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片目の竜使い  作者: にょろにゃん
第一章 バルバトス
3/17

片目

まさかダンジョンの中でも昼と夜があるなんて、びっくりしたよ。


時間の説明が忘れたので、加筆しました。

「火を出せ」

「ギュ、ギュ~ウ!」


 ミカエルの口から火が噴出していた。

 俺はいつもの通り肉を焼く。

 こいつが大きくなったおかげで、火力と持続時間は増えてきた。

 初めて会ったときはまだ片手に乗せるほどのサイズだが、さすがに今は両手使わないと乗せられない。


「もういいぞ」

「キュ~イ!」


 肉をナイフで分ける。

 ミカエルが大きくなったせいで必要な食料も増えてきた。


「な、ずっと気になったけど、どうして火を出すときはいつも手を上げるんだ?」

「キュ、ギュウ」

「は? 勢いを出すため? お前が?」

「ギュギュウ!!」

「そんなこと言われても、試しに威嚇してみたら?」

「キュ~ウ......ギュ~ウウウ!!」


 また手を上げた。


「......ブッ」

「ギュウ!」


 こいつと出会ってからもうどれだけ経ったのか、覚えてない。

 今は何層にいるのも、考えたくない。

 でもそんなことはどうでもいい。

 俺は、ミカエル(こいつ)と一緒に外へ出る。

 これだけ知れば十分だ。




**********


----23層---- 


 23層。

 今俺たちのいる階層だ。

 21層から一変した広大なフロア、森そのものだ。

 森エリアと暫定しよう。

 この森エリアの一番嫌なことは、今でも感じる、歩き辛いということだ。

 二番目嫌いのは、サルだ。


 バン!


 チッ、また外したのか。

 20層までの迷宮タイプとはまったく違う。

 平面の照準はもう慣れたけど、高低差まで計算しなきゃならないから、この上にサルたちの動きも立体的で、予想し難い。


「ギュウ?」

「大丈夫、また行ける」


 サルは群れで行動する。

 だから全方位を警戒しなくてはならない。

 攻撃も何匹が一緒にしてくる。

 本当に、面倒くさい。


 でも俺はここで負けるわけにはいかない。

 それに21層からもう2階層をも上がってきたのだ、対応策はちゃんと整えている。


 キャッキャッ、ウッキー!!


