ヴァーレントム王都
ミカエルの背中から見下ろす。
休憩を挟んで一日の飛行を続き、俺たちは森を越えて平原に来た。
そして平原は視野が良好となり、点在する村ははっきりと捉える、村の周りで広がった耕地も目に映っていた。
村を連絡する道も、その上で走る馬車も、一目瞭然とはこの光景を指しているだろう。
でも、これは多分下からも俺たちを発見できるから、ミカエルにもっと上に目指して飛べさせた。
丁度手を上がれば雲に届くの高さになるまで上昇を続いた、これでミカエルの白い肌色が保護色になれるはずだ。
雲が指の隙間に通り抜けて行く。
柔らかい、そして湿っぽい、後は気持ちいい、癖になりそうな触感だ。
俺は手を雲に突っ込んでいながら、下へ見渡して、目的地であるヴァーレントム王都を探す。
ヘイムス村で手に入れた情報からして、ヴァーレントム王都は山岳地帯の周辺の平原で建立している。
だから山を探せば、多分王都も見つけるはずだ。
しばらくの時間を掛けて、王都らしきところを見つけた、岩山の周辺にあって、今まで一番大きな都市、多分あそこだ。
その岩山を指差してミカエルに教えて、向きを変えた。
山だから、ミカエルの大きい身体を匿うには多分行ける。
そしてついたとき、俺はミカエルから降りて、山裾をみる。
「高いな」
「キュウ~?」
「いいか、絶対誰にも見つかるなよ」
「キュ~」
「いいな、腹が減った時以外、ここから離れるな、分かったな」
「ギュウイ!」
う、五月蠅いだと!?
誰のせいでこんなことになったと思うんだ!
馬鹿竜め、今は許してやる、次の時はお仕置きだからな!
「チッ、俺は下へ降りる、じゃあな」
「キュ~ウ~」
馬鹿のミカエルを放って置いて、王都に向かう。
山から下りて、裾に位置する小さな森に入り、狩りを始めた。
王都を入るには、通行料が必要だ、出発前にアレンさんから聞いた。
でも俺は金なんか持てない、素寒貧だ。
王都だから、きっと商人たちが出入りしている。
その中の一人に獲物を売って金に換わる。
通行料は確か100メル、メルとはこの国に流通している貨幣のことだ。
そして森の中で一匹の比較的に大きなオオカミを狩り、オオカミを引きずって森から出た。
高く冷たくてすべてを拒絶するような、壮麗の城壁。
これが、ヴァーレントム王都だ。
城門から並んでいた列に、順々人を探す。
そして商人らしき者を見つけた。
その人に近付いて、後ろのオオカミを指差して問うてみる。
「これ、100メルに値するか?」
まず俺は上から下へと見据えてから、笑顔を表した。
騙す気満々だな、きっといいカモに思われたのだろう。
でも現実はその通りだ。
俺は相場が知らないからな、最初から騙されると分かっていた。
しかし俺は王都に入る必要がある、だからここに騙されても仕方ない。
「なになに? おお、それなら100メルで足りるぞ」
100メルだけで俺が通行料がほしいのを見破った。
さすが商人と言うべきか。
「これを売りたい」
「もちろんいいですよ、はい、これは100メルだ」
懐から、銀色の貨幣を取り出して俺のオオカミと交換した。
もう用はない、列の一番後ろに並べるために離れた時、背後から軽蔑の小さな声が聞こえた。
馬鹿なやつ、と言っていた。
ほら、やはり騙された。
予想中の事だから、そもそも商人に通行料を匂わせるのも俺だからな。
じゃないと最初から100メルに値するか? とか聞かないさ。
順番待ちに長い時間を費やして、やっと俺の番になった。
名前とどこから来たのを話して、通行料を渡したら簡単に入れさせてくれた。
さすが王都と言うべきか、人と多い。
建物は石造りと木造りそれぞれ五割かな。
人波に流されて小石で敷いた大通りを沿いで歩く。
ついでにある建物を探す。
時は人に尋ねてそれを見つけた。
ギルド。
二階立ての建物だ。
冒険者になるために入る必要のある施設だ。
生きるためには金が必要ではないけど、少なくともあった方がないよりマシだ。
そのために、このギルドで登録する必要がある。
ギルドの扉を押して中に入る。
外の人波からしては、ここの人が少ない。
たぶん来た時間の関係だ。
「新しい方ですね、何がご用ですか?」
「俺は冒険者になりたい」
「では、こちらの書類を記入してください」
「分かった」
記入必須の項目を全部書いたら、さっきの職員さんに渡した。
職員さんは何か手続きを続いて、そして一つの腕輪を渡した。
「これは何だ?」
「ギルドに所属し、かつ冒険者であるの証明です」
「へえー」
