大人と子供
無表情でここに来る前の話をするルラン。小さな、微かにしか聞こえない彼女の声はあり得ないくらいに淡々としていた。自殺したのだと言った時も他人事のように聞こえた。しかし、それが強がりだということは目を見れば明らかだった。
勿忘草色の目に溢れんばかりに涙を浮かべ、時折白い頬を滑り落ちるそれにルランは気づいていない。
胸が痛く苦しかった。たった一つしか違わないのに、この少女はこんなにも傷ついている。なのに、どうしてやればいいか分からない自分が嫌になった。
「ルイ陛下は龍みたいね」
そっと頬に触れて来たルランは眩しそうに目を細めて笑った。溢れた涙が落ちて行く様が、とても綺麗だった。
「やっぱり私は貴方のお嫁さんにはなれないよ」
「なぜ。俺はお前がいい」
「私の境遇に同情してるの?そういうのは嫌よ」
そう言って、ルランはゆっくりとした足取りで戻っていく。
同情していないわけではない。ただ、龍のようなルランが欲しくなったのだ。あの儚い孤高の少女が。
音を立てないよう、そっとルランについて行く。恐らく最初にあてがわれた部屋に戻るつもりだろう。しかし彼女の体力ではそろそろ倒れる。
部屋を出て少し歩いたところで、予想通りに傾いだ身体を支えてやる。泣き顔が他の者に見られないよう、マントで包んで抱き上げる。
確かにルランは教養が全くなかった。しかし、然るべき教育を受けずにここまで育ったのであれば、もっと褒めてやるべきだったのではないだろうか。誰でも解ける問題を前に、出来ないのだと言った時の顔が思い浮かんだ。あの日、いつにも増して泣いていたという。俺との会話も分からないことが沢山あっただろう。それを彼女は隠して笑いながら聞いていたのだ。敬語だって、恐らく本からの知識のみで使っているのだろう。城でのマナーも、あの下手な食事も、挨拶の仕方も、全部全部。
「・・・っ!」
ポタポタとルランの頬に涙が零れる。
「ルラン、お前は・・・お前は・・・!」
ろくな教育も受けられず、親の愛情も貰えず、どれほど辛かっただろう。悲しかっただろう。自由の象徴たる龍に憧れていたのは、彼女が自由になりたかったのだろう。なぜ、もっと早く気が付いてやれなかったのか。
「すまない・・・ルラン・・・」
俺は、確かに子供かもしれない。親に捨てられたと言っていたのに、躾しかしていない。誰も彼も、王たる自分が恥をかかないよう、ルランを教育している。誰も、彼女の心を聞いていない。倒れる頻度が上がったのもこのせいではないのかと思うと、胸が張り裂けそうだった。
恥ずかしい思いをさせたくないと気を張っていた彼女の方が、ずっとずっと大人ではないか。
濡れてしまったルランの頬をそっとぬぐい、かけてきた騎士にマントごと預ける。
「マントに包んだまま俺の寝室で寝かせてやってくれ。貸してる方ではなく、俺がいつも使っている方だ。しばらく俺が教えるから教師はいらん。・・・なんだ」
動かない騎士を見ると、彼は軽く礼をした。
「陛下、午後の仕事は舞踏会だけにしておきましたので傍にいられてはどうでしょう」
「・・・それはクルトからの伝言か?」
「・・・はい」
睨めば青くなりはしたが謝りはしなかった。・・・今月分を減俸してやろう。
「俺が連れて行く。仕事に戻れ」
敬礼して去って行く騎士を見送り、夜の舞踏会まで俺は寝室に篭った。




