出会い
魔法を使うときちゃんと口にするように変わりました。
「食べ終わった?」
「キュイ」
「じゃあそろそろ行くか」
「キュ!」
子竜は俺の着ていたローブに噛みついて、身体をぶら下げる。
子竜はまだ小さすぎて俺の歩幅についていけないから、この方法をとった。
「大丈夫?」
「ギュブ!」
「おまえ何年経っても身長変わってないな」
「ギュ~ウ!!」
「これから大きくなるって、寝言は寝て言え」
「ギュ! ギュウ!」
「ああ、はいはい」
「ギュ~!」
相変わらず元気な声だな。
元々こいつを拾うつもりではなかった、俺自身だけで手一杯だから、荷物は少ない方がいい。
でも、生きる意思を感じるその鳴き声、俺はどうしても無視ができない。
同じ境遇に落ちたからこそ、同情して拾ったのだろうか。
俺は生まれつき右目しか見えない。
今はアイマスクをつけているが、昔の俺はいつも前髪で左目を隠す。
そして子供の時、親に売られ、商人の下でコキ使われた。
それでも飯をくれて、養ってくれた商人のことを感謝している、あのことがなければ。
捨てられた、いざの時もまた、捨てられた。
崖から突き落とされたのだ。
どうして俺なんだ?
落ちてるときはずっと考えてた。
どうして俺なんだ?
俺のどこが悪いのか?
どうして俺はこんな目に合わなきゃダメなんだ?
弱いから?
俺はただ生きたいのに。
運がよかった、そのおかげで死ねなかった。
落ちた先は湖だ。
俺は冷たさを我慢して、水際に向かって泳ぐ、這いずって湖から出る。
生きたい。
死ぬなんて嫌だ。
だるい足を引きずって、俺は先の分からないたった一つの道に進み始めた。
道の果ては、遺跡。
そして遺跡の入り口の周りに、人だったものが一杯散らばっていた。
俺と同じここに落ちた人たちでしょうか。
でも、俺はこいつらと同じような果てになりたくない。
じゃあ、どうする?
答えは決まっている。
俺は人の残骸から、必要な物を探り出す。
ローブを羽織り、靴をブーツに変わる。
探したバッグを開けて見たら、何もない、それでも使えるから背負う。
あとは古びたアイマスクとナイフ、それとたった一つの魔銃。
それらを身につけ、俺は遺跡に入った。
最初は辛かった。
戦うのが辛い。
やったことないし、たった一つの目で照準するのも慣れない。
何度も外した。
それに全部の弾はマナで作るから、外すと外すほど、体内のマナが減る、マナが減ると身体もだるくなる。
だから俺は入り口のところだけで徘徊する。
上がりたい、さっさとここから出て行きたい。
でもリスクが多すぎる。
上がるために、俺がもっと強くなる必要はある。
幸い湖はそこまで離れていない、水の調達はすぐ済む。
残りは食事、旅で魔物の肉は食べられると習ったから、遺跡で調達できる。
焚き火の薪で悩んだことはない、草や木は何処にも生えているから。
こうして、俺の訓練の日々は始めた。
これである日、俺の世界は変わった。
あの日、俺はいつも通り遺跡に入り、肉の調達をしている。
目の前にいるウルフに照準を合わせて、引き金を引いた。
バン!
マナで出来た弾は、ウルフの頭に直撃して、即死させた。
倒れていくウルフに近付いて、喉にまた何発の弾をぶち込む、これで血抜きは完了だ。
そしてウルフの足をナイフで切り落として、肩に担って入り口の外まで戻る。
落ちた枝を拾い、一カ所に集めてから、想像を始める。
「『トーチ』」
指先から火を出した、それを使い、火をつける。
間もなく出来上がった焚き火だ。
ウルフの足を処理して、骨で焚き火の傍の地面に刺さる、これで骨付きの焼き肉準備も終わった。
そしてこのとき、
ギュウウウウウゥゥ!!
獣の悲鳴? にしてはあんまりにも可愛い。
一体どんな生き物だろう?
ぽちゃん!
