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片目の竜使い  作者: にょろにゃん
第一章 バルバトス
2/17

出会い

魔法を使うときちゃんと口にするように変わりました。

「食べ終わった?」

「キュイ」

「じゃあそろそろ行くか」

「キュ!」


 子竜は俺の着ていたローブに噛みついて、身体をぶら下げる。

 子竜はまだ小さすぎて俺の歩幅についていけないから、この方法をとった。


「大丈夫?」

「ギュブ!」

「おまえ何年経っても身長変わってないな」

「ギュ~ウ!!」

「これから大きくなるって、寝言は寝て言え」

「ギュ! ギュウ!」

「ああ、はいはい」

「ギュ~!」


 相変わらず元気な声だな。

 元々こいつを拾うつもりではなかった、俺自身だけで手一杯だから、荷物は少ない方がいい。

 でも、生きる意思を感じるその鳴き声、俺はどうしても無視ができない。

 同じ境遇に落ちたからこそ、同情して拾ったのだろうか。


 俺は生まれつき右目しか見えない。

 今はアイマスクをつけているが、昔の俺はいつも前髪で左目を隠す。

 そして子供の時、親に売られ、商人の下でコキ使われた。

 それでも飯をくれて、養ってくれた商人のことを感謝している、あのことがなければ。

 捨てられた、いざの時もまた、捨てられた。


 崖から突き落とされたのだ。

 どうして俺なんだ?

 落ちてるときはずっと考えてた。

 どうして俺なんだ?

 俺のどこが悪いのか?

 どうして俺はこんな目に合わなきゃダメなんだ?

 弱いから?

 俺はただ生きたいのに。


 運がよかった、そのおかげで死ねなかった。

 落ちた先は湖だ。

 俺は冷たさを我慢して、水際に向かって泳ぐ、這いずって湖から出る。

 生きたい。

 死ぬなんて嫌だ。

 だるい足を引きずって、俺は先の分からないたった一つの道に進み始めた。


 道の果ては、遺跡(ダンジョン)

 そして遺跡(ダンジョン)の入り口の周りに、人だったものが一杯散らばっていた。


 俺と同じここに落ちた人たちでしょうか。

 でも、俺はこいつらと同じような果てになりたくない。

 じゃあ、どうする?


 答えは決まっている。


 俺は人の残骸から、必要な物を探り出す。

 ローブを羽織り、靴をブーツに変わる。

 探したバッグを開けて見たら、何もない、それでも使えるから背負う。

 あとは古びたアイマスクとナイフ、それとたった一つの魔銃。


 それらを身につけ、俺は遺跡(ダンジョン)に入った。

 最初は辛かった。

 戦うのが辛い。

 やったことないし、たった一つの目で照準するのも慣れない。


 何度も外した。

 それに全部の弾はマナで作るから、外すと外すほど、体内のマナが減る、マナが減ると身体もだるくなる。

 だから俺は入り口のところだけで徘徊する。


 上がりたい、さっさとここから出て行きたい。


 でもリスクが多すぎる。

 上がるために、俺がもっと強くなる必要はある。


 幸い湖はそこまで離れていない、水の調達はすぐ済む。

 残りは食事、旅で魔物の肉は食べられると習ったから、遺跡(ダンジョン)で調達できる。

 焚き火の薪で悩んだことはない、草や木は何処にも生えているから。

 こうして、俺の訓練の日々は始めた。


 これである日、俺の世界(すべて)は変わった。


 あの日、俺はいつも通り遺跡(ダンジョン)に入り、肉の調達をしている。

 目の前にいるウルフに照準を合わせて、引き金を引いた。


 バン!


 マナで出来た弾は、ウルフの頭に直撃して、即死させた。

 倒れていくウルフに近付いて、喉にまた何発の弾をぶち込む、これで血抜きは完了だ。

 そしてウルフの足をナイフで切り落として、肩に担って入り口の外まで戻る。


 落ちた枝を拾い、一カ所に集めてから、想像を始める。


「『トーチ』」


 指先から火を出した、それを使い、火をつける。

 間もなく出来上がった焚き火だ。

 ウルフの足を処理して、骨で焚き火の傍の地面に刺さる、これで骨付きの焼き肉準備も終わった。


 そしてこのとき、


 ギュウウウウウゥゥ!!