 来た。


「『ショックバリア』」


 帯電の障壁を生成して、身体を完全に囲む。

 そして飛びついてきたサルは全員ショックされた。

 この魔法はサルに対して使いやすいが、使うとき動いてはダメだ、じゃないと自分までショックする。

 一歩間違ったら終わりだ。


 まだ木の上に残っているサルたちに向かって発砲する。

 1発は外れた、2発も外れた、3発は背中に命中した、4発もまた外れた。

 クソ、やっぱり狙い辛い。

 まあ、少なくとも撃退したんだ。

 後はまたショックしてるサルたちにとどめを刺すだけだ。


 その後、ナイフを取り出して、今日の分量を切ってバッグに入れた。


「ギュウ~」

「食べたくないって、仕方ないじゃない、ここはサル以外何もないぞ」

「ギュ~!!」

「五月蠅いな、血抜きをちゃんとやれば肉はたったの肉だ」


 今晩はまたサル肉決定だな、さっさと次の階層に行きたい。

 でも階段はまだ見つけてない。

 仕方ない、野宿の場所を捜そうか。


「行くぞ」

「ギュウ!」


 大体一時間過ぎ、俺たちは野宿の場所を見つけた。

 まさかダンジョンの中でも昼と夜があるなんて、びっくりしたよ。

 そろそろ夜になるから、野宿の準備に入る。

 準備と言っても焚き火を作るだけだ。

 幸いここは森の中、薪の心配はいらない。

 この前は全部ミカエルに焼いてもらったから、今はけっこう楽だな。


「おい、何処へ行く気だ?」

「ギュ!?」

「逃がさないぞ、さあ、魔法の練習に戻ろう」

「ギュギュ、ギュウ!」

「は? 火はもう出せるからいらない? 馬鹿野郎!! 火しか出せないなんてダサい! それだからお前はいつ経っても駄竜だよ!」

「ギュ~ウ!!」

「はぁー、もういい。 お前が駄竜のままでいいならそれでいい、俺と関係ないし」

「キュ~イ!?」

「ああ~、駄竜にしてダサい。 駄竜ミカエル、ダサいミカエル」

「ギュ~、ギュイ」

「分かればいい」


 隣で魔法の練習をするミカエル。

 火は出せるようになったが、ほかの魔法はまるきりダメだ。

 残念な竜だね。


「キュ~ウ~」

「もう諦めるのか?」

「キュウ! ギュギュ!」


 俺みたいに魔法は上手ではないか。


「俺だって魔法は上手ではない」

「キュイ? キュ」

「ウソって、ひどいな。 死ぬ気で頑張ったよ、俺は」

「キュウ?」


「毎日毎日、マナを尽きるまで練習した。生きるために、強くなるために、ここから出るために、俺は死ぬ気で頑張ったんだ......だから、お前も出来る、ちゃんと練習すればな」


「キュ」

「それに、お前は竜だ、マナの総量も俺より多い、センスもきっと俺よりいい、だからお前は俺よりすごいやつになれるぞ」

「ギュウ~?」

「つまり、魔法の練習を続けろ」

「キュ!」

「ああ、頑張れ」


 ミカエルはまた魔法の練習に没頭した。

 俺はそれを傍で見て、今までのことを考えた。


 階層主。

 5層、10層、15層、20層も出会った。

 1層のミノタウロスを例外として考えれば、次は25層で出るはずだ。

 この遺跡(ダンジョン)は一体何層まであるのか?

 20層も上がったし、半分くらいは到達したはずだろうか?


 そんなことを考えるのはやめよう。

 意味ない。

 50層であろうか、100層であろうか、俺はここから出る。


「ミカエル」

「キュウ?」

「肉、焼けたぞ」

「キュ~イ!」


 食事を済ませたあと、俺たちは眠りについた。

 この遺跡(ダンジョン)の攻略を始まった以来、勘が少しずつ鋭くなってきたから、周囲がもし何かの異変があるならすぐ起きられる。

 もう浅い眠りが慣れたから。

 明日、多分24層への階段は見つけるはずだ。

 さあ、休もう。




**********


----25層----


「『フレイムショット』!!」


 魔銃に注入するマナを変質させて、火の弾丸を発射する。


 25層は全部ひとつで階層主の間だ。

 そして階層主はドリアード。

 フロアの中央で鎮守する大きな古木。


 数多の枝は時にムチのように薙ぎ払い、時に槍のように突き刺す。

 その攻撃を対応しながら、俺は反撃を繰り返す。

 木だから火、安易な発想だけど、結果は旨くいった。

 でも油断はしない、してはいけない。


「『エクスプロージョン』!!」


 最後の一撃で仕留めた。

 爆音の後、たった一つの魔石を除けば、ドリアードは何も残さないまま消えた。


「キュイ?」

「ああ、食べていいよ」

「キュ~!!」


 さてと、今回も魔石をミカエルにあげた。

 別に魔石がいらないわけじゃない、検証したいことがあるからだ。


 ポリポリ。


 にしても何度も見たのに慣れないな、竜が石を食べるなんて。


「ギュウイ!」


 美味しかったのか。

 しかし気のせいか、ミカエルがまた一回り大きくなったような。

 まあ、とりあえず休憩に入ろう。

 階層主は倒れると二度と出てこない、ゆっくりと休憩できる。

 長い時間の後はまた出てくるかもしれないが、のんびりで待つつもりは無い。


 何時間後休憩を終える。


「次のフロアに行くぞ、ミカエル」

「キュウ!」


 腰の重量が変わった。

 どうやら気のせいじゃない、やっぱりミカエルは重くなった。

 つまり魔石を食べると成長する?


 マナだ。

 魔石はマナの結晶だ、つまりマナが竜の成長の鍵という訳か。

 それならばなぜミカエルは俺のマナを吸うのも説明できる。

 でも、これ以上重くなると、行動に支障が出る、これからは魔石を食べさせるべきか?


