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片目の竜使い  作者: にょろにゃん
第一章 バルバトス
6/17

鐘音

少し短めです。


 コン。


 コン。


 深夜からずっと同じ事を繰り返す。

 どうせ眠れないなら、身体を動いた方がいい。

 それに人の家に泊まらせたのだ、恩を返す、と言うわけではないけど、少なくともルーティたちと対等でありたい。

 だから今は薪割りをやっている。


 薪割り用の斧の握りを左手で掴む、柄腹の部分は右手で握る。

 まず右手に力を入れて斧を上にあがる。

 頭上を通り過ぎたときは右手の筋肉を緩める、あとは重力に任せて落下させる。

 コツとかじゃないが、左手はしっかりと握らないとダメだ、斧が飛んだら大変だからな。

 重力に引かれた斧は、木の切り株に設置している薪に切り込んだ。


 ここからは簡単だ。

 余計な力を入れず、薪がついた斧をあげて、落とす。

 そうやって木の切り株とぶつ当たるたびに、斧が薪を少しずつ割らせていく。

 二つに割れたら、次のを切り株に設置して、最初から繰り返す。


 コン。


 コン。


 薪が割れる一歩手前のとき、背から視線を感じて、手を止まった。

 振り返ってみると、そこに立っているのは髪の短い初老の男性。

 ルーティの父、この村の村長だ。


「邪魔したのかな? ごめんね」

「別に。 勝手にやってまずかった?」

「いえそんな、むしろ助かりましたよ」

「ならいい」


 問題ないと分かった後、俺は薪割りに戻った。


「にしても、量は多いですね、いつから薪割りを?」

「さあ」

「もしかして、うちのベッドは寝心地が悪かったのかな?」

「いや、ぐっすり寝た」


 ウソだ。

 実は全く寝ていない。

 でも真実を教える必要はないし、教える気もない。


「それはそれは良かったですね、バルトさん」

「むしろ俺みたいな正体不明なやつをよく泊まらせたな、それより聞きたいことがある、えーと」


 そう言えば名前を聞いてなかった。

 昨日ここに来たときはもう遅いから、話は明日からって言われた。


「あ、まだ自己紹介していないよね、私はアレン、このヘイムス村の村長を務まっている者です」

「バルトだ」

「そしてさっきの質問ですか、ルーティが連れて戻ってきた人だ、大丈夫だと、私は信じています」

「そう」


 言いながら、手を振り落とす。


 コン!


 割れた薪を隣に置く、そして次の薪を取ろうとしたとき。


「あっ」

「どうやらもう終わりですね、火も出てきたから、私は朝食を作ります、代わりにルーティを起こしてくれないかな?」

「......分かった」


 年頃の娘を外人の男に起こして貰うのか?

