表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片目の竜使い  作者: にょろにゃん
第一章 バルバトス
7/17

次の目的地へ

ロープからローブに修正しました。

あとはウーレントム王国からヴァーレントム王国に変わりました。


 さて、答えはどうするか。

 正直俺は乗り気じゃない、これはこの村のことだ、

 そして俺は外から来た者、つまりこれは俺と関係ないこと。

 でもこの村に泊まっているのも俺だ、恩というわけじゃないが、見て見ぬ振りもさすがにできない。

 ならどうする?

 安全面は心配していない、あの遺跡(ダンジョン)を攻略したのだ。

 たとえミカエルのお陰が大きいだとしても、外の魔物に遅れは取れない。

 受ける?

 そうだな、見返りを要求しよう、それで両方にとって気に病むことはない。


「受けてもいいが、見返りとして欲しいものがある」

「うむ、それは何でしょうか?」

「塩と香辛料」

「量は?」

「渡せる分だけでいい」

「いいのですか?」

「それでいい」

「分かりました、ありがとうございます」


 これで交渉は終わったな。


「時間は? 暴走はいつ来るのだ?」

「見つけた人の話によると、多分明日の正午です」

「分かった、夕食はいいから、俺はもう休む」

「分かりました、妻に伝えておきます」

「ああ」


 俺との話が終わった後、アレンさんは村の人たちに次々指示を出した。

 この村の村長だから、色々な事は彼が決めなきゃならないだろう、多分今日は寝られない。

 でも村のことは俺と関係ない、部屋に帰って寝ようか。

 部屋に戻り、もう一度ベッドに倒れ込む。

 疲れた、色んな意味で疲れた。

 そして明日は多分もっと疲れるんだろう、だから今日は十分に休まないとだめだ。

 目蓋を閉じる、それでも目に映る天井、

 光景の中で俺の意識をゆっくりと、闇に沈んだ。


 どれだけ時間を過ぎたのか、突然に窓から差し込んだ陽射しに照らせて、闇から意識を取り戻した。


「もう朝か」


 やはり一日寝ていない影響が出たな、普通なら日が出る前に起きるのに。

 でも逆に考えたら、俺が十分に休めた証拠だ。

 身なりを整えて、部屋から出るとき、扉がコンコンと叩かれた。


「あの、バルトさん、もう起きたのですか?」


 ルーティの声だ。

 こんな朝で何があったのか?


「も、もし良かったら、私の魔法を見てくれないかな?」

「今か?」

「は、はい」

「分かった」


 ロープを身につけて扉を開ける。


「でもその前に朝食だ」

「あ、分かりました」


 ルーティと一緒で一家にある食卓に来た。

 机の上はすでに三つの皿が置いて、中に昨日と違う色合いのスープを乗せている。


「あら、二人一緒で来たの?」

「あ、お母さん」

「三つ? ほかの人たちは?」

「アレンとアスト君は客間で会議を始まってるのよ」


 簡単な朝食を済ませて、ルーティはアレンさんに許可を取ってから、俺たちは森の広場に向かって家から出た。

 今度ルーティは何も喋ってない、多分魔物の暴走で緊張、或いは心配しているだろう。

 そんなことを考えながら、俺たちは広場についた。

 そしてミカエルがいない、多分自分で起きて、獲物を探しに行ったのだろう。

 せっかくあいつを起こしてやろうと思ったのに、チッ。


「それで? お前の魔法を見て、何をさせたいのか?」

「えっと、私の魔法を見て、意見がほしいの」

「先に言っとく、俺の魔法は我流だ、期待するな」

「それでも意見がほしいです」

「分かった」

「じゃあ、私がいつも練習している魔法をみせるね」

「ああ」


 さて、これは俺が遺跡(ダンジョン)から出て、初めて見た他人の魔法だ。

 子供の時で見た魔法はどれも簡単で小さいから、今の俺はどこまで出来るのかを知りたい。

 だから丁度いい、ルーティの魔法を基準として、俺がどこまで強くなったのか、確認させて貰おう。


「では一番ルーティ、始めます!」


 手を高く上げて宣言するルーティ、何これ?