 ......続けよう。

 こいつが俺の歩幅をついて行けるようになったら、俺の腰の重量も減るんだ。

 今はまだ平気、しかし30層を攻略したら、多分こいつに自分で歩くしかないか。

 俺のためにも、こいつのためにも。

 そんなことを考えながら、俺たちは26層の入り口に着いた。


「また森か......」


 26層は、森エリアの続きだ。




**********


----29層----


 俺たちは今、30層への階段の隣で休憩する。

 23層の森と違って、ここはシカがあるから、もうサルの肉を食べなくていい。

 焚き火のそばで、ミカエルが魔法の練習をしている。

 俺が言う前に自分で始めたんだ、成長したとも言えるか。

 焼いている肉を注視しながら、俺は魔法のイメトレをしている。

 何も考えてないときはこうしたこうが効率的にいい、時間の無駄にならないから。

 そんなときに、


「キュ~ウ」

「う、ああ分かった」


 喉渇いた。

 俺は指先でミカエルの口元に近づいて、


「『ウォーター』」

「キュウ!」


 遺跡(ダンジョン)の攻略を始めたときは水のことを忘れたから、焦った。

 そのときはまさかミカエルが気付いてくれた、魔法があるって。

 普通は魔法で水を作らないから思いつかなかった。

 効率が悪いからな、魔法で水を作るために消耗しマナより、井戸で調達した方が早い。


「もういいのか?」

「キュウ」

「なら飯を食ったらさっさと寝よう」

「キュ~」


 明日は、30層の階層主を挑戦する。

 そのために、今は英気を養う。


 夜。

 ......眠れない。

 明日はたぶん苦戦になるというのに、眠れない。

 もう何日だろう?

 ミノタウロスの時以来、もうどれだけ過ぎたのか?

 一休みで一日は安易すぎるかな?

 でも太陽が見えない、だから時間も計算できない。


 いや、そもそも時間は意味あるのか?

 知っても出られない。

 崖から落ちた日、あれは何時なのかも曖昧だ。

 時間なんてどうでもいい。


 俺は攻略を続けるだけだ。


「ギュ~ウ~?」

「起きたのか」

「キュ?」

「じゃ、そろそろ行くか」

「ギュウ~~」

「ふん、行くぞ」

「キュ~ウ」


 30層への階段をのぼり始めた始めた。

 この先は、


「ふん、シカの次はユニコーンか」

「ギュ~?」

「邪魔ものは全部潰す、それだけだ」


 誰であろうか、何かであろうか、俺の道に塞がるものは、全部殺してやる。




**********


----34層----


 ここは何層だっけ?

 ああ、34層か。

 もう、34層か。

 残りはあと何層だ?

 知らない。

 知るとこも出来ない。

 たったひたすら歩きだけだ。


 砂漠。

 時々サンドワームが出てくるが、仕留めるには難しくない。

 俺たちは何時間歩いてきたのか、もう覚えてない......


 25層のドリアード、そして30層もフロア全部ひとつで階層主の間だ。

 階層主のユニコーンを始末して、31層に上がったら砂漠でした。

 暑い、そして寒い。

 何時間の昼が過ぎたら、同じ時間の夜が来る。

 太陽はない、外の時間と同じなのかも疑わしい。


 砂漠の昼は暑い、とんでもなく暑い。

 夜になると思考まで凍結するほどの寒さだ。

 劇烈の温度差、一歩一歩俺の体力を奪う。


 俺たちは、何をしようとしている?

 俺たちは、何処へ行こうとしている?


 空を見上げる。

 何もない。

 雲も、日も、風も。


 ここは何処?

 ああ、遺跡(ダンジョン)だ。

 俺は今、34層にいるんだ。

 俺は出たいんだ。

 そうだ、俺はここから出たい。

 だから、歩こう。


「ギュ~、ブ?」

「はっ、大丈夫だ」


 次のフロアへ、歩こう。




**********


----38層----


 地面が熱い。

 何で?

 ここはどこだ?

 砂?

 ......そんなことより、綺麗だな。

 雲も、太陽の日差しも、青い空も、全部綺麗だな、

 風が気持ちいい。

 もうどこでもいい。

 ここでいい。

 もう動きたくない。

 だってここはこんなに気持ちがいいんだ。

 もう、ここでいいんだ。


「ギュ~~ブ!」


 なに?

