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二章3 乗馬



 ニコラを侍女にしたのは正解だった。

 彼女は働き者で、メアリーを尊敬してよく慕っている。メアリーには家族がいないので、娘のような年齢のニコラのことをとりわけ可愛がっているようだ。

 ライラと三人で雑談することが増えた頃、外は雪で真っ白に染まった。ライラが窓から外を見ていると、レイルが訪ねてきた。


「姫様、これから馬に乗りませんか?」

「馬?」


 馬と言われても本の知識くらいしかないが、レイルの見せてくれるものはどれも面白い。


「行くわ」


 すぐに了承して、メアリーが持ってきてくれた毛織のマントを着て、レイルとともに出かける。

 玄関から外に出ると、騎士の男が五人、馬を連れて待っていた。ライラの筆頭騎士となったステファンが、恭しくお辞儀をする。


「姫様は、乗馬は初めてですから、今日は私が引かせて頂きます」

「よろしくお願いします」


 乗馬が初めてだと、引く? なんのことだかライラには謎だが、手伝ってくれることは分かったので、ライラはそう言った。

 レイルが優しい茶色の目をした白馬を紹介する。


「姫様、こちらが姫様の馬です。大人しくて優しい雌馬ですよ。名前はスノウライト」

雪明かり(スノウライト)? まさしくそのような感じですわね、綺麗だわ!」


 ライラはひと目でスノウライトを気に入ったが、こんな大きな動物を間近で見るのは初めてだ。恐る恐る近付き、レイルの見よう見真似で、頬の辺りを撫でる。大人しいと言うだけあり、ライラが触ってもじっとしている。


「なんて可愛いの」


 頬をほころばせて、レイルに笑顔を向ける。


「ええ、とってもお可愛らしいです!」


 レイルも気に入ったようだ。うんうんとライラは頷き、スノウライトを撫でる。

 それから馬の横に立つと、レイルがライラの腰を手で支えて、抱き上げた。


「きゃ!?」

「あ、失礼しました」


 驚いたのも束の間、気付けば鞍の上に横座りしている。


「女性は横乗りするものなので、このまま座って、背筋を伸ばして、鞍の取っ手を掴んでください。はい、そうです」

「視界が高くて少し怖いわ」

「私が後ろに乗りましょうか?」

「え? いえ、結構です」

「そうですか」


 断ると、レイルはあからさまに残念そうに肩を落とす。ステファンが小声で笑う。


「陛下、おかわいそうに」

「笑うな」


 茶化す部下に言い返し、レイルは自分の馬に乗る。ステファンが馬の前のほうで手綱を持ち、ライラに話しかける。


「ゆっくり参りますので、安心してください」

「ええ」


 ライラが頷くと、ステファンはスノウライトの手綱を引いた。ゆっくりとスノウライトが歩きだし、その揺れにライラはドキドキしたが、次第に慣れてきた。

 雪に覆われた道を進んでいく隣に、レイルが馬を並べる。


「いかがですか、姫様」

「面白いわ」

「その馬はプレゼントしますよ。ですが、乗りたい時は、私に声をかけてください」

「構いませんけど、どうして?」

「一緒に乗馬を楽しみたいんです」


 レイルはにこにこと希望を口にする。ライラはふと、その目にうっすらと隈が浮いているのに気付いた。


「最近、忙しいのではなくて? わたくしが一人で乗れるようになったら、お誘いするわ」

「いえっ、できれば私が教えたいだけです!」

「レイル様」

「はいっ」


 ライラがちょいちょいと手招くと、レイルは馬を傍まで寄せた。ライラは左手でしっかりと鞍の取っ手を掴み、右手をレイルのほうへ伸ばす。レイルが不思議そうにこちらに身を寄せたので、その顔に手が届いた。ちょんと目の下の隈に触れる。


「ほら、隈になってますわ。外に慣れない私を案じてくださるのは嬉しいけれど、まずは体調を整えてはいかが?」


 きょとんとしたレイルの顔が、ぶわわっと朱に染まる。


「は、はいっ。気を付けます。しかし姫様と過ごす時間は、私の少ない楽しみですし、乗馬は気分転換にもなりますから」


 よく分からないが、レイルはライラの乗馬に付き添う理由をつけようとするので、ライラは首を傾げる。相変わらず、どうしてレイルがそんなにライラのことで一生懸命になるのか謎だ。


「その隈が消えたら考えますわ」

「分かりました」


 残念そうにしたものの、レイルの顔には笑みが浮かぶ。


「どうかしたの?」

「姫様に心配していただいて、大変うれしいです。ありがとうございます」

「まあ、そんなに喜ぶなんて。もしかして、私が冷血漢だとでも思っていたの? 失礼ね」


 ライラは馬上で姿勢を戻し、ぷいっとそっぷを向く。


「ええっ、そんな、姫様。違いますから!」


 慌てて弁解するレイルの声を聞きながら、ライラはステファンに声をかける。


「ステファン、馬を進めてください」

「はい」


 ステファンは素直に頷いたが、こらえきれずに笑っていた。


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