表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

三章8 繭化



 ライラの体が光に包み込まれる。


「くっ」


 レイルはまぶしさに目を細め、空中で止まった。

 光は細い糸へと変わり、しゅるしゅると繭を作り上げた。光がやむと、そこには小屋ほどの大きさをした真っ白な(まゆ)があった。


「繭化か……」


 レイルはほっと息を吐く。

 繭化はちょっとした刺激で起きることがある。落下の衝撃で、繭化が起こったようだ。しばらく待てば、ライラの背に羽が生えて、自然と繭から出てくる。

 今は眠っているはずだ。

 ライラの無事を、ひと目でいいからその姿を見て確認したい。だが、繭に手を出すのは禁忌だ。中途半端に羽化が終わると命の危険もある。

 深呼吸をして自身を落ち着けると、レイルは頭上をにらんだ。バルコニーから、ステファンがこちらへと飛び降りた。羽ばたいて、ふわりとレイルの前に着地する。


「シェーラ・ランドは捕縛しました」

「すぐにつながりを調べろ。手引きがなければ、あの箱入り娘には、ああして使用人の格好で近づくことなどできない」

「はっ、畏まりました。陛下、あの女の愚行を止められず、申し訳ありません」


 深々と頭を下げるステファンの腕を、レイルは上へと引いた。ステファンが顔を上げる。


「刃物を持ち出さなかっただけマシだ。まさかあんな細腕で、女を抱え上げて外に落とすとは思わないだろう」

「姫様への危害は警戒しておりましたから、部屋に入る前に、簡単にチェックしています。それでも、刃物は持っていませんでしたよ」

「部屋に食器があったからな。お怪我がないと良いのだが……」

「繭化したのが幸いです。あの時だけは、怪我も病気も癒えますからね」


 ステファンの言葉に、レイルは頷く。

 生まれた時から羽があるわけではない。羽化する時、魔力があふれ出して変容するのだ。羽化を生まれ変わりと呼ぶ者もいる。

 手足を失うような大怪我をしていても、羽化すれば五体満足に戻る。病気で内臓が弱っていても、羽化すれば健康になる。

 羽化した後に怪我や病気をするとどうにもならないが、羽化する前ならば健康を取り戻す望みがあった。

 だからこそ、ライラの癒しの歌は特別なのだ。周りに知られれば、良からぬ者に狙われるかもしれない。塔に閉じ込められていたから被害がなかったのだろう。皮肉な話である。


「私はここでライラ姫を見守っている。ステファンはあの女のことを調べろ。調査のためとはいえど、顔も見たくない」


 ライラが言うから温情をかけたのに、恩をあだで返す愚かさには腹が立つ。もう容赦しない。厳罰にかけるつもりだ。


「陛下、外は冷えます。どうか中にお戻りを」


 ステファンの吐く息は白い。レイルは首を振る。


「断る」

「しかたありませんね。では外套と、ストーブをお持ちします」


 レイルが言い出したら聞かないのは、従者をしていたステファンはよく分かっている。すぐにあきらめて、他のことを言った。


「ああ、頼む」


 レイルはそう返し、ステファンがお辞儀をして去っても、ライラのいる繭をじっと見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