 獣の悲鳴? にしてはあんまりにも可愛い。

 一体どんな生き物だろう?


 ぽちゃん!


 落ちた。

 ......何だろう? 行ってみようか、もし脅威となるなら、早めに排除する。

 俺は座ってる石から起きて、最初の湖に向かう。

 3分も経たないうちについた、落ちた物もすぐに見つけた。


 少し離れてるから、どんな生き物なのかは、判別できない。

 でもまだ小さい、子供かそういう生物かは分からない。

 そしてその何かは、沈まないために死ぬ気で足掻く。


 そのまま放っておけばいい、すぐ沈むだろう。


 もう帰ろう。


「ッブ、ギュ、ッキュウウウ!」


 足が止まった。


 生きたい。


 そのように聞こえた。


 だから何? 俺と関係ない。

 俺が勝手に自分のことを重ね合わせただけだ。


「キュウッウウ! ギュッブ」


 生きたい!


 そんな状況でも助けを呼ばないのか。

 ただ生きたいのか。


 はぁー。

 俺は一息をついて、自分のことが嫌いになった。

 振り返って、ローブや上着を脱いで、湖に入る。


 久しぶりの冷たさ。

 落ちた場所まで泳いで、その何かを抱きしめる。

 片手でそれを抱きしめ、服やローブを引きずって焚き火のところに戻った。


「ギュ、ッキュウ~?」


 体温は下げたまま、意識がまだはっきりしてない。

 焚き火の隣にそっと置いた。

 後は濡れた服を干す。


「ギュウウウ~」


 目を細めてる。

 気持ちいいみたい。

 拾ったのは竜でした。

 この竜は一体何だろ?

 竜にしては小さすぎ、子供でしょう。

 真っ白な肌、鬣もない、聞いた竜と違う。

 この子はなぜ捨てられたのか?


 くだらない。

 もう捨てられた、それだけ知ればいい。

 肉もそろそろ焼けたし、食べよう。


「キュ~ウ?」


 起きた、肉の匂いにつられたのか。


 見つめ合った。

 なんで自分がここにいるのか?

