白の姫君
ルランの羽根や角が急成長したのを見た途端、彼女の隣にいた男が処刑台の魔法を発動させた。スルスルと胸に伸びていく槍に目もくれず、ルランはずっとこちらを見ていた。
ーーそちらに気を取られていたせいだろう。
隠れていた槍兵に騎馬の首を突き刺され、もんどり打って地面に叩きつけられた。
「死ねっ!」
勝利を確信し槍を振り上げた兵士は、次の瞬間には耳から血を噴き出して倒れ伏した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「耳が!耳が聞こえない!!」
「な、なん・・・」
悲鳴をあげてドサドサと倒れ伏していく敵兵を前に、ルイは唖然とした。龍の哭き声を聞いた途端、耳から血を流して倒れたのだ。怒り狂った龍の哭き声がする度、悲鳴と共に敵兵が倒れていく。
「陛下!ご無事でしたか!」
「あ、ああ、お前達も・・・耳は大丈夫か」
「はい、全く問題はーー」
兵士の言葉尻が途切れた。ピクリとも動かずルイの後ろを見ている兵士達を訝しみ、後ろを振り返った。白の姫君・・・と誰かが呟いた。
ーーこれほど美しい龍を、ルイは見たことがなかった。
氷柱のような月白色の角の生えた頭からはスラリとした首が伸び、細い体躯からは想像もつかないほど大きく優美な翼が伸びている。卯の花色の体毛は見事な艶を放ち、勿忘草色の瞳がじっとルイを見つめている。
「お前・・・ルランか?」
「うん。・・・ルイ、怪我してるの?」
血の匂いを嗅いだのか、すん、と鼻を鳴らした白い龍は目に涙を浮かべてルイに擦り寄った。ポタポタと涙が地面に零れ落ちると、そこから温かな魔力が周囲に広がっていく。それは次々と味方の傷を癒し、あろうことか死んでしまった兵士たちも復活させ始めた。それはルランの加護を受けたものがたった1度だけ受けることが出来る慈悲。再生の魔力を最大限に発動させた結果だった。
味方の歓声が響く中、ルイはルランの頭に体を凭れた。
「ルラン、二つお願いがあるんだが」
「なぁに?」
「城に戻ったら俺と結婚してくれ。それと・・・」
少々情けなく思いながら、白い龍の頬を撫でる。
「・・・落ちた時に足を痛めたらしくて立てないんだ。乗せてくれないか?」
「・・・それ、告白の後に言うこと?」
「うるさい!城に戻ったらちゃんと告白するからそれで許せ馬鹿者!」
「ばっ、馬鹿者!?命の恩人に対して馬鹿者ですって!?いいでしょう、運んであげますとも!その代わり!」
「な、なんだ」
「・・・お城に帰ったらキスして欲しいな」
「いくらでもしてやる。お前は俺の妻になるんだからーーうぐっ!」
「ルラン様、失礼いたします」
なんとも無遠慮に乱暴にユンに抱えられ、ぽい、とルランの背中に投げられた。服についていた血が白い毛並みに飛び散る。
「おい!」
「陛下をよろしくお願いいたします。我々は先に城に戻り準備をしてまいりますので」
では、と礼をし、ユンが去って行く。見ればすでに軍は遠くの方に消えかかっている。
「ルイ陛下、お捕まりくださいな」
「・・・飛べるのか?」
「どうにかなります」
軍を追って走り始めたルランは、体をしならせて跳び上がった。そして翼を広げ、二人は城に帰っていった。




