闇の中
俺はまず、この世界を探検することにした。どうせ、もとの世界に戻ったってあんな家じゃ、怖くて自分の好きなことも出来ないんだから、ここのほうがましなのかもしれない。鏡だって、砕け散ったんだ。もう、帰れないのかもな。
暗闇は、永遠に続くのだろうか。足が、あるのかどうかも分からない。自分自身が見えない。
「なら、なんで俺はここにいるって分かるんだ?」
目があるから。だと分かっていても、信じられない。光が入らない世界は、自分も見えない世界なんだと思い知らされる。
「あのやろう……」
笑ってる兄の姿を思い浮かべる。怒りに満ちた感情が、沸いてくる。眉間にしわを寄せて、歩く。
「どこでもいいから、俺がいるって認識出来るとこに着いてくれよ! 灯りがついてる街に誰か連れてってくれよ!」
叫んだ。
何も、起こらないんだ……。希望が、一つ砕け散るような気がした。「お願いだから……」言葉も、何もかも、闇に溶けていくような気がした。
その時だった。俺の目線の先に、灯りが見えたのだ。目を疑った。ぼんやりとしか、見えない。ただ、その灯りは今にも消えそうだ。早く、あのところまで行こう。走るんだ。
無感覚だったが、足を踏み出した。闇は、雲のようになってこの世界を包んでいる。風が吹いた。旋風のようだ。灯りが、見えにくくなっていく。
「幻……か?」
そう、確信しようとした。でも「幻だから歩かない」じゃ、いけない。「幻だとしても、歩くんだ」そう思わなければならないんだ。自分に言い聞かせた。
読んでくださりありがとうございます。
これからも、『鏡の奥の、そのまた奥は……』をよろしくお願いします