 みたいに頭をあっちこっち見た後、振り返って俺のことを見つめた。


 何だ、こいつ。


 俺が助けたのを気づいたのか。 

 いや違う。

 目の焦点があやしい。


 試しに肉を動いてみる。

 ......逆に動く。


「食べたい?」

「キュイ?」

「でもあげない」

「キュ、キュウ~」


 肩が落ちた。

 分かりやすいな。

 仕方ない、拾ったのは俺だから、こいつの世話はするべきだろう。


「ほら」


 ナイフで肉を小さく切って、手のひらに乗せる。

 子竜の口に近づいていく。


「キュ?」

「食べていいぞ」

「キュイ~!」


 聞き分けのいいペットだな。


 ッパクッパク。


 美味しそうに食べてる。

 俺も食べよう。

 もう一つの手で骨を掴んで食べ始めた。


「なに?」


 食べ終わった頃、子竜は俺のことをじっと見つめてる。


「またほしいのか?」

「キュウウ」


 違ったみたい。


「だからなに?」

「キュ」


 身体を起こして、ばたばたっとこちらに近づいた。

 まだ小さいから、歩くのが遅い。

 俺の手に、正確には指に、パクッと口を開けて、指を銜え込んだ。

 一瞬手を振り出そうとした、でも痛くない。


「なんだ?」


 吸い始めた。

 同時に、身体中のマナが減っているのも感じた。


 竜はマナを食として取ってるのか。

 聞いたことない、でも竜は元々奇妙な生き物だ。

 そういうものだろ。


「終わった?」

「キュイ!」

「じゃあもう寝る」


 明日はまた遺跡(ダンジョン)に入らなきゃ、

 今日もお早めに休むとしよう。


「キュウ~」

「遊びたいならあそこに行け」

「ギュ!」

「何なんだ?」


 面倒くさい。


「キュウ~ウ~」


 ローブの中に入ってきた。

 身体を丸めて、眠そうな声を出した。

 はぁー、別に重くないし、いいか。


「勝手にしとけ」

「キュウ~ウ~」


 もう、寝よう、明日の朝は早いから。




**********




「......う」


 もう朝か。

 うん? ほおに何かが当たってる。

 すべすべして今までにない触感だ。

 ......後ヌルヌルの触感も。


「おい」

「キュ~ウ、ッフ~」

「おい」

「......キュ~ウ?」

「竜の肉はどんな味だろ。」

「キュ?」

「食べたいな」

「キュウウゥゥ~!」


 やっと起きたか。


「キュ! キュッキュウ!」


 まるで、僕は美味しくないよ! って訴えてるみたい。


「次、よだれを垂らしたらそうする」

「キュ?」


 馬鹿な質問だね。


「ほおに頭を置くのもダメだ」

「キュ~ウ~」


 はぁー、もう放っていていいでしょう。


「じゃあ、俺は遺跡(ダンジョン)に入るから、ここで待ってろ」

「ギュウ!」


 返事を聞かずに俺は遺跡(ダンジョン)に入った。


 ッバタッバタ。


 背後の声を無視する。


 ッバタッバタ。


 どうしてついてくるんだ......


「おい、外で待ってろ、って言ったんだろ」

「ギュイ!」

「はぁ?」

「ギュイギュイ!」

「ついてくるな」

「ギュイ!」

「邪魔だ」


 しつこい。


「ギュイ!」

「さっさと帰れ!」

「ギュ!」


 本当にめんどくせぇ。


「足手まといだ、帰れ!」

「ギュウ!」

「ならない? どう見ても足手まといだ、歩くのも遅い」


 頬を膨らませて、バタバタと歩いて来た。


「何だ?」

「キュ、キュイ!」


 気合いを入れて、俺の腰にとびつく。

 そして、ローブを噛みついた。


「ギュブ!」

「はぁ?」


 これで大丈夫。

 何か大丈夫だ?


「......まさかそのままついてくる気?」

「ギュブ!」

「......勝手にしろ」

「ギュ!」


 はぁー、面倒くさいやつだ。

 大した重量じゃないから、支障は出ない。

 どうせすぐ諦めるし。


「いくぞ」

「ギュウ!!」




**********




 バン!

 引き金を引くと、いつもこの声が響く。

 どういう原理で作動してるかは知らない。

 でも使えるものは何でも使う。


 バン!

 もう一発発射する。

 当たらない、チッ。

 ならば、


「『ウォーターカッター』」


 水の刃でウルフの頭を切り落とす。

 これで血抜きもしなくて済む。

 でもマナの消耗が大きい。

 魔銃より何倍もだ。

 マナの総量はこれだけで尽きないが、出来るだけ温存したい。

 そして今日の食べる量を切り落としてバッグに入れる。


「ギュブ」

「分かってる、少し多めに切ったから。」

「ギュウ!」


 現金的なやつだな。


「おい」

「ギュウ?」

「魔法は出来るか?」

「......ギュ~」

「出来ないか、使えないやつ」

「ギュウ!」

「うるさい黙れ」

「......ギュウ」


 食料は確保した、これからはフロアの探索時間だ。

 歩いたことのない道を沿いで、魔物の群れと出会った。


 バン! バン!


 ウルフとコボルトを蹴散らす。

 肉はもうあるから、残骸を無視して、通り過ぎて行く。

 このフロアはトラップがない、今までの経験からして、そう結論をつけていた。

 前に進む、このフロアは広いから、まだ踏破してない。


 実は階層主の間はもう見つけた。

 でも入ったことはない。

 必要がない、上がれば脱出までは一歩近づいたが、食料はどうする?

 毎日は入り口のところまで戻らなきゃならない、そんなことより、まずこのフロアを徹底的に調べる。

 何かあるのかないのか、何か使えるか使えないのかを知らないと。

 だから、食料の問題が解決する前に、俺は上がらない。

 ......ちょっと待て。


「ギュウ?」


 もしかすると、意外に解決方法は身近にいる。

 いや、そんなことを考えるより、今はまず探索に集中すべきだ。


「なにもない」

「ギュ」


 次に進もう。

 道の果てはもう一つの部屋。

 何も考えないまま部屋に入った。


「あ」


 閉じられた。


「ッギュ、ギュウ?」

「大丈夫、死ねないから」

「ギュウ!!」


 そんなの問題大ありよ!

 と言ってるらしい。

 問題あるわけがない、ただのコボルトの群れだ。


「ギュ、ギュ、ギュウ!」

「何でおまえの方が緊張する」


 バン! バン!