すぐその腕輪をつけた。
「この色は意味あるのか?」
「色はランクを示す、あなたは今Fランクだから、黄色になります」
「ランク?」
「それすら知らないのですか? ギルドは全部七つのランクがあります、一番下のFランクからSランクまで、全部七つ。 そして黄色はFランクです」
「そう」
つまりランクを上がれば色も変わるんだ。
「依頼は? 受ける場合はどうする?」
「依頼はあそこの掲示板で探してください、受ける場合こちらで手続きをします」
「分かった。 それと、依頼を受けないまま、獲物を連れてきたら?」
「その場合はこちらで買い取り出来ますが、報酬は依頼を受けるより低くなります」
「分かった、ありがとう」
掲示板の前に立って、何か受けられる依頼があるかないかを探してみたが、Fランクの殆どが薬草探しとか何かの運搬とか、まさにFランクの仕事だ。
こんないい加減なものより、自分で狩りをする方がマシだな。
「もう一つ聞いていいですか?」
受付に戻り、さっきの職員さんに聞く。
「何でしょうか?」
「城門から出るときは料金払う必要があるのか?」
「それも知らない何で。 料金はいらない、腕輪を出して示してください」
「分かった」
態度の悪い職員さんだな。
まあ、別にいい、聞きたいことも聞けたし、俺の邪魔もしていない、態度が悪いだけだ。
そして俺は城門から出て、オオカミを取った森に入った。
森に入ってから十分くらいか、木の上で休憩しているサルを見つけた。
俺はサルの後ろにいるから、気付かれていない。
ローブの中に魔銃を静かに取り出して、照準しないまま引き金を引いた。
こんな距離で、しかも的は動いていない、見なくても当たれ......る......
外した。
サルは攻撃がどこから来たのかは分からない、でも場所を変えるべきだと分かっている。
つまり逃げた。
俺はゆっくりと魔銃をローブの中に収まる。
ミカエルが傍にいなくて良かった。
3年間、
俺はこの魔銃を3年間も使った。
それなのに、さっきのは外したのだ。
信じられない、
信じられるか!
俺がこんなミスを犯すなんて、誰が信じるか!
さっきは何もなかった。
そうだ、俺は止まっていないし、魔銃を取り出していない。
次の、じゃなくて獲物を探そう。
30分後、ようやっと次の獲物を見つけた。
黒色のベアーだ。
しかも人より3倍大きい。
足元が音を起こさないように注意してつつ移動する、同時に魔銃を取り出す。
ゆっくりと、ベアーの頭に銃口を合わせて、息を詰める。
そして俺が引き金を引くとき、黒いベアーはいきなりこっちに振り返って咆哮した。
気付かれた!?
チッ、仕方ない、何故ばれたのかは分からないけど、ばれた以上隠す意味はなくした、すぐベアーに照準して発砲する。
「『バーストショット』!」
しかし急いでいるせいか、頭から外れてベアーの右前足に当たった。
一つの足を失い、激おこしたベアーは俺に向かって突進する。
次の弾丸で仕留めるつもりだが、ベアーの予想以上のスピードで諦めた。
速い、もう俺の前に到達して、怪我を受けてない前足で薙ぎ払った。
もう魔法でやるしかない、左手で突き出して、マナの奔流を解き放った。
「『パイルバンカー』!」
事の終わりを見てほっとした。
ベアーの左手は俺の首に届く寸前で止まった。
もし一歩遅れたら、俺はもう死んだのだ。
あぶねぇ。
久し振りに冷や汗をかいた。
さっきのこともあるから、どうやら今日はついてないな。
もうベアーを狩ったし、これで帰ろうか。
それにしても、これはどうやって連れて帰る?
......人より大きい身体を持ち上げるなんて無理だ、ベアーを転がせるしかないか。
それを試したら、
「重っ!」
でもこれ以外の方法が思いつかない、続けるしかない。
道中ずっと他人の視線を浴びて、愚痴をこぼしながらなんとかベアーをギルドまで転がせた。
それでギルドに買い取りをさせるとき。
「おいおい、このブラックベアーを取ったのはどこのどいつだ?」
隣からは話しかけてきたやつがいた。
ハゲ、しかも弱そう。
「誰だ、お前」
「俺様はCランクのハークだ、それでこのブラックベアー取ったのは誰だい? 正直に言え、誰も責めたりしないからな」
ブラックベアーというのか、そのままだな。
「俺が取ったのだ」
「アッハッハッ、嘘は良くないよ、ガキ。 今日は行ったばかりのルーキーが、ブラックベアーを取れる訳ないじゃないか、そうだよな、みんな?」
「おう!」
「そうだそうだ!」
「嘘は良くないぞ!」
何だ、この茶番は?