落ちた。
......何だろう? 行ってみようか、もし脅威となるなら、早めに排除する。
俺は座ってる石から起きて、最初の湖に向かう。
3分も経たないうちについた、落ちた物もすぐに見つけた。
少し離れてるから、どんな生き物なのかは、判別できない。
でもまだ小さい、子供かそういう生物かは分からない。
そしてその何かは、沈まないために死ぬ気で足掻く。
そのまま放っておけばいい、すぐ沈むだろう。
もう帰ろう。
「ッブ、ギュ、ッキュウウウ!」
足が止まった。
生きたい。
そのように聞こえた。
だから何? 俺と関係ない。
俺が勝手に自分のことを重ね合わせただけだ。
「キュウッウウ! ギュッブ」
生きたい!
そんな状況でも助けを呼ばないのか。
ただ生きたいのか。
はぁー。
俺は一息をついて、自分のことが嫌いになった。
振り返って、ローブや上着を脱いで、湖に入る。
久しぶりの冷たさ。
落ちた場所まで泳いで、その何かを抱きしめる。
片手でそれを抱きしめ、服やローブを引きずって焚き火のところに戻った。
「ギュ、ッキュウ~?」
体温は下げたまま、意識がまだはっきりしてない。
焚き火の隣にそっと置いた。
後は濡れた服を干す。
「ギュウウウ~」
目を細めてる。
気持ちいいみたい。
拾ったのは竜でした。
この竜は一体何だろ?
竜にしては小さすぎ、子供でしょう。
真っ白な肌、鬣もない、聞いた竜と違う。
この子はなぜ捨てられたのか?
くだらない。
もう捨てられた、それだけ知ればいい。
肉もそろそろ焼けたし、食べよう。
「キュ~ウ?」
起きた、肉の匂いにつられたのか。
見つめ合った。
なんで自分がここにいるのか?
みたいに頭をあっちこっち見た後、振り返って俺のことを見つめた。
何だ、こいつ。
俺が助けたのを気づいたのか。
いや違う。
目の焦点があやしい。
試しに肉を動いてみる。
......逆に動く。
「食べたい?」
「キュイ?」
「でもあげない」
「キュ、キュウ~」
肩が落ちた。
分かりやすいな。
仕方ない、拾ったのは俺だから、こいつの世話はするべきだろう。
「ほら」
ナイフで肉を小さく切って、手のひらに乗せる。
子竜の口に近づいていく。
「キュ?」
「食べていいぞ」
「キュイ~!」
聞き分けのいいペットだな。
ッパクッパク。
美味しそうに食べてる。
俺も食べよう。
もう一つの手で骨を掴んで食べ始めた。
「なに?」
食べ終わった頃、子竜は俺のことをじっと見つめてる。
「またほしいのか?」
「キュウウ」
違ったみたい。
「だからなに?」
「キュ」
身体を起こして、ばたばたっとこちらに近づいた。
まだ小さいから、歩くのが遅い。
俺の手に、正確には指に、パクッと口を開けて、指を銜え込んだ。
一瞬手を振り出そうとした、でも痛くない。
「なんだ?」
吸い始めた。
同時に、身体中のマナが減っているのも感じた。
竜はマナを食として取ってるのか。
聞いたことない、でも竜は元々奇妙な生き物だ。
そういうものだろ。
「終わった?」
「キュイ!」
「じゃあもう寝る」
明日はまた遺跡に入らなきゃ、
今日もお早めに休むとしよう。
「キュウ~」
「遊びたいならあそこに行け」
「ギュ!」
「何なんだ?」
面倒くさい。
「キュウ~ウ~」
ローブの中に入ってきた。
身体を丸めて、眠そうな声を出した。
はぁー、別に重くないし、いいか。
「勝手にしとけ」
「キュウ~ウ~」
もう、寝よう、明日の朝は早いから。
**********
「......う」
もう朝か。
うん? ほおに何かが当たってる。
すべすべして今までにない触感だ。
......後ヌルヌルの触感も。
「おい」
「キュ~ウ、ッフ~」
「おい」
「......キュ~ウ?」
「竜の肉はどんな味だろ。」
「キュ?」
「食べたいな」
「キュウウゥゥ~!」
やっと起きたか。
「キュ! キュッキュウ!」
まるで、僕は美味しくないよ! って訴えてるみたい。
「次、よだれを垂らしたらそうする」
「キュ?」
馬鹿な質問だね。
「ほおに頭を置くのもダメだ」
「キュ~ウ~」
はぁー、もう放っていていいでしょう。
「じゃあ、俺は遺跡に入るから、ここで待ってろ」
「ギュウ!」
返事を聞かずに俺は遺跡に入った。
ッバタッバタ。
背後の声を無視する。
ッバタッバタ。
どうしてついてくるんだ......