 二発に弾丸が放たれ、コボルトの頭をぶち壊した。

 数が多い、魔法で解決する方がいいみたい。

 なら、


「『フレイムウォール』」


 俺とコボルトの間に炎の壁が現れた。

 これで、一方的な攻撃が出来るようになった。

 炎の壁を維持しつつ、俺は魔銃で向こうのコボルトたちを次から次へと殺す。


「終わった」

「ギュウ?」


 最後の一匹に弾丸をぶち込めた後、俺は魔法を解除した。


「おまえ、漏らしてないよな」

「ギュギュウ! ッギュ?」


 馬鹿。


「キュ~ウ~」


 口を開けて喋るから落ちるのよ。


「ほら、帰るぞ」

「ギュウブ!」


 ローブを噛みついた。

 準備万端か。


「ふん、いくぞ」

「キュ!」


 来た道に沿いで外を出た。

 あっちこっちの落ちた枝拾って集める。

 いつもの場所で焚き火を作る。


「『トーチ』」


 指から火を出して、薪に火をつける。

 まもなく出来上がり。

 バッグから今日の飯を取り出す、いつものように処理する。

 皮をナイフで剥がす、肉を軟らかくするために、いくつのところにナイフで小さな穴をつくる。

 残りは焼くだけ。


「おい」

「キュウ?」

「おまえ、マナあるよな、食べてるし」

「キュウ?」


 珍しい、話が通じない。

 マナが分からないのか?


「これやってみろ」

「キュイ?」

「『トーチ』」


 もう一度魔法を使う。


「これだ。 やってみろ」

「キュ、ギュウ~~~」


 長いな、想像してるのかな?