 まあ、本人はそう言ってるのだ、大丈夫だろう。


「場所は?」

「二階の一番奥の部屋だよ」

「分かった」


 アレンさんについて家に入る。

 二階に向かう階段は厨房の逆だから、アレンさんと別れて二階に行く。

 上がった先はすぐ客室だ、今は俺の部屋でもある。

 二階は全部三つの部屋があるから、多分中間の部屋も客室だろう。

 一番奥の部屋の扉をトントンと叩く。



「もう朝だぞ、ルーティ、起きろ」


 ......返事がない。


「ルーティ?」


 ......仕方ない。

 部屋の扉を押して部屋の中に入った。

 質素な部屋だな、そしてベッドに目を移す。

 布団はない、ベッドの隣の床にあった。

 寝てるとき蹴ったのだろう、寝間着もめぐれてへそが見える、栗色の髪もボサボサで寝相が悪いな。


「おい、起きろ」

「......あと5分ー」


 面倒くさい。

 さっさと起こしてやるか。


「『フリーズ』」

「きゃあああ!」


 首に氷の魔法を使われて、飛び上がったルーティ。


「起きたのか? もう朝だから下へ降りるぞ」

「え、あれ? どうしてバルトさんが私の部屋に?」

「お前を起こしてくれと、お前の父さんが頼んだ。 もう起きたのだから下で待てる」

「あ、はい」


 ルーティの部屋から出て、階段を降りるとき。


「寝相が見られたーーーー!」


 誰かの喚き声が聞こえた。

 それを無視して、一階にある食卓に来た。

 食卓の上にスープが乗せた四つの皿が置いていた。


「ああ、来たのか。 さあ、私たちは先に食べましょう」


 席について皿に手を伸ばす。

 口に持ち上がったスープを一口飲む、ふんわりと口の中に広がった果実の香り。


「美味しいかな?」

「ああ、旨い」

「なた良かったですね」

「聞きたいことがある」

「何なりとどうぞ」

「この3年間、この国は何があったのか?」

「3年間ですか......一番大きいのは南の亜人の国と戦争が始まりました。 でもこの村は東だから、ここには影響が出ないでしょう」

「亜人、か」

「何が言った?」

「いや、何も」

「そうですか、次は......」


 亜人、獣人を含めた異種族の蔑称。

 前に聞いたのは何時だろう?

 確か、まだ商人の下で働いているときか。

 あの時も、俺と同じようにコキ使われた子供たちがいる。

 殆どは異種族の子供たちだ、獣人、エルフ、ドワーフ。

 この国は異種族を侮っている、俺みたいな売られた子供と違って、あいつらは大体捕まれて売られたのだ。


 南の国は確か、獣人の国だ。

 獣人たちは総じて仲間意識が強い、故に獣人たちは人間が嫌いなんだ。

 人間はあいつらの村を襲い、男を殺して、女と子供を攫って奴隷商人に売るから。

 まあ、獣人じゃなくても人間を嫌いだけど。

 商人の下に売られた亜人の子供も何人がいた、同じく売られた子供だ、自然に話し合うようになる。

 それもあって、亜人たちの事情は他の人より少し分かる。


「あれからは大きいことは無いな、最近は国王が何かの病気を罹ったみたいで、ずっとベッドで休んでいる、これくらいかな?」

「そうか」

「ねぇ! お父さん! どうしてバルトさんに私を起こして貰ったの! あ、バルトさんおはようー」

「ああ」


 リボンで髪をまとめていたルーティが二階から降りた。


「あれ、何かまずかったの?」

「まずかったに決まるでしょう!」

「どうして? 同じ女の子じゃない?」


 ......こっちもか、俺ってそんなに女に見えるのか?


「バルトさんは男ですよ!」

「え?」

「二人とも、何か騒いでいるの?」

「あ、兄さん、おはよう」

「お、アスト、よく来た」

「あ、君がお父さんが言ってた客人ですよね、初めまして、アストです」

「ああ、バルトだ」

「ねえ兄さん、ちょっと聞きたいことがある」

「そうだ、アスト、バルトさんは男の子? 女の子? どっちだ?」

「え? えっと、かっこいい女性だと思いますよ」


 やはりと言うべきか......


「あのね、バルトさんは女の子ですよ」

「えー? そうなの?」

「俺は男だ」

「えっと、本当に?」

「ああ、そうだ」

「本当に男なんだ、いやはや、女の子なのに自分を俺って言うから変だと思ったよ、あっはっはっ」


 もういい、聞きたいことも聞いた、ミカエルのところに行こうか。


「ご馳走様」


 飲み終わったスープをテーブルに置き、席から起きる。

 お腹はまだ減っている、いつも一日一食だから、一日の必要な熱量を予めに取るのが習慣になった。

 多分そのせいだろう、お腹はまだ減っている。

 これも、なれるしか無いか。


「あ、バルトさん、どこへ行くの?」

「森、何か?」

「私も一緒に行きます! じゃあね、お父さん、兄さん」

「いってらっしゃい」

「気をつけてね」


 ルーティはスープを大口で飲んで、俺の後ろについてきた。


「行ってきます」


 ......面倒くさい。




**********




 ヘイムス村から出て、森の中で進んでいる俺たち。


「これからは何をするんですか?」

「まずミカエルと合流する、それからは狩りを」

「そうですか、そう言えばバルトさんとミカエルはいつから知り合ったのですか? どんな出会いですか?」


 五月蠅い......