「おい、外で待ってろ、って言ったんだろ」
「ギュイ!」
「はぁ?」
「ギュイギュイ!」
「ついてくるな」
「ギュイ!」
「邪魔だ」
しつこい。
「ギュイ!」
「さっさと帰れ!」
「ギュ!」
本当にめんどくせぇ。
「足手まといだ、帰れ!」
「ギュウ!」
「ならない? どう見ても足手まといだ、歩くのも遅い」
頬を膨らませて、バタバタと歩いて来た。
「何だ?」
「キュ、キュイ!」
気合いを入れて、俺の腰にとびつく。
そして、ローブを噛みついた。
「ギュブ!」
「はぁ?」
これで大丈夫。
何か大丈夫だ?
「......まさかそのままついてくる気?」
「ギュブ!」
「......勝手にしろ」
「ギュ!」
はぁー、面倒くさいやつだ。
大した重量じゃないから、支障は出ない。
どうせすぐ諦めるし。
「いくぞ」
「ギュウ!!」
**********
バン!
引き金を引くと、いつもこの声が響く。
どういう原理で作動してるかは知らない。
でも使えるものは何でも使う。
バン!
もう一発発射する。
当たらない、チッ。
ならば、
「『ウォーターカッター』」
水の刃でウルフの頭を切り落とす。
これで血抜きもしなくて済む。
でもマナの消耗が大きい。
魔銃より何倍もだ。
マナの総量はこれだけで尽きないが、出来るだけ温存したい。
そして今日の食べる量を切り落としてバッグに入れる。
「ギュブ」
「分かってる、少し多めに切ったから。」
「ギュウ!」
現金的なやつだな。
「おい」
「ギュウ?」
「魔法は出来るか?」
「......ギュ~」
「出来ないか、使えないやつ」
「ギュウ!」
「うるさい黙れ」
「......ギュウ」
食料は確保した、これからはフロアの探索時間だ。
歩いたことのない道を沿いで、魔物の群れと出会った。
バン! バン!
ウルフとコボルトを蹴散らす。
肉はもうあるから、残骸を無視して、通り過ぎて行く。
このフロアはトラップがない、今までの経験からして、そう結論をつけていた。
前に進む、このフロアは広いから、まだ踏破してない。
実は階層主の間はもう見つけた。
でも入ったことはない。
必要がない、上がれば脱出までは一歩近づいたが、食料はどうする?
毎日は入り口のところまで戻らなきゃならない、そんなことより、まずこのフロアを徹底的に調べる。
何かあるのかないのか、何か使えるか使えないのかを知らないと。
だから、食料の問題が解決する前に、俺は上がらない。
......ちょっと待て。
「ギュウ?」
もしかすると、意外に解決方法は身近にいる。
いや、そんなことを考えるより、今はまず探索に集中すべきだ。
「なにもない」
「ギュ」
次に進もう。
道の果てはもう一つの部屋。
何も考えないまま部屋に入った。
「あ」
閉じられた。
「ッギュ、ギュウ?」
「大丈夫、死ねないから」
「ギュウ!!」
そんなの問題大ありよ!
と言ってるらしい。
問題あるわけがない、ただのコボルトの群れだ。
「ギュ、ギュ、ギュウ!」
「何でおまえの方が緊張する」
バン! バン!