「すべてを焼き払う炎よ、敵を貫けーー『フレイムランス』!!」


 炎で出来上がった槍はルーティの手から空を裂いて遠くの石に打ち当たった。

 ぶつかって散らばった槍の余燼はすぐ消えた。

 『フレイムランス』、昔の俺も使った魔法だ。

 前に使ったのは何時なのか?

 70層で義眼に変わったとき以来、攻撃は基本的に魔銃を使う、だから......

 いやもっと前からか?

 ......俺は何やっているのだ? そんなどうでもいいことで時間を浪費して。

 しかし、たかが『フレイムランス』で詠唱が必要なのか?

 俺なら無詠唱で出来る。

 どうしてここまでの差が出るのか?

 俺は正規な魔法教育を受けたことないから、答えが分からない。


「どうだった?」

「普通」

「えー」


 少しショックを受けたようで、ルーティは肩を落ちた。

 俺からみると、パーティーを組んでいると言う前提があるなら、遺跡(ダンジョン)の10層なら余裕で行けるが、20層になると少し厳しい、30層になると論外だ。

 これが意味あるのかないのかは分からんが、俺の魔法を見せてやろう。


「俺は正規な魔法教育を受けてないから、お前の魔法がどうなのかは分からない。 少なくとも、俺のやり方はこうだ」

「あ、はい、どうぞ」


 俺が近づいているのを見て、俺が何をしたいのかを理解したルーティはどいてくれた。

 そこに立って、さっき的になった石を見つめる。


「『フレイムランス』」


 無詠唱は出来るが、多分いきなり魔法が出たら彼女が驚くだろう、故に言葉に出した。


「......」

「どうした?」

「す」


 す?


