森の上の1$ガール
人生に絶望した18歳の少女は、初冬の森の中で不思議な一夜を明かすが…?
死んでやる。誰にも迷惑掛けずに。
親が離婚して、母に引き取られた。
通っていた進学私立校から移ったのは、5ランク以上格落ちの田舎の公立校。
授業は、前にいた学校でとうの昔に受けた内容。
母は仕事以外に能がなく、料理一つ出来ない。
やってられない。
家から少し離れた所に森がある。
そこで18歳の全能を掛けて遺書を書いていると、腹が立つことに日が暮れた。
暗がりの中で途方に暮れていると、何やらいい匂いがしてきて、嬉しそうな「できた」の声。
不思議なのは、それが上から聴こえたことだ。
樹を見上げると、私と同じくらいの年の子がいた。
「なんなの、あなた?」
「ワンダラー・ガール」
「$1(ワンダラー)?」
「私設ワンゲル部なの。ウチってワンゲル部がないんだ。転校して大失敗よ」
ワンダーフォーゲル、通称ワンゲル。山に登って喜ぶ人たちが作る部活。ワンダラーはワンゲル部員のことだ。
彼女は樹の上に寝泊まりできる足場を組んで、その上でご飯を炊いていたのだった。
「上がってこない?」
地上からたった10m上がっただけで、ラーメン・ライスがこんなにごちそうに思えるなんて、不思議だった。
ランタンのぼんやりした明かりの中、炊きたてのご飯からホカホカ立つ湯気とカップ麺の醤油の香りは、私の絶望感を優しくぶっ飛ばした。
ふたご座流星雨が今夜あるのだそうだ。
彼女も私が通う学校の3年。しかし、就活を軒並み滑った上、親から山ばかり登るなとキツく叱られ、家を飛び出して、星を見に来たのだという。
星が流れ始めるまで、私もポツポツと自分のことを話し始めた。
二人で話している内に打ち解けて、心が軽くなって行く。
借りた寝袋にくるまって星を見上げている内に、ツイ…ツイ…、と空に細い糸のようなものが見える気がした。
「始まったね」
はじける星空を見上げながら、私はいつの間にか寝てしまった。
貴女はワンダラーにならないで…
夢の中で彼女の声が聞こえて目が覚めた。
起き上がると、朝日に照らされた森が、靄の中にホゥと浮かんでいる。
しかし、彼女はいない。
こんなに綺麗な朝なのに、どこに行ったんだろう?
私は元の生活に戻った。
図書室の古い卒業アルバムで見付かった彼女は、黒い縁取りの中に写っていた。
私は努力して、念願の大学へ入学した。
彼女の願いを守って。
面白いタイトルでお願いね、ということで書いてみました。
字数制限がキツいので、割り切った構成にしましたが、いかがでしたでしょうか?