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片目の竜使い  作者: にょろにゃん
第一章 バルバトス
8/17

ヴァーレントム王都


 ミカエルの背中から見下ろす。

 休憩を挟んで一日の飛行を続き、俺たちは森を越えて平原に来た。

 そして平原は視野が良好となり、点在する村ははっきりと捉える、村の周りで広がった耕地も目に映っていた。 

 村を連絡する道も、その上で走る馬車も、一目瞭然とはこの光景を指しているだろう。

 でも、これは多分下からも俺たちを発見できるから、ミカエルにもっと上に目指して飛べさせた。

 丁度手を上がれば雲に届くの高さになるまで上昇を続いた、これでミカエルの白い肌色が保護色になれるはずだ。


 雲が指の隙間に通り抜けて行く。

 柔らかい、そして湿っぽい、後は気持ちいい、癖になりそうな触感だ。

 俺は手を雲に突っ込んでいながら、下へ見渡して、目的地であるヴァーレントム王都を探す。

 ヘイムス村で手に入れた情報からして、ヴァーレントム王都は山岳地帯の周辺の平原で建立している。

 だから山を探せば、多分王都も見つけるはずだ。


 しばらくの時間を掛けて、王都らしきところを見つけた、岩山の周辺にあって、今まで一番大きな都市、多分あそこだ。

 その岩山を指差してミカエルに教えて、向きを変えた。

 山だから、ミカエルの大きい身体を匿うには多分行ける。

 そしてついたとき、俺はミカエルから降りて、山裾をみる。


「高いな」

「キュウ~?」

「いいか、絶対誰にも見つかるなよ」

「キュ~」

「いいな、腹が減った時以外、ここから離れるな、分かったな」

「ギュウイ!」


 う、五月蠅いだと!?

 誰のせいでこんなことになったと思うんだ!

 馬鹿竜め、今は許してやる、次の時はお仕置きだからな!


