出会い
ふっと気がつくと、綺麗な青空が目に映った。と思うや否や、一瞬の浮遊感の後、水飛沫を上げて水に落ちた。全くもって意味が解らない。眠気なんてものもなく慌てて水面から顔を出すと、目の前に人がいっぱいいた。頑張りすぎて痛む心臓の辺りを押さえつつ、そろり、そろりと落ちた泉から上がる。なんか皆やいやい騒いでいるが、もしかしてこれ、この世界の召喚方法か?
・・・高所から落ちて即死するよりマシか。
なんて言っているのか分からないので観察していると、奥から王族っぽい人が来た。お辞儀した方がいいかなとは思うが、胸が痛くて立てない。黒く整った髪に金色の目をしたその人は、絵に描いたように綺麗だった。なんとなく、なんとなく龍を彷彿させるその人に早くも好感を持ってしまう。しかし、王族らしき彼が私の目の前に立っても、胸を押さえたまま私は動けなかった。
『お前、名前は何と言う』
「あの・・・失礼ですが、言葉が分かりません」
相手も言葉が分からなかったのだろう。面倒臭そうに眉を顰めると、私の額に指を当てて何やら描いた。描かれた部分がほんわりと温かくなる。
「もう解るだろう?名前はなんだ」
「・・・名前は、失くしました。母親に相応しくないと言うことで、家を追われたので」
周囲にも言葉が分かるようになっていたのか「なんと、親に捨てられたというのか」「名前を失うとは・・・可哀想に」「こんなにも美しい娘を捨てたのか」などと聞こえてくる。この世界の″美しい″の基準は解らないが、少なくともあの大人しそうなメイドの方がずっと私より綺麗だろう。
「・・・ルラン。お前の名前だ」
「ルラン?」
「ここに召喚された娘は全て王の嫁となってきた。お前もそれに従ってもらうぞ。・・・彼女を綺麗にしてやってくれ。あのままでは風邪をひいてしまうだろう」
「よ・・・よめ・・・?王の嫁・・・え、王の嫁!?無理無理、てか王様って誰よ!嫌だ!」
メイドなのか侍女なのか、とりあえず私を連れて行こうとした人を振りほどき後ずさる。王様というと髭を生やしたおっさんのイメージしかない。おっさんの嫁は嫌だ。
肩越しに呆れたように見ていた彼がこちらに向き直った。
「俺はルヴァン=イース=サンジェルト=ネヴァルツ=アルサン。サンジェルトの現国王だ」
「・・・え〜っと・・・ルイ、陛下?」
「・・・何故そうなった」
「早すぎてよく分からなかったので。・・・え、国王!?嘘でしょ!?若すぎる・・・!」
「お前・・・随分と失礼な奴だな」
極寒の眼差しを頂きました。金色の目がめちゃくちゃ怖い。やはり、綺麗な人は怒らせると怖い。
「まぁいい。元の世界には帰れない上に嫁になるのは絶対だ。逃げても無駄だからな」
せっかくの目を半眼にして、国王もといルイは建物へ戻って行った。私も侍女に連れられ建物の中へ入って行く。がしかし、私は自分が元々病弱だということを完璧に忘れ去っていた。
「ルラン様!?」
視界がぐるりと回って自分が倒れたのを知り、「余計病弱になってしまった」と内心ため息をつく。そういえばちゃんと喋れているみたいだな。出来れば健康な体にして欲しかったんだけどなぁ・・・。
血相を変えた騎士によって大急ぎで医師の元へ運ばれているとは露知らず、私は暢気に失神していた。




