私が来た!
入学から1週間がたち、学校生活や生徒会の仕事にも少しずつ慣れて来た頃。
「次は保健だね」
「俺は保健って男女別なのかと思ってたんだけどな」
そう。今日は初めての保健。男子に過保護なこの世界では男女別で授業を行うものだと思ってたんだが……
「一般教養に入ってたからね」
ここ桜堂では一般教養と特別授業の二つに分類される。一般教養は全科共通の授業で、特別授業はそれぞれの科特有の授業を展開する。そして保健はこの一般教養に分類される。
「だけどさ、こう「男子には刺激が強い!」とかいう理由でないと思ってたんだよ」
「奏斗が何を言ってるのか大体わかったけど、保健は生活習慣病とか薬物とか必要なことが結構あるからね?」
たしかに……!保健と聞いてナニを想像してしまった俺が恥ずかしい!くそっ……10代の肉体め……!!
え?ナニって何かって?そりゃあれだよあれ。生命の神秘の授業だよ。(何故か凄そうに聞こえる)
「そろそろ始まるよ」
「どんな先生だろうな」
保健体育の先生。テンプレなら、此処で出てくるのはナイスバディのお姉さんか、ガチムチのおっさんの二択っ!さあ、どっちがくる!?
「はーい授業を始めるわよー」
――かあさぁああん!!?!?
「今日から赴任してきました。桐生奈々美でーす」
今日からぁあああ!!?
「ついでにそこで固まってるカナトちゃんのお母さんよー」
バッッッとこっちをクラス全員が振り向いた。……もうやだ。なんだそこでバラしちゃうのさ。旧姓を名乗るとか俺の担任にならないとか色々あっただろう。……いや、母さん結婚してないから旧姓ないし、多分いきなり教師に転職したのは俺の授業を受け持つためだろうから、避けられない出来事ではあったんだろうけど……ああ、俺が寮に入ったのになんのリアクションもなかったのはこれがあったからか。
「え?桐生様のお母様?」
「堕天使の御母堂様。つまり聖母」
「これは保険体育を適当に過ごせないわね」
「できるだけお母様の覚えをよくしておかないと」
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」
「つまりお母様攻略が桐生様攻略の鍵!」
ああ、やっぱりざわついてるよ。ざわつきすぎて何言ってるのかわかんないけど、大体予想はつく。多分「え?エコ贔屓とかおきない?」とかだろう。前世では、というか今世でも自分の子を受け持つなんて聞いたことないしな。
「じゃあ授業を始めまーす」
やっぱり母さん会長と似てるなぁー(現実逃避)
△▼△▼△
「奏斗のお母さん美人だね」
「言うな。今俺はその名前を聞きたくない」
授業が終わると同時に母さんが「これから毎日会えるわね」と言い残して出て行った後、俺はニヤニヤした祐樹の対応をしていた。……というか保険体育は週一だぞ?まさか毎日教室に凸ってくるつもりか?
「でもお母さんもお姉さんも美人って羨ましいね」
「どうせお前の家族も美人だろ?」
学校に来始めて気づいたことだが、この世界は美人が多い。あれだ、各クラスにいる二番目に可愛い子がこの世界の平均っぽいのだ。何故顔面偏差値が上がっているのかはわからないが、これは素直に嬉しい。ちなみに男はイケメンが少ない。理由は、不摂生と見た目への気遣いがほぼ皆無なことと見た。この世界の男は甘やかされる上に何もしなくてもモテるからな。
「まぁ、普通よりは上じゃないかな」
「恥ずかしがるなって。お前がイケメンなんだから家族も美人なんだろ?」
「……そうなんだけどね」
イケメンの家族はイケメンか美人って決まってるからな。むしろ何故そこで誤魔化そうとするのかわからん。なんか家族と確執でもあるんだろうか?
そう思っていると、祐樹が近づいて来て小声で話してくる。
「ほら、僕って転生前の記憶がないでしょ?」
おっと、いきなり知らない話が来たぞ。俺は記憶が残ってると思ってたんだが?
「だけど、体はなんとなくだけど覚えてるみたいで、他人とも思えなくてね。だからお母さんと妹は家族というよりは、幼馴染み、みたいな感覚なんだよね。だからちょっと気まずいというか」
なかなか複雑な事情をぶっ込んできやがったな。……俺は赤ん坊の時から意識があったから、母さんは母さん。姉さんは近所の妹くらいの認識だから、ちょっと相談には乗りにくいな。ん?なんで母さんは母さんなのかって?そりゃ……俺はあの人の母乳を飲み、オムツを変えられ、子守唄を聞かされたんだぞ?むしろこれで、恋愛対象に見る奴がいたら怖いね。
ん?ということはだぞ?俺と違って記憶がない=忌避感がない。つまりこいつ次第では妹、もしかしたら母との恋愛があるかもしれないってことじゃね!?おまえ……
「祐樹、ラブコメしてんな」
「……どういう意味かはわからないけど、これだけは言える。……君には言われたくない」
ほぉ?こちらとら志帆姉に抱きついた以外ラブコメ要素なんて何もない男だぞ?(それはない)。それに対して幼馴染み持ちで尚且つ家族に対する可能性すら持っているお前にそんなことを言われるとは思わなかったぞ?
「ふっ。人の七難より我が十難。もう少し自分のことを自覚した方がいいぞ」
「……君にそっくりそのまま返すよ」
何を言ってるんだか。俺ほど自分のことを理解してる奴はいないぜ。転生しても全然モテてないってことをな!(お前ほどわかっていない奴はいない)
これは……祐樹のハーレム構築の予感!?