「チッ、俺は下へ降りる、じゃあな」

「キュ~ウ~」


 馬鹿のミカエルを放って置いて、王都に向かう。


 山から下りて、裾に位置する小さな森に入り、狩りを始めた。

 王都を入るには、通行料が必要だ、出発前にアレンさんから聞いた。

 でも俺は金なんか持てない、素寒貧だ。

 王都だから、きっと商人たちが出入りしている。

 その中の一人に獲物を売って金に換わる。

 通行料は確か100メル、メルとはこの国に流通している貨幣のことだ。

 そして森の中で一匹の比較的に大きなオオカミを狩り、オオカミを引きずって森から出た。


 高く冷たくてすべてを拒絶するような、壮麗の城壁。

 これが、ヴァーレントム王都だ。

 城門から並んでいた列に、順々人を探す。

 そして商人らしき者を見つけた。

 その人に近付いて、後ろのオオカミを指差して問うてみる。


「これ、100メルに値するか?」


 まず俺は上から下へと見据えてから、笑顔を表した。

 騙す気満々だな、きっといいカモに思われたのだろう。

 でも現実はその通りだ。

 俺は相場が知らないからな、最初から騙されると分かっていた。

 しかし俺は王都に入る必要がある、だからここに騙されても仕方ない。


「なになに? おお、それなら100メルで足りるぞ」


 100メルだけで俺が通行料がほしいのを見破った。

 さすが商人と言うべきか。


「これを売りたい」

「もちろんいいですよ、はい、これは100メルだ」


 懐から、銀色の貨幣を取り出して俺のオオカミと交換した。

 もう用はない、列の一番後ろに並べるために離れた時、背後から軽蔑の小さな声が聞こえた。

 馬鹿なやつ、と言っていた。

 ほら、やはり騙された。

 予想中の事だから、そもそも商人に通行料を匂わせるのも俺だからな。

 じゃないと最初から100メルに値するか? とか聞かないさ。


 順番待ちに長い時間を費やして、やっと俺の番になった。

 名前とどこから来たのを話して、通行料を渡したら簡単に入れさせてくれた。

 さすが王都と言うべきか、人と多い。

 建物は石造りと木造りそれぞれ五割かな。

 人波に流されて小石で敷いた大通りを沿いで歩く。

 ついでにある建物を探す。

 時は人に尋ねてそれを見つけた。


 ギルド。

 二階立ての建物だ。

 冒険者になるために入る必要のある施設だ。

 生きるためには金が必要ではないけど、少なくともあった方がないよりマシだ。

 そのために、このギルドで登録する必要がある。

 ギルドの扉を押して中に入る。

 外の人波からしては、ここの人が少ない。

 たぶん来た時間の関係だ。


「新しい方ですね、何がご用ですか?」

「俺は冒険者になりたい」

「では、こちらの書類を記入してください」

「分かった」


 記入必須の項目を全部書いたら、さっきの職員さんに渡した。

 職員さんは何か手続きを続いて、そして一つの腕輪を渡した。


「これは何だ?」

「ギルドに所属し、かつ冒険者であるの証明です」

「へえー」


 すぐその腕輪をつけた。


「この色は意味あるのか?」

「色はランクを示す、あなたは今Fランクだから、黄色になります」

「ランク?」

「それすら知らないのですか? ギルドは全部七つのランクがあります、一番下のFランクからSランクまで、全部七つ。 そして黄色はFランクです」

「そう」


 つまりランクを上がれば色も変わるんだ。


「依頼は? 受ける場合はどうする?」

「依頼はあそこの掲示板で探してください、受ける場合こちらで手続きをします」

「分かった。 それと、依頼を受けないまま、獲物を連れてきたら?」

「その場合はこちらで買い取り出来ますが、報酬は依頼を受けるより低くなります」

「分かった、ありがとう」


 掲示板の前に立って、何か受けられる依頼があるかないかを探してみたが、Fランクの殆どが薬草探しとか何かの運搬とか、まさにFランクの仕事だ。

 こんないい加減なものより、自分で狩りをする方がマシだな。


「もう一つ聞いていいですか?」


 受付に戻り、さっきの職員さんに聞く。


「何でしょうか?」

「城門から出るときは料金払う必要があるのか?」

「それも知らない何で。 料金はいらない、腕輪を出して示してください」

「分かった」


 態度の悪い職員さんだな。

 まあ、別にいい、聞きたいことも聞けたし、俺の邪魔もしていない、態度が悪いだけだ。

 そして俺は城門から出て、オオカミを取った森に入った。

 森に入ってから十分くらいか、木の上で休憩しているサルを見つけた。

 俺はサルの後ろにいるから、気付かれていない。

 ローブの中に魔銃を静かに取り出して、照準しないまま引き金を引いた。

 こんな距離で、しかも的は動いていない、見なくても当たれ......る......


 外した。

 サルは攻撃がどこから来たのかは分からない、でも場所を変えるべきだと分かっている。

 つまり逃げた。

 俺はゆっくりと魔銃をローブの中に収まる。

 ミカエルが傍にいなくて良かった。

 3年間、

 俺はこの魔銃を3年間も使った。

 それなのに、さっきのは外したのだ。

 信じられない、

 信じられるか!

 俺がこんなミスを犯すなんて、誰が信じるか!


 さっきは何もなかった。

 そうだ、俺は止まっていないし、魔銃を取り出していない。

 次の、じゃなくて獲物を探そう。


 30分後、ようやっと次の獲物を見つけた。

 黒色のベアーだ。

 しかも人より3倍大きい。

 足元が音を起こさないように注意してつつ移動する、同時に魔銃を取り出す。

 ゆっくりと、ベアーの頭に銃口を合わせて、息を詰める。

 そして俺が引き金を引くとき、黒いベアーはいきなりこっちに振り返って咆哮した。

 気付かれた!?

