名前
「はい。今日は天羽 遼さん以外は全員いますね」
朝自習の時間先生が出席をとっていた。
「なぁ。天羽ってもう一人の男子だよな」
「多分そうだろうね。三人いるはずの男子が二人しか居ないんだし」
天羽遼とか名前がめっちゃかっこいいし、本人もかっこいいんだろうな......一組にいるんだからかっこよくて当たり前か。
「なんで居ないんだと思う?」
「うーん......この学校に入ってる時点で女子が嫌いなわけじゃないだろうから、風邪とか?」
風邪かー。だったらお見舞いとか行かないほうがいいかな?......
うん。行かないほうがいいわ。普通に初対面の人がお見舞いに来たら怖いもん。
「最後の一人も僕たちと同じだと良いんだけど。......まあ、それは難しいかな」
「あー確かにそうだな......でも俺は結構な確率でありうると思うけど。ほら、二度あることは三度あるっていうし」
そうそう。二度あることは三度ある。良い言葉だ。これがあると天羽君が転生者だっていう期待を失わないで済む。.......つまり、理性的な部分ではありえないって判断してるわけだけどね。
「確かに......一理あるね」
ないよ。完全な願望だよ。そもそも俺たちが出会えたのも奇跡に近いんだから。
「あ、あの......」
そこに今にも消え入りそうな声がかかる。俺の前の席の子だ。確か名前は...... 向井さんだったような......
「なに?」
「あ、ああ、天羽様ですけど多分しばらく学校には来ないとおもいます」
学校に来ない?それはどういうことだ?
「疑」
「なんでかな?」
「え、えっと、家庭の事情でしばらく休むって書いてあったから。」
なるほど。家庭の事情か......これは怜央学院への転校コースだな。
意外と共学に進学した男子は、いざ入学してみると想像と違ったとか言って転校、または親の心変わりで転校なんてことが結構起きる。流石に一度も通わないで転校っていうのは珍しいみたいだけど。
ちなみにこれは姉さん情報。俺の説得に使ってきたやつだね。
そんなふうに俺はこの世界のことのほとんどを姉さんの話から学んでいる。
つまり俺の常識は姉さんによって構築されていると言っても過言ではないってことだ。だから、俺の非常識な行動は俺じゃなくて姉さんのせいって、こ、と。キラッ(違う)
「教えてくれてありがとう。向井さん」
「礼」
やっべ。名前言っちゃったよ。まだ、入学2日目でうろ覚えだか
ら合ってるかわかんないのに!
――ガタッ!
「...............」
やっちまったぁああ!!!
顔赤くして前向かれちゃったよ!これ絶対怒ってるって。名前間違えたこと絶対怒ってるよ。いま俺、初対面で一番やっちゃいけないミスを犯しちまった!
なにか、なにか挽回の策は......あ!確か石黒先輩がこう言っていたはず。
『いいか?カナト。初対面で取引先の名前を間違えるんじゃないぞ。名前ってのはその人の存在を定義するもんだ。だからそれを間違え友情ると相手は非常に不機嫌になる。そして、取引が不成立になる。つーわけで絶対に名前は間違えるなよ』
先輩。ごめんなさい。俺やっちまいました。......いや違う。今俺が求めてるのはこの状況の打開策!さあ、唸れ今こそ覚醒の時だブレインカナト!!
『あ、そうだ。人間第一印象が8割だから、もしやっちまったら俺に言え。担当変えねえといけねからよ』
無理だったぁああ!!!
......もう心が折れそうだよ。シクシクするよ(それは胃では?)
「......祐樹。俺は嫌われたみたいだ「ガタッ」......やっぱめっちゃ嫌われてるよ」
「そうなのかな......?」
そうだよ。だって俺が話をした瞬間音立てたもん。絶対あれ威嚇だよ。俺にはわかる(わかってないよ)
はぁ......ホントへこむ。......いや、一人と失敗しただけで大袈裟なぁ、とかいうなよ?こういうのはな、一瞬で広まるんだ。そして俺はクラスで孤立するんだ......!(悲観が過ぎる)
その時ギィーと嫌な音を立てて先生が立ち上がった。
「言い忘れてましたが今日から部活動見学の解禁ですから放課後は自由に動いて良いですよ」
マジっすか!?
「マジ!?」
「うれしー」
「静かに!」
元気だなー三人娘。まぁ俺もテンション爆上げだけどね。なんならクラスで一番に歓声あげたの俺だから。だって部活だよ?前世と共通、クラスメイト以外の女子との出会いの場だよ?(決してそんなものではない)
「なんか一気に元気になったね......」
「部活だからね」
「部活だからか.....」
先生のサプライズのおかげで、さっきまでのことがなかったかのように元気が出てきたよ。そのせいで祐樹から変な
ものを見るような情熱的な目で見つめられちゃった。いやん!恥ずかしいじゃない!(情熱的?)
「祐樹も一緒に部活やろうぜ」
「部活、ね......」
おれの誘いに先ほどまでの感情の籠った顔から一転、祐樹はなにか思い悩むような仕草を見せた。
「どうかした?」
「......いや、やっぱり部活は女子しか参加してないだろうから僕には無理かなってね。本当は参加したいんだけど......」
「ああ......」
そうだった。こいつは女子が無理なんだったな。じゃあ諦めるし
かないか.........とはならないんだな!俺は!それがカナトクオリティ!
なにか、祐樹を説得できる材料はないだろうか。
俺の心情的にできれば一緒に部活がしたいし、こいつも本心では部活動をやりたいはずだ。なんたって前世でその楽しさを知っているんだから。
なにか、ないか.........
名前って大事ですよね。
作者も林さんを小林さんって呼んでから、女子からの視線が厳しかった経験が……