出国
「リアン様。もうすぐです。あそこが出口です。」
かすかに見える光を指差して彼女は言う。
「おおぉぉぉ!!遂に!俺、実は初めてなんだよ。外に出るの。」
そう、何しろ物心ついてからあの部屋から出たことがない。これが初めての外出なんだ。
「知ってます。そして、外に出るのが初めてなのは私もです!」
彼女は俺のいた国の大貴族の一人娘で、屋敷からほぼ出たことがない。でも、父親の能力で、俺の部屋までなら来たことがあるから、俺ほどではない。
「あ、でも、俺はあそこから出たのも初めてだし?これはやっぱり俺の方が上じゃない?」
別に、好きでやってたわけじゃないけど、ここだけはなんか譲りたくない。
「う、上ってなんですか!!私も同じくらいわくわくしてるんですよ!!」
そんなことはわかってる!!でも、
「いやぁ~。確かにシズカもわくわくしてんのは分かるけど、やっぱり俺には負けると思うよ??」
そう、なんて言ったって、俺は10メートル四方程度の部屋から一切出たことがないのだから!
「そんなことないです!!」
その時、ザ執事というようなさっぱりとした眼鏡の男が口を開いた。
「お二人とも、その辺で…。あそこから一歩外へ出れば国の外です。あそこには国にいるような生易しい魔物など一匹もいません。私の力でもお二人をお守りし続けていくのは無理かも知れません。それほどの魔物であふれています。お二人とも、気を引き締めお覚悟を…。」
そう彼は、俺の執事。執事っぽい格好をしているのは当然のこと。彼はいつも俺達のことを考えてくれて、しかも頭もかなり切れる。その証拠に今回の逃亡計画だって彼が段取りをしてくれた。そして、今まさにその計画が成功まであと一歩のところまで来ている。まさに、完璧人間だ!!
「俺、あそこにいてもズッーと外に出して貰えなくて母親にもあわせてもらえなかった。相棒も出来ないまま死んでいくくらいなら、いっそこれにかけてみたいんだ!!覚悟なんてとっくに出来てる。いつかオヤジをぬいてやる!!」
あんなとこに閉じこめた父親や俺のことを馬鹿にする兄弟共に勝てるくらいの仲間を作って、大群率いて、最後には国まで作ってやる!!そんな気持ちをずっと持ってきた。
「私も、大丈夫です!私はいつまでもリアン様と一緒です。なんたって許嫁ですから!!」
そう!!この左目の横にほくろのある黒髪美人は、誰がなんて言おうと俺の許嫁なのだ!彼女は、スタイルもよくて、強い相棒も引き連れて、すげぇ能力も扱えるまさに理想の完璧な彼女だ。その上、ショートも似合って、天然ときている。なぜ能力も発現せず、相棒も弱い俺なんかを選んだのか不思議なくらいだ。
「何をボーッとしているのですか?リアン様。早く行きましょう?」
しまった。つい見とれてボーッとしてしまってた。
「いや、うん、なんでもない。」
「そうですか。では、行きましょう!!リアン様のために!!」
こうして、俺たちは国を出た。
あれからずいぶん歩いた。そろそろ日が暮れそうだから、今はひとまず今日泊まるところを探してる。
「確かこのあたりに、オークの里があったはずです。今日はそこにとめてもらいましょう。私は、一度先に行って連絡を入れてきます。」
「わかった。俺達はゆっくり歩いてるよ。後で戻ってきてくれ。」
「了解しました。では。」
そういうと、執事ことリチャード・マフィウスは丸い大きな魂玉のついた左腕を点に向かって掲げた。すると、空に円が描かれその中から頭の二つあるの大きな羽の生えた馬が現れた。
名前 ツイン・ペガサス
レベル 45/50
ランク C3
種族 妖馬
特性 飛行
並列思考
突然変異
風操作
???
称号 風使い
予備知識 ペガサスの変異種であり下位種。二つの頭で攻撃とサポートを使い分ける。ただ、普段は仲が良いのに戦闘時は、戦闘方針に違いがでて、喧嘩してしまう。C2である、ペガサスに比べランクが低いのはそのせい。ただ、ペガサスと違いまだまだ進化をし続ける。そのため、ペガサスの上位種という学者も存在する。
これは50年前から可能になったらしいステータス閲覧というヤツだ。50年前何があったかわからないが便利なものだ。ただ、みたことのない特性については表示されない。
因みに俺たちは生まれつき体に魂玉というものを持って生まれる。大きさや数、形は人それぞれだが、大きいほど強い相棒と契約でき、数は1つにつき1頭の相棒と、上位の形であればあるほど相棒の潜在能力を高く、そして、伸びしろを多く作ることが出来るらしい。
「いいなぁ!俺もあれくらいのランクの相棒ほしい…。」
俺の魂玉は小さい…。それこそ最低ランクのFくらいとしか契約できないくらいに…。そして、数も2つで、形も図鑑でみたことのないよく分からない形…。だから、叔父からは一族の恥などと呼ばれていた。
「良いじゃないですか!リアン様には、スラちゃんだっているし、母上から頂いた2本の家宝の刀があるじゃないですか!」
スラちゃんことスライムは俺の相棒だ。想像通り最弱の魔物である。それに刀の特性は未だに発揮されていない。
「どっちも強そうな感じしないじゃないか…」
「でも、スラちゃんは他のスライムとは全く別物で進化過程も全然違うっていってたじゃないですか!!それに刀もまだ力を出し切れてないだけですよ!!」
そう、俺のスライムは珍しくしゃべることが出来るのだ。ただ、他には何もスライムと違わない。自称「他とは違う!!」では、たいした説得力もない…。
「まぁ、そういうことにしとくか!」
今から悩んでたら国なんてつくれっこない!今はシズカのいうことを信じてがんばることにしよう!
「そうですよ!信じれば救われるです♪」
そうして俺たちはオークの里を目指してあるくことにした。