 チッ、仕方ない、何故ばれたのかは分からないけど、ばれた以上隠す意味はなくした、すぐベアーに照準して発砲する。


「『バーストショット』!」


 しかし急いでいるせいか、頭から外れてベアーの右前足に当たった。

 一つの足を失い、激おこしたベアーは俺に向かって突進する。

 次の弾丸で仕留めるつもりだが、ベアーの予想以上のスピードで諦めた。

 速い、もう俺の前に到達して、怪我を受けてない前足で薙ぎ払った。

 もう魔法でやるしかない、左手で突き出して、マナの奔流を解き放った。


「『パイルバンカー』!」


 事の終わりを見てほっとした。

 ベアーの左手は俺の首に届く寸前で止まった。

 もし一歩遅れたら、俺はもう死んだのだ。

 あぶねぇ。

 久し振りに冷や汗をかいた。

 さっきのこともあるから、どうやら今日はついてないな。

 もうベアーを狩ったし、これで帰ろうか。

 それにしても、これはどうやって連れて帰る?

 ......人より大きい身体を持ち上げるなんて無理だ、ベアーを転がせるしかないか。

 それを試したら、


「重っ!」


 でもこれ以外の方法が思いつかない、続けるしかない。

 道中ずっと他人の視線を浴びて、愚痴をこぼしながらなんとかベアーをギルドまで転がせた。

 それでギルドに買い取りをさせるとき。


「おいおい、このブラックベアーを取ったのはどこのどいつだ?」


 隣からは話しかけてきたやつがいた。

 ハゲ、しかも弱そう。


「誰だ、お前」

「俺様はCランクのハークだ、それでこのブラックベアー取ったのは誰だい? 正直に言え、誰も責めたりしないからな」


 ブラックベアーというのか、そのままだな。


「俺が取ったのだ」

「アッハッハッ、嘘は良くないよ、ガキ。 今日は行ったばかりのルーキーが、ブラックベアーを取れる訳ないじゃないか、そうだよな、みんな?」

「おう!」

「そうだそうだ!」

「嘘は良くないぞ!」


 何だ、この茶番は?


「ほら、みんなもそう思うんだ、だから正直にどうやって拾ったのかを言え!」

「だから俺が取ったって言ったんだろうか」

「だから嘘をつくな! 貴様みたいなガキがブラックベアーを取れるものか! まあ、でも俺様は心が広いんだ、だから俺が代わりに受け取ってやるよ」

「はあ?」

「聞こえないのか? 俺様が代わりに受け取ってやるって言ってるのさ」


 もういい、こんな馬鹿と話すのは時間の無駄だ。

 そんな馬鹿を放っておいて、さっさと終わらせようと俺は職員さんに催促した。


「本当に貴方が取ったのですか? 当ギルドは不正を許していませんから、正直に言ってください」


 はあ?


