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三章6 誕生日パーティー



 その日は昼間のうちに風呂に入り、淡い青のドレスに着替えた。化粧や髪のセットをする。ドレスと髪の飾りは真珠で、浮かび上がる泡をイメージしたものだと仕立屋が言っていた。

 ライラの支度が済むと、今度はメアリーとニコラの支度をライラが手伝った。メアリーとライラは貴族ではないのでドレスやドレス用の靴を持っておらず、レイルが気遣って用意してくれたのだ。

 二人は恐縮していたが、ライラが手伝いたかった。まるで親子か姉妹のように互いを飾り立て、とても楽しい時間を過ごした。

 日が沈むと、筆頭騎士のステファンが迎えに来た。


「外まで笑い声が聞こえていましたよ。仲が良くて結構ですね」


 微笑むステファンも騎士の正装をしており、ニコラがポーッとなっている。ニコラが見とれるのも当たり前で、ステファンは物語に出てきそうな美麗な様子だ。ライラとメアリーはくすくすと笑いながら、ステファンの案内で部屋を出る。二階の廊下を進んでいくと、ライラやレイルの部屋がある奥まった場所ではなく、公人が出入りする辺りに着いた。


「さあ、着きましたよ」


 ステファンが入り口を守る騎士に頷くと、彼らはゆっくりと扉を開ける。小広間ではシャンデリアが明るく輝き、長テーブルに乗っている料理や他のテーブルに積まれたプレゼントの山を照らし出していた。


「ライラ姫、ようこそ」


 レイルが笑みを浮かべてお辞儀をした。白い上着の肩には赤いマントをかけており、礼服姿だ。

 扉が閉まると、レイル達は声をそろえる。


「お誕生日おめでとうございます、ライラ姫」


 皆が拍手をして、後ろでパンッと何かが弾ける音がした。


「きゃっ、何!?」


 振り返ると、ステファンが紙の(つつ)を持っている。色とりどりの紙紐が天井高く飛び、ふわりと床に落ちるところだった。


「何ですの、それ。私もやってみたいわ!」

「ははは。そう言うだろうと思って、ご用意がありますよ。これはクラッカーというんです。人に向けて鳴らしてはいけませんからね。この紐を引いて……」 


 ステファンに教わるまま、クラッカーの紐を引く。ポンッと音がして、紙紐が飛んでいった。


「面白いわ! これっていったいどういう仕組みなの? 分解して調べたい」

「姫様、後でさしあげますから、とりあえずテーブルへどうぞ。料理が冷めてしまいます」


 レイルに促され、席に誘導された。夢中になると、調べたくなってしまう。クラッカーを名残惜しく見ながら椅子に着席すると、メアリーとニコラがおかしそうに笑っていた。ステファンに椅子を引かれ、二人もライラと同じ列の席につく。レイルがライラの向かいに座り、ステファンはその隣におさまった。

 給仕の青年がそれぞれのグラスに飲み物をつぐと、レイルが杯を持って口を開く。


「今日はライラ姫様の二十歳を祝う、ささやかなパーティーです。ライラ姫様に喜んでいただけたらうれしいです」

「ありがとうございます、レイル様。こんな大規模なものは初めてですわ」

「まだまだ小さいものですよ。ライラ姫様の(すこ)やかな日々を祈って、乾杯!」

「乾杯!」


 レイルが杯をかかげると、ライラ達も杯を上げた。

 甘口の飲み物は初めて味わうもので、ライラは目を丸くする。


「何かしら、これ。おいしいわ」

「ベリーの果実酒ですよ。姫様は甘いものがお好きなので、そちらにいたしました。料理もどうぞ。出来たてなので熱いですよ」


 にこにこと料理を示すレイル。

 ライラは目の前に並んだ料理に目を輝かせ、少しずつ食べる。子羊肉を使ったポットパイシチューに、ブロッコリーとにんじんのサラダ、メインは鶏の香草焼きだ。


(おいしい! お肉がほろっと口でとろけるわ。にんじんは甘く煮てあるのね。鶏の中に入れられた香草とお野菜がいい味をしてる)


 量が多くて少しずつしか食べられなかったが、ケーキを食べ終える頃には満足感でいっぱいだった。


「姫様、私、夢みたいです……。うう、こんなおいしいもの、初めて食べましたぁ」


 ニコラなんて感極まって泣いてしまい、メアリーに笑われる。


「泣くより、味わって食べないともったいないですよ」

「はい! そうですね、たくさん食べます」


 ハンカチで涙をふくと、ニコラは気を取り直して料理を楽しみ始める。


「メアリー、おいしい?」

「ええ。ありがとうございます、姫様。わたくし、この日のことを生涯忘れませんわ」


 メアリーも胸がいっぱいのようだ。


「レイル様、ありがとう。メアリーは私にとってはお母様と変わらないのよ。親孝行ができたみたいでうれしいわ」

「ええ、こちらこそありがとうございます。姫様の楽しそうな様子を見られて、私も幸せですよ。それと、プレゼントも用意したので開けてみてください」


 レイルに手招かれ、プレゼントの箱が積まれたテーブルのほうへ行く。

 ドレス、アクセサリー、宝石箱、絵、人形とさまざまな物があり、一つ開けるたびにライラは歓声を上げた。


「まあ、すごいわ、レイル様! この本って図鑑でしょう? 植物とお花、動物に、星座もあるわ」


 ライラが特に飛びついたのは本だ。持つだけでずっしりとくる大判の図鑑だ。表紙だけでなく、中にも繊細な絵が描かれており、見ているだけでわくわくしてくる。


「姫様は本のほうがお好きみたいですね」

「どれも素晴らしいけれど、本が好きなの。レイル様、お誕生日はいつ?」

「春なので、まだ先ですよ」

「ねえ、男の方には刺繍のハンカチなんて嫌かしら?」


 お返ししようと思ったが、ライラには自由になるお金がない。思いついたのは手作りの品だ。

 レイルは衝撃を受けて、なぜか頬をつねる。


「えっ、これは夢ですか? ライラ姫様が私に刺繍のハンカチをくれると聞こえた気がします。幻聴……?」

「もうっ、失礼な方ね! いらないんならいいです」

「いりますいります、喜んでいただきますとも! でも、できれば刺繍の香り袋のほうがいいですね」

「香り袋?」


 良い香りのするハーブを入れる袋のことだ。ベッドに下げるのだろうか。


「ベルトに下げて、周りに自慢しようかと」

「何それ。自慢って……」


 思ったよりも子どもっぽい理由だったので、ライラはぷっと噴き出した。


「ええ、分かったわ。好きな色や図案を教えてくれたら、作ってさしあげますわね」

「姫様……ありがとうございます」

「私がお祝いしてもらった側なのに、どうしてレイル様がお礼を言うの?」

「あんなに悪魔だの帰れだの言われていたので、何かしてくれるだけでうれしいんです」

「う……。あの時は悪かったわ。ごめんなさい。だからそんなに感動しないでちょうだい。私がかなり嫌な人みたいじゃない」


 ライラがつんとそっぽを向くと、レイルが慌て始めた。


「そういうわけではないんです。すみません!」


 いつものやりとりをし始めた二人を、メアリー達は微笑ましげに眺めていた。


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