二発に弾丸が放たれ、コボルトの頭をぶち壊した。
数が多い、魔法で解決する方がいいみたい。
なら、
「『フレイムウォール』」
俺とコボルトの間に炎の壁が現れた。
これで、一方的な攻撃が出来るようになった。
炎の壁を維持しつつ、俺は魔銃で向こうのコボルトたちを次から次へと殺す。
「終わった」
「ギュウ?」
最後の一匹に弾丸をぶち込めた後、俺は魔法を解除した。
「おまえ、漏らしてないよな」
「ギュギュウ! ッギュ?」
馬鹿。
「キュ~ウ~」
口を開けて喋るから落ちるのよ。
「ほら、帰るぞ」
「ギュウブ!」
ローブを噛みついた。
準備万端か。
「ふん、いくぞ」
「キュ!」
来た道に沿いで外を出た。
あっちこっちの落ちた枝拾って集める。
いつもの場所で焚き火を作る。
「『トーチ』」
指から火を出して、薪に火をつける。
まもなく出来上がり。
バッグから今日の飯を取り出す、いつものように処理する。
皮をナイフで剥がす、肉を軟らかくするために、いくつのところにナイフで小さな穴をつくる。
残りは焼くだけ。
「おい」
「キュウ?」
「おまえ、マナあるよな、食べてるし」
「キュウ?」
珍しい、話が通じない。
マナが分からないのか?
「これやってみろ」
「キュイ?」
「『トーチ』」
もう一度魔法を使う。
「これだ。 やってみろ」
「キュ、ギュウ~~~」
長いな、想像してるのかな?
「ギュウ!」
「......」
「......」
「ギュ~ウ」
落ち込んだ。
「はぁー、これからは特訓だ」
「ギュ~ウ」
「ほー、したくない? どうやらお仕置きが必要だな」
「キュ! ギュキュウ!」
「ふん、分かればいい」
力関係を分かってくれたか。
「魔法はどう使うか、知ってるか?」
「キュ~イ?」
頭を傾けてきた。
「知らないか、まあいいか、元々は期待してないから。」
「ギュウ!」
「抗議しても無駄だ」
何で人間の俺が竜に魔法を教えなきゃダメなんだ。
でもこれに関しては死活問題だ、こいつが成竜になるまで、どれくらいの時間が必要なのかは知らない。
のんびりする余裕はない。
俺は早くここから出たい。
「マナっていうのは、魔法を使うために存在するものだ」
「キュー、イ?」
取りあえず頭を縦に振る。
なるほど、聞き分けはいいが、頭の悪い子竜だな。
仕方ない、まず続きを説明してやろう。
「つまり、魔法を使うと、マナが減る、これだけは覚えろ。 マナってものは、想像を具現化する力がある」
「キュ~」
「だから魔法ってものは簡単だ、想像すればいい。 想像だけではダメなら、言葉にすればいい、やってみろ」
「キュ~ギュウ!」
成功。
でも嬉しくない。
小さい、子竜の口から出た火はあんまりにも小さい。
本当に、使えないやつだ。
何で俺はこんな荷物を拾ったんだろ。
「キュウ!」
「何かどうだいっだ、駄竜」
「ギュウ!!」
はぁー、拾うべきではなかった。
「もう一度だ! もっと火力を出せ!」
「ギュ、ギュウウゥゥ!」
「もう一度だ!!」
「ギュウウゥゥ!!」
「もう一度!!!」
こいつがちゃんとした火を出せるまで、何日、何ヶ月掛かるでしょうか。
ここから出るためには、やらなきゃならないから、
腹を括るしかないか。
「おまえ、もう一度やれ!」
焼きたての肉の骨を掴んで、口に運ぶ。
「キュウ!! キュキュウ!」
「喋る時間があったら魔法の練習をしろ」
「ギュウ! ギュウ!!」
ふん、悪魔か、俺に似合ってるじゃないか。
俺は言葉を返すことなく、食事に専念する。
「ギュウ! ギュウウゥゥ!」
暫くすると、隣で、あいつの空に向かって火を噴く姿が目に入った。
ふん、やれば出来るじゃない。
「ほら」
「キュイ~!」
残りの肉を全部あげた。
しかし、持続時間はまだ足りない。
それじゃ肉を焼けない。
