校外学習
入学してから一ヶ月とちょっと、みんなが鬼気迫る様子で勉強していてちょっと怖かった中間テストが終わり、全てが終わった解放感を感じていたテスト明けのホームルームにて、一枚のプリントが配られていた。
ちなみに俺はまたトップだ。そのせいでいま俺の中では前世の記憶最強説浮上中だ。
「はい。みなさん知っている人も多いでしょうが、一年のテスト明けと言ったら校外学習です!と言ってもここ、桜堂は他の学校と違って、職業体験的な側面が強いんですが……まぁみなさん楽しそうなところを好きに選んでください!」
という、先生の言葉に俺は興奮していた。
だって校外学習だよ?那須高原とか九十九里浜とか、そういうところで遊んだりするやつだよ?めっちゃ楽しみに決まってるじゃん。
そう思って回ってきたプリントをみると
【行き先】
①男性護衛委員会(男性護衛官)
②男性奉仕委員会(男性奉仕官)
③男性委員会メイド
④U20日本代表チーム(各種競技)
⑤ 西京藝術大学
⑥JAXXAジャクッサ
⑦赤十字社
↓省略
めっちゃ真面目じゃん!九十九里浜で遊ぶとか言ってたやつ誰だよ!……俺だよ!まじで、穴があったら入りたい……!……俺も真面目に選ぼう。
そうやって自分のお気楽さ加減を反省しているとホチキスでもう一枚止められていることに気づいた。
なんだろう?と思い、ペラっと2枚目を見てみると
【男子生徒限定】
①東京ネズミーランド
②ユニバーサル・スッタジオ・ジャパン
③富士Qハイランド
④上の動物園
⑤鴨川オーシャンワールド
……おい。男子生徒諸君。この落差はなんだ。この前者との落差は!宇宙の研究機関と遊園地って違いすぎるだろぉお!!!
……ふぅ。落ち着け。心の中で騒いでもどうにもならない。今は取り合えず行き先を決めよう。いちいち反応してたら過労で死んでしまう。さて、どこにしようか……
△▼△▼△
「なぁ祐樹はどこにした?校外学習の行き先」
「僕は西京藝術大学にしたよ」
なるほど。最強の芸術大学な。(違う)たしかに祐樹は芸術科だからそこ選ぶのは当然か。
「ほう。祐樹はそこにしたのか。私は男性護衛委員会にしたぞ」
と、そこに秋穂が話しかけてきた。お、美琴と向井もムカイサンコワイ。
「私はジャクッサにしました。前から宇宙というものに興味があったので」
「わ、私はKADOGIWAに行くことにしました」
ほう、美琴はジャクッサか。メガネかけて白衣来てる姿……見たかった……!(誰もやるとは言ってない)
そして、向井さんは出版社か。いいよねカドギワ出版。確か「転生先は貞操観念逆転世界!?」っていう、男女比が1:1の世界に転生した女子高生の物語が有名だったな。俺は読んでないけど。……そういえば、そんな選択肢あったっけ?えっと紙はどこに行ったっk「奏斗はどこにしたの?」
「……ん?」
「奏斗はどこにしたのさ。校外学習」
「ああ!俺は男性護衛委員会にしたぞ?」
「「「「……………」」」」
いや、何故そこで沈黙する?
「なんでみんな黙ってるんだ?祐樹だって男子生徒限定の所から選んでないし、別に変なことではないだろ?」
そう言うと、美琴がゆらりとこちらに一歩踏み込んできて、その謎の威圧感に俺は一歩下がってしまう。
「……奏斗さん。男性護衛庁というのはその名の通り、男性の護衛を行う専門の部署です」
「……知ってるよ?」
「つまりですね。お怪我をする可能性があるというわけなんです」
「やっぱり、訓練に参加できるのか!」
「い、い、で、す、か?」
「はい」
すごい圧。志帆姉に匹敵するよ。素人でここまでの圧が出せるなんて驚きだ。
「奏斗さんの体はもう国宝と言っても過言ではないんです」
「それは過言だt――」
「過言ではありません。それに今人間国宝の候補に上がっているみたいですし。まぁ、それはどうでもいいんです」
「いや、よくないよ?すっごい気になるワードがあったよ?」
「世界の宝である奏斗さんがわざわざ危険を犯す必要はないんです」
「だからやめてください」と上目遣いでこっちを見てくる。……ヤメテ!そんな目で見ないで!今頷きそうになっちゃったじゃん!今気づいたけど俺、上目遣いに弱いんだよ!
「……で、でもさ、俺一応道場に通ってたからある程度はやれるし、学校に通うようになってから道場に行けてないから欲求不満なんだ!」
「よ、よよ、よっきゅうふまん!?」
美琴が動揺している!?もしかして俺の熱意に心が揺れているのか!?
確か石黒先輩がこう言っていた!
『交渉の基本は相手が動揺してる時に畳み掛けることだ!わかったな!』
わかりました!
先輩に教わった交渉術今こそ使う時!(詐欺の手口とも言う)
「やっぱり、模擬戦とかの激しい運動――」
「は、はげしい!?」
「――とかをして、気持ちよく汗をかきたいんだ!」
「あ、あせを!?」
「志帆姉と家でやったりするんだけど――」
「や、やる!?なにを!?」
「――やっぱり思いっきりできないから――」
「お、おもいっきり!?」
「――ストレスがたまるんだよ。だから今回は欲求不満――」
「よ、よっきゅう……」
「――を解消するいい機会だと思うんだ!だから見逃して!」
「ふぁ、ふぁい……」
よぉおし!虎白院最高権力者の許可ゲットぉ!!これで誰にも文句は言われない!
「秋穂。僕はいま国を裏から操る姿を幻視したんだけど気のせいかな」
「安心しろ。私にも見えた」
「か、奏斗さんに操られる国……いいかもです」
君たち。声聞こえてるからね?俺は国を操るつもりなんて全くないから。そもそも操れるとも思えないしね。
「クハハ!私こそがこの国の裏の支配者カナートである!!」っていう未来も?