「ギュウ!」

「......」

「......」

「ギュ~ウ」


 落ち込んだ。


「はぁー、これからは特訓だ」

「ギュ~ウ」

「ほー、したくない? どうやらお仕置きが必要だな」

「キュ! ギュキュウ!」

「ふん、分かればいい」


 力関係を分かってくれたか。


「魔法はどう使うか、知ってるか?」

「キュ~イ?」


 頭を傾けてきた。


「知らないか、まあいいか、元々は期待してないから。」

「ギュウ!」

「抗議しても無駄だ」


 何で人間の俺が竜に魔法を教えなきゃダメなんだ。

 でもこれに関しては死活問題だ、こいつが成竜になるまで、どれくらいの時間が必要なのかは知らない。

 のんびりする余裕はない。

 俺は早くここから出たい。


「マナっていうのは、魔法を使うために存在するものだ」

「キュー、イ?」


 取りあえず頭を縦に振る。

 なるほど、聞き分けはいいが、頭の悪い子竜だな。

 仕方ない、まず続きを説明してやろう。


「つまり、魔法を使うと、マナが減る、これだけは覚えろ。 マナってものは、想像を具現化する力がある」

「キュ~」

「だから魔法ってものは簡単だ、想像すればいい。 想像だけではダメなら、言葉にすればいい、やってみろ」

「キュ~ギュウ!」


 成功。

 でも嬉しくない。

 小さい、子竜の口から出た火はあんまりにも小さい。

 本当に、使えないやつだ。

 何で俺はこんな荷物を拾ったんだろ。


「キュウ!」

「何かどうだいっだ、駄竜」

「ギュウ!!」


 はぁー、拾うべきではなかった。


「もう一度だ! もっと火力を出せ!」

「ギュ、ギュウウゥゥ!」

「もう一度だ!!」

「ギュウウゥゥ!!」

「もう一度!!!」


 こいつがちゃんとした火を出せるまで、何日、何ヶ月掛かるでしょうか。

 ここから出るためには、やらなきゃならないから、

 腹を括るしかないか。


「おまえ、もう一度やれ!」


 焼きたての肉の骨を掴んで、口に運ぶ。


「キュウ!! キュキュウ!」

「喋る時間があったら魔法の練習をしろ」

「ギュウ! ギュウ!!」


 ふん、悪魔か、俺に似合ってるじゃないか。

 俺は言葉を返すことなく、食事に専念する。


「ギュウ! ギュウウゥゥ!」


 暫くすると、隣で、あいつの空に向かって火を噴く姿が目に入った。

 ふん、やれば出来るじゃない。


「ほら」

「キュイ~!」


 残りの肉を全部あげた。

 しかし、持続時間はまだ足りない。

 それじゃ肉を焼けない。

 まだ訓練する必要があるみたい。

 これからの肉を焼けるための火は、こいつに担ってもらうからな

 子竜が食べ終わった後、俺は指を出した。


「キュウ?」

「何だ、いらないのか?」

「キュウ」


 マナを食べなくていいのか、毎日摂食する必要はないか。

 でもマナを食べるのに、マナを知らないなんて。

 あれか、生理的に必要だと分かる、でもそれがなんなのかは分からない、

 と、いうことだろう。


「じゃあ、魔法の練習に戻ろう」

「キュウゥウウウウウ!!」


 そんなに嫌いなのか。

 でも出られるかどうかはこいつ次第だ、手加減はしない。


「ほら、もう一度だ! さっきの勢いは何処に行った!」

「キュウウウウ~!」

「疲れた? 知るか、さっさとやれ!」

「ギュウ~ウ~」


 訓練終わった後、子竜はすぐ俺の隣で眠りについた。

 ちょっと喉渇いた、湖へ行こう。


 何分も経たないうちに、俺は湖に着いた。

 水際で膝をついて、水を飲む。


「なに?」

「キュウ」


 怖い、か。


「俺はおまえの親じゃない、慣れろ」

「キュイキュイ」


 ひとりにしないで。


「......お前はもうひとりじゃない」


 残りの水を喉に通した後、俺は振り返ってあいつの目を見る。


「ふん、ここから出られるかはお前次第だからな」

「キュ、キュイ?」

「それより魔法の練習はどうした? ちゃんと火を出せるようになったか?」

「ギュ、キュ~イ?」


 目をそらしても現実は変わらないよ。


「駄竜」

「ギュ! ギュッキュキュウ!」

「持ち上げてから叩き落とすなんて最悪? そんなの当然だ、何せ俺は悪魔だからな」

「キュ~ウ!!」

「根に持つなんて大人げない? 悪魔だからな、根に持つのは決まっている」

「キュウウウ~」

「さあ、寝るか魔法の練習するかさっさと選べ!」

「ギュ~、キュ~ウ......キュイ!」


 バタバタっと帰った。

 寝るを選ぶのは意外ではない、しかしあれは、走るつもり?

 まあいいか、俺も帰って寝よう。




**********




「キュウ~~」


 声が聞こえた、目を開ける。


「もう朝か」


 起きよう。


「キュウ~~」


 気持ち良さそう。


「おい、起きろ」


 魔法の訓練を始まった日から、何日、或いは何ヶ月が経ったのか。

 今に至って火を出せるようになった子竜。

 大きな肉を焼けないが、小さく切った肉ならば行ける。


「ッギュ~ウ」

「また寝たい? じゃ、俺はひとりで遺跡(ダンジョン)に入るから、じゃあな」

「キュ!? キュキュッギュウ!」

「誰かが待つか、さっさと支度をしろ!」

「キュイ!」


 今日は、階層主を挑戦する日だと決めた。


「行こう」


 腰に向かってすっかり慣れた重量に言う。


「ギュブ!」


 いつもの元気な鳴き声。


「ふん」


 遺跡(ダンジョン)に入る。

 もう暗記した道に沿いで、階層主のところに行く。

 着いた先は、翼を持つ人たちの彫刻を施した、氷のように冷ややかな鉄の扉。

 天使と悪魔、まるで俺たちのようだな。

 魔銃をもう一度握りしめる。


 扉を押した。


「グオオオオオオオォォォ!」


 俺たちの進む道を塞がったのは、ミノタウロスでした。


「おい、しっかりと噛みつけ、落ちたら知らないぞ」

「ギュ、ギュウ!」


 お見舞いに二発撃ち込む。


 バンッバン!


 効果なし。

 なら魔法はどうだ


「『サンダーボルト』」


 皮が少し焦げた。

 仕方ない、あれをやるか。

 俺は魔銃の引き金を押し続けた。


「グオオオオオオオォォォ!」


 来た。

 ミノタウロスは手にしてる大斧で攻め込んできた。

 慌てないで身を伏せて攻撃から逃げる。

 ついでに顔面に発射する。


 顔面もダメか。

 チッ、このまま近づかれたらまずい。

 距離を取る。

 ミノタウロスに背を向けて走る。


「ギュ~~~~~~~ブ!」


 五月蠅い、分かってるよ。

 俺はすぐ右へ飛び出す、そして元の場所は一つの大斧が通り過ぎた。

 まさか武器を投げるとは、こいつ馬鹿?