 何かが動いている。

 隣も、地面も、動いている。

 何なんだ?

 隣を見る。

 小さな姿、

 真っ白の姿、

 そして、元気の姿、

 誰?


「ギュウゥゥブ!」


 赤い何かが出ている。

 火?

 白い姿は、何を見ているのか?

 白い姿の視線の先は、何かがあるのか?

 朦朧とした、巨大な身躯。

 ......何それ?

 見覚えがある、

 なんだそれは?


「ギュウ!!!!」

「いたっ」


 耳が噛まれた。

 痛い、

 痛い?

 朦朧としたものがはっきりと見えた。

 サンドワーム。

 俺を食べる気か。

 もう、どうでもいい......


「ギュイ!」

「痛っ! ミカエル! 何してるんだよ!」

「ギュウギュ!」

「は? 諦めるな?」


 諦めたのか、俺は?

 ここから出ると決めたのに?

 ......ふざけるな。


「......誰に向かって言ってるんだよ! 『フレイムトライランス』!!」


 サンドワームの倒れて行く姿を背景とし、俺はミカエルに言う。


「......次に行くぞ、ミカエル」

「キュ~イ!!」


 諦めるな、か。

 もうここまで来たのに、諦めたくない。

 諦められるか!

 本当に、先ほどの俺をぶん殴りたい。


 ......ありがとう、ミカエル。


「キュイ!」


 言うつもりがなかったのに、読まれたか。

 ふん、もう言葉はいらない。

 これが、俺たちなんだ。




**********


----41層----


「ミカエル、これからお前は自分の足で歩け」

「ギュイ??」

「うん、そうだ。 俺は38層で倒れるのは全部お前のせいだ」


 そうだ、俺は悪くない、こいつのせいだ。


「ギュイ!? キュキュウ!!」

「横暴なんかじゃない! お前、自分の重量を知っているか!?」

「ギュ~、イ?」

「というわけで、これからお前は自分で歩け」

「ギュウ~」


 それにしても、砂漠の続きは平原か。

 最悪だ。

 むしろ森の方がマシだ。

 隠れる場所がない。

 遠くて魔物を発見できる、聞こえはいいが、逆も同じだ。

 遠くて魔物に発見される、最悪以外なにもない。

 でも、やらなきゃ。

 ここから出るには、やるしかない

 もう諦めたくない。


「行こうか」

「キュウイ!」


 腰の慣れた重量が無くなった。

 少しの名残と一緒に、全く別のものを胸で感じた。

 それは何なのかは、今はまだ分からない。


 でも、嫌な感じがしない。




**********


----50層----


「くたばれ! 『サンダーショット』!!」


 チッ、切られた。

 対峙するのは、首なし鎧(デュラハン)

 そして俺の魔銃から射出された弾丸は、首なし鎧(デュラハン)に剣で切断された。


「ミカエル、まだなのか!」

「ギュギュウ!」


 チッ、大きくなったのに使えないやつだな。

 45層を攻略した後、前のように魔石をミカエルに食べさせた。

 そうしたらミカエルが一気に大きくなた。


 今は膝のところまでも届く。

 やっぱり前の仮説は間違ってない。

 ミカエルが成長するにはマナが必要だ。


 それに45層だから、落ちた魔石も1層と違って大きい。

 それを食べてからミカエルは急成長を始めた。

 成長したおかげで、翼も大きくなり、堅くなった。

 もう飛べるようになったのだ、ミカエルは。


 そのせいで46層から俺は地面で、ミカエルが空中での訓練が始まった。

 でもミカエルの頭にどうやら飛ぶためのプログラムが入ってないみたい、何時間の練習を費やして、少しずつコツを掴めたようだ。

 そしてミカエルが空中で探索してもらって、俺たちの攻略スピードが一気に上がった。

 戦闘になると、俺が地上で敵の注意を引く、その間にミカエルが空中で魔法を撃つ。

 効率のいい戦い方だが、ミカエルの魔法がいまいちすぎて、何度も自分でやった方が速いと思った。

 でもそれじゃミカエルのためにはならない。

 だから休憩の時は魔法の練習をより厳しくにした。


「『フレイムショット』!」


 デュラハンの鎧に着弾した、そして何も起こってない。

 でも、どうしてデュラハンはさっきの弾丸を切らないのか?

