三章7 ベランダで
山のようなプレゼントは、使用人が部屋まで運んでおいてくれるそうだ。
彼らがプレゼントを運びだすのを眺めながら、ライラは不思議だと思った。
レイルがパーティーを開いてくれたのも、プレゼントも、ライラがお返しに手作りの品を作るというだけで感極まっている様子も、本当につぐないの気持ちだけなんだろうか。
まるで、それだけではないように感じられる。
ライラがレイルのほうを見ると、レイルもこちらを見ていた。思いがけず目が合って驚くと、レイルが照れ混じりに微笑む。その笑顔を目にしたライラの心臓がトクンと鳴った。
(な、何かしら、今の感じ……)
首を傾げていると、レイルが左手を差し出した。
「姫様、今日は晴れているので星がよく見えますよ。少しだけベランダに出ませんか?」
「ええ、構わないわよ」
ライラはレイルの手を取って、エスコートされるまま、小広間のベランダに出た。
冬は星がよく見える。
「綺麗ね」
息を吐くと、空気がふわりと白に染まる。しばし星に見入ったライラは、隣にいるレイルへと目を向ける。
「ええ、本当に」
「……レイル様、空を見て言ってくださらない?」
「星空の下にいるライラ姫様もお美しいです」
脈絡もなくレイルが褒めたので、ライラは反応に困ってしまう。
「急にどうしたの、レイル様」
「姫様、どうか聞いてください。私は姫様の姿を知る前から、姫様を……」
レイルの真剣な眼差しが落ち着かず、ライラはレイルを伺う。レイルが何か言いかけた時、女官がマントを手に歩み寄ってきた。
「失礼します。ライラ姫様、外は寒いかと。こちらをお召しになってください」
「ああ、気が利かず、失礼を」
レイルはしまったという顔をして、女官のマントを手に取ろうとした。
その瞬間、女官はライラへと一気に距離を詰めた。怒りに満ちた形相で、マントをレイルに放り投げ、ライラに掴みかかる。
「この悪魔! わたくしのものを奪うなんて! そこにいるのはわたくしのはずだったのに!」
「きゃあっ、やめて!」
長い髪を掴まれ、あまりの痛みに、ライラの目に涙が浮かんだ。声も顔も見覚えがある。レイルの元婚約者だというシェーラ・ランドだ。
どうしてここにいるのか。女官の格好をしている理由もわからない。
そこでレイルは頭からかぶせられたマントを掴んで外すと、床へ叩きつける。
「姫!」
「お前なんか、死んでしまえ!」
細い腕にどこにそんな力があるのだろうか。シェーラはライラの腰を掴んで持ち上げると、そのままベランダの向こうへ突き落とした。
「えっ、きゃああああ」
「姫!」
レイルがすぐさま手すりを乗り越え、ライラを追いかけて空を飛ぶ。その手がライラの右手を捉えようとした瞬間、ライラをまばゆい光が包み込んだ。
あっという間に光の糸が視界を覆い、ライラは目を閉じた。