寮に入ろう!
その後ガイダンスもつつがなく終わり今日はこのまま帰宅となった。俺は荷物を取り出しながらは祐樹に話しかける。
「祐樹は寮?」
「そんなわけないじゃん。僕は徒歩十分くらいのとこにマンションをかりたよ」
「そうなのか……じゃあ一緒には帰れないな」
そうだねーと相槌を打とうとした祐樹が急に動きを止めた。
「……ねぇ。まさかとは思うけど寮に住むとか言わないよね」
「そのまさかだけど?」
「ええ…まじ…うそぉ」
信じらんない、と呟きながら祐樹は頭を抱えてしまった。
そんなにやばいの?男子寮って
「奏斗。何で男子寮に一人も入っていないか知ってる?……いやその反応からして人がいない事すら知らなかったね」
ごめんなさい。寮っていう響きに惹かれて即断即決しちゃいました。
「ここの男子寮に住むっていう事は、ライオンの檻の中にダンボールの家を造ってそこに住む様なものなんだよ」
「でもしっかり戸締りとかしておけば大丈夫なんじゃ」
「そんな訳ないじゃん。幼馴染曰くドア錠破りは淑女の嗜みだそうだよ」
それは祐樹の幼馴染が特殊なんじゃ……
「10年前にマンションを借りるまでの繋ぎとして入寮した人がいたんだ。だけどその人は戸締りをしっかりしていたのにもかかわらず何者かに襲撃され翌日保護された時にはボロボロだったそうな。そしてその人はたてなくなったとか」
立てなくなった(意味深)
俺今更ながらすっごい後悔してるんだけど。
それによくよく考えたら母さんと姉さんに教えてないから普通に帰らないとヤバいかも。
「……もしかして入寮したらもらえる内申点が目的?ならやめとこう?」
「……うんやめと「かなとぉお!!」やばい……」
入寮を辞めようと思った矢先に姉さんが教室に飛び込んできた。
「ねぇ奏斗。寮に入るってどういうこと?おねぇちゃん聞いてないよ!」
やばい。滅多に怒らない姉さんが怒ってるよ。
「あ、うん。いま寮に入るのやめようと思ったとこ「ちょっとまったぁああ!!」田中T……」
今度は田中ティーチャーかよ!あとあんたそんな声出すキャラじゃなかった気がするんだけど!?
「ふぅ……大きな声を出してすみません」
「ええその通りですね。だから先生はさっさと――」
「桐生様!お願いします。どうか入寮を取りやめないでください!」
おおぅ。これが日本の伝統芸DOGEZAか。まるで芸術だな。……現実逃避はやめよう
「先生頭をあ――」
「男子寮は金食い虫なんです!」
「そ、そうなんですか」
「はい。そうなんです。男子寮は誰も使わないから無用の長物なんです。だから維持費ばかりがかかります。そして教員からはその金を他に使えと要求され、それを経理に言うとこれ以上維持費は削れないといわれ、校長先生に報告しても、男子寮を撤去すると印象の問題で男子生徒の確保が難しくなるから現状維持で、と言われ結局私は板挟みにあうという現状なのです」
やべぇ田中先生と前世の課長が重なって見えるよ。めちゃくちゃ心が揺れ動くんだけど。
「そこで桐生様が入寮してくだされば、誰も文句など言わなくなりますしむしろ予算の増額だってあるでしょう。そうすれば私の胃も助かるんです!」
「でも護衛はどうするんですか?以前寮の設備だけでは足りなかったんでしょう」
姉さんがここで痛いところをついていくぅ!鋭いよ。姉さんの言葉が鋭いよ!
「それに関しては安心してください……政府からの補助金が降りる予定ですから更にセキュリティをアップグレードします。そして今回特例として桐生様の担当のメイド ――天霧さんと追加で派遣される真霞さんが両隣に住む事が許可されました」
マジかよ!男子寮に女性とか本気じゃん。え、マジでどうやったの?すっごい気になるんだけど。
「それに加えて桐生様のお母様にも許可はとってあります」
もう完璧じゃん。根回しがすごいよ。……まぁここまでやってくれたなら大丈夫かな。
「田中先生」
「はい」
「俺、男子寮に入ります」
その言葉に姉さんと先生が激しく反応する。
「かなと!?」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
志帆姉さんがいるなら大丈夫だろうし、寮生活を満喫するチャンス。逃すわけには行かないよね。
「姉さん。別に家に帰らないってわけじゃないよ。土日はしっかり家に帰るから」
「でも、それじゃあ奏斗とあんまり会えないじゃない」
ここは一緒の学校というところをアピール
「でも一緒に学校に通う事はできるんだし、それで我慢できない?」
「う。で、でも」
もう一押しだな
「なんなら姉さんも寮に入ったら?そしたら遊びに来たりできるでしょ」
「……たしかに!!わかった今から入寮の手続き済ましてくるわ」
よし!これで説得完了。……さっきまでいた女子達がいなくなってるけどどうしたんだ?もしか「ねぇ奏斗?ちょっといいかな?」
「ど、どうしたの?」
なんか祐樹がキレていらっしゃる。なんでそんな怒っていらっしゃるのだろうか。
「さっきのってお姉さんを部屋に上げるって事かな?」
「そ、そうだけど」
逆にそれ以外にあるの?まさか扉越しに話すとか?ww
「……もしかしてそれが日常って事はないよね?」
「……………」
すみません。日常です。
「……いいかな?男の子の部屋っていうのはね普段から外では安らげない男性の唯一のパーソナルスペースなんだよ。だから基本的に女性は特別な用がない限り入ってはいけないというのが条例で決められてるんだ「条例……」そう。東京の条例。それに条例とかを抜きにしてもだよ、僕にはわからないけど男の子の部屋には特有の匂いがあって女性を狂わせるらしくてね、防犯面でも絶対にやってはいけないんだよ。あ、これは身内にも当てはまるから。それに…………」
人が少なくなり、少し寂しくなった教室で俺は延々と祐樹の説教を受けることになったのだった。