「まさかお前もこの馬鹿の話を信じるのか?」

「だからお前がこんな大物を取れる訳がない、その過程を話せって言ってんのだ! たった運が良くて見つけたのか、それとも誰から奪ったのか、さっさと言え!」


 あーあー、頭にきた。


「つまり、俺がこれを取れる実力を示せばいいのだな?」

「そうとも言えるのだ、でもお前は出来ないでしょう?」

「ならお前で試してやろうか?」


 殺意を込めてハゲを睨んで言葉を出した。

 しかし、その結果は、


「ヒッ!」


 相手の怖がっている面相。

 チッ、実力ないなら最初から構ってくるな、鬱陶しい。


「で? 買い取ってくれるのか?」

「済みませんですか、あなたが取った事に証明できませんので、拒否いたします」


 チッ、もう時間の無駄だ、獲物を連れてほかの場所で売るか。

 そう思い、俺はベアーに手を伸ばしたが、職員さんに止められた。


「あなたは不正の容疑があるため、このブラックベアーは押収します」

「そうだそうだ、お前は大人しく帰りな」


 まだいるハゲはさておき、ブラックベアーの向こうにいる職員の顔を睨む。

 ゆっくりと口元に浮かべた微笑み。

 なるほど、こいつもこれを独占したいのか。

 本当に、どこまでも腐った場所だな。

 はあー、ここから離れよう、もう遅いから今日は適当な裏街道で寝るよ、金がないし、宿を探す気もない、もう腹が一杯だ。

 でも、その前にやらないことがある。


「『サファイアフレイム』」


 身体中の莫大なマナを対価として、青玉色の炎が燃え上がり、間もなくベアーを呑噬した。

 ブラックベアーを余燼に返させる事は出来ないが、少なくとも毛皮はもう売れない、骨と爪とかは残っているが、それも高く売れないだろう。

 それに俺は血抜きをしていない、売れる肉も少ない。

 それでもこいつらの金になることに憤怒を感じたが、どうにもならないから諦めた。


「ひっ!?」

「きゃあ!!」


 こいつらの間抜けな顔が見られたのだ、それでいいじゃない?

 俺はそうやって、自分を慰めるしか出来ない。

 ギルドで魔法を使ったことが何かの騒動を起こしたが、俺はもうここに居たくないから、耳に伝わる騒々しい声を無視して外に出た。

 相変わらず無一文の状態じゃどこにも泊めないから、眠りやすい裏街道を探すか。


 何の情報もないし、うろうろしながら町の観光をしてた。

 もうすぐ太陽が完全に落ちる時間だ。

 この王都では街灯があるから、急がなくても大丈夫けど、寝る場所をさっさと見つけたい。

 この義眼の性能なら例え深夜だとしてもはっきりと見えるが、もう遅いし厄介なことに巻き込まれたくない、胸くそなことはもう十分だ。


 しかし夜になったとしても、俺はまだ歩き続けている。

 何故か夜の街並みが俺の興味を引いた。

 朝は人が溢れているのに、夜になると静寂で穏やかに、儚くて美しい。

 何もない、俺の足音以外何も聞こえない、でもそれが気持ちいいのだ。


 自分のペースで前に進む。

 周囲に人が居ないから気ままで、自由で、かつ開放的で、まるで自分だけの世界に入り込んだような、夢幻の雰囲気。

 大通り沿いに何時間も歩いて堪能した後、俺は裏街道に入り、比較的に汚れていない場所に座った、知らない誰かの家の壁を背にして、休憩に入る。

 明日はもう一度狩りに行って、ギルドで換金してみる、もしまたダメなら諦めるしかない。

 そうでしたら、新しい稼ぐ方法を探さないと、旅するために色んな物を揃えたいから。 

 にしても、ミカエルは今なにやっているんだろう?

 でもあいつのことだから、多分今も寝ている。

 竜はいいな、何も考えなくて。


 極端に言うと、俺はあいつと一緒なら、世間から離れた場所でも生きていられる。

 しかし俺はまだ人間社会に執念を持っている、それは未練と同じなのか、俺自身も分からない。

 俺は一体何に執着しているのか、今の俺には理解できないだろう。

 それでも別にいい、もし、いつか俺が人間社会に飽きたら、ミカエルと何処かの深山に隠せればいい。


 俺があんなことやこんなことを考えているとき、もう閉じた目蓋を越して誰が近付いて来るのを見た。

 青い髪をした一人の女性でした。

 その女性は夜に似合いそうな儚げな女だ、しかしそれだけじゃない、あと一つのものを感じた。

 しかしそのものは何だ?

 初めての感覚で、心のどこが変。

 分からない、最近は自分の心がますます分からなくなってきた。

 俺は、まだ俺なのか?


「あのー、大丈夫ですか?」

「何かが?」


 座っている俺に対して、彼女は膝に手をつき、俺の目線と同じ高さに合わせてから話した。

 取りあえず目を開けて返事をする。


「もしかして住む場所がないの?」

「だから何?」


 目の前に居る女性は、何故か申し訳なさそうな顔を浮かべながら、俺に問う。


「もし良ければ、うちに住む?」

「はあ?」


 この女は何言ってんの?

 男をお家に連れて帰る気? 痴女?