まだ訓練する必要があるみたい。
これからの肉を焼けるための火は、こいつに担ってもらうからな
子竜が食べ終わった後、俺は指を出した。
「キュウ?」
「何だ、いらないのか?」
「キュウ」
マナを食べなくていいのか、毎日摂食する必要はないか。
でもマナを食べるのに、マナを知らないなんて。
あれか、生理的に必要だと分かる、でもそれがなんなのかは分からない、
と、いうことだろう。
「じゃあ、魔法の練習に戻ろう」
「キュウゥウウウウウ!!」
そんなに嫌いなのか。
でも出られるかどうかはこいつ次第だ、手加減はしない。
「ほら、もう一度だ! さっきの勢いは何処に行った!」
「キュウウウウ~!」
「疲れた? 知るか、さっさとやれ!」
「ギュウ~ウ~」
訓練終わった後、子竜はすぐ俺の隣で眠りについた。
ちょっと喉渇いた、湖へ行こう。
何分も経たないうちに、俺は湖に着いた。
水際で膝をついて、水を飲む。
「なに?」
「キュウ」
怖い、か。
「俺はおまえの親じゃない、慣れろ」
「キュイキュイ」
ひとりにしないで。
「......お前はもうひとりじゃない」
残りの水を喉に通した後、俺は振り返ってあいつの目を見る。
「ふん、ここから出られるかはお前次第だからな」
「キュ、キュイ?」
「それより魔法の練習はどうした? ちゃんと火を出せるようになったか?」
「ギュ、キュ~イ?」
目をそらしても現実は変わらないよ。
「駄竜」
「ギュ! ギュッキュキュウ!」
「持ち上げてから叩き落とすなんて最悪? そんなの当然だ、何せ俺は悪魔だからな」
「キュ~ウ!!」
「根に持つなんて大人げない? 悪魔だからな、根に持つのは決まっている」
「キュウウウ~」
「さあ、寝るか魔法の練習するかさっさと選べ!」
「ギュ~、キュ~ウ......キュイ!」
バタバタっと帰った。
寝るを選ぶのは意外ではない、しかしあれは、走るつもり?
まあいいか、俺も帰って寝よう。
**********
「キュウ~~」
声が聞こえた、目を開ける。
「もう朝か」
起きよう。
「キュウ~~」
気持ち良さそう。
「おい、起きろ」
魔法の訓練を始まった日から、何日、或いは何ヶ月が経ったのか。
今に至って火を出せるようになった子竜。
大きな肉を焼けないが、小さく切った肉ならば行ける。
「ッギュ~ウ」
「また寝たい? じゃ、俺はひとりで遺跡に入るから、じゃあな」
「キュ!? キュキュッギュウ!」
「誰かが待つか、さっさと支度をしろ!」
「キュイ!」
今日は、階層主を挑戦する日だと決めた。
「行こう」
腰に向かってすっかり慣れた重量に言う。
「ギュブ!」
いつもの元気な鳴き声。
「ふん」
遺跡に入る。
もう暗記した道に沿いで、階層主のところに行く。
着いた先は、翼を持つ人たちの彫刻を施した、氷のように冷ややかな鉄の扉。
天使と悪魔、まるで俺たちのようだな。
魔銃をもう一度握りしめる。
扉を押した。
「グオオオオオオオォォォ!」
俺たちの進む道を塞がったのは、ミノタウロスでした。
「おい、しっかりと噛みつけ、落ちたら知らないぞ」
「ギュ、ギュウ!」
お見舞いに二発撃ち込む。
バンッバン!
効果なし。
なら魔法はどうだ
「『サンダーボルト』」
皮が少し焦げた。
仕方ない、あれをやるか。
俺は魔銃の引き金を押し続けた。
「グオオオオオオオォォォ!」
来た。
ミノタウロスは手にしてる大斧で攻め込んできた。
慌てないで身を伏せて攻撃から逃げる。
ついでに顔面に発射する。
顔面もダメか。
チッ、このまま近づかれたらまずい。
距離を取る。
ミノタウロスに背を向けて走る。
「ギュ~~~~~~~ブ!」
五月蠅い、分かってるよ。
俺はすぐ右へ飛び出す、そして元の場所は一つの大斧が通り過ぎた。
まさか武器を投げるとは、こいつ馬鹿?