「出会ったのは3年前、あの時のミカエルはまだ小さいだな」

「本当ですか? どれくらい小さかったのですか?」

「そうだな」


 あの時のミカエルは確か......手のひらサイズだったか。

 ふん、今のミカエルと比べたら、想像できないほどな小ささだ。

 あの時が懐かしいな、あいつを弄る事で時間が過ごせるのだ。


「あの時、あいつは手のひらくらいだったな」


 手を見せて、ルーティに言う。


「ええー、あの時のミカエルを見たいですね。 じゃあ出会いは?」

「あいつが湖に落ちて、俺が助けた、それだけだ」

「それで今までも一緒にいたのですよね」

「まあな」

「なんだかロマンチックです」


 ロマンチック?

 女の感性が分からない。

 それに正確に言うと落ちたのではなく、捨てられたのだけれど、こいつに知らせる必要はない。

 世間話が終わったとき、俺たちが広場に着いたときでもあった。

 ミカエルを呼ぼうとしたが、あのぐっすり寝た間抜けな顔を見たらやめた。

 もう太陽が出たというのに、まだ寝ているとは。

 いつもの起こし方でやるか。


「おい、駄竜、起きろ、もう朝だ」

「ちょっと!?」

「ギュ~~ウ~?」

「お、き、ろ!」


 俺が一眠りも出来ないというのに、こいつがぐっすり寝ているなんて、むかつく。

 苛ついた俺は足を後ろに引いて、ミカエルの頭をもう一度蹴る。

 堅い......


「キュ~ウ?」

「何やってるんですか!」

「何って、こいつを起こすしか見えないじゃないか」

「そんな方法をとらなくてもいいじゃない!」


 ......五月蠅い、俺がどうやろうと、他人に言われる義理はない。

 それにこいつは竜だ、蹴られた程度はこいつにとってちょっと痒いだけだ。

 むしろこっちの足が地味に痛い、でもこうしないと起きないのがミカエルだ、本当に、どこまでも駄竜のままだ。


「キュイ?」

「もう起きたのか、飯は......もう食ったのだな」

「あ、声が可愛いー」


 ミカエルの足元に、骨がちらばっている。

 それなら、狩りに行ってもいいだろう。

 ここら辺は魔物が少ないから、ミカエルを乗って少しい遠いところへいこうか。

 そう思って、ミカエルの背中に上がる。


「ミカエル、狩りに行くぞ」

「キュイ!?」


 狩りと言ったら肉だ、と聯想したのでしょうか、ミカエルの目は光っている。

 食いしん坊の竜だな。

 そう言えばここはドラゴンで呼ぶのだな、俺の生まれたところと違う。


「邪魔しないから私も行く!」

「帰れ」


 ミカエルに手で合図を送る。

 それで空へ飛べた俺たちの下で、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているルーティ。


「ちょっ!」


 それを無視して、俺たちは遠くへと離れた。

 ミカエルの背中で、下の風景を堪能する。

 改めてみても、目に焼き付いているものは前と同じな壮麗さだ

 でも俺の目的は狩りだ、物見遊山とかじゃない。

 だから俺は適当な場所を指さして、ミカエルに向かわせて貰った。

 山を越え、草原らしいところを見つけた、そこで降りる。


「俺はこれから狩りに行く、お前はどうする?」

「キュ~イ」

「ふーん、そうだな、狩りの勝負をしたらどう?」

「キュウ!!」

「乗り気だな」


 太陽を見る、水平線からずいぶん上がった。


「太陽が真上になるまで、誰がより多くの獲物を捕れるか、勝負しようか」

「キュイ」

「じゃあ、はじめ」


 ミカエルはやる気満々のようで、合図を聞いた途端強く羽ばたいて飛んでいた、吹いてきたとんでもない風を残って。

 俺がまだ隣にいるのも関わらず全力で飛ぶミカエルのせいで飛ばされる寸前だった。

 でもやる気があるのはいいことだ、許してやるよ。


「遅れをとりたくないし、俺も行こうか」


 この草原は何かあるのかは知らないけど、少なくとも村からは結構離れている。

 ここで取ったものの毛皮は高く売れるでしょう、主に交換する気けど。

 正午までまだ何時間もある、どれだけとれるかな?