 でもこれはなにかのデジャブだな。

 ああ、なるほど、また俺が女だと勘違ったのか。


「俺は男だぞ」

「性別なんて関係ありません、孤児院は誰でも受け入れますから」

「孤児院?」

「はい、私のうちは孤児院です」


 孤児院の人なんだ。

 でも人を簡単に信じるな、ギルドの一件で余計な警戒心を抱いた。


「対価は?」

「はい?」

「住ませる代わりに、俺にさせたいことは?」

「うむ......では、孤児院の子供たちと遊んでくれないかしら?」


 簡単に聞こえるけど、生憎俺は子供の扱い方が分からない。

 でもやる価値はある、試してみようか、それで宿代は省けるし、ベッドにも寝れる。

 前提は、本当にこれだけなのか?

 分からない。


「分かった、やってみる」

「ありがとうございます。 私の名前はマリアです、あなたは?」

「バルト」

「ではバルトさん、私と帰りましょう」


 やはり、分からない。

 この女は一体何を考えているのか、何を企んでいるのか、

 時が過ぎれば分かるようになれるんだろう。

 そして一つだけ今でも分かる、俺はこの女性が苦手だ。




**********




 マリアさんについて、いくつの裏通りを抜いて、街の中心から離れたある屋敷に来た。


「古いな」


 何年も経って修繕されていないのは一目瞭然だ。


「うちは貧乏ですからね、修繕には回らないです」

「それにしても、隣が教会なのか」

「ここは教会附属の孤児院で、そして私は教会のシスターです。 この孤児院と教会は私一人で回らないとダメですから、やり甲斐がありますよ」

「一人?」


 こんな広い場所を全部一人で?


「はい、私一人だけです、時々子供たちに手伝ってくれますが、基本的に私だけです。 さあ、入りましょう」


 そう言って、シスターのマリアさんはドアを開けて入った。

 俺は彼女の後について中に入る。

 屋敷の中は貧乏な外見と違ってピカピカで清浄で、大切しているのが一見で分かる。


「さあ、まずは部屋にご案内しましょう、夕ご飯は私が作りますから、少し待ってください」

「あ、ああ、分かった」

「では、こちらへ」


 そしてマリアさんは俺を二階のある部屋に連れてきた、背中にチクチクと視線を感じたが無視した。

 心の中で、また二階か、と呟く。

 案内されたベッドしかない部屋に入り、何も抜かないままベッドに倒れ込む。

 何故か部屋と言うと寝るしか思いつかない、だから別に不快感はない。

 扉の向こうに居るマリアさんが離れたのを感じて、俺も少し眠れようとした、


 トントン。


 が、部屋のドアが叩かれた。


「誰だ?」


 ......返事が来ない。

 まさか空耳?

 そう思い、また眠りに戻ろうとしたとき、外からヒソヒソ声を聞こえた。

 扉越しだから、何言っているのかは聞き取れない。


 トントン。


 そしてまた叩かれた。

 仕方なく、扉を開いたが、


「誰だ?」


 ......扉の前に誰もいない。

 イタズラ?