「凄いです!」

「そ、そうか」


 やたらテンションが高いな。


「えっと、えっと、何かコツがあるかな!?」

「ない」

「えー嘘ー」

「本当だ、死ぬ気で頑張れば人は何でも出来る」


 経験談だから、間違えるわけがない。


「本当に?」

「ああ」

「じゃあさ、これからも私の魔法の練習を付き合ってくれる?」

「暇なときならば」

「やったー!」


 何でこんなことで喜ぶだろう、分からない。

 これからは小一時間にルーティの練習に付き合った。

 彼女が魔法を一度発動して、俺が彼女の使った魔法を再現する。

 これが練習になれるかは知らないけど、少なくともルーティを喜んでいる。

 それはそれでいいじゃないか、と思った俺がいた。

 魔物の暴走もあって、そろそろ村に帰る時間だ。

 俺はルーティの練習を中断して、村へ帰ろうとしたとき、ルーティが話しかけてきた。


「ね、ミカエルは手伝ってくれるよね?」

「なんで?」

「あれ?」

「何で竜のあいつは人たちの事に巻き込まれなきゃならない?」

「そ、それは、でもバルトさんは受けたじゃない」

「ああ、そうだ。 受けたのは俺だ、竜のあいつじゃない」

「で、でも」

「もう話が終わりだ、それとミカエルのこと、誰かに喋ったのか?」


 少し威嚇の意味を込めて、ルーティを睨む。


「さ、最近は色々有りすぎて、誰にも言っていません」

「誰にも喋るな、いいな? 帰るぞ」

「......はい」


 何言っても平行線だ、ならこれ以上言う必要はない。

 俺はミカエルが人の前で現れない方がいいと思っている。

 竜の上に、鬣のない白い肌、きっと誰も見たことないから、異変種だとすぐばれる。

 しかも人、つまり俺と一緒の光景が見られたら、人と親しみの竜だと思われる。

 それらの思考を持つ人はこう思うはずだ、売れる、とな。

 だからミカエルを他の人に見せる気はない。


 少しの時間が過ぎ、俺はルーティを連れて村に帰った。

 村の中は重い雰囲気が漂っている。

 誰もかも顔に緊張や憂慮が窺える。

 魔物の暴走はそうそうないし、それに暴走で滅ぼした村はいくつもあるから、これから自分たちの未来がどうなるのか、みんな心配しているだろう。

 村の一面、多分あそこが魔物の進路だ。

 そこに柵として杭が一杯刺しており、その前方に、魔物からして後ろのところに男たちが集まっていた。

 村長のアレンさんもあそこにいるから、何か新しい情報があるのかないのか聞いていく。


「アレンさん」

「あ、バルト君、戻ってきたのか。 ルーティ、先に家に戻って」

「......はい、分かりました」

「それで私に何か聞きたい? バルト君」

「魔物の暴走は今どこまで来たのか?」

「二時間後は来るらしいですね」

「種類は? 数は?」

「オークみたいです、数は100匹くらいですね。 魔物の暴走としては小さい方ですけど、今この村の男は全部60人くらいだから、心配ですね。 ブランク都市に救援をお願いして人を送ったのだけど、いつ来るのかは、ね。」


 あと二時間、飼うは100匹くらいか。

 そのブランクという都市はここからどれくらい離れてるのも分からない、しかし人を送って早くても昨日の夜で発したのだから、多分今日中は無理だろう。

 拙いな。

 100匹のオークに対してこっちはたった60人、しかも村人だから、大抵は戦闘の素人だ。

 そんな奴らにオークを倒せろなんて、自殺行為と同じだ。

 少なくともこの村でまだやりたいことがある、もし今日で滅ばされたらまずい。


 何か打開策あるかな?

 俺に出来ることは精々遠いところから魔銃を撃ち出すだけだ。

 ちょっと待て、遠距離、二時間......

 行けるかな?

 一番の問題は......


「アレンさん」

「どうしたの?」

「馬はあるか?」

「一匹ありますけど、でもそれは連絡用で今はいないです」


 よりにもよって、クソ。

 ......仕方ない、ほかの手段はもうない、歩くしかない。

 30層までも歩いているから、歩くのは自信が持っている、だから俺は柵に向かって歩き始めた。

 途中何人もこっちも見たが、すぐ外へ視線を逸らした。

 そして残りの好奇心で俺の行為を見つめた者たちは、すぐ注意してきた。


「おい、そこのお前、何やっている!!」


 大声で叫んだ人につられて、俺を見る者たちが増えた。

 でもそれをも無視して、俺は柵から外へ出た。


「ちょっ、バルト君!?」

「おい、おまえ、中に戻れ!」

「なにやってんだよ、馬鹿野郎!」


 背後から次々聞こえた非難の声は少しずつ遠ざかっていた。

 完全に消えたときは、もう俺が森の中に開拓された道を歩いてるときだ。




**********




 一時間後、俺はそれを見た。

 道を塞がり、緩慢で前進するオークの集団が見えた。

 これから俺はこいつらを攻撃しつつ後退する。

 ヒット・アンド・アウェー。

 今回の戦術だ。

 元は馬があれば楽になれるが、無いものねだってもどうにもならない。

 ローブから魔銃を取り出して、引き金を押し続ける。

 せっかくまだ距離があるから、利用しない手はない。


「『チャージ・スナイプショット』」


 魔銃から撃たされた弾丸は一房の光線となり、オークたちを貫通し続ける。

 『ゼロ・バースト』を除けば、これが一番時間が必要な技だ。

 まあ、その分威力が大きい、何しろ集団の最後部も貫通した......え? 貫通した?