 ......もう一度、試してみる。


「『サンダーショット』!」


 切った。

 なるほど。


「ミカエル! 雷の魔法を使え!」

「ギュ~~ウ」

「苦手でもさっさとやれ! グチグチ言うな!」

「キュ~イ」


 ミカエルに命令した突端、デュラハンはこっちに切り込んだ。

 避けない!

 仕方ない。

 『ブラストウィンド』!

 俺とデュラハンの間に魔法の風を炸裂させる。

 身体を突風に任せて、デュラハンの斬撃から外した。

 クソ! 追撃してきた。

 なら、


「『ショックバリア』!」


 サルの時と違って今回は前方だけにバリアを張る。

 この後は着地失敗して転がった。

 デュラハンは?

 起きてそこに見たら、さすがは50層の階層主というべきか、バリアに触る前に止まった。

 でも距離は取った、次は牽制を続ける。

 その前に、


「ミカエル!!」

「ギュ~ブ!!」


 青白い稲妻が空を切り裂く、デュラハンに命中した。

 悲鳴は無い、でも動きからしてデュラハンは苦しんでるのが分かる。

 攻略法を、見つけた。


「続くぞ! ミカエル」

「キュイ!」


 デュラハンはもう、脅威にならない。


 それから何度もミカエルから雷の魔法を食らって、デュラハンの最後はあっけなく死んだ。

 残されたたった一つの魔石をミカエルにあげった。

 ミカエルがこれ以上の戦力になれるなら文句は無い。

 さて、階段を上がろう。

 もう50層も頑張ってきたのだ、そろそろ外へ繋がるはずだ。

 50層に来るまで、毎日死ぬ気で頑張ったんだ、毎日死ぬ気で足掻いて足掻いて、やっとここまで来たんだ。

 だから、頼む、お願い、俺をここから出せてくれ!!


 階段をのぼり、最後の光の先は、

 陰湿な空気、紫の煙を噴出する地面、墓を飾りのように所々に飾っている、51層のフロア。


 まだあるのか。

 もうここまで来たのに、まだ続きがあるのか。


「ギュ?」


 手に力を入れて、握りしめる。


「大丈夫」


 ああ、大丈夫だ。

 もう、諦めない。

 そう決めたから。

 何層だろうと、俺は上がり続ける。


「行こう、ミカエル」

「キュイ~!」


 もう決めたから。

 ここから出るって決めたから!




**********


----66層----


 今は何層?

 覚えてない。

 考えたくない。

 もう何層のぼったのか、あと何層あるのか、もう考えたくない。

 どうでもいいんだ、それは。

 今、俺たちはまだ進める、まだ進んでいる、それだけで十分だ。


「ギュ~ウ~」

「五月蠅い、俺だって寒い」


 今俺たちの周りは、真っ白な世界、氷原だ。


「階段は? 見つけた?」

「ギュブ」

「そうか」


 今日も成果なし。

 氷原だから、無闇な移動はしない。

 明日にマラミカエルに探してもらうしか無いか。

 それにしてもまた大きくなったな、ミカエルは。

 今は腰のところまでか。

 成竜になる日は遠くではなさそうだ。


「今日の獲物は?」

「ギュウ!」

「へえー、ウルフか」

「キュウ!」

「ああ、すごいすごい」

「ギュギュウ!!」


 最近はミカエルの訓練の一環として、食料の調達を任せた。

 そして今日の成果がこれだ。

 最初の時と大違って、今は少し頼れるな。

 血抜きもちゃんとしている。

 ナイフを取り出した、肉を焼くために処理が必要だ。


「ミカエル」

「ギュ~~~~」


 処理した肉をミカエルの口元に近づいて、焼き肉にする。

 正直、もうずいぶん前から肉が飽きた。

 でも生きるためには必要だから、仕方なく食べる。

 野菜が恋しい。

 もう飽きた味をしてる肉を胃袋に詰めておく。

 明日がまた前に進めるために、今は寝よう。


「お休み」

「キュウ~ウ」




**********


----69層----


 階段をのぼり続ける、70層へ上がるために。


 そして着いた場所で俺たちを待ているのは、クロスボウを左手で構えて、右手の肘から刀のような物を生えていた、人の姿をしている異形だ。

 頭の中央にたった一つの金色の目。

 強い。

 油断してはいけない。

 しかし、こっちは二人(・・)もいるんだ。

 負ける要素はどこにも無い


「やるぞ、ミカエル」

「キュイ」


 異形に向かって走り出す、同時に引き金を引く。


 バン!