 ミカエルはまさか一匹もとれないとかはない......ないよね?


 取りあえず、移動を開始する、何か発見できるはずだ。

 そうして歩きは始めてから大体一時間を過ぎたとき、何も見つけなかった。

 もしかしてここは魔物が少ないのかな?

 もっと遠く見るために、俺は木に登ると決めた。

 幸いそこら辺に登りやすいのがあった。

 初めての挑戦だけれど、手と足を併用してなんとかなった。

 木の上から、義眼の性能に頼り、獲物を探している。

 俺とミカエルの勝負はもう時間半分過ぎたから、急いだ方がいい。


 そして、とても遠くのところに、一匹のオオカミを見つけた。

 せっかく見つけたから、逃がすわけにはいかない、運が良くでオオカミは昼寝しているから、チャンスだ。

 すぐ木から地上へジャンプして、移動を始めた。

 最初は半分走って近づいていたが、ある距離から歩くに変わった。

 もう一度確認するために、首を伸ばして覗く。

 遠くでかろうじて見えたその姿も、今ははっきりと見える。

 オオカミはこっちに背を向けて寝ている。

 頭が見えない、一撃で確実に仕留めるには、場所を変える必要がある。

 ゆっくりと、ゆっくりと足を動く。

 音を起こしてはならない、慎重に位置を変わり続ける、義眼もオオカミから逸らさない。


「グゥゥウ?」


 起きた!?

 やばい!

 俺はすぐ地面に伏せ、息も詰めて状況を伺いたいが、草に邪魔されて、オオカミの姿が見えない。

 待つしかないか。

 万が一のために手をローブの中に伸ばして、魔銃を静かに取り出す。


「グウゥゥ」


 セーフ、か?

 少しずつ頭を上げる。

 そしてそこで見たオオカミはまた眠り始めた。

 さっきと違って、今は腹を晒している。

 頭ではないけど、顎も見える。

 まあ、貫通すれば顎は頭と大差ない。


 しっかりと見据えて、魔銃を構える。

 何度も照準して、外れないと確認した後、引き金を引く。


「『スナイプショット』!」


 ほとんど引き金を引くのと同時に着弾した。

 弾丸はオオカミの顎を貫き、頭の中から頭蓋骨を抜けて後ろの地面にぶつかった。

 疑う余地なし、オオカミの命が絶えた。

 多分このオオカミは自分がどうやって死んだのがすらを分からないだろう

 ナイフを取り出して、オオカミの死体に近づく。

 死体の喉をナイフで切り裂いて、血を抜けさせる。

 正確には死体を吊すだが、それをできるところがここにはない

 またいくつの穴を開いて、血を抜ける方法もあったが、毛皮が痛むからできない、

 毛皮は後で人と交換するからな。

 それに血抜きが完全ではないだとしても、まずい部分はミカエルに食べさせればいいんだ。


「あとは......どうやって連れて帰るか」


 しかし選択というものは一つしかない。

 俺はオオカミの足を引きずって、最初の場所に向かった。




**********




「おまえは本当に残念な竜だな」

「ギュ~ウ~」

「まさか一匹もとれないとは、さすがの俺でも呆れたぞ」

「ギュウ! キュ~ウキュ~ギュブ!」


 ボクが近づく前にもう全部逃げたから仕方ないよ!!