 あんまりに予想外の威力に困惑した。


 光線となった弾丸が集団に通り過ぎた後、ドミノ倒しのように倒れたオークたち。

 俺は、そのあとで開いた穴を見て、自分がやり過ぎたと理解した。

 何しろ穴は最後まで開いている、その後ろの道を窺える。

 自分たちがまさか攻撃されると思わなかった見たい、一斉にこっちを見たオークたち、これはこれで壮観だな。

 そしてこっちに走った。

 ヒット・アンド・アウェーだから、俺も後退しないと、でもその前に。


「『スプレッドショット』」


 効率が悪いな、さっきのと比べたら。

 いや、さすがにさっきのはないか。

 『スプレッドショット』は拡散して弾が小さくなるから、オークの2メートルをも超える身体に与えるダメージが小さい。

 だから分散した弾は一匹に何発も当たらないと倒れない。

 『スプレッドショット』一発で一匹か。

 後退を開始して、オークたちに追わせる。

 オークたちの距離は長すぎでも短すぎでも行かないから、修正するのは面倒くさいか、出来ないわけじゃない。


「『スプレッドショット』!」


 先ほど言ったとおり、これは一発でオークを一匹しか倒せない。

 それでも俺はこれを選ぶ、理由は照準が簡単だから。

 適当に照準して引き金を引き、それでオークが一匹を倒せる。

 ヒット・アンド・アウェーにこれ以上ふさわしいものはない。

 今俺たちは走っているから、多分村につくのは多分後40分くらいだ。

 この間に出来るだけオークの数を減らす。


「『スプレッドショット』!」


 また一匹。

 でもこれでは間に合わない、魔法も使おうか。

 それにしても、遺跡(ダンジョン)の中はオークやゴブリンを見たことないな。

 今で考えると、もし一階層で全部そんな脂肪の塊が歩いていたら......

 あんなもの食べなくて良かったと思う。


「『フレイムランス』!」


 右手の魔銃、そして左手の魔法、この両方を同時に使って戦うのが俺のスタイルだ。

 3年も掛けて、実戦の中で養ってきた戦い方だ。

 これなら多分行ける。

 走りながら後ろへの攻撃を忘れず村に向かう。


「『スプレッドショット』、『サンダーボルト』」


 敷かされたではないけど、なにもないよりマシだ。

 遺跡(ダンジョン)の中では道すらないから、今はとっても走りやすい。

 だから簡単だ、時々後ろへ攻撃すればいいのだ。

 それで俺はオークを引き寄せて村に帰る。


 もう何分経ったのか?

 今の俺はまだオークたちに追われている。

 振り返ってみると、オークはもう半分以上も減らした。

 どれだけの弾丸を撃ち出したのか、どれだけの魔法を打ち出したのも覚えていない。

 でも成果は出た、オークは残り半分にも足していない。

 これなら村に引き寄せても大丈夫だろう。

 そして道の先は、つい村が見えた。

 あと少しだ。


「『スプレッドショット』、『ウォーターカッター』」


 もう一度後ろへ攻撃をする。

 それで視線を村に戻した、遠くても見えるこの義眼に、村の男たちの面が映した。

 遠くても分かる、莫迦のように口を開いたまま村人たちの姿。

 仕方ないだろう、俺が今やっていることは常識離れだからな。

 村人たちは何かひそひそ話し合っていたが、余裕がないから無視した。

 そのまま柵を抜けて村に入った俺は、後ろへ振り返ると、オークと村の男たちの戦いが始まった。


「バルト君! なにやったのですか? オークは30体くらいしか残っていないですよ! 残りの7割はどこに行ったのですか!?」

「道中で倒れている」

「え?」

「今はそんなことを気にする場合か?」


 アレンさんから目を逸らして、戦いの中心を見る。

 そして気が付いた、このままでは全滅する。

 だから俺が動かないとダメだ。

 まさか2人に一匹のオークでは少々厳しいのようだ。

 一番やばそうなところに銃口を合わせて、引き金を引く。

 ちょんと照準しているから、普通の弾丸で十分だ。


 バン!

 もう聞き飽きた銃声と共に、オークが倒れた、頭にぶち込めたから、この結果は当然だ。

 そして次から次へと照準して、発射する。

 バン! バン!

 今更こんな距離で外れる訳がない。


「よ、よっしゃ、一匹殺したぞー!」

「馬鹿! 次が来るぞ!」

「うわ!」


 この戦いも多分もう長く続かないのようだ。

 次のを照準して、引き金を引く。

 そんな時に、


「や、ヤバイ! オークが後ろに行ったぞ!!」

「なにやってんだクソ野郎!」


 一番ヤバそうなところに気を取られ、オークが入ったのを気付いたときはもう遅い。

 村の中心に向かうオーク、その先に一人の女の子が立っていた。

 栗色の髪、ルーティ?


「ぅ、ぅわ、きゃあああああああああ!」


 膝が落ちて、地面に座り込んだルーティに、思わず舌打ちした。

 魔法が使えるというのに使わない、朝の練習は一体なにやってんのだ、アホか!