「グオオオオオオオォォォ!」


 チッ、やっぱり旨くいかないか。

 壁に刺さった大斧は後戻りするように、ミノタウロスの手に戻る。

 ミノタウロスが大斧を受けるの瞬間、俺はミノタウロスの手に向かって発射する。

 最初の弾丸と違ってまったく別の物だ。


「『チャージシュート』!」


 アハハ、ざまあ見ろ。

 ミノタウロスは手が攻撃を受けて、大斧を受け止めなかった、出来なかった。

 俺の銃撃で手が小さな穴があいた、でもそれだけじゃない、回転する大斧はミノタウロスの腕にも傷ついた。

 次の攻撃を備えるために、もう一度引き金を押し続ける。


「グゥウウウ」


 次の攻撃は来る!


「グゥオオオォォオオオ!」


 身体あたりか。

 ならこっちも。

 ミノタウロスがこっちに突進するように、俺もミノタウロスに向かって走った。


「ギュッギュウ!?」

「五月蠅い黙れ!」


 死にたくないに決まってるでしょう!


 ミノタウロスと急接近、その巨大な身体とぶつかる前に、身を低くする。

 後は走った勢いに任せて、ミノタウロスの両足の間にスライディング。

 同時にミノタウロスの股間に『チャーシュット』を発射する。


 チッ、やっぱり効果は芳しくない。

 生殖器が見られないから、股間に拘る意味はない。

 それでも、


「『ウォーターカッター』」


 魔法で背後から攻める。


「グゥオオオオオ!!」


 傷つけた、ほんの少しだけど。

 まあいいか、最初から魔法を期待してないしっ。

 次は、ッヤバイ!!


 また大斧を投げてきた。

 慌てて身を伏せる。


「ギュブ!!」

「五月蠅い!! お前は毛なんて何処にあるか!


 たった尻尾の毛が何本切られただけだ、大袈裟すぎ。


「ほらお前のせいだ! ミノタウロスはもう来るじゃないか!」

「ギュウギュブ!」


 また身体あたりしてきたミノタウロス。

 スライディングにはもう距離が足りない。


「『ブラストウィンド』!!」


 左に魔法を放す、そして左から爆風が吹いてきた、強引に俺の身体を右へ飛ばす。

 これのおかげでミノタウロスの身体あたりから逃げられた。

 でも身体中のマナの消耗も激しい、これはあんまり使いたくない奥の手だ。


 バン!

 今度は膝を狙う。

 しかし外した。

 ミノタウロスは大斧を横薙ぎに振るう。

 また地面に伏せて避けた。

 次は俺の番だ。

 『ウォーターカッター』を使って、大斧によるミノタウロスの腕の傷に再び切り刻む。

 まったく同じの場所に撃ち込んだから、ミノタウロスに大ダメージを負わせるはずだ。


「グオオオオォォ!!」


 傷口が広げられて痛むミノタウロス。

 出血も激しい、多分後一発で腕を切り落とせる。

 やらない理由はない。

 また痛みから回復してない階層主に、もう一度『ウォーターカッター』を味あわせる。


「グゥゥオオオオォォ!!!」


 成功した。

 腕を切り落とした。

 じゃ、もう一つの腕も切り落とそう。

 まずは、大暴れするミノタウロスの攻撃を避ける。

 よし、次はもう一つの腕に魔法を発射する。


「グゥオオオオオ!!」


 刻み込んだ。

 もう一発いく。


「『ウォーターカッター』!」


 チッ、避けられた。

 ミノタウロスはまた身体あたりしてきた。

 なら最初のように、下ですり抜けるために走り出す。

 急接近した俺たちであったが、

 止めた!?

 ミノタウロスは先に止めた。

 何でだ?

 クソ、考える時間はない。

 頭を動くより、身体を動かなきゃ。


 目に入ったからか、無自覚でミノタウロスの足に射撃する。


 バン!

 でもその弾丸は地面とぶつかった。

 ミノタウロスは空に飛べた。

 正確には跳んだが、その巨大な身体はどうしても飛ぶ以外思われない。

 俺が弱気になったせいか?

 馬鹿な。

 出たい、何日が経っても変わらない、俺はここから出たい!

