再教育
守る、とは言ったものの、王宮にいるにはルランは無知すぎた。基本的な加減乗除は出来るらしいし、何処から仕入れていたのか雑学だけは沢山持っていた。しかしそれだけでは辛い目に遇ってしまう。それを防ぐため、ルイは城中の優秀な人材を漁りまくり、ルランに教師を付けようとした。
「陛下・・・」
「分かっている・・・おい、マントを引っ張るな」
ダンスの優秀な女教師が、いつものように鞭を持って現れた途端、ルランが凄い勢いで飛びついて来たのだ。面会のために二人きりにさせた時に何があったのか、その女教師がいる時は私から離れなくなってしまった。しかし、ダンスが踊れないのは公衆の面前に出る身としては致命的だ。
マントに潜り込んで安心しているらしいルランを隣の騎士と共に見下ろす。ルランは好き嫌いが激しく、男らしい騎士ーー言うなればむさ苦しい騎士ーーとは踊りたがらない。隣にいるような中性的で柔和な騎士なら喜んで踊っている様を眺めているのだ。まだ一緒に踊るほど上手くはない。しかし見様見真似でやっているのか、教えてもいないのに歩き方くらいは出来ている。
「ルラン、さっさと行け」
「ええ、あの人鞭持ってるから嫌。ルイが教えてよ」
「叩かれたくないなら早く覚えれば・・・今なんと言った」
「ルイ陛下が教えてくだされば「呼び捨てにしてただろ」ごめんなさい」
誰でも呼び捨てにするのもルランの悪い癖だ。ただしっかりする時はしっかりしてるからまだいいのだが。
「陛下、ルラン姫は陛下と踊りたいようでございますが」
「姫とか嫌。様も嫌」
「・・・よし、その考えを叩き直してやる。ついでにダンスも仕込んでやる、来い」
大衆の上に立つ者が敬称を嫌がってどうするのだ。しかもダンスの練習すら相手を選ぶだと?いいだろう、俺と踊りたいなら相応のレベルになるまで踊らしてやる。
嫌味のつもりで今夜の舞踏会場に連れて来たのだが、逆効果だった。シャンデリアや柱の模様などに次々興味を示し、「これは?あれは?」と質問してくるルラン。人払いをしてしまったので質問に答えるのは自分しかおらず、ルイはルランの教師がどれほど苦労しているのか思い知らされるハメになった。
***
「・・・さぁ、もうそろそろいいだろう。ステップを踏んでみろ。歩けるなら出来るはずだ」
若干疲れたような顔のルイが手を持って踊り始めた。ほとんど振り回される感じになりつつも、一生懸命ステップを踏む。「覚えられなかったら二度と龍は見せない」と脅され、ルイの騎龍見たさに必死になる。
そんな私をいつものように眺めながらルイ陛下がおかしそうに笑った。
「なんだ、そんなに龍が見たいのか」
「私のいた世界には存在しないの。想像の通り、素晴らしく美しい生き物ね。私も龍に生まれたかった・・・うぇっ!」
「俺より龍の方がいいのか、お前は」
「だ、だって龍はあんなに素晴らし・・・っ!」
グッと腰を引き寄せられ、息を詰めた私の耳元でルイが低く囁いた。
「俺より龍の嫁になりたいか?」
「よ、嫁というより龍が、欲しっ・・・ちょ、ま、待って!」
がぶりと耳を噛まれた。息が耳元や首筋に当たってダンスどころではない。顔を真っ赤にしてルイにもたれかかると、ルイが喉の奥で笑う。1曲分を踊り終わったところで、やっと離してもらえた。
「俺はな、かなり独占欲が強いんだ」
「子供なんですね」
「なんだと!?」
仕返しに鼻で笑ってやると、ルイの目が釣りあがった。子供というとかなり怒るのだが、一体全体、いくつなのだろう。
ツキツキと痛む胸をさすりながら目の前の青年を改めて眺める。当たり前だが私より背が高い。行っても25歳くらいだろう。
「ルイ陛下ってお幾つ?」