 確かにオークは彼女に向かっているか、まだ接近するには時間がある。

 その時間を利用して魔法でオークの顔面に一発で終わることだ、出来ないなら逃げでもいいのに、座り込んだ。

 そもそもどうして彼女がここにいるんだ!


「チッ」


 仕方ない、俺がやるしかないか。

 義眼でオークを捉え、右手をまっすぐ伸ばす、魔銃をオークに合わせる。


「『スナイプショット』!」


 一直線の弾はオークの頭を抜けて、その後ろの壁とぶつかった。

 2メートルの巨体は、ルーティの前でゆっくりと倒れ込んだ。


「え?」


 もうルーティに構える暇はない、すぐ戦線に戻った。

 それから俺はオークを一匹ずつ射殺した、最後のオークを殺したとき、周囲に歓声が轟いた。


「終わったーーー!」

「勝ったぞーーー!」


 同時に号泣する声も、悔やむ声も耳に伝わった。

 60人ほどいた男の中、5人の死者が出た。

 あいつらの名前は知らないが、何人と顔合わせたことがある。

 悲しく見えるが、むしろこれだけで済むなんて歓声を上げるべきだ。

 でもそれでは死んだ人に対してあんまりにも失礼だ。

 だから、さっきの人たちも死者が出たと気付いたら黙り込んだ。


「あ、あの」


 声かけられたのを気付き、振り返った先はルーティでした。

 両手を胸の前に合わせて、モジモジしている。


「なんだ?」

「あ、ありがとう、助けてくれて」

「別に」


 助けられる気なら最初から出てくるな。

 と言いたいが、他人のことに指さすつもりはない。

 俺と彼女は何の関係もない、たったの知り合いだ。

 友達すらない外人の俺が、何を持って彼女を叱るのか?


「あの皆さん、まず村の中心に集まってくれないか?」


 アレンさんが戻ってきて、俺たちに集まってくれと頼んだ。

 多分人数の清算をするためだ。

 今この時点で死んだ人は5人、それに、それから死ぬかもしれない者もいるのだ、清算する必要は確かにある。


「それとルーティ! あなたは部屋に戻れ!」


 あのいつも平和的な顔立ちアレンさんが怒った。

 珍しいに見えるけど、ルーティの行為はさすがに見逃れない。

 妥当な判断だと思う。

 そして俺たちは村の中心にある広場に集まった。

 民家の壁に背を預けて、状況を見る。


「34、35,36......」

「あ、あ、あの、アレンさん! 騎士団の方が来たのです!」

「え!?」


 騎士団?

 そう言えばアレンさんはブランク都市に救援を頼んでいたと言ったな、

 その救援がもうここに来た?

 早すぎないか?

 何でだ?


「この村の村長はどこだ!?」

「あ、あ、はい! 私です!」


 人を掻き分けて進んできたのは、全身鎧を着こなしている一人の女性だ。

 長くて風に揺らされ、光った絹糸みたいな黄金色の髪。

 白く透き通った頬は、暑さのせいか、少し赤く染めている。

 そして空の色をした、鋭さを含んだ切れ長の目と、整った顔立ちに、玲瓏とした口。

 身体に食い込むほどの鎧は、スタイルのいい身体のラインを鮮明で目に焼き付けた。

 見とれた。

 認めたくないが、俺は彼女に見とれた。

 まさか俺がまだこんな感情を残していたのか、驚いたよ。

 俺は長い時間を掛けて、ずっと彼女のことを観察し続けた。


「私はこの村の救援を応じて来た聖騎士、セシリア・フラン・ランシェルだ」

「わざわざ聖騎士様がこんな僻村に足を運んでくれてありがとうございました」


 聖騎士?