 もう何度も聞き慣れた音とともに、階層主の身体に命中した。

 予想通り、何も無かった。

 70層だから、もし普通の弾丸で効くならむしろこっちが驚く。


「『フレイムショット』!!」


 俺が撃った後、異形もこちらにクロスボウを向けた。

 来る!


 『フレイムショット』も効かないと視認した後、クロスボウから撃たされた矢を回避する。

 次の弾丸を発射すると、もう一つの矢が飛んでくるのを気付いた。

 クロスボウなのに装填はいらないのか!

 クソ、もう避けられない、魔法を使うには時間が足りない。

 瞬時の判断で、俺は左手を犠牲した。


「グッ!!」


 三つ目の矢が来る、止まってはダメだ、動かなきゃ!


「『サンダーショット』!」


 矢を回避して、反撃する。

 しかし案の定、攻撃が効かない。

 なら水は?


「『フローズンショット』!」


 くそ、ダメか。


「ミカエル! 何でもいいから、威力の大きい魔法で行けぇ!」

「キュイ」


 ミカエルから注意をそらすために攻める。


「『ウォーターカッター』」


 効かない。

 何なんだ、こいつは!


「ギュ~ブ!!」


 来た。

 火を選択するとは、ミカエルらしいな。

 空から特大の火球が落ちた、その後着いてきたのは閃光と爆音だ。

 これを食らえば、さすがに無事でいられないだろう。


「ウソ」


 自分の目が信じれなくなった。

 地面が焦げて、削られた。

 でも、その爆発の中心にいる異形は、何もな刈田のようにこっちを見る。

 何なんだ、一体。

 何なんだよ、こいつは!

 勝てない、

 頭がそう訴えた。

 でも、誰かこんなところで止められるか!

 もうここまで来たのに!


「ミカエル、もっと強いのをやれ! その間は俺が引く!」

「ギュ~ウ!?」

「やれ!!」

「キュ~」


 もう一度異形に向かって発砲する。

 効かなくてもいい、こちらを注視すればそれでいい。


 でもやはりというべきか、異形はミカエルの方を見た。

 もう俺が脅威にならないというのか?

 クソ!

 俺は走り出した、攻撃するために異形に近づく。


「食らえ!! 『パイルバンカー』!!」


 身体中のマナを半分消耗して、魔法を発動した。

 そして結果は、俺の最大威力の魔法も、何も起こしてなかった。

 少なくとも、異形はこっちに視線を戻した。

 これでいい、何も無かったとしても、これでいいんだ。


「危ない!」


 刀のような右手の攻撃から、ギリギリで身体を躱して行く。


「ミカエル、まだか!?」


 声を出したが、空を見る余裕が無い。

 全身全霊で異形の動きを注視する。

 集中力が途切れたときは、俺が死ぬときだ。


「ギュ~ブ!!」


 来た!


「『ブラストウィンド』!」


 風で異形から離す。

 じゃないと自分まで魔法を食らう。

 ミカエルが放った魔法は、今まで見たことが無い。

 ひそやかに自分で考えたのだろう。


 炎の射線。

 この言葉が一番ミカエルの魔法に似合ってる。

 青白い炎、あれの温度はどれくらいだろ?

 射線の中心からけっこう離れているのに、熱量を感じる。

 これで、最後のようだな。


 警戒が切れそうなときに、矢が射出された。

 気付いたのは本当に運がよかった、そうじゃなきゃ俺の頭は穴が開くだろう。


 何でだ?

 もうミカエルの魔法食らったはずだ。

 威力の高い魔法を食らったはずだ

 なのになぜ? 

 どうしてまだ立っていられるんだ!


「クソ!!」


 どうしたらいいんだ?

 分からない。

 こんな相手は初めてた。

 どうしたらいい!