「ほら、みんなもそう思うんだ、だから正直にどうやって拾ったのかを言え!」
「だから俺が取ったって言ったんだろうか」
「だから嘘をつくな! 貴様みたいなガキがブラックベアーを取れるものか! まあ、でも俺様は心が広いんだ、だから俺が代わりに受け取ってやるよ」
「はあ?」
「聞こえないのか? 俺様が代わりに受け取ってやるって言ってるのさ」
もういい、こんな馬鹿と話すのは時間の無駄だ。
そんな馬鹿を放っておいて、さっさと終わらせようと俺は職員さんに催促した。
「本当に貴方が取ったのですか? 当ギルドは不正を許していませんから、正直に言ってください」
はあ?
「まさかお前もこの馬鹿の話を信じるのか?」
「だからお前がこんな大物を取れる訳がない、その過程を話せって言ってんのだ! たった運が良くて見つけたのか、それとも誰から奪ったのか、さっさと言え!」
あーあー、頭にきた。
「つまり、俺がこれを取れる実力を示せばいいのだな?」
「そうとも言えるのだ、でもお前は出来ないでしょう?」
「ならお前で試してやろうか?」
殺意を込めてハゲを睨んで言葉を出した。
しかし、その結果は、
「ヒッ!」
相手の怖がっている面相。
チッ、実力ないなら最初から構ってくるな、鬱陶しい。
「で? 買い取ってくれるのか?」
「済みませんですか、あなたが取った事に証明できませんので、拒否いたします」
チッ、もう時間の無駄だ、獲物を連れてほかの場所で売るか。
そう思い、俺はベアーに手を伸ばしたが、職員さんに止められた。
「あなたは不正の容疑があるため、このブラックベアーは押収します」
「そうだそうだ、お前は大人しく帰りな」
まだいるハゲはさておき、ブラックベアーの向こうにいる職員の顔を睨む。
ゆっくりと口元に浮かべた微笑み。
なるほど、こいつもこれを独占したいのか。
本当に、どこまでも腐った場所だな。
はあー、ここから離れよう、もう遅いから今日は適当な裏街道で寝るよ、金がないし、宿を探す気もない、もう腹が一杯だ。
でも、その前にやらないことがある。
「『サファイアフレイム』」
身体中の莫大なマナを対価として、青玉色の炎が燃え上がり、間もなくベアーを呑噬した。
ブラックベアーを余燼に返させる事は出来ないが、少なくとも毛皮はもう売れない、骨と爪とかは残っているが、それも高く売れないだろう。
それに俺は血抜きをしていない、売れる肉も少ない。
それでもこいつらの金になることに憤怒を感じたが、どうにもならないから諦めた。
「ひっ!?」
「きゃあ!!」
こいつらの間抜けな顔が見られたのだ、それでいいじゃない?
俺はそうやって、自分を慰めるしか出来ない。
ギルドで魔法を使ったことが何かの騒動を起こしたが、俺はもうここに居たくないから、耳に伝わる騒々しい声を無視して外に出た。
相変わらず無一文の状態じゃどこにも泊めないから、眠りやすい裏街道を探すか。
何の情報もないし、うろうろしながら町の観光をしてた。
もうすぐ太陽が完全に落ちる時間だ。
この王都では街灯があるから、急がなくても大丈夫けど、寝る場所をさっさと見つけたい。
この義眼の性能なら例え深夜だとしてもはっきりと見えるが、もう遅いし厄介なことに巻き込まれたくない、胸くそなことはもう十分だ。
しかし夜になったとしても、俺はまだ歩き続けている。
何故か夜の街並みが俺の興味を引いた。
朝は人が溢れているのに、夜になると静寂で穏やかに、儚くて美しい。
何もない、俺の足音以外何も聞こえない、でもそれが気持ちいいのだ。
自分のペースで前に進む。
周囲に人が居ないから気ままで、自由で、かつ開放的で、まるで自分だけの世界に入り込んだような、夢幻の雰囲気。
大通り沿いに何時間も歩いて堪能した後、俺は裏街道に入り、比較的に汚れていない場所に座った、知らない誰かの家の壁を背にして、休憩に入る。
明日はもう一度狩りに行って、ギルドで換金してみる、もしまたダメなら諦めるしかない。
そうでしたら、新しい稼ぐ方法を探さないと、旅するために色んな物を揃えたいから。
にしても、ミカエルは今なにやっているんだろう?
