会長と副会長
俺たちは何やら重厚な雰囲気を漂わせる金銀で装飾された無駄に豪奢な扉の前に立っていた。……無駄にかっこいいのもなんかムカつく。
「ここが中学生徒会よ」
「……金の浪費」
「……偉い人は高い場所に住みたがる」
「それを言うなら馬鹿じゃなかったか?」
「そういえばそうだね」
「ていうことは設計士がそうだったんだな」
「僕今文句が言いたいよ。その人に」
「最上階まで階段登るのかなりの重労働だったもんな」
自信満々に言い放った姉さんを、俺たちの言葉の槍が貫く。
「うっ……!私も思ってたことだけど、そんなはっきり言われるとダメージが」
姉さんは何かぶつぶつと呟きながらノックをして扉を開けた。
それに続いて中に俺たちも入ると、中には複数名の女子生徒が既にいて、その中には俺の知り合いも何人かいた。
「秋穂!」
「あ、美琴と秋穂、あ、あとむか……」
あっぶねー!また向井さんって呼ぶところだった。
同じ過は繰り返さない、これこそが奏斗クオリティさ!
「よく来てくれたわね〜。桐生君、芳田君。わたしは中学生徒会長の青龍院茜っていうの。茜って呼んでね」
「君たちに敬称はいらないって聞いてるわ〜」と付け加えながら生徒会長。もとい茜先輩はこちらに歩みより、手を差し出して来た。
「桐生 奏斗です。よろしくお願いします。ご存知だとは思いますが、こっちは芳田祐樹です」
「宜」
俺の横に立っている祐樹を目尻に映しながら差し出された手をを握り、握手を交わす。やっぱり生徒会長なだけあって握手の大事さをよくわかってる。……あと、祐樹。お前は俺の後ろにいていいんだぞ?若干震えてるじゃないか。まぁ、俺一人に押し付けたくないっていう、嬉しい理由なんだろうけどさ。
「本当に握ってくれるのね……私は美琴ちゃんの嘘だと思ってたんだけどね〜……手大きいわぁ。どうしよう。ずっと触っていたくなっちゃう」
ん?今祐樹の方を見てる間になんか言ってた気がするんだけど……そう思って茜先輩を見つめると、どうしてもそのお顔よりも下に視線がいってしまう。具体的に言うと、お腹と首の中間に存在して激しく自己主張されていらっしゃるあれである。美琴もなかなかのものだと思ってびっくりしたけど、このお方はさらにすごい。もはや山である。………はっ!そうか!山岳信仰とはここから来ていたんだ!昔の人は大いなる山に、大いなる母性を感じ、敬っていたんだ。だって本物を直接拝むわけにはいかないから……!!
「これは……双子山を登るしかないか」
「頭大丈夫?」
おっと心の声が漏れてしまったな。まぁいい。どうせ誰も理解できていないだろうし、祐樹の緊張も解けたみたいだから結果オーライってやつだ。
「いつまで触ってるつもりですか。離れてく、だ、さ、い!」
「ああん。レイナちゃんのエッチぃ」
「ふざけないでください……!そもそもあなたの手やお腹を触ったところでセクハラにはなりません!」
ああ……姉さんが桜堂に入学してから俺に抱きついてくる頻度が多くなったのはこれが原因か。周りが特に動いてないから、姉さんが茜先輩のスットパー役なんだろう。そして毎回こんなふうに茜先輩と密着して止めていると………よかったら俺が替わるよ?(下心)
そんなくだらないことを考えていると、いつの間にか俺たちの前に一人の女性がたっていた。その影の薄さは黒子なみだ。そしてその人は少し小さめの声で話し始める。
「副会長の佐藤結菜と言います。桐生さん……は二人いるので下の名前で呼ばせてもらいますね。レイナさんが会長を抑えている間に奏斗さんと祐樹さんにも、他のお三方と説明をさせていただきます」
説明をしてくれるのはいいんだけど、あれはほっといていいのか?なんかだんだん激しくなってるけど。キャットファイトが。
「……了」
「えっと……あれはいいんですか?」
「はい。暴走した会長をしっかり者のレイナさんが止めて、その間に平凡な生徒である私が説明をする。……いつも通りの流れなので」
「全然平凡じゃないですね」(小声)
「ほんとうにね。いつのまにか二人のことを名前で呼んでいる」(小声)
「私もまだなのに……!」(小声)
なるほど。確かに姉さんは俺の匂いを嗅がない限りはしっかり者だからな。でも、中身はわからないけど佐藤先輩は全然平凡じゃないと思う……確かに印象には残りにくい感じだけど顔立ちは整ってるし
「佐藤先輩は十分可愛いですよ。全然平凡なんかじゃないと思います」
「ありゅっあ!?」
「くくっ。可愛いですね」
「@#¥%#¥@#!!?!??」
うんやっぱりかわいい──その瞬間祐樹に叩かれた。
「何すんだよ祐樹」
「僕は追撃を止めて人助けをしたんだ」
「どゆこと?」
「君は知らなくていいんだよ。もう、諦めてるから」
……なんかいきなり叩かれて、勝手に諦められたんだが……釈然としないなぁ。
会長と姉さんがキャットファイトを展開し、副会長が沈黙し、祐樹は空を仰ぎ見、他の人はただ立っている事しかできない混沌とした生徒会室で一人俺は首を傾げるのだった。
登山っていいですよ。都会の忙しなさが忘れられる……腰と膝が犠牲となるがな!