「グオオオオオオオォォォ!」
チッ、やっぱり旨くいかないか。
壁に刺さった大斧は後戻りするように、ミノタウロスの手に戻る。
ミノタウロスが大斧を受けるの瞬間、俺はミノタウロスの手に向かって発射する。
最初の弾丸と違ってまったく別の物だ。
「『チャージシュート』!」
アハハ、ざまあ見ろ。
ミノタウロスは手が攻撃を受けて、大斧を受け止めなかった、出来なかった。
俺の銃撃で手が小さな穴があいた、でもそれだけじゃない、回転する大斧はミノタウロスの腕にも傷ついた。
次の攻撃を備えるために、もう一度引き金を押し続ける。
「グゥウウウ」
次の攻撃は来る!
「グゥオオオォォオオオ!」
身体あたりか。
ならこっちも。
ミノタウロスがこっちに突進するように、俺もミノタウロスに向かって走った。
「ギュッギュウ!?」
「五月蠅い黙れ!」
死にたくないに決まってるでしょう!
ミノタウロスと急接近、その巨大な身体とぶつかる前に、身を低くする。
後は走った勢いに任せて、ミノタウロスの両足の間にスライディング。
同時にミノタウロスの股間に『チャーシュット』を発射する。
チッ、やっぱり効果は芳しくない。
生殖器が見られないから、股間に拘る意味はない。
それでも、
「『ウォーターカッター』」
魔法で背後から攻める。
「グゥオオオオオ!!」
傷つけた、ほんの少しだけど。
まあいいか、最初から魔法を期待してないしっ。
次は、ッヤバイ!!
また大斧を投げてきた。
慌てて身を伏せる。
「ギュブ!!」
「五月蠅い!! お前は毛なんて何処にあるか!
たった尻尾の毛が何本切られただけだ、大袈裟すぎ。
「ほらお前のせいだ! ミノタウロスはもう来るじゃないか!」
「ギュウギュブ!」
また身体あたりしてきたミノタウロス。
スライディングにはもう距離が足りない。
「『ブラストウィンド』!!」
左に魔法を放す、そして左から爆風が吹いてきた、強引に俺の身体を右へ飛ばす。
これのおかげでミノタウロスの身体あたりから逃げられた。
でも身体中のマナの消耗も激しい、これはあんまり使いたくない奥の手だ。
バン!
今度は膝を狙う。
しかし外した。
ミノタウロスは大斧を横薙ぎに振るう。
また地面に伏せて避けた。
次は俺の番だ。
『ウォーターカッター』を使って、大斧によるミノタウロスの腕の傷に再び切り刻む。
まったく同じの場所に撃ち込んだから、ミノタウロスに大ダメージを負わせるはずだ。
「グオオオオォォ!!」
傷口が広げられて痛むミノタウロス。
出血も激しい、多分後一発で腕を切り落とせる。
やらない理由はない。
また痛みから回復してない階層主に、もう一度『ウォーターカッター』を味あわせる。
「グゥゥオオオオォォ!!!」
成功した。
腕を切り落とした。
じゃ、もう一つの腕も切り落とそう。
まずは、大暴れするミノタウロスの攻撃を避ける。
よし、次はもう一つの腕に魔法を発射する。
「グゥオオオオオ!!」
刻み込んだ。
もう一発いく。
「『ウォーターカッター』!」
チッ、避けられた。
ミノタウロスはまた身体あたりしてきた。
なら最初のように、下ですり抜けるために走り出す。
急接近した俺たちであったが、
止めた!?
ミノタウロスは先に止めた。
何でだ?
クソ、考える時間はない。
頭を動くより、身体を動かなきゃ。
目に入ったからか、無自覚でミノタウロスの足に射撃する。
バン!
でもその弾丸は地面とぶつかった。
ミノタウロスは空に飛べた。
正確には跳んだが、その巨大な身体はどうしても飛ぶ以外思われない。
俺が弱気になったせいか?
馬鹿な。
出たい、何日が経っても変わらない、俺はここから出たい!