「言い訳が見苦しいぞ、ミカエル」

「キュウ!」

「どうでもいいんだよ、勝負は俺の勝ちだ。 それより、これを連れて帰るぞ」

「キュ~~ウ」


 ミカエルの背中に跨がる。

 手で二回たたいて合図を送る、そしてミカエルはオオカミの死体を咥えてから空へ飛んだ。

 戻る先の森の広場で俺たちを待っている人がいた、ルーティだ。

 まさかまだいるとは。


「やっと帰った! 遅い!」

「ここで待ってろとか言った覚えはない」

「うぅぅ!」


 ルーティは不機嫌そうに頬を膨らませている。

 そんな彼女を放っておいて、俺はミカエルから降りて、オオカミの処理を始めた。


「おい、そこのお前、巻きになれる枝を拾ってこい」

「私の名前はお前じゃなくてルーティです!」

「はあー、ルーティ、薪を拾ってこい」

「ふんーだ!」


 プイッと頭を逸らした、女って面倒くさい。

 自分で拾うしかないか。

 俺は一旦肉の処理を止めて、薪を拾い始めた。

 ミカエルはずっと肉を睨んでいる。

 目線であいつに針を刺す、食ったらぶっ殺す、と。

 しばらくの間に、俺は比較的に水分の少ない枝を集めて火をつけた。

 それでまた肉の処理に戻る。

 皮を肉から剥がす、残った肉は小さく分けて、串刺しにして焼く。

 ミカエルは尻尾をぺし、ぺしとたたいている。

 あいつなりの時間潰しだろう。


 俺が作業している間、ルーティはずっと側で見ている。

 時々手で目を塞いでいるのに、指の隙間で覗く行為が理解できない。

 でもあいつのことだ、俺と関係ない。


 肉を焼いている間で皮に取り付いている脂肪を除去する。

 これが一番面倒くさい。

 脂肪は滑るし、頑固だから取りにくい、でも時間はいっぱいあるから、ゆっくりやればいい。

 たまに小さな腹の音が聞こえるが、聞こえていないふりをする。


「キュウ~!」

「うん? あ、そうだな」


 一部の焼けた肉を取り上げて、ルーティに差し出す、これは血抜きがしっかりした部分だ。


「食べる?」

「え、いいの?」

「俺が聞いたから言いに決まってる」

「でも私、何もやってないよ?」


 自覚あるのか......


「食べるか食べないのかはっきりしろ!」

「た、食べます!」


 ルーティはやっと手で肉を受け取った。

 俺も自分の食べる分を取って、残りをミカエルにあげた。

 一口を噛んで、少し顔を顰める。

 血抜きが完璧ではないから、血の味がする、前はこういう部分をミカエルにあげたけど、さすがに今はそれができない。

 幸いなのはまだ口に入れるほどだ。


「うん? どうしたの?」

「なんてもない」

「そうですか」


 ルーティを適当に誤魔化して、肉を喉に通す。


「美味しいー!」

「そう」

「キュ~イ~」


 焚き火の周りで、三人で昼食をとった。


 オオカミの肉を片付けたあと、後ろにルーティがついてた俺は毛皮を担いで村に帰る。

 まずは村長の家、つまりルーティのおうちに戻る、交換する許可を取りない。

 俺は外の人間だから、何か勝手なことをやらかしたらまずい、だから先に村長に聞いておく。


 珍しくルーティは何も発していない、静かで助かりまし......