 扉をもう一度閉じる、そうしたら頭が一つ隣から出てきた。

 嫌二つか......三つになった。

 したから一つ一つ重ねて現れてきた。

 遊んでいるのか? こいつらは。

 もしそうでしたら、こいつらはいいコンビになれるな、息がぴったりだし。

 ここに来るとき背中の視線も、多分こいつらでしょうか。


「何だ?」

「ね、ね、あんたは誰?」

「名前は?」

「マリア先生とはどんな関係?」

「一気に質問してくるな」


 同時に質問されたら、答えるのが煩わしくなるじゃないか。

 取りあえず扉を大きく開けてから、ベッドに座る。

 そして勝手に入ってきた子供たち三人、請じ入れる手間が省けた。


「で? お前たちは誰だ?」

「あたしはアイリー」


 ない胸を張っていた癖のある赤毛の女の子、三人の中では多分一番年上だ。


「普通」

「ちょ!」

「お前は?」


 胸が張っているから、もしかしたら感想がほしいかも。

 適当にあしらって、次の子供を催促する。


「俺はカイル、騎士になるものだ!」

「生意気」

「なに!」

「お前は?」


 子供のくせに俺とかは生意気だ。

 昆布茶色の髪をした男の子だ、多分自分なりに鍛錬したけど、筋肉のバランスが悪い。


「シャル、あなたは?」


 最後の、大人しそうな女の子。

 亜麻色の髪は腰までも伸ばして、まつ毛が長い、そして紫の瞳。

 まるで妖精だな、俺が素直にそう思われるほどの異常さだ。


「バルトだ」

「えー、バルトってちっとも女の子らしくない」

「つまりバルトちゃんだな」


 バルト、ちゃん?

 女扱いは予想したが、さすがにこれはきつい。


「二人の馬鹿、バルトは男の人ですよ」


 え? 俺の聞き間違いかな?


「もう、シャル、失礼ですよ」

「そうだぞ、女の子を男の子にしてはいけないんだぞ」

「いや、俺は男だ」

「え? ウソ」

「そうなんだ、ならバルトくんだ」

「ほら、二人の馬鹿」

「ちょっと!」

「な、シャル、どうしてバルトが男だと分かったの?」

「そんなの、骨盤を見れば分かるじゃない、だから二人はいつも大雑把すぎる」

「「げっ」」


 骨盤?

 そう言えばミリ-さん、ルーティの母もそうやって見分けたのだな。

 女と男の骨盤はそんなに違うのか?

 俺には見分けないけどな。


「それで? お前たちは何しに来た?」

「「あ、そうだ!」」

「馬鹿。 バルトはマリア先生とどんな関係?」

「全く関係ないけどな」

「じゃあバルトも拾われたの?」


 拾われた、か。

 しっくり来るし、まったくその通りだな。

 それに“も”からして、マリアさんの人物像が捉えるな。


「いやいや、シャル、それはないよ」

「そう、さすがのマリア先生もこんな大きい子供を拾わないよ」

「いた、拾われたのだ」

「「ええぇ!?」」

「ほら、二人の馬鹿」


 見覚えのある反応だな。

 記憶の中のそれは、まだ二日前のことなのに、懐かしいと感じた。

 しかし最後の心情は、未だに残っている、心をチクチクする。


「あ、でも男なら、もしかしてマリア先生の彼氏?」

「いやいや、それはないよ」

「どうして分かるのよ!」

「だってマリア先生と結婚するのは俺だから」

「チッ、カイルの馬鹿!!」

「何だと! もう一度言ってみろ! ばかアイリー!」

「ばか!」

「ばか!」


 まさか俺が話する前に、二人の世界に入り込んだとは。

 そんな二人を横目で見つつ、シャルは小さくダメ息をついて、こっちに近付いてくる。

 目でなんだ? と問うたが、返事が来ないから、少し眉を顰めた。

 そんな俺を無視して近付いたシャルは、ほいっと、俺の膝の上に座った。


「ダメ?」


 突然のことで少し困惑した俺に、シャルは頭を後ろに引いて、上目遣いで俺に尋ねた。

 俺の顔を映っている、大きくて人を吸い込まれるような、透き通る紫の瞳。 


「勝手にしろ」

「なら勝手する」


 そんな言葉で返されたのは初めてだな。

 まあ、重くないし、子供だから別にいいか。


「おい、お前ら、いつまで喧嘩するのだ」

「「喧嘩じゃない(してない)!!」」

「ああ、はいはい、で? まだ何か聞きたいのか?」

「うん、まだあるよ、あれ?」

「シャル、何時そこに?」

「ついさっき」


 まだ質問あるのか、面倒くさい。


「問題あるのはいいけど、その前に」


 一息を吸うってから、大声で扉に向かって話す。


「外の奴らも、入ってこい!」

「「「「はーい」」」」


 扉が開かれ、外から入り込んだ四人の子供たちだ、全員男の子。


「で、お前たちは?」

「僕はアル」

「イル」

「ウル」

「エル」

「「「「僕たちは、オール五人組だ!!」」」」


 四人なのに、五人組?