空中のミノタウロスは大斧を大きく上げる、そのせいで顔面を守る物はない。
俺はそいつの顔面に弾を何発も撃ち出す。
でもやっぱり効果がない。
もうこれ以上は意味ない、俺は横に向かって全力でジャンプ。
足が地面と離れた直後、轟音を立てた。
何発の石が身体とぶつかった。
痛い。
でも止まってはダメだ。
動かなきゃ!!
すぐ地面から起きて、ミノタウロスのいる方向を見る。
また横薙ぎか!
しかも今回のは低い、これでは伏せても避けられない。
大斧の上から避けるしかないか。
時間を計算して、そのときを待つ。
今だ!
足に力を入れて、地面を蹴った。
大斧が足の下で通り過ぎたとき、ほっとした。
「『ウォーターカッター』!!」
腕に最後の魔法を撃つ。
よし、残りの腕を切り落とした。
切断面から血を噴出している。
よし勝った!
直後、身体は何かに飛ばされた。
「ぐぁっ!!」
「ギュウ!!」
壁とぶつかって止まった。
何があった?
ああ、尻尾か。
油断した。
完全に油断した。
まさかここまで来てたのに、こんなところで敗れたなんて。
笑える。
ああ、意識はまだ朦朧としている。
これではダメだ、食われる。
しかし身体は動かない。
動けないっ。
ミノタウロスはこちらに少しずつ近づいてきた。
動け!
両方の腕を切り落としたんだ、俺のことをきっと恨んでいるだろう。
まだ死にたくない!
腕がない、ならばどうやって攻撃する? 頭を、口を使うに決まっている。
動けぇ!
クソッ。
「グゥオオオオオ!!」
せっかくここまで来たのに。
「こんなところで終わらせるか!!!」
もう目の前に迫ってきた、無数の鋭い歯、ミノタウロスは口を大きく開けて、俺をまるごと食べる気だ。
「クソォォオオオォォォ!!」
「ギュブ!!」
え? 頬から熱量を感じる。
「グオォオオオオオオォォ!」
口が、閉じた?
やらなきゃ、チャンスはこの一回だけだ!
手をミノタウロスの顎に当てる。
最後のマナを全部使う。
己のすべてをこの一撃に託す。
これで、本当の意味で最後だ。
「くたばれ!! 『パイルバンカー』!!!」
最後の轟音とともに、ミノタウロスの頭は飛ばされた。
終わった。
「はぁー、は、はぁー」
生理的に、精神的にも疲れた。
「キュイ?」
横から覗き込む子竜。
「お前が、俺を助けたのか」
「ギュウ?」
「大丈夫だ。 その、ありが、とう」
「キュウ!」
あの時、もしこの子の魔法がなければ、俺はもうこの世にいないだろう。
助けられた。
もう、足手まといじゃないよな。
「うん?」
光った。
ミノタウロスの残骸は光った。
何だろう?
「あ」
魔石だ。
まれに強い魔物から落ちる、マナの結晶。
初めて見た。
綺麗、まるで空みたい。
「キュウ!」
「え?」
食べられた。
魔石は子竜に食べられた。
ポリポリ。
しかもかみ砕ける音まで聞こえる。
竜って石も食べるのか?
「キュイ~!」
「そうか、よかったな」
石って、美味しいのか。
まあいいか、もう疲れたから、少し休もう。
俺は意識を手放した。
***********
「ふー」
起きよう。
道はまだ長い。
ここで止まるつもりはない。
「おい、何やってる、いくぞ、ミカエル」
「キュ~ウ?」
「お前の名前だ、ミカエル。 それとももう名前あったのか?」
「キュ、キュ~イ!」
「ふん、そうか。 次のフロアに行くぞ、ミカエル」
「キュイ!」
天使と悪魔か、
俺たちそのものだな。
......決めた、
この先は何があったとしても、俺は止めない、誰にも止めさせない。
元々拾うつもりではなかったけど、俺はこいつと一緒に、外へ出る。
そう決めた。
「お前、少し重くなってない?」
「キュウ?」
「まあいいか」
この日こそ、俺とミカエルと出会った日だ。