でもあいつのことだから、多分今も寝ている。
竜はいいな、何も考えなくて。
極端に言うと、俺はあいつと一緒なら、世間から離れた場所でも生きていられる。
しかし俺はまだ人間社会に執念を持っている、それは未練と同じなのか、俺自身も分からない。
俺は一体何に執着しているのか、今の俺には理解できないだろう。
それでも別にいい、もし、いつか俺が人間社会に飽きたら、ミカエルと何処かの深山に隠せればいい。
俺があんなことやこんなことを考えているとき、もう閉じた目蓋を越して誰が近付いて来るのを見た。
青い髪をした一人の女性でした。
その女性は夜に似合いそうな儚げな女だ、しかしそれだけじゃない、あと一つのものを感じた。
しかしそのものは何だ?
初めての感覚で、心のどこが変。
分からない、最近は自分の心がますます分からなくなってきた。
俺は、まだ俺なのか?
「あのー、大丈夫ですか?」
「何かが?」
座っている俺に対して、彼女は膝に手をつき、俺の目線と同じ高さに合わせてから話した。
取りあえず目を開けて返事をする。
「もしかして住む場所がないの?」
「だから何?」
目の前に居る女性は、何故か申し訳なさそうな顔を浮かべながら、俺に問う。
「もし良ければ、うちに住む?」
「はあ?」
この女は何言ってんの?
男をお家に連れて帰る気? 痴女?
でもこれはなにかのデジャブだな。
ああ、なるほど、また俺が女だと勘違ったのか。
「俺は男だぞ」
「性別なんて関係ありません、孤児院は誰でも受け入れますから」
「孤児院?」
「はい、私のうちは孤児院です」
孤児院の人なんだ。
でも人を簡単に信じるな、ギルドの一件で余計な警戒心を抱いた。
「対価は?」
「はい?」
「住ませる代わりに、俺にさせたいことは?」
「うむ......では、孤児院の子供たちと遊んでくれないかしら?」
簡単に聞こえるけど、生憎俺は子供の扱い方が分からない。
でもやる価値はある、試してみようか、それで宿代は省けるし、ベッドにも寝れる。
前提は、本当にこれだけなのか?
分からない。
「分かった、やってみる」
「ありがとうございます。 私の名前はマリアです、あなたは?」
「バルト」
「ではバルトさん、私と帰りましょう」
やはり、分からない。
この女は一体何を考えているのか、何を企んでいるのか、
時が過ぎれば分かるようになれるんだろう。
そして一つだけ今でも分かる、俺はこの女性が苦手だ。
**********
マリアさんについて、いくつの裏通りを抜いて、街の中心から離れたある屋敷に来た。
「古いな」
何年も経って修繕されていないのは一目瞭然だ。
「うちは貧乏ですからね、修繕には回らないです」
「それにしても、隣が教会なのか」
「ここは教会附属の孤児院で、そして私は教会のシスターです。 この孤児院と教会は私一人で回らないとダメですから、やり甲斐がありますよ」
「一人?」
こんな広い場所を全部一人で?
「はい、私一人だけです、時々子供たちに手伝ってくれますが、基本的に私だけです。 さあ、入りましょう」
そう言って、シスターのマリアさんはドアを開けて入った。
俺は彼女の後について中に入る。
屋敷の中は貧乏な外見と違ってピカピカで清浄で、大切しているのが一見で分かる。
「さあ、まずは部屋にご案内しましょう、夕ご飯は私が作りますから、少し待ってください」
「あ、ああ、分かった」
「では、こちらへ」
そしてマリアさんは俺を二階のある部屋に連れてきた、背中にチクチクと視線を感じたが無視した。
心の中で、また二階か、と呟く。
案内されたベッドしかない部屋に入り、何も抜かないままベッドに倒れ込む。
何故か部屋と言うと寝るしか思いつかない、だから別に不快感はない。
扉の向こうに居るマリアさんが離れたのを感じて、俺も少し眠れようとした、
トントン。
が、部屋のドアが叩かれた。
「誰だ?」
......返事が来ない。
まさか空耳?