「ね、バルトさんは、何になりたいですか?」


 思った途端に話しかけてきた。

 それにしても、何になりたいか、前は生きるためにもう精一杯だったのだ、そんなことを考える余裕はなかった。

 せっかく世界を回ると決めたから、そんなのゆっくり考えればいい。


「何も」

「そうですか。 私はね、冒険者になりたいです」

「冒険者?」


 冒険者、魔物を狩って換金するものたちのことだ。

 確か何らかのギルドの下で管理している。


「何でそれを?」

「私はね、この世界のことがもっと知りたいの、それができるのが冒険者ですよ、幸い私は魔法の素質があるみたい」

「へー」

「バルトさんは魔法できるの?」

「一応」

「じゃあ、私の魔法を見てくれる? 意見がほしいの」

「暇なときなら」

「やったー!」


 それから機嫌がいいみたいに、ルーティは鼻唄を始めた。

 道中に彼女の歌を聴いて、村長の家に着いた時、アレンさんは丁度入り口のところにいた、隣にもう一人の女性と一緒に。


「あらあら、どうしたの? ルーティちゃん、男連れて帰って。 あ、もしかしてその人が彼氏?」

「違うわよ! って、どうしてバルト産が男だとわかったのですか? お父さんが教えたの」

「私もびっくりしているよ、ミリーに教えていないのに」

「あらあら、二人ともどうしたの?」


 賑やかな一家だな、この様子からしてその女性はルーティの母だろう。


「ね、お母さん、どうして男だとわかったの?」

「私も聞きたい」

「そんなの、骨盤を見たらわかるんじゃない」

「分かるか!」

「それよりどうなの? 彼氏なの?」

「違います!」

「はぁー、あの」


 この茶番はいつまでも続けそうで、強引に割り入る。


「あ、すみません、バルト君。 何か用事?」

「村の人たちと交換したいから、その許可を取りたい」

「そんなの、わざわざ私に知らせなくても大丈夫ですよ」

「あと、村には市とかあるのか?」

「それなら東にあるよ、っていっても小さいけどね、東はこの方向だ、まっすぐ行ったらすぐ見つけるはず」

「そう、じゃあ俺はこれで」


 まだ母とじゃれているルーティを残して、俺は一人で東に向かった。

 道沿いに3分くらい歩いて、位置らしきものを見つけた。

 あんまりにも小さいから、市と言えるかどうかは言い難い。

 とにかく一人の婆さんに話しかけてみる。


「すみません、これを交換したいが」

「交換かい? 何かで交換する気かな?」

「これだ」


 担いだオオカミの毛皮を広げて見せる。


「脂肪はまだついているね、別にだめとかじゃないけど、何と交換したいのかな?」


 やはり処理が少し甘いか。


「塩、出来れば香辛料もほしい」

「香辛料も? それなら量が少なくになるよ、更新料は高いからね」

「いや、それでいい」


 むしろその方が助かる。


「じゃあ、取りに行くからちょっと待てな」


 後ろの家に入った婆さん。

 少しの間で待ていると、婆さんは手で小さな袋を抱いて家から出た。


「あいよ、これが塩で、こっちが香辛料だ。 香辛料は混ぜているけど大丈夫かな?」

「いや、問題ない」

「そうか、そうか、まだ何が必要?」

「これでいい、ありがとう」

「いえいえ」


 担いだ毛皮を婆さんに渡して、俺は村長の家に帰った。

 家に入った時、さっきの女性が客間にいた。


「あら、お帰り」

「......どうも」


 躊躇したけど、こういうときはどう返すのか?

 お帰りと言われた記憶がない。

 さっきの返事でいいでしょうか?


「あのね、ちょっと聞きたいことがあるのですけれど」

「なんだ」

「ルーティちゃんってどう思う?」

「別に何も」

「あらそうですか、ほらね、ルーティちゃんって元気がありそうでしょう、もしかしてがタイプじゃないとか?」

「何が言いたい?」

「だから、ルーティちゃんを女の子としてどう思うのですか?」

「興味ない」

「あらあら、手厳しいそうね。 ルーティちゃん頑張って」


 返事を残して、俺は二階へ上がる。

 そして背後の囁いた声は、俺の耳に入らなかった。

 部屋に戻り、ベッドに倒れた、まだ少しなれない感じがするけれど、今はそんなことよりも寝たい。

 丸一日寝ていないから、脳に休憩の時間をあげたい。

 しかしこんな時に限って、鐘の音が何度も響いた。

 後に続いて広がった外の騒ぎ、二階にいる俺のところでも聞こえる。

 いやな予感。

 せっかく睡眠に入ろうと思ったのに、邪魔された。

 一体何があったのか、一階に降りて、アレンさんに聞いてみる。


「あ、バルト君、実は言いがたいけど、魔物の暴走があったね、この村はその進路上にいるみたい」


 魔物の暴走?

 こんな時期に?

 だからこんな騒ぎになったのか。

 魔物の暴走は大抵春の季節で発生することだ。

 そして今は夏だから時期外れている、確かに確率低いが有り得ないわけじゃない。


「悪いがバルト君、手伝ってもらえる?」


 さて、ここはどう返事すべきか。


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