 なにそれ。


「それで魔物の暴走は? オークだったな、今はどこだ?」

「実はそれがもう片付けました、本当に、わざわざ足を運んでくれて申し訳ないです」

「無事ならそれ以上のことはない。 それにしても、貴方たちだけで勝ったのですか? 情報によると100匹のオークの集団ですけど?」

「それは、あそこの方に助けて貰いました、一人で90匹ほどのオークを倒して、私たちを助けました」


 ゲッ。

 アレンさんは俺を指さした。

 それを見て、俺のところに来た彼女。


「貴方ですか、一人で90匹を倒した人」

「別に何でもない」

「それでも、この村の人を助けたことを感謝する」


 生真面目な人だな。

 絶対に損をする生き方だ。


「では、私はこれで。 帰還する!」

「「「はっ!」」」


 彼女はついてきた騎士たちと共に帰った。

 しばらくの間は、彼女の背中を見つめた。


 すべてが終わった時は、もう太陽が既に沈んだあとだ。


「ほん、とうにありがとうございました!」


 村長の家の客間で、アレンさんは俺に頭を低くした。


「村を危機から救いまして、その上私の娘を助けたことを、ほん、とうにありがとうございました」

「約束した事だから、気にするな。 それより報酬は?」

「こちらになります」


 アレンさんは一つの袋を俺に渡した。

 それを開けて中を見ると、俺のほしい香辛料と塩だけではなく、ほかの保存に効く干し肉や干し野菜が一杯入っている。


「これは?」

「少しの心遣いです」


 多分、いらないと言っても無駄だろ、それくらいの強い意志を感じた。


「娘は私が強く言いつけるので、どうか、あの子を許してください」

「別にいい」

「ありがとうございます」


 例を残して、アレンはほかのところに行った。

 俺ももう疲れたから、部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

 久々のいい眠りだった。


 次の朝、俺は村から出て、ミカエルに会いに行った、一日ぶりの間抜けな顔に蹴って起こす。

 ルーティはどうやら一日の禁足を命じられたのようで、久し振りの静かな朝だ。

 狩りを行って、獲物の毛皮で必要な物と交換する。


 それから俺は時々狩りをして、またルーティの魔法練習を付き合って、一週間を過ごした。

 交換で貰った縄を、バッグに眠っていた紋章に通して、首に付ける。

 簡単で出来上がったペンダントだ。

 保存食と調味料をバッグに入れて、村から出る日が来た。


「もう村から出て行くのですね」

「ああ、そう決めた」

「道中は無事でいるように、それといつかどこでまた会えるように、祈ります」

「ありがとう」

「では、さよならは寂しいですから、また会いましょう」

「ふん、ああ、そうだな」


 俺がもうここに戻れないのを分かってて、それを言うのでしょう。

 アレンさんと告別して村から出て、いつもの森の広場に向かう。

 まずはミカエルと合流する、昨日あいつにそこで待ってろで言ったから、多分いるはずだ。

 それにしてもルーティと朝から会っていない、何を企んでいるみたい。

 そして俺が森の広場についたとき、ミカエルともう一人がいた、ルーティだ。


「私も、一緒につれてほしい!」

「帰れ」

「えっ?」


 アホか、こいつ。

 連れて行く訳ないだろう。

 ルーティの足元に置いている荷物。

 朝アレンさんの顔からして彼女は多分両親を瞞して来たのだろう。

 目の下に隈が出ているのは多分荷物を整理しているせいだ。


「どうして!? どうして連れてくれないのよ!」

「連れて行く気はない」

「何でなのよ!」


 彼女は無視してミカエルに近付く。


「私は! 私はあなたのこと、バルトさんのことが好きになったの!」


 足が止まった。


「だから何?」

「う、えっ?」


 彼女を連れて行く選択は最初からない、

 むしろこっちが聞きたいのだ、何で親から離れようとするの?

 この一週間でも分かる、ルーティは家族からよく愛している。

 そんな幸せの家庭なのに、どうして外へ出ようとする?


 分からない。

 それに外は危険だ、何が出るかは分からない。

 それなのに、小さいときから練習した魔法を、いざという時では使えない。

 オークの一件で証明したのだ、彼女は荒事になれていない、外に適していない。

 それはそれでいいことだ、平和の証拠だからな。

 ならそれでいいじゃないのか?

 荒事から離れて生活する。

 なのにどうして彼女は外へ出たいのか?


