から派遣されているメイドの志帆姉が住んでるから、それが問題にならないわけがない。(奏斗が気づいていないだけで護衛官もいる)
それで当然ながら一悶着あったのだ。
(こういう時はあれだ……お経だ。お経を頭の中で思い浮かべると眠れたはずだ。……仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜t)「起きてる?」「たぁああ!?」
いきなり胸元から声が聞こえて来て思わず奇声をあげてしまった。
「あ、ごめん寝てたんだよね?起こしちゃってごめん!」
姉さんが焦ったように謝ってくる。おおかた寝ていた男を起こす事はタブーなんだろう。でも俺は大丈夫だ。それにそもそも寝てないし。だからそんな目を潤ませるな。お父さん焦っちゃうから
「大丈夫だから!元々寝てなかったから大丈夫!」
「でも戦ってる夢見てたんでしょう?」
戦い?……さっきの「たぁああ!」か!?あれが戦ってる時の気合いに聞こえたのか!
「あれは違うんだ。……うん。詳しいことは言えないけどとにかく違う。俺はずっと起きてたから」
姉さんに俺の体がドキドキしちゃって寝れなくて般若心経唱えてたなんて言えねえよ。
「それでどうしたの?」
そう聞くと姉さんは1度目を瞑り……目と同時にゆっくりと口を開いた。
△▼△▼△
私は奏斗が好き。だけど時々心配になる。それは奏斗が優しすぎるから。昔から奏斗は優しくって私のお願いは全部聞いてくれた。唯一お願いを聞いてくれなかったのは道場の時と学校に入る話し合いの時だけ。それ以外では普通なら罵声を浴びさせられるような事でも笑って受け入れてくれる。
今回の添い寝だってそう。だから心配になる。奏斗は私のことを妹、もしかしたら子供のように思ってるんじゃないかって。だってそうでしょう?友達、親友、姉妹の相柄でさえ意見がぶつかる事はあるし、嫌なことはそれとなく断る。だけど奏斗にはそれがない。何でも私のお願いを聞き入れる姿はまるで……子供を可愛がる親のように感じることがあるの。
実際奏斗はすごく早熟だった。私はあんまり覚えてないけどお母さんによると3歳の時には、もうお母さんの手伝いをしたり私の子守りをしたりしていたみたい。だから尚更思ってしまうの。小さい頃から私の面倒を見ていたから私のことを女として意識してないんじゃないかって。それどころか同年代の子は子供に見えてるんじゃないかって。……だからたとえ好きな人が私じゃなくてもいいから、せめてチャンスがあるかどうかだけ知りたいの
△▼△▼△
「奏斗に好きな人っているの?」
「ぶほぉい!?」
いきなりの予想外の言葉に思わず吹き出してしまった。
「奏斗は好きな人っているの?それって同年代?」
「えーと。それを知ってどうするの?できれば秘密で行きたいんだけど」
「参考にするの。だから答えて?」
(参考?……ああ!姉さんにもついに気になる人が出来たのか!それで同じ男である俺がどんな女性を好きか聞きに来たのか!それなら真剣に答えないとな。さて、俺個人の感性か一般の感性で語るかは……迷うな。というか実際のっていってもまだいないしな。ここは一般論の方がいいだろう)
「えーと、胸が小さくてモデル体型の美人さんがいいかな」
「そうじゃなくて同年代で好きな人っていないのって聞いてるの。何なら±10歳までなら同年代でカウントしてあげる」
「ええ……」
(好きな人。好きな人ねぇ……黒い長髪。白い肌。可愛い少女。って美琴じゃん。流石にそれはないぞ俺。28歳下の子だし何ならまだ12歳だ。他の人は……黒のショート。白い肌。美脚。志帆姉かよ!?)
俺は天を仰ぎ一度出てきた少女を頭から追い出すと、もう一人の女性を思い浮かべて答えを出す
「うん。好きかはわからないけど気になる人はいるよ」
「ほ、本当!?」
「うん」
その答えを聞いた姉さんは「そう。そう!」と嬉しそうに、はにかみ俺の胸に顔をうずめて「おやすみ」と勝手に眠ってしまった。そして一人呆気に取られていた俺は
「寝れない……」
翌日肌がツヤッツヤのレイナと目にクマができてげっそりした奏斗を見て勘違いした志帆とレイナの間で一悶着起きたのは……まぁ想像できるだろう。
あとは奏斗の意識だけっすね。
ロリコンである事を受け入れられるか否か……