 空中のミノタウロスは大斧を大きく上げる、そのせいで顔面を守る物はない。

 俺はそいつの顔面に弾を何発も撃ち出す。

 でもやっぱり効果がない。


 もうこれ以上は意味ない、俺は横に向かって全力でジャンプ。

 足が地面と離れた直後、轟音を立てた。

 何発の石が身体とぶつかった。

 痛い。

 でも止まってはダメだ。

 動かなきゃ!!


 すぐ地面から起きて、ミノタウロスのいる方向を見る。

 また横薙ぎか!

 しかも今回のは低い、これでは伏せても避けられない。

 大斧の上から避けるしかないか。

 時間を計算して、そのときを待つ。

 今だ!

 足に力を入れて、地面を蹴った。

 大斧が足の下で通り過ぎたとき、ほっとした。


「『ウォーターカッター』!!」


 腕に最後の魔法を撃つ。

 よし、残りの腕を切り落とした。

 切断面から血を噴出している。

 よし勝った!

 直後、身体は何かに飛ばされた。


「ぐぁっ!!」

「ギュウ!!」


 壁とぶつかって止まった。

 何があった?

 ああ、尻尾か。

 油断した。

 完全に油断した。

 まさかここまで来てたのに、こんなところで敗れたなんて。

 笑える。

 ああ、意識はまだ朦朧としている。

 これではダメだ、食われる。

 しかし身体は動かない。

 動けないっ。

 ミノタウロスはこちらに少しずつ近づいてきた。

 動け!

 両方の腕を切り落としたんだ、俺のことをきっと恨んでいるだろう。

 まだ死にたくない!

 腕がない、ならばどうやって攻撃する? 頭を、口を使うに決まっている。

 動けぇ!

 クソッ。


「グゥオオオオオ!!」


 せっかくここまで来たのに。


「こんなところで終わらせるか!!!」


 もう目の前に迫ってきた、無数の鋭い歯、ミノタウロスは口を大きく開けて、俺をまるごと食べる気だ。


「クソォォオオオォォォ!!」

「ギュブ!!」


 え? 頬から熱量を感じる。


「グオォオオオオオオォォ!」


 口が、閉じた?

 やらなきゃ、チャンスはこの一回だけだ!

 手をミノタウロスの顎に当てる。

 最後のマナを全部使う。

 己のすべてをこの一撃に託す。

 これで、本当の意味で最後だ。


「くたばれ!! 『パイルバンカー』!!!」


 最後の轟音とともに、ミノタウロスの頭は飛ばされた。

 終わった。


「はぁー、は、はぁー」


 生理的に、精神的にも疲れた。


「キュイ?」


 横から覗き込む子竜。


「お前が、俺を助けたのか」

「ギュウ?」

「大丈夫だ。 その、ありが、とう」

「キュウ!」


 あの時、もしこの子の魔法がなければ、俺はもうこの世にいないだろう。

 助けられた。

 もう、足手まといじゃないよな。


「うん?」


 光った。

 ミノタウロスの残骸は光った。

 何だろう?


「あ」


 魔石だ。

 まれに強い魔物から落ちる、マナの結晶。

 初めて見た。

 綺麗、まるで空みたい。


「キュウ!」

「え?」


 食べられた。

 魔石は子竜に食べられた。

 ポリポリ。

 しかもかみ砕ける音まで聞こえる。

 竜って石も食べるのか?


「キュイ~!」

「そうか、よかったな」


 石って、美味しいのか。

 まあいいか、もう疲れたから、少し休もう。

 俺は意識を手放した。




***********




「ふー」


 起きよう。

 道はまだ長い。

 ここで止まるつもりはない。


「おい、何やってる、いくぞ、ミカエル」

「キュ~ウ?」

「お前の名前だ、ミカエル。 それとももう名前あったのか?」

「キュ、キュ~イ!」

「ふん、そうか。 次のフロアに行くぞ、ミカエル」

「キュイ!」


 天使と悪魔か、

 俺たちそのものだな。

 ......決めた、

 この先は何があったとしても、俺は止めない、誰にも止めさせない。

 元々拾うつもりではなかったけど、俺はこいつと一緒に、外へ出る。

 そう決めた。


「お前、少し重くなってない?」

「キュウ?」

「まあいいか」


 この日こそ、俺とミカエル(こいつ)と出会った日だ。


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