 分からない。

 ルーティは俺のないものを持っている、幸せな家庭、健全な身体。

 それでも俺と一緒に行きたい?

 俺を好きになったせいで?


「最初からおまえなんか興味ない」

「う、そ」

「......じゃあな」


 これでいい。

 彼女に希望を見せるべきじゃない。

 完全に俺への心を潰す。

 これで、彼女は元の場所に戻れる、

 あの幸せな場所に。


「どうしてよ!! どうして、私の前に現れたのよ! 私の心がこんなに痛いなのに、どうしてあんたは無事でいられるのよ!!」


 号泣を始めた彼女。

 そんな彼女が質問した事は、答えなんかはない。

 この世界は、答えなんかないの事は一杯いるから。

 何で俺は片目しか見えない?

 何で俺は捨てられなきゃならない?

 答えなんかはない、

 この世界は、理不尽でクソタレで最低の世界だ。

 それでも、俺たちは生きるしかない。


「悪魔だからな」


 この言葉を発したのは何時以来なのか、忘れた。

 でも、多分、これが俺かもしれないな。

 彼女をここに残り、ミカエルに跨がって合図を出した。

 ミカエルは少し戸惑っていたが、俺の指示に従ってくれて、空へ飛べた。

 これで、いいのだ。

 泣き声が少しずつ消えていく、

 でも、人を傷ついた感触は、まだ俺の中で刻んでいる。


「行こう、次の場所へ」




ーーーーセシリア視点ーーーー




 私の名前はセシリア・フラン・ランシェル、ランシェル家の末っ子だ。

 一応貴族の生まれですが、社交には興味が全くない。

 逆に私は剣と魔法にしか興味がないから、いつも父に女らしくないと言われた。

 幸い、私には才能があり、同年代の子たちより頭一つ抜けていた。 剣術の師匠と魔法の先生はとても厳しいですか、それもあって今の私がここに立っていられる。

 そして私が17歳で成年したとき、父は私を嫁入りさせたいのですか、私はある条件を挙げた。


 私より強いやつではなければ、私は結婚しない!


 誰が軟弱な男と結婚するか、私は死んでも嫌です。

 それで一年掛けて、全国の貴族の男性と戦ったと言っても過言ではない気がした。

 その後、ようやく父も私を諦めたのようだ、もう嫁入り先を探さないになった。

 でも何時までも父に養って貰う訳にはいかない、だから私は騎士の選抜に参加して、教会に一目置かれて、一気に聖騎士に抜擢された。


 そして、私が聖騎士になってから初めての休暇だ。

 せっかくの休暇でブランク都市に遊びに来たと言うのに、教会に召喚された。

 原因はある村が魔物の暴走にあったらしい。

 休暇が台無しになったが、人の命が関わっているから仕方ないことだ。

 私は聖騎士のみ所持を許された聖剣を握り、鎧姿に着替える。


 この国は教会との関係が親しんでいるから、聖騎士の権力が大きい。

 その一つが、私の配属ではないのに、騎士団を指揮できる。

 そして私は騎士団の中に何人も選んで、原因であるヘイムス村に向かった。

 全員は馬を乗れる、かつ戦闘能力の高い者たちだ、これで救援に行けるはず。

 徹夜に馬を走らせて、正午の少しあと、私たちはヘイムス村に到着した。

 しかし思いの外魔物の暴走がもう解決した、しかも殆ど一人の手によって。


 村長に指差されたその人は、なんとも綺麗な女性でした。

 艶のある長い黒髪にアイマスク。

 何よりその強い意思を感じられる黄金色の目。

 曲がらず、屈せず、まっすぐな瞳。

 私が聖騎士だと分かっても、態度を変わらない。

 とても綺麗で強い女性でした。

 世の中にこんな人もあるんだ、私は想像できなかった。


 彼女に名前を聞きたいが、抑えた。

 今じゃなくてもいい。

 きっと、

 この女性と何時かまたどこで会える気がした。

 案外、それは近いうちにの事かもしれない。


 もうここにいる理由はない、

 私は騎士たちを連れて、ブランク都市に戻った。


セシリアの目の色は空色と言うことについて加筆しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