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白の姫君  作者: アラウ
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転生


 飛び降りたはずなのに、やけに滞空時間が長いな。飛び降りてからまず思ったのはそれだった。大体あの高さだと20秒くらいで地面のはずなんだけど。いつの間にか一緒に落ちていた雨粒も消え、服も乾き、見回しても空は見えない。

 気が付けば私は真っ暗闇の中を落下し続けていた。いや、恐らく落ちていないのだと思う。人は五感が働かないといとも簡単に錯覚するものだから。腕を動かしたり体をひねったりして、本当に落ちているのか確認してみる。・・・風圧がないということは浮いているらしい。ではここはどこだろう。


「娘よ、考え事は終わったのかい?」

「終わりました。・・・え、どちら様ですか?」


 突然聞こえた優しげな老婆の声に辺りを見回すが、誰も見当たらない。真っ暗闇の中だから当然といえば当然であるが。


「私はそなたが毎日来ていた、あの社に棲む狐さ。毎日風景画の賽銭と音楽を聴かせてくれてありがとう」

「いえ、勝手にお邪魔してしまい申し訳ありません」


 声からして初老の女性らしい。絵を賽銭箱に入れたのは失礼だっただろうか・・・でも嫌そうな声ではなかった。


「ふふ、いいのよ。私も楽しかったのだから。・・・そなたは可哀想な子じゃ。娘よ、どうか私に助けさせてはくれないかい?」

「助けるとは、どういうことでしょうか・・・私は貴女に何もしていないのですが」

「何を言っているの。毎日掃除をしてくれて、あちこちの風景画をくれて、色々な曲を聴かせてくれて。・・・私も恩返しがしたいのさ。老婆のお節介として、助けさせてはくれないかい?」


 あれは自分の気を紛らわせるためにやっていたのだが、老婆が私の好きな曲のフレーズを歌うのを聞いて少し気分が良くなった。それに断る理由も特にないので、私はコクリと頷いた。フワリ、と体が何か温かいものに包まれる。


「・・・そうかいそうかい。助けさせてくれるか、有難い。人を直接助けるなんてなかなか出来ないからねぇ。・・・さて。そなたは龍を最も美しく気高い生命だと思っておるのだな。行き先は龍が存在する世界にしてやろう。愛を知らずに死ぬなんて可哀想じゃからの、たっぷり愛されるが良い。優雅な暮らしができるように身分の高い者に拾われるようにしよう。」


 ゆっくり頭を撫でられる感覚に気が緩み、どんどん眠くなっていく。


「そうじゃ、眠ればそなたは回復する。・・・・・・さぁ、娘よ。あとは自分を信じるのじゃ。そうすれば自ずと力が現れてくるだろう。良い人生を歩めるとよいな。ああ、もしかしたら言葉が通じないかもしれないが許して欲しい。私とて万能ではないのだ・・・――」


 老婆の優しい声を聴きながら、私は久しぶりに穏やかな眠りについた。私は転生するらしい。龍のいる世界に。新しい世界に。

 これでやっと自由になれる、と心踊らせていた私は、転生早々に面倒なことになるとは露ほどにも思っていなかった。



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