 突っ込まないぞ。

 それにしても、この孤児院は個性に満ちた子供たちが多いな。

 ......また扉越しに声が聞こえた、まだあるのか。


「残りの、入れ!」


 一人には十分な空間が、一気に子供が溢れて混雑になった。




**********




「お話し!」


 結局は、俺の話がどうでもいいになった。

 子供たちの年齢がバラバラで、みんなの興味も違うから、話せることも自然に少なくなる。

 なら一番下の子供に合わせて、物語を聞かせてて頼まれた。

 これも対価の一つだ、そう思えばやる気になるが、生憎物語なんて一つも知らないのが俺なんだ。

 だから別の策をとる。


「お前ら、竜って知ってる?」


 俺が一番話せることだからな。


「おれ、知ってる、空に飛ぶやつ!」

「ばか、それは鳥だよ!」

「飛べるもん! 長い尻尾があって、かっこいいのが竜なんだ」

「それはドラゴンだよ!」

「だから竜とドラゴンは同じなんだ!」

「そうなの?」

「そうだよ」


 よし食いついてきた。

 しかも子供だから、ちょっと他人より多く知っていると調子になって自発的に、代わりに解説するのだ。

 説明する手間が省けたな。

 ついでに、シャルはまだ俺の膝に座っている、人数からして部屋が小さいから、ベッドにも年の小さい子供が座っている、

 つまり俺は今子供に囲まれたのだ。


「ああ、そのドラゴンだ、興味あるのか?」

「「「ある(あります)!」」」

「ドラゴンはな、馬鹿なやつだぞ」

「ぶっ!」

「えぇー!」

「ウソだ!」


 反応様々だな、笑った子も、信じた子も、疑った子も。


「ウソはついていないぞ、俺は見たことあるからな」

「本当!?」

「いつ見たの? どこ?」


 さすがに毎日見てるのは言えないな、ドラゴンを見たくて俺の後ろについたら厄介だ。


「昔の時で、遠いところだな、それはある山の上だ」


 だから適当に捏造するしかない。


「まだそれー?」

「胡散臭い!」

「そうよ」

「まってまって、急がすな。 その日はな、俺はいつも通り肉を焼いている」

「肉焼き!」

「美味しいそう!」

「ふん、そしたら空から突然に大きな影が降りてきた、俺はそれにつられて、振ってみたら、まさかのドラゴンだ」

「そのドラゴンはな、俺が生じた焚き火の近くに着地して、俺のことを見た。 あの時は超緊張してたさ、食べられるのかなって」


 全くの捏造だけど、これで丁度いいかもしらない。


「俺は長ーい時間を掛けて、ドラゴンのことを注視した、怖がっているのさ、でも俺は気付いた」

「なに?」


 子供の一人が、みんなの代わりに聞いた。


「ドラゴンの目が怪しいんだ」

「「「「「怪しい?」」」」」

「そうだ、怪しいのだ、何せドラゴンは俺を見ていない、ドラゴンが見ているのは......」

「「「「「......」」」」」


 なるほど、子供は分かりやすいな、期待してる目を見ると、そんな感想が湧いてきた。


「俺の手にしている肉だ」

「ブッ」

「はっはっは!」

「食いしん坊のドラゴンだ!」

「ああ、そうだ、ドラゴンは食いしん坊だ」


 初めてミカエルを拾ったとき、あいつの肉につられた姿は、どうしても忘れないんだ、今でもあの間抜けな顔がはっきりと浮かべる。

 それから、俺はずっとミカエルとの昔話を話した。

 もちろん、色々加筆したけどな。

 あの遺跡(ダンジョン)で出会った以来、俺とあいつが歩いてきた道。

 その中の一つ一つを子供たちに話した、決して色褪せない記憶。

 そしてつい、


 トントン。


 扉が叩かれた。


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