そう思い、また眠りに戻ろうとしたとき、外からヒソヒソ声を聞こえた。
扉越しだから、何言っているのかは聞き取れない。
トントン。
そしてまた叩かれた。
仕方なく、扉を開いたが、
「誰だ?」
......扉の前に誰もいない。
イタズラ?
扉をもう一度閉じる、そうしたら頭が一つ隣から出てきた。
嫌二つか......三つになった。
したから一つ一つ重ねて現れてきた。
遊んでいるのか? こいつらは。
もしそうでしたら、こいつらはいいコンビになれるな、息がぴったりだし。
ここに来るとき背中の視線も、多分こいつらでしょうか。
「何だ?」
「ね、ね、あんたは誰?」
「名前は?」
「マリア先生とはどんな関係?」
「一気に質問してくるな」
同時に質問されたら、答えるのが煩わしくなるじゃないか。
取りあえず扉を大きく開けてから、ベッドに座る。
そして勝手に入ってきた子供たち三人、請じ入れる手間が省けた。
「で? お前たちは誰だ?」
「あたしはアイリー」
ない胸を張っていた癖のある赤毛の女の子、三人の中では多分一番年上だ。
「普通」
「ちょ!」
「お前は?」
胸が張っているから、もしかしたら感想がほしいかも。
適当にあしらって、次の子供を催促する。
「俺はカイル、騎士になるものだ!」
「生意気」
「なに!」
「お前は?」
子供のくせに俺とかは生意気だ。
昆布茶色の髪をした男の子だ、多分自分なりに鍛錬したけど、筋肉のバランスが悪い。
「シャル、あなたは?」
最後の、大人しそうな女の子。
亜麻色の髪は腰までも伸ばして、まつ毛が長い、そして紫の瞳。
まるで妖精だな、俺が素直にそう思われるほどの異常さだ。
「バルトだ」
「えー、バルトってちっとも女の子らしくない」
「つまりバルトちゃんだな」
バルト、ちゃん?
女扱いは予想したが、さすがにこれはきつい。
「二人の馬鹿、バルトは男の人ですよ」
え? 俺の聞き間違いかな?
「もう、シャル、失礼ですよ」
「そうだぞ、女の子を男の子にしてはいけないんだぞ」
「いや、俺は男だ」
「え? ウソ」
「そうなんだ、ならバルトくんだ」
「ほら、二人の馬鹿」
「ちょっと!」
「な、シャル、どうしてバルトが男だと分かったの?」
「そんなの、骨盤を見れば分かるじゃない、だから二人はいつも大雑把すぎる」
「「げっ」」
骨盤?
そう言えばミリ-さん、ルーティの母もそうやって見分けたのだな。
女と男の骨盤はそんなに違うのか?
俺には見分けないけどな。
「それで? お前たちは何しに来た?」
「「あ、そうだ!」」
「馬鹿。 バルトはマリア先生とどんな関係?」
「全く関係ないけどな」
「じゃあバルトも拾われたの?」
拾われた、か。
しっくり来るし、まったくその通りだな。
それに“も”からして、マリアさんの人物像が捉えるな。
「いやいや、シャル、それはないよ」
「そう、さすがのマリア先生もこんな大きい子供を拾わないよ」
「いた、拾われたのだ」
「「ええぇ!?」」
「ほら、二人の馬鹿」
見覚えのある反応だな。
記憶の中のそれは、まだ二日前のことなのに、懐かしいと感じた。
しかし最後の心情は、未だに残っている、心をチクチクする。
「あ、でも男なら、もしかしてマリア先生の彼氏?」
「いやいや、それはないよ」
「どうして分かるのよ!」
「だってマリア先生と結婚するのは俺だから」
「チッ、カイルの馬鹿!!」
「何だと! もう一度言ってみろ! ばかアイリー!」
「ばか!」
「ばか!」
まさか俺が話する前に、二人の世界に入り込んだとは。
そんな二人を横目で見つつ、シャルは小さくダメ息をついて、こっちに近付いてくる。
目でなんだ? と問うたが、返事が来ないから、少し眉を顰めた。
そんな俺を無視して近付いたシャルは、ほいっと、俺の膝の上に座った。
「ダメ?」
突然のことで少し困惑した俺に、シャルは頭を後ろに引いて、上目遣いで俺に尋ねた。
俺の顔を映っている、大きくて人を吸い込まれるような、透き通る紫の瞳。
「勝手にしろ」
「なら勝手する」
そんな言葉で返されたのは初めてだな。
まあ、重くないし、子供だから別にいいか。
「おい、お前ら、いつまで喧嘩するのだ」
「「喧嘩じゃない(してない)!!」」
「ああ、はいはい、で? まだ何か聞きたいのか?」
「うん、まだあるよ、あれ?」
「シャル、何時そこに?」
「ついさっき」
まだ質問あるのか、面倒くさい。
「問題あるのはいいけど、その前に」
一息を吸うってから、大声で扉に向かって話す。
「外の奴らも、入ってこい!」
「「「「はーい」」」」
扉が開かれ、外から入り込んだ四人の子供たちだ、全員男の子。
「で、お前たちは?」
「僕はアル」
「イル」
「ウル」
「エル」
「「「「僕たちは、オール五人組だ!!」」」」
四人なのに、五人組?