「クソ!」


 バン! バン!

 頭が止まっても、身体を止まるな。

 遺跡(ダンジョン)の攻略を始めて以来俺が習ったことだ。 

 だからなのか、心が壊れる寸前なのに、また発砲する。


「死ねぇぇぇぇ!」


 バン! バン! バン! バン!


「ギュ~イ!」

「ぐぁ!」


 クソ、俺は何やってんだ。

 異形に飛ばされた。

 だから何?

 このまま諦めるのか?

 ふざけんな。

 誰が諦めるか!

 考えろ、きっとどこに弱点があるはずだ。

 考えろ、今までの着弾点、全く撃ってないところは何処だ!

 考えろ!


 バン!

 空に向かって発砲する、その反動で転倒した体勢を戻す。

 着地する前に、足で地面を蹴る。

 身体の向きを変える、異形を視界に収まるために。

 もう、なにも考えない。

 たった一点を注視する。

 右手でそこを指す。

 必要なのは一撃だけでいい。

 ほかの全部を捨てる。

 照準、そして発砲。

 簡単なことだ。

 だから迷うな、躊躇うな。

 これで、終わりだ!


 バン!


 引き金を引いた後、何かが入った。

 何かが()に入った。

 え?

 目?


「ぐぅあぁぁぁぁぁ!!!!」


 何だ、これは?

 何が起きた?

 分からない。

 異形はどうした? 階層主はどうした?

 倒したのか?

 分からない。

 もう、なにも見えない。

 たった一つの目なのに。

 壊された。

 もう、何もかも見えない。

 俺のすべては、色褪せていた......


「ギュイ?」


 ミカエルが近づいた。


「お前が近づいたってことは、勝ったのか、あの化け物に。 はっはっ、まさか目が弱点なんて、思わなかったよ」

「ギュイ?」

「惨めだろう? まさか最後の最後で目が撃たれたとは」

「ギュイ?」

「何だ? 何が言いたい? 笑えばいいじゃ無い、こんな馬鹿でも、外へ出たいなんて」

「......」

「何か言えよ」


 バタバタ。


「見えないんだ、もう、使えないよな、俺は」

「......キュ」

「夢見すぎだかな? 俺みたいなやつでも攻略しようとは、馬鹿もほどがある」


 バタバタ。


「キュイ」

「何だよ?」

「キュイ!」

「う」


 ミカエルは俺に何かを押さえつけた。

 血に染められた右手でそれを受け取る。

 見なくても分かる、だってつい先ほどまで目を触っているんだから、血に染められたのも、考えなくても分かる。


「何だ? これは」

「キュ~ウ」

「は? つける? 何処に?」


 渡されたのは一つの球体。


「はっはっ、まさかこれを目につける?」

「キュイ!」

「冗談も言うようになったじゃない」

「ギュイ!!!」

「......分かった、やるさ」


 もう見えないから、試してもなにも変わらない。

 左手で目に伸ばして、まだ矢が刺さっているのを感じた。

 階層主の戦いでこれだけで済むのだ、また少し入ってきたら、俺はもうこの世にいない、むしろ感謝すべきだろうか。

 目に刺さっている矢を掴んで、抜く。


「ぐぅぅぅぅぅあっ!」


 矢を適当に捨てる、もういらない。

 右手に収まっている何かを、眼窩に押さえ込む。


 なにも起きてない。

 相変わらず見えない、やはりなにやっても無駄だ。

 そうと判断するとき、その何かが徐々に熱くなった。


「え?」


 また少し、熱くなった。


「ウソ」


 色も、熱とともに少しずつ戻ってきた。


「何で?」


 眼窩が熱い、でも耐えないわけじゃない。

 見える。

 見えるんだ。

 色が見える!

 色は、こんなに綺麗なのか?

 俺の頬をぬらしているのは、血なのか、それとも涙なのか、もう分からない。

 でも、また見える、まだ見える、

 これだけ知れば十分だ。


「少し、休憩しよう」

「キュイ~!」


 まぶたを閉じる。

 しかしなにも変わらない、

 色のついた世界は、俺の網膜に焼き付けっている。

 あぁ、なるほど、

 俺の世界()はもう、閉じられない。


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