突っ込まないぞ。
それにしても、この孤児院は個性に満ちた子供たちが多いな。
......また扉越しに声が聞こえた、まだあるのか。
「残りの、入れ!」
一人には十分な空間が、一気に子供が溢れて混雑になった。
**********
「お話し!」
結局は、俺の話がどうでもいいになった。
子供たちの年齢がバラバラで、みんなの興味も違うから、話せることも自然に少なくなる。
なら一番下の子供に合わせて、物語を聞かせてて頼まれた。
これも対価の一つだ、そう思えばやる気になるが、生憎物語なんて一つも知らないのが俺なんだ。
だから別の策をとる。
「お前ら、竜って知ってる?」
俺が一番話せることだからな。
「おれ、知ってる、空に飛ぶやつ!」
「ばか、それは鳥だよ!」
「飛べるもん! 長い尻尾があって、かっこいいのが竜なんだ」
「それはドラゴンだよ!」
「だから竜とドラゴンは同じなんだ!」
「そうなの?」
「そうだよ」
よし食いついてきた。
しかも子供だから、ちょっと他人より多く知っていると調子になって自発的に、代わりに解説するのだ。
説明する手間が省けたな。
ついでに、シャルはまだ俺の膝に座っている、人数からして部屋が小さいから、ベッドにも年の小さい子供が座っている、
つまり俺は今子供に囲まれたのだ。
「ああ、そのドラゴンだ、興味あるのか?」
「「「ある(あります)!」」」
「ドラゴンはな、馬鹿なやつだぞ」
「ぶっ!」
「えぇー!」
「ウソだ!」
反応様々だな、笑った子も、信じた子も、疑った子も。
「ウソはついていないぞ、俺は見たことあるからな」
「本当!?」
「いつ見たの? どこ?」
さすがに毎日見てるのは言えないな、ドラゴンを見たくて俺の後ろについたら厄介だ。
「昔の時で、遠いところだな、それはある山の上だ」
だから適当に捏造するしかない。
「まだそれー?」
「胡散臭い!」
「そうよ」
「まってまって、急がすな。 その日はな、俺はいつも通り肉を焼いている」
「肉焼き!」
「美味しいそう!」
「ふん、そしたら空から突然に大きな影が降りてきた、俺はそれにつられて、振ってみたら、まさかのドラゴンだ」
「そのドラゴンはな、俺が生じた焚き火の近くに着地して、俺のことを見た。 あの時は超緊張してたさ、食べられるのかなって」
全くの捏造だけど、これで丁度いいかもしらない。
「俺は長ーい時間を掛けて、ドラゴンのことを注視した、怖がっているのさ、でも俺は気付いた」
「なに?」
子供の一人が、みんなの代わりに聞いた。
「ドラゴンの目が怪しいんだ」
「「「「「怪しい?」」」」」
「そうだ、怪しいのだ、何せドラゴンは俺を見ていない、ドラゴンが見ているのは......」
「「「「「......」」」」」
なるほど、子供は分かりやすいな、期待してる目を見ると、そんな感想が湧いてきた。
「俺の手にしている肉だ」
「ブッ」
「はっはっは!」
「食いしん坊のドラゴンだ!」
「ああ、そうだ、ドラゴンは食いしん坊だ」
初めてミカエルを拾ったとき、あいつの肉につられた姿は、どうしても忘れないんだ、今でもあの間抜けな顔がはっきりと浮かべる。
それから、俺はずっとミカエルとの昔話を話した。
もちろん、色々加筆したけどな。
あの遺跡で出会った以来、俺とあいつが歩いてきた道。
その中の一つ一つを子供たちに話した、決して色褪せない記憶。
そしてつい、
トントン。
